【旅日記#4-2】ゆるやかな時の流れに癒やされる、釧路内陸のんびりドライブ(後編)
とある日曜日、私は大学時代の友人・Sくんに北海道の色々な風景を見せてあげるため、オホーツクから山を越えて釧路地方へ出向いていた。
その中で訪れた阿寒や釧路湿原の地に代表される、長い時間をかけて紡がれてきた自然や人の営みに思いを馳せながら、お次は日本で最も美しい村を満喫していこう。
(前回はこちら↓)
2025年5月11日(日)
13:10 鶴居村を散策
釧路市湿原展望台から続く遊歩道の探索を終え、北へ車を走らせると間もなく鶴居村に入る。
アイヌ語由来の地名が並ぶ釧路地方では珍しく日本語から付けられたその村名は伊達ではなく、村内を縦貫する道道53号は「たんちょう舞ろーど」なる愛称を持ち、道中には鶴見台という展望スペースやツルの飛び出しへの注意を促す標識があるなど、どこまでもタンチョウ尽くしである。
それゆえ前編で通った阿寒の畑に続きここでも見られないかと期待していたのだが、さすがにそう何度も出会えはしないか⋯。やはりあの時がラッキーだったらしい。
それより、今は昼食をとるのが先決だ。展望台にもレストランはあったものの、せっかくだからあえて行き当たりばったりで店を探してみようと、私自身も初の滞在となる鶴居市街を歩くことに。
街の一番奥にある温泉と公園の複合施設「グリーンパーク」(ここについては、後ほど詳しく触れようと思う)を拠点として、そこから釧路方面へ戻っていく形で散策を開始する。

心なしか、街灯のデザインも鶴の頭に見えなくもない
先ほどまではよく晴れていたのにまた微妙な空模様になってきたが、田舎ならではの穏やかな空気はそれを補って余りあるほど格別。歩いているだけでずいぶん気分が落ち着くなと思っていたら、それもそのはず、この村は厳しい審査をくぐり抜け「日本で最も美しい村」連合に加盟しているのだという。
これは道内では現在9町村にしか認められてない稀有な称号であり、国や自治体といった大きな枠組みのみならず、一人ひとりの地域住民が高い景観への意識を持っていることが整然とした街並みからもうかがえる。

高い建物が全然なく、開放感がある
ざっと見た限り店屋はAコープとセイコーマートくらいだったものの、そんな小さな村と言えどガソリンスタンドやコインランドリーなど必要最低限の設備は揃っていて、中でも上の写真にも小さく写っているバス停が印象に残った。中学校が近いからか公衆電話も完備されており、バスや親の迎えを待つ学生たちが身を寄せる光景が目に浮かぶようだ。
北海道の田舎では度々このような立派な待合室があり、過酷な冬でも風雪をしのぐことができる。道民にとっては見慣れたものだが、四国出身のSくんには馴染みのない施設だったに違いない。異郷の友人と一緒にいると、一見当たり前のものも新鮮な気分で目を向けられるから面白い。

各地でこういうバス停を見て回るのも結構楽しい
13:30 鶴居村で昼食
鶴居で店を探すにあたり、村に入ってくる時に見かけたレストランの看板が気になっていたのだが、ようやくたどり着いたその店はなんと臨時休業だった。これを当てにして市街地の南端まで歩いたのに食べられないとは、朝から何も口にしていない我々にとっては結構な痛手である。
ここまで主に目に入ったのは軽めのカフェや物産施設が多かったが、そういえば前述のバス停の近くにラーメン屋があった。のぼりと電光掲示板に加え、先ほどから車が出入りする様子も見られたので、ここなら間違いないと希望を胸に「つるい軒」へ踵を返す。

なかなか賑わっている
中は満席でほんの少しだけ立って待つことになったが、すぐに座ることができた。通されたカウンター席には魚介スープの香りが漂っていて、いかにも釧路地方のラーメン屋といった趣がある。ここはやはり地域の王道をということで、2人とも醤油ラーメンと半チャーハンをチョイスした。

奇をてらわない昔ながらの見た目に思わずホッとする
釧路のラーメン文化は、過酷で忙しい漁師たちのために、早く茹で上がる細麺とあっさりとした魚介ベースの醤油スープの組み合わせが定番となっていったと聞いたことがある。
鶴居は海に面していないが、隣町ゆえかこれもその系譜に沿ったものになっていて、誰でもつるつると食べ進めていけるシンプルさが魅力だ。
チャーハンも懐かしの味わいであり、ラーメンとセットでちょうど良いくらいの量も相まって非常に満足度の高い一食だった。もしまた来る機会があったら、次はテーブルに書かれている濃いめの味で頼んでみようかと思う。
14:00 鶴居村を散策②&ひとっ風呂
食べ終わって店を出ると、空は見事に青く染まっていた。実に移り変わりの激しい天気であるが、予報では一日中曇りか雨だったので良い意味で外れてくれたといえる。

晴れてくると余計に空が広い!
さて、それでは車を置いていたグリーンパークの方に戻り、今度はそちらを見て回るとしよう。普通に道道から行っても味気ないので、橋の手前から茂雪裡川の河川敷に入ってみた。

ここは多目的なスペースとして開放されていて、
駐車場としても使えるようだ
これまでの散策でものどかで良い場所だなと思っていたものの、アスファルトを離れ砂利の地面に足を踏み入れると、初めて来た所なのに不思議と懐かしい感じがする。文字で表現するのは難しいが、ステレオタイプな田舎のおばあちゃんの家に遊びに来たような感覚、といえば伝わるだろうか。
少年の心に戻ったのは私だけではないようで、岸まで行くとSくんはおもむろに石ころを川に向かって投げ始めた。水切りとはまた、粋な遊びをするなあ。

澄んだ川辺にいると本当に気持ちが良い
彼の投げた石は水面を見事に3バウンドして、久しぶりでも意外と出来るんだと私もやってみたのだが、元々下手な人は歳を重ねてもやはり下手であり、「ボチャン」という鈍い音が虚しく響くばかりだった⋯。
まあ結果はともかく、大人になってからこういう遊びをすることは、それ自体が良い気分転換になる。思い切って童心に帰れるこの何もなさこそ、モノや情報に溢れ目まぐるしい日々を生きるわれわれ現代人にとっての真の豊かさなのかも知れない。
さて、良い具合に腹ごなしも済んだことだし、続いてはいよいよ「ホテル グリーンパークつるい」の温泉へ。鶴居市街にはここを含め3軒の温泉があるが、その中でもひときわ時代を感じる施設となっていた。
湿原の恵みたっぷりのお湯は高い美肌効果を持ち、しかもそれが源泉100%かけ流しで楽しめるのだからたまらない。
(その体験をここで詳しく書くと長くなるので、よろしければこちらの記事もご覧ください↓)
さらに風呂上がりには、隣接する「鶴居運動広場」も歩いてみた。こちらはやけに賑わっているなと思ったら、スワンボートにゴーカートなど多くのアクティビティが楽しめるようだ。
今の時間はもう終わってしまっていたもののカフェや食事処も近くにまとまっており、運動広場という名前からは想像が及ばないほど遊びがいのある公園となっている。

これを絶景と言わずして何と言おうか

この日はまさに最高だった
園内も最初に抱いていたイメージ以上に広く、清々しい春の陽気の下、家族連れやカップルが思い思いの時間を過ごしていた。
中でも特に目を引いたのが、複数人が縦に連なって1台の自転車を漕ぐカルガモ自転車。上の写真の園路がコースになっていて、結構な頻度で走ってくるため歩く際は注意を要するものの、それだけ人気のアトラクションなのだろう。端から見ているだけでも面白そうな雰囲気が感じられ、これは子ども達にとって楽しい思い出になること間違いなしである。
Sくんの帰りの都合上、ひと通り園内を回り終えたら今回の鶴居村滞在はこれにて終了となるが、どこをとっても断然居心地が良く、初めて訪れたとは思えないほど離れるのが惜しいと感じる村だった。
今度は家族も連れてゆっくり遊びたいなと、早くもまた来る気満々の私であった。
16:40 美幌は今日も白かった
再び道道53号を北上し、帰路につく。道中では国道274号と重複するが、この区間は1993(平成4)年に既存の道道を半ば無理やり繋ぎ合わせる形で昇格されたためか、我々の通る道道は弟子屈までずっと直進なのに対し、国道側が何度も右左折を繰り返しているのが気になった。
大多数の読者の方は「それがどうした」とお思いのことだろうが、道路マニアの私はこういった点に注目しながら道や土地の歴史を垣間見るのが大好きなのである。自分でもなかなかニッチな趣味だと思うが、移動中も常に学びを得られるので、楽しい旅をより充実したものにさせてくれるのだ。
整備の度合いはもちろん国道指定区間に軍配が上がるから、そのうち国道が優先になるように交差点が改良されてしまったりして、なんて妙な心配をしたり。隣に乗っているSくんも、まさか私がそんなことを考えながら運転しているとは思うまい。
そうこうしつつ丘陵に広がる牧草地を一気に駆け抜けると弟子屈町に入り、ここから最後の難所・美幌峠越えに臨む。天候はまたも変わって不穏な空気を醸しており、標高が上がるにつれラジオでよく聞く霧による視界不良が顕著になってきた。
何度も通っている道だからまだどうにか走れるが、今日は一段と何も見えない状況であり、頂上の道の駅「ぐるっとパノラマ美幌峠」からの眺めも見事に白一色であった。

突然の猛吹雪に見舞われたが、我々は何かそういったものを引き寄せているのだろうか⋯?
Sくんの乗る列車が出るまでは時間があるのでひとまずここで休んでいこうと車を降りると、とにかく寒い!!車の温度計によると、今の気温は6℃しかないという。1時間ちょっと前の鶴居では20℃ほどあったことを踏まえると、大変な気温差である。
おまけに我々は「温まりの湯」とも呼ばれる塩化物温泉に入ったおかげで全身の血行がとても良くなっている状態。そんな時に血管が急激に収縮したものだから、瞬時に血圧が爆上がりして2人とも危ないと思うくらいの頭痛に襲われた。
これはヒートショックという真面目に危険な現象で、これを原因に高齢者が冬の脱衣所などで命を落とすことが後を絶たないことは広く知られていると思うが、まさかこんなタイミングで遭遇するとは。まったく、オホーツクの気候は本当に油断ならないな⋯。

2個入りなのでSくんと仲良く半分こしたが、
それでも大満足のボリュームある逸品

びっくりするほど何も見えなかった
このように今回はせっかくの絶景が拝めずに残念だったが、そんな厳しさもまた北海道の大自然の魅力のひとつ。いつでも気軽には見られないからこそ、出会えた時の感動も高まるというものだ。

広大な屈斜路湖や硫黄山、
さらには知床連山まで望めるのだ(2024年10月撮影)
そして山を下ったら前回と同じように17時51分美幌駅発の列車にSくんを乗せ、今日はこれで解散。彼に雄大な道東の風景を満喫してもらったのはもちろんのこと、私にとっても非常に豊かな一日となった。
近場にもまだまだ知らない良いところが溢れていることを実際に体感し、帰ってきたそばから次はどこに行こうかと考えを巡らせる。
しかし道東だけでこんなに見所があるのだから、他の地域も同様に見て回るとしたら、下手をすれば一生かかってしまうかも分からない。
「ああ、時間が無限にあればなあ」なんて思いつつ、まだ短い人生の中でそれだけ尊い風景にたくさん触れられている幸せを噛みしめるのだった。
今回は以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
北海道を拠点に旅や温泉の記録などを書いておりますので、よろしければこちらもご覧いただけると幸いです。
