【旅日記#4-1】ゆるやかな時の流れに癒やされる、釧路内陸のんびりドライブ(前編)
「釧路湿原が見たい」
そう言ったのは、以前の記事にも登場した友人・Sくんだった。彼は卒業を間近に控えた大学生であり、来年の春からは地元である四国で働くことが決まっている。だから北海道にいる今のうちに色々な景色を見ておきたいということで、一緒に出かけようと声を掛けられたのだ。
私も道東に住んでいながら釧路湿原にはあまり行く機会がなかったから、これはナイスな提案である。
今回も企画段階からさっそく期待が高まってならないが、果たしてこの旅ではどんな出会いが我々を待ち受けているのだろうか。
2025年5月11日(日)
9:00 出発
まずは例によって、北見市にある大学のキャンパスにSくんを迎えに行く。いつも私は待ち合わせ時間より早く着くようにしているのだが、今日の彼は珍しくそれを上回る早さで来ていたので驚いた。
そういえば、普段Sくんと遊ぶ時は近場ばかりで、今回のように片道100kmを超える旅は初めてだ。なるほど、それで気合いが入っているのか。
しかしそのモチベーションとは裏腹に、天候はあまり芳しいものではなかった。朝方は結構な雨が降っていて「今日行って大丈夫かな」と思ったほどだが、何とか収まってきたのでこうして決行している次第である。
天気図を見るとこれから回復に向かいそうな感じがするけれども、実際のところどうなるかは分からない。前に彼と出かけた時は、最後の最後に突然の猛吹雪に見舞われて楽しいムードが台無しになってしまったので、今回はそのようなことのないように祈るばかりだ。
10:15 阿寒湖畔を散策
読みが当たったのか進むにつれ雨は止み、釧路とオホーツクの境を成す釧北峠を越えると南方には青空が見えてきた。これは実に幸先が良い。
この一帯は手つかずの原生林が広がっており、その中をひた走る快走路はまさに北海道らしいドライブコースと言えよう。
だが、自然が豊かということは、同時に動物の飛び出しが非常に多いことも意味する。この時も道路脇に平然と鹿がいたりしたので、運転にはいつも以上に注意を払う必要がある。
その中でも地元ナンバー車はお構いなしでぶっ飛ばしているが、この光景も日常化すると恐怖心というものは無くなるのだろうか⋯?
そんな峠から10分ほど走ると、マリモで一躍全国区となった阿寒湖温泉街に入る。目的の湿原まではまだ遠いし、せっかくなので小休止がてら軽く見ていくとしよう。

先ほどまでの雨が嘘のように晴れてきた
この写真からも分かるように阿寒湖はアイヌ文化を後世に伝える取り組みが盛んであり、上の建物では民族舞踊のステージなどが催されるほか、大きな通りには民芸品の店が所狭しと並んでいる。

見るもの全てが独特で、さながら異国に迷い込んだよう
今ホテルからチェックアウトしてきたのだろうか、割と早い時間帯ながら街は観光客で賑わっており、外国人の姿も多く見受けられた。こうして見ると、ここが辺境の地とはとても思えない。
その一方で、北を向くと厚い雲が残っていて、湖畔を歩く人影はほとんど無かった。確かに今日の眺めはSNSに映えたりするものではないが、湖を囲む山々に掛かる雲はどこか神秘的でもあり、私は密かに嫌いではなかったりする。
自然と付き合うのは、いつでも一筋縄ではいかないもの。この山奥で、先人はどのような思いでここに暮らしていたのだろう。

(※同じ日に撮った写真です)
ただ、はるばる遠くから来ているSくんには、是非とも湖と近くにそびえ立つ雄阿寒岳のコラボレーションを生で見せてあげたかったものだ。
この日はあいにく山が隠れてしまっていたものの、6月に家族旅行で再訪した際にはきれいに見ることができたので、その景色は(時系列を追って執筆を進めているため公開がいつになるかは未定だが)後日の記事でお届けしたいと思う。
11:15 田舎道で奇跡との邂逅
阿寒の自然と文化が織りなす独特の空気感は、短い滞在でも充実した旅情を味あわせてくれた。早くも気分が上がってきたところで、先へ進もう。
目的の湿原は釧路市にある。今ではここ阿寒湖温泉も同じ市内となっているが、平成の大合併以前は阿寒町という別の自治体に属しており、車でも1時間はかかるほどの距離がある。
そのため道中の景観は次々に変化し、深い森から農業地帯、しばらくして旧阿寒町の中心街を過ぎると今度は原野と、川の流れに沿って南下するにつれ色々な表情を見せてくれる。
そして何と言っても特筆すべきは、沿道にタンチョウが見られること!
国の特別天然記念物にも指定される希少な鳥なので必ずいるとは限らないけれども、市内各地には「ツル注意」という標識があるくらいだから、出会える頻度はそれなりに高いようだ。
この時は畑の上空を悠々と翼を広げながら通り過ぎて行って、
「あれ鶴じゃね!?」
「うわ〜マジか!すげえ!!」
と車中は大いに沸いた。カメラを構える間もない一瞬の出来事だったが、あの純白の体に黒と赤の差し色が入った美しくも迫力のある姿はタンチョウで間違いあるまい。
我らが網走近郊でも度々見かけることがあるが、やはり本場で出会えた感動は大きく、また北海道から遠く離れた四国で生まれ育ったSくんにとっても非常に貴重な経験となっただろう。
良くなる一方の天気といい、今日はとことんツイている。走っているだけでこんなに楽しいなんて、何と素晴らしい休日であろうか。最高!
11:55 釧路湿原で太古の自然に触れる
もうすぐ釧路市街に入ろうかという所で今度は北に進路を変え、舞台は原野から山越えへ。北斗坂なる小さな峠のピークのそばにある「釧路市湿原展望台」は、私が小学生だった時の修学旅行でも訪れた有名スポットである。
自然に関する展示や売店・レストランが揃うほか遊歩道の起点にもなっており、このエリアを見て回る拠点と呼ぶにも相応しい。

この場所の非凡な魅力を予告しているよう。
2階が展望台(有料)

これは湿原の眺めにも期待できそうだ
前述の通り見所は色々だが、やはり注目は遊歩道。当施設の周りの森の中にはぐるりと木道が整備されていて、最奥にある「サテライト展望台」ではより間近で湿原が見られるというので、さっそく行ってみよう。

こういうのを見ると無性にワクワクするのは、
地図好きの性といったところか
道は時計回りと反時計回りがあり、件の展望台へのアクセスは前者の方が簡単だそう。確かに後者のルートはのっけから結構な雰囲気を醸し出していたため、ここは大人しくオススメに従うことにした。

人は他にもいるし大丈夫だと思いたい⋯
それでは今さっき自販機で買ったお茶をカバンに忍ばせ、いざ探索開始!
木道はしばらく左手を走る道道を見上げる形で進み、多少のアップダウンを伴いながら徐々に森の中に入っていく。歩みを進めるにつれて少しずつ外界の音が消えていく感覚は、普段の生活ではなかなか味わえない。

ここまでの規模ではないが、そういえば家の近所にも
こんな感じの公園があったなあ
初心者向けコースと侮るなかれ、これは気分転換にもってこいの良質な自然体験の場だ。春ならではのすっきりとした見通しの良さも快適だが、夏になって木々の葉が茂れば、もっとリフレッシュ効果が高まること請け合いだろう。
歩き始めて間もなく他の季節にも来てみたくなるほど、ここには私好みの空気が漂っていた。

目に映るのは近くの木ばかりで、
ここからの眺めは正直からっきし
そして12時20分、一番の目玉たるサテライト展望台に到着。スタート地点からの所要時間は健脚な人で15分、一般的なペースなら20分くらいだろうか。
高台はここで終わっており、遮るもののない眼前には手つかずの湿原がどこまでも広がっている。来た当初はアジア系の団体観光客が幅を利かせていて落ち着かなかったが、彼らが去るとこの空間は我々2人だけになり、思う存分自然を満喫できた。

どこを向いても人工物が見られないのがすごい
この一帯はかつて海だったと言われていて、今立っている展望台も当時は海沿いの崖際であったことが推測できる。10年前は「何もなくてつまんないな」と思ったこの景色も、大人になって再び向き合ってみるとまた違った見方ができて面白い。

とてもそうは見えない光景だ
広い空に広い大地、澄んだ空気と孤高の静寂。
これこそが、北海道という土地のありのままの姿なのだろう。道東を代表する大きな港湾都市の間近にありながら、よくぞ現代まで変わらず残されているものである。
昨今、メガソーラーや風力発電といったそれらしい大義名分でもって貴重な土地を蹂躙する開発の手が各地に伸びてきているのが心配の種だが、この釧路湿原にはいつまでもそのままでいて欲しいと思う。
こうしてしみじみと自然の尊さを感じる我々であったが、私は朝から何も食べておらず、さすがにお腹が減ってきた。昼食は隣町で飲食店を探して良さげな所で食べようと決めていたので、店が閉まってしまう可能性も考えて少しばかり早歩きで来た道を戻り、車に乗り込む。
というわけで、今度は湿原の北側にある鶴居村へと向かう。長くなるので、以降の模様は次回の記事でお伝えしよう。
今回は以上になります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
北海道を拠点に旅や温泉の記録などを書いておりますので、よろしければこちらもご覧いただけると幸いです。
