宝条潤と九条蓮 推理の交錯―音楽家たちの連続殺人―:最終話【指先で紡ぐ終幕(フィナーレ)】
「……さすがは、天才推理作家さん。これ以上、ごまかせないようね」
「!美玲さん、まさか本当に…!?」
「嘘、ですよね…」
朝比奈と黒崎が悲痛な叫びを洩らす。
だが天音は、ゆっくりと首を横に振った。
「そこにいる二人の言う通りよ。私は奏介の姉で、久遠寺たちを殺したの。三年前、奏介を自殺に追い込んだ、あの三人をね!」
割れんばかりのソプラノ――ではなく、憎しみに焦がれた低い声が、その場にいる人物たちの鼓膜を襲う。周囲が一気に騒然となった。
「奏介が自殺した時、私は奏介の周辺を徹底的に洗い直したの。弟に関わっていた人をすべて調べ上げて、素性から普段の行動まで…一つもこぼさないように。勿論、レイのこともね」
「……そこで、久遠寺さんたちが篠宮さんを追い詰めたことを知ったんですね」
「そうよ。あいつらは厳しい指導という名目で、奏介を追い詰めていた。しかも気に入らないっていう、ふざけた理由でね。許せる余地なんてないわ」
潤の唇が僅かに歪む。久遠寺の話を再び思い出し、あの時の不快感がせり上がってくるような感覚を覚えた。
「その時から、私は三人を殺す計画を立てることにした。でもね、本当は迷っていたの。何度もやめようと思ったし、放棄しようともした。計画を練るたびに、奏介のことを思い出すから」
天音の声に少しの揺らぎが混じる。だがそれは一瞬のことで、すぐに潤をきつく睨みつけた。
「この追悼公演が行われるって聞いた時、やっぱりやめようと思ったの。久遠寺たちが奏介のことを思って喪に服すのなら、それからでも遅くはないって。…でも、あいつらは変わっていなかった。たかが一人のピアニストだって…奏介を切り捨てただけじゃなくて、この音楽祭の栄誉を優先したのよ?信じられないでしょう!」
天音の声が急に上ずる。数名の肩がびくりと跳ねた。
「自殺した時、奏介はまだ28歳だった。才能も、未来も、希望もあったのに…たかが一人?どう考えてもおかしいわよ、あいつらは反省や後悔なんて微塵も思っていなかったの!」
「……美玲さん」
遮るように声を上げたのは如月だった。天音の瞳が如月を貫く。
「あの時…私と宝条先生を襲ったのも、美玲さんだったんですか?」
「当たり前でしょ。あんたさえ殺せればよかったんだけど、結局宝条先生と警察に邪魔されてできなかった。でも、そんなことは諦める理由にはならない。あんただけは、絶対に私の手で殺さなきゃいけないの」
「どうしてですか?美玲さんだって知っているでしょう、奏介の遺体を発見したのは他でもないレイさんですよ!なんで恨む必要があるんですか!?」
堪えられなくなった朝比奈が、天音に訴えかける。天音の視線が一層鋭く、如月を串刺しにする。
「わからないの?レイがもっと早く奏介を見つけていれば、奏介は助かったかもしれないのに!あんたのせいで、奏介は死んだのよ!」
天音の手が、如月に向かって伸ばされる。その手には、蛍光灯の光を反射する、黒光りのナイフが握られていた。
「!天音さん!」
「やめなさい!武器を捨てなさい!」
潤と遥香の声が同時に響く。だが天音の手は引き下がることはなく、切っ先を如月に向けて構えていた。
「あなたが死ねば、この演奏は終わるの!最後のEとして、無様に天国に送ってあげるわ!」
指先が白くなるほどにナイフを握りしめ、天音が一歩如月の方へ踏み出した。遥香たちはホルスターに手をやり、最悪の事態に備えて身を固くする。潤は身を挺しても如月を守ろうと、拳を握り直した。
ピアノ線がぴんと張り詰めたような、その空気を――
「無駄だ」
メスのような冷たい声が、一筋で切り裂いた。
ポケットに手を入れたまま、九条は感情を込めない瞳で天音を見つめる。
「貴殿にE線の演奏は不可能だ。この不協和音の演奏は、既に破綻している」
「……なんですって?」
「九条先生?」
天音だけでなく、潤も戸惑った声を洩らした。
九条は微動だにしていなかったが、彼が構える言葉のメスの刃は、間違いなく天音の喉元に突き付けられていた。
「天堂氏はG、茂呂氏はD、久遠寺氏はA…実に完璧に見立てが完成していた。さすがは世界的ソプラノ歌手だ、そこには寸分の狂いもない。――しかし、貴殿は演奏開始の時点で事実を見誤っている」
「どういう意味よ!?」
「貴殿の構築した復讐のプロットは、最後の一線において完全な論理破綻を起こしている。加害者を屠るための指揮棒が、同じ被害者を傷つける暴挙へと摩耗しているからだ 」
九条が冷徹に、そして静かに語る。天音の瞳が微かに揺らいだ。
「なにが、言いたいの…」
「それは、貴殿が一番わかっているだろう。如月氏は、恋人を失った被害者だ。弟を失った、貴殿と同じく」
「……!どこが同じなのよ!?レイは近くにいたのに、奏介の苦しみを見抜くことも出来ずに、死なせたの!」
天音の声が震えている。九条の鼓膜は、その揺らぎを一つたりとも取りこぼさない。
「私は知らなかった…大切な弟なのに、苦しんでいることも知らなかった。守るって約束したのに…!離れていたせいで…!」
「距離は関係ない。何度も言わせてもらおう…如月氏は被害者だ、それは事実。だが、貴殿はどうだ?三人もの人間を殺害し、その手を血で穢した今…貴殿は、ただの加害者ではないのか」
九条の言葉に、初めて天音の身体からこわばりが一瞬だけ抜けた。ナイフの先が震えている。
潤は九条の隣に立ち、穏やかな声で語り掛けた。
「天音さん…あなたは、篠宮さんを守れなかったことを後悔していた。ずっと苦しんでいたのも、痛いほど伝わってきました。その矛先を向ける相手が、あなたには必要だった。それが、弟の恋人でもあった如月さんだったんですよね」
「……うるさい」
「でも…でも、もう終わりにしましょう。篠宮さんをそれほど大切に思っていたあなたなら、わかるはずですよ」
潤の表情が悲しみに暮れる。一歩前に踏み出すと、天音が少しだけ後ずさった。
「篠宮さんが愛した如月さんを…彼が魅せられていた彼女のピアノを奪ってしまった時、一番悲しむのは…他でもない、篠宮さんではないですか」
「……!」
「あなたの美しいソプラノが、血で汚れてしまったことを、篠宮さんが望んでいると思いますか」
「あ、ああ……」
天音が呻くように声を洩らし、その手から漆黒のナイフが滑り落ちる。カラン、と乾いた音が響き渡った。
「!確保して!」
「動くな!」
捜査員が天音を取り囲む。天音はその場に崩れ落ち、はらはらと涙をこぼしていた。
「……美玲さん」
如月がふらりと天音に歩み寄る。天音は大粒の涙を流しながら、憎いはずの女性をゆっくりと見上げた。
「私は……私は、死なせたくなかった…奏介も、奏介の音楽も。この三年間、奏介の音楽を絶やすまいと、そのためだけに生きてきた。天音さんが私を憎んでいる理由はわからなったけれど…それでもいい、奏介の音楽を守れたら、その一心でした」
如月の声が。天音の頭上に降りかかる。天音は何も言わず、如月を凝視している。
「あなたが奏介の姉であったことは、知りませんでした。でも、奏介があなたのことを大切に想っていたのは、良く知っています。『自慢の姉だ、離れていてもずっと大切な姉弟だ』って…彼は嬉しそうに、そう語っていましたから」
その言葉が、完全に天音の精神を瓦解させた。弾けるような泣き声が、控室を覆い尽くした。
如月の瞳から、一筋の涙がこぼれた。
九条の脳内スキャナー上で、三年間不気味に静止していた彼女の肉体データに、初めて鮮烈な波形が走り出す。
『如月レイ:悲哀100%』
「…宝条先生。如月レイの止まっていた時計の針は、ようやく動き出しそうだ」
「ええ、そうですね。…ただ、天音さんの針は、ここで止まってしまいました。どちらにしても、ここに溢れている音は、悲しみしかありません…あまり聞いていたくないですね」
「ああ、不快だ。20ヘルツから20000ヘルツの空気の振動に、これほど濁った人間的情念が混入している。美しい音楽は、ここには存在していない。…ただ、結果として間違いではない。配置の乱れはゼロ…整理は終了した」
「あれ、先生にしては優しいですね」
五味が意外そうに目を丸くして九条を見る。九条はそれには答えず、大きく息を吐き出した。
心底疲れた、そんな意図を込めて。
何も知らない緞帳の向こうでは、観客たちのざわめきと拍手が絶え間なく聞こえている。
そして今、三年の時を経て、憎悪と不協和音に塗れた復讐劇の演奏は、終幕を迎えようとしていた。
【ルクス国際音楽祭】の事件から四日後。
九条は湿度と温度を保った部屋で、いつものようにピンセットを磨いていた。足元では灰が優雅に毛づくろいをしながら、主人の邪魔をしないよう沈黙を守っている。
昨日までの三日間、九条は一切のノイズを遮断し、整理を行っていた。あまりに汚濁を被ったせいで、いつも以上の時間を要したのである。
「九条先生、入りますよ」
丸三日間締め出され、ようやく入れることになった五味が、書斎のドアを開ける。九条は振り向くこともせず、ピンセットの光の反射度合いを確かめていた。
「いやー、今回の事件は凄かったっすね!警視庁どころか、神奈川県警でも伝説になってるってもっぱらの噂ですよ!二人の天才の熱いコラボだって!」
五味は興奮しきりで九条に喋りかけるものの、九条は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「…二度と御免だ。目録のインデックスをパージするだけでどれほどの労力を割いたと思っている」
「こういう時くらい喜びましょうよ!柴田警部も『また頼みたい』って言ってましたし」
「断ると伝えてくれ」
九条は一蹴し、ピンセットを大事そうにしまう。灰が身体を起こし、ふわりと欠伸を洩らした。
「…それで、何の用だ。早々に次の事件を持参したんじゃないだろうな」
「ああ、そうそう。神谷管理官から預かりものです。宝条先生からだそうで」
「…宝条氏から?」
九条の声に、微かに驚きが混じる。五味は腕に抱えていたものを、そっとデスクに置いた。
一つの小さな箱と、一つの封筒。どちらも純白で統一され、封筒は黒のシーリングワックスで閉じられている。
九条はペーパーナイフを取り出すと、手早く開封した。
そこには便箋と、一枚の原稿用紙が入っていた。手袋をしたまま、それを慎重に開く。
『親愛なる九条蓮様
先日は、本当にありがとうございました。僕はもちろん、遥香や警察の方々も九条先生にとても感謝しております。あなたの頭脳がなければ、この事件は解決できませんでした。
ささやかですが、これは僕からのプレゼントです。遥香から五味さんに探りを入れ、僭越ながら選ばせていただきました。よろしければ御収めください。
P.S 原稿用紙には、次回作のプロットを記載しています。是非、灰ちゃんと一緒に読んでいただければ幸いです。
宝条潤より』
九条は手紙をデスクに置き、原稿用紙を手に取る。同じく潤の筆跡で、小説のプロットが書かれていた。
『小説タイトル:潔癖な天才鑑識官と白の真実』
「…すごいですね、先生。あの天才推理小説家の作品に出れるなんて」
「…私だけでなく、灰までも登場させる気か」
プロットに目を通した九条は、小さく溜息を吐いた。
(……タイムラインと物証の配置が、ミリ単位の狂いもなくプロットに記述されている。小説家の妄想にしては、極めて正確な目録だ)
灰がひらりとテーブルに飛び乗り、原稿用紙や手紙に鼻先を寄せる。その上にちょこんと座ると、満足そうに喉を鳴らした。
「……灰。君の目録は、完全にあの男の物語に汚染されているな。……やはり、理解不能だ」
「灰ちゃんも喜んでるってことですよ!宝条先生にも懐いてたじゃないですか。…それで、こっちはなんでしょうね」
五味が指を差したのは、真っ白な箱。手に収まるほどの大きさで、そこまで重さは感じられない。九条はそっとふたを開け、中身を確認した。
「…これは…万年筆のボトルインクだな」
「あー、そういえば神谷管理官に聞かれましたね。『九条先生は万年筆使われてますか?』って」
「余計なことを話すなと言ったのを忘れたのか?相変わらず脳細胞が足りていない」
容赦なく釘を刺しつつ、九条はボトルを掌に載せた。
ラベルには『DEEP SEA BLUE』と書かれている。
インクは一見すると漆黒だが、深い青を湛えており、光にかざすと静かに揺れた。
一緒におさめられていたメッセージカードには、再び潤の文字が書かれている。
『この色が、あなたと灰ちゃんに、きっと似合うと思いました。』
「…随分と気が回るようだな。さすが、宝条グループの総帥で、推理小説家だ」
九条の口元が、とても小さく緩みを見せる。灰のコバルトブルーの瞳は、見惚れたようにボトルから離れない。どうやら灰も、この深海を気に入ったようだった。
「五味くん、まだ時間の猶予はあるか」
「え?ああ、別に何もないので、帰るだけですけど」
「少しだけ待ちたまえ…宝条氏へ返事を綴る」
九条の言葉に、五味は驚いたように目を丸くする。九条はデスクの引き出しから、愛用の万年筆と便箋を取り出す。軸をしっかり確かめると、『DEEP SEA BLUE』のボトルのふたをゆっくりと開けた。
かすかに漂う、上質なインク特有の鉄分の匂い。それは九条の聖域を侵す汚濁ではなく、これから彼自身の手で真実を記述するための、極めて純度の高い『秩序の香り』だった。
宝条邸にて。
潤はパソコンの前に腰を下ろし、しきりにキーボードを叩いていた。数文字入力しては消し、入力しては消し――その繰り返しだった。
「うーん…これじゃあ、九条先生は納得しないよなあ…」
打つ手を止め、溜め息交じりに独り言を洩らす。九条へ送った次回作のプロットの詳細を詰めていたものの、先ほどからどうにも納得がいく表現が見当たらない。
特に九条の愛猫である灰については、下手なことは書けないというプレッシャーを感じていた。
九条にとっての灰が、単なる愛玩動物や飼い猫ではないことは、自分と灰が触れ合っている際の彼の様子をこの目で見た潤も、重々理解している。
だからこそ良い表現を見つけようと頭を回転させるのだが、今のところ成功しているとは言い難かった。
コンコン、とドアがノックされる。うんうん唸っていた潤は我に返り、「どうぞ」と返事をした。
「潤、入るわよ」
やってきたのは遥香だった。警視庁から直接やってきたのだろう、スーツ姿のままである。潤は肩の力を抜き、大きく身体を伸ばしてから一気に脱力した。
「随分と根詰めてるわね、ちょっとは休憩しなさいよ」
「わかってるよ…でも九条先生に、次のプロット渡しちゃったからね。いい作品に仕上げないと、申し訳が立たないからさ」
「ほどほどにしてよね。…そんな潤に、九条先生からお手紙よ。この前の返事ですって、五味さんから預かったわ」
「……えっ、九条先生から?」
潤は思わず目を丸くして、遥香が差し出した封筒と彼女の顔に視線を往復させる。潤が驚いたリアクションを見せたので、遥香はやや呆れたように肩を竦めた。
「どうして驚くのよ。先にお礼のプレゼントを贈ったのは潤の方でしょう、お返しがあったって不思議でも何でもないじゃない」
「いや、それはそうなんだけど…言い方は悪いけど、正直期待してなかったというか…九条先生って、そういう社交辞令的なもの嫌いそうだからさ」
「…まあ、潤の言い分も一理あるわね。でもお返しがあるってことは、プレゼントもちゃんと受け取ってくれた証拠でしょ」
「それもそうだな…ありがとう、遥香」
受け取った封筒は、潤が九条に送ったものと同じく真っ白で、ぴっしりと糊付けがされていた。しかし、手紙が入っているにしては、妙に厚みがある。潤は首をひねりつつ、ハサミで封を切った。
中には便せんが一枚と、小さな密閉袋が入っていた。指先でそっと摘まみ上げると、そこに入っていたのは、小さな黒いチップのような物体であった。
「……マイクロSDカード?」
「ってことは、データが入ってるってことかしら。でも何のデータなの?」
「さあ、全然想像がつかないな…とりあえず、こっちを先に読んでみるか」
潤は一旦密閉袋を置き、今度は便せんを開いた。補助線もない純白の紙に、九条の乱れない文字が並んでいる。それが深海を思わせる青色だと気付き、潤はすっと目を細めた。
『宝条潤様
献品の受領を記述する。色彩の純度は私の目録において合格点だ。
なお、次回作の中での灰に対しての記述の解像度が低いと見なした際には、即刻データエラーの通知を送らせていただく。ひいては、こちらから提供したデータを参考されたし。
――九条蓮』
(……『DEEP SEA BLUE』。僕が贈ったインクが、九条先生の冷徹なロジックによって、紙の上に美しい秩序として記述されている。社交辞令は一行もない。だけど、これほど雄弁に僕の物語を肯定してくれる手紙は、他にないな)
「……一応、インクのお礼は言われてるみたいだな。それで、提供してくれたデータっていうのがこのマイクロSDってことか」
「ねえ潤、灰ってなんのこと?」
「ああ、九条先生の家の飼い猫だよ。この前押しかけた時に、挨拶させてもらったんだ」
「九条先生って、猫飼ってるの?潔癖症なのに」
「びっくりだよな。…でも、先生が飼っているからこそ、単なるペットじゃないってことだ」
潤は丁寧に便せんを畳み、袋からマイクロSDカードを取り出した。スロットに差し込み、早速パソコンへ読み込ませる。
『灰』とだけ書かれたファイルが一つ入っており、それを展開した。
「!潤、これ…」
「…ああ…これは、すごいな」
そこに入っていたのは、灰に関する緻密なデータの数々だった。
体長や体重のような基本的なものから、数か所に及ぶ毛並みの方向、肉球の色から耳の動かし方まで、ありとあらゆるデータがおさめられている。
数値や文字だけでなく、色彩コードや灰の画像も添えられており、さながら鑑識結果の報告書のようであった。
「ここまで情報をもらっちゃったら、尚更頑張らない訳にはいかないな。遥香、また出来上がったら九条先生に見てもらうから、臨時郵便で頼むよ」
「はいはい、わかってるわよ。まったく、いつの間にそんなに仲良くなったのかしら」
遥香はそうこぼすが、潤は何故か楽しそうにデータに目を通している。自分の膝に載ってくれていた灰の様子を思い出し、口元が思わず緩んでしまう。
(このデータを送ってくれたってことは、少なくとも僕に灰ちゃんを書く許可をくれたってことだよな。よし、解像度100%目指して書いてみるか)
「…潤、何にやにやしてるの。猫相手にまでデレデレしてるんじゃないわよ」
「いっ、いだだ!猫くらい許せよ!」
耳を引っ張られた潤の悲鳴が、宝条邸の廊下にまで響く。
画面の中の灰が、そんな日常茶飯事のやり取りには興味もなさそうにゆっくりとまばたきをして、大きな欠伸を見せたのだった。
宝条潤と九条蓮 推理の交錯―音楽家たちの連続殺人― 了
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