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夏と秋の隙間に┃風まかせ文芸部

部屋のソファにもたれて、俺はイライラとエアコンの温度を下げる。

「昨日はさ、26度だったんだよ?俺はもう秋になったと思ったね」

「それが今日になったら34度。しつこいんだよ!夏!バカでも風邪引くわ!」

部屋で喚く俺を、姪の5歳児が見つめている。

水筒の麦茶を俺のカップに注ぐ。

「まぁ、飲みなよ」

机越しに渡す姿はバーのママのようだった。

「悪ぃな」

水筒の麦茶は、今日の暑さにはありがたいほど冷たくて美味かった。

「お前の母ちゃんは分かってるよなぁ。昨日の麦茶は温かかった?」

姪は少し考えるように水筒を見つめている。

「ちょっとお湯足してた」

「なるほどなぁ。冷蔵庫の麦茶を温度管理してくれてんだよなぁ」

感心する俺に姪は続ける。

「昨日は半袖に薄い上着もリュックに入れてたよ。着なかったけどね」

「至れり尽くせりじゃねえか。愛されてんなぁ、お前」

俺は再びソファに寝転がる。

「俺もそうやって、見えない優しさに包まれたいのよ。気候に振り回されて喚く男じゃなくてさ」

姪はリュックから、かっぱえびせんのちいさな袋を開ける。

「まぁ、食べなよ」

「悪ぃなぁ」

ポリッと食べる小さなえびせんは心なしか優しい味に思える。

「ママは包まれてるかなぁ、その優しさに」

俺は姪を見る。今日は姉ちゃんに頼まれて保育園に迎えに行き、俺の部屋でママの迎えを待っている。

「そうだなぁ。ママも優しさに包まれてて欲しいよな」

「うん」

素直に頷く姪は、えびせんを一つ取って口に運んだ。

「お前が包んでるから大丈夫だろ」

「私、優しい?」

俺は頷く。

「俺に水筒のお茶分けてくれるわ、自分のおやつのかっぱえびせんくれるわ」

「俺はお前の優しさに包まれちゃったぜ」

我ながら、どっちが未就学児だか分からない。

インターホンが鳴る。

「ごめんね〜!急に残業になっちゃって!助かった〜」

姉ちゃんの声に姪が走って行く。

「ママ、お帰り〜!」

「ただいま〜!」

笑い合う2人の姿は、まだ夏の匂いがする。

見送りに出ると、外は夕焼けでトンボが飛んでいた。

「夏なのかよ、秋なのかよ…」

「おじさん」

空を見上げてぼやく俺に姪の声が届く。

「夏もお別れしに戻ってきたんじゃない?」

俺が戻ってきた暑さに怒り、蹴り出そうとした夏を姪は優しく包んだ。

「俺…お前の弟子になるわ」


お読みいただいて、ありがとうございました。
本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。




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