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おとうに恋したおかん

風まかせ文芸部の企画参加作品


まえがき

夏休みも、もうすぐ終わる。

机の上には、まだ終わっていない宿題の山。

そんな僕が作文に書こうと思ったのは、
今はもういない、おとうはんと、
今でもおとうはんが大好きなおかんの話だった。


本文

「なぁ、宿題終わったん?」

「もちろんやで、おかん。」

「ほんまかいな。」

「ほんま、ほんま。」

「ほな、カレー好きなだけ食べ。」

「うん。なぁ、おかん。」

「なん?」

「おとうはんのこと、好きやった?」

「なんや、おませやな。」

「だって、おかん、おとうはんのこと話さんし。」

「そうやな。今度な。」

「ほら、また『今度』て言うた。」

「ほら、カレーが冷めてしまうで。」

「いっただきます。」

僕はカレーを食べながら、
おかんの少し寂しそうな顔を見てしまった。

僕には、おとうはんの記憶がない。

僕の記憶の中にいるのは、
いつも明るく笑っているおかんだけや。

さて。

宿題の山、どないしよう。

おかんにはカッコつけて
「終わった」言うたけど、
ほんまは徹夜レベルや。

どれから手ぇつけようかな……。

机の前に座った僕は、
一枚だけあるおとうはんの写真を見た。

そして作文を書き始めた。

タイトルは――

『おとうに恋したおかん』

前に、おかんがお酒を飲んだ夜、
おとうはんとのなれそめを話してくれたことがある。

おとうはんは会社では目立たへん、
真面目な男やったらしい。

反対に、おかんは美人でスタイル抜群。

会社の男たちは、
みんな狼みたいにおかんを狙ってたんやて。

……これは、おかんが自分で言うてた。

ある日の飲み会。

おかんは、つい飲み過ぎて
ふらふらになってしもうた。

狼みたいな男たちが虎視眈々と狙う中、
おとうはんがおかんの手を引いて、
店から連れ出したんやて。

「それから、どうなったん?」

僕が聞くと、おかんは笑った。

「それからは、大人の話や。」

そう言うて、それ以上は教えてくれへんかった。

そのあと、
おかんのお腹に僕ができたんやて。

でも、おとうはんは、
会社へ行く途中で事故に遭って亡くなった。

その時、おかんのお腹の中には僕がいた。

きっと、おかんは泣いたと思う。

いっぱい泣いて、
それでも僕を守らなあかんから、
必死で悲しみをこらえたんやと思う。

おかんは、おとうはんのことが
めっちゃ好きなんや。

今でもな。

僕は、おとうはんに似てるって言われる。

せやから僕は、
早く大人になりたい。

大人になったら、
おかんとデートするんや。

おとうはんみたいに、
おかんの手を引いて歩くんや。

おかん、待っててや。

……あ。

宿題の山も待ってる……。


イラスト:ChatGPT

あとがき

「宿題の山」というお題から、
なぜか一人の少年と母親の姿が浮かびました。

宿題を終わったと嘘をついてしまう、
ちょっとカッコつけの男の子。

でも、そんな男の子が作文に書いたのは、
自分が知らない父親と、
今も父親を愛している母親の物語でした。

子どもは、大人が思っている以上に、
親の表情を見ているのかもしれません。

笑っている顔も、
ふと見せる寂しそうな顔も。

「早く大人になって、おかんとデートする」

そんな少年の小さな約束が、
いつか叶いますように。

その前に――

宿題の山を、
なんとかせなあかんな。


風まかせ文芸部のお題に書かせて頂きました。
iさん、お題をありがとうございます。


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