“バズらせる”ことは悪か? 松山智一と麻布台ヒルズに見る、アートと消費のリアル
「アートの入口が“うまい棒”?」
松山智一さんの展覧会『FIRST LAST』では、そんな驚きの仕掛けが用意されていました。SNSでは「10万円するらしい」「写真映えすぎ」と話題に。でもこの展示、うまい棒だけじゃないんです。
場所は麻布台ヒルズ。作品は都市と人間の記憶、ポップと歴史、ファッションと混沌が交錯する「現在の肖像」でした。
<本noteでは、国内でも今年多くの話題を集めたこの展示の感想と自分なりの見立て、沢山撮影してきた展示写真を見ながら振り返ろうと思います>
都市のランドマークに、アートはどう立ち上がるか
ニューヨークを拠点にしながらも、いまや世界中で評価される松山さんの個展が、麻布台ヒルズ──日本でもっとも話題性の高い新ランドマークで開催されるというこの出来事は、単なるアートイベントではありませんでした。「都市」と「アート」と「観光」が接続された、象徴的な出来事だったと思います。
麻布台ヒルズという場所は、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズといった都市開発の文脈の延長線上にあるプロジェクトです。ここを訪れるたびに私が感じるのは、こうした超高層タワー型都市において、アートは単なる装飾以上の意味を持てるのだろうか?という問いです。
松山智一さんの作品が今回提示していたのは、“YES”でした。森JPタワーの足元にある、出来たばかりのギャラリースペースに展示された彼の作品群は、都市の一部としてアートが生きているという実感を与えてくれるものでした。
真っ白な空間に色彩豊かなフィギュラティヴ・ペインティングが並ぶその様子は、アートを“景観のスパイス”として利用するのではなく、都市のランドスケープそのものに接続させるという試みのだったように思います。

松山智一の作品は、「わかりやすさ」と「複雑さ」の境界線を巧みに渡っている
たとえば麻布台ヒルズで展示されたカラフルな作品群は、誰が見ても「きれい」で、「写真を撮りたくなる」ように設計されています。それが戦略なのか、信念なのか。私は、その両方だと感じました。観る者の目を引くビジュアルの背後に、都市や歴史、個人の記憶が折り重なっているように思いました。


村上隆、KAWS、JR、長場雄との距離感
松山智一さんの作風について、最も比較されやすいのは村上隆さんでしょう。カラフルで、ポップで、コンセプチュアル。そして日米の文化をミックスするセンスも近いものがあります。ただ、松山さんの作品にはより「群像劇的」な構成があり、そこが大きく異なります。


たとえば村上隆さんが一つのキャラクターに意味を凝縮させるのに対し、松山さんの絵画には複数の人物が登場し、それぞれが異なる服装や背景を持ちながら、同一空間に共存しています。
そこにはJRのような"群衆への視点"も感じますし、長場雄さんのような"キャッチーなミニマルさ"とは異なる、ファッションとストリートと歴史が交錯するような複雑な構成力が光っています。KAWSとの違いも明確です。KAWSが“消費されるアイコン”の洗練を突き詰めるとすれば、松山さんは“消費される混乱そのもの”を描いている印象を受けます。



「うまい棒」問題とバズの設計
今回の展覧会でもっとも話題になったのは、「うまい棒 げんだいびじゅつ味」だったかもしれません。

うまい棒は日本人にとってもっとも身近なお菓子の一つですが、それがアートの文脈で登場すると、脱ヒエラルキー的な意味を帯びます。実際、SNSでは「10万円のうまい棒?」「キラキラしていてかわいい!」「アートって感じ!」といった反応が飛び交っていました。
この仕掛けは戦略であり、「アートが大衆文化にどう入り込むか?」という問いへの、一つの正解だったように思います。50名限定で売られたその“アートうまい棒”の顛末について、以下のnoteが非常に面白かったのでご紹介します。
誰もが気軽にSNSでシェアできる。でも、作品にはちゃんと意味がある。そういったバランス感覚に、私は驚かされました。
アートとファッション──2022年の出会いから
松山さんの作品と初めて出会ったのは、2022年のアートフェア東京でした。
アメリカで活躍する日本人作家という点で強く興味を引かれましたが、実際に作品を観たときに、登場人物の服装に既視感を覚えました。
アレッサンドロ・ミケーレ時代のGUCCIのような、派手で強烈に目を引く“Tacky”なファッションでした。背景の装飾や構成にも、どことなく和の要素や琳派のような装飾性があり、西洋と東洋の文化が複雑に交差していました。これは、世界を生きる日本人の視点がキャンバスに落とし込まれた表現だと、強く感じました。

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