35条は、教員の味方|教科書とAIと著作権(2/7)
シリーズ2回目です。
前回(1/7)は、「教材研究なら条件付きでOK、ただし自校ルールが最優先」という結論でした。
今回は、その“条件付きでOK”の根っこにある著作権法35条を、やさしく解きほぐします。
※法的助言ではありません。最終判断は自治体・学校のルール、各規約、必要なら専門家へ。
ふだんはNG。でも学校には例外がある
ふつう、他人の著作物を勝手にコピーするのはNGです。
本も、新聞も、写真も、許可がいる。
でも、学校の授業には例外があります。
それが著作権法35条。
条文をかみくだくと、こうです。
「非営利の学校で、先生や子どもが、授業のために、必要な範囲で、許可なく著作物をコピー・送信していい。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合は別。」
ドリルの一部をコピーして配る。
教科書の図を拡大して黒板に映す。
新聞記事を授業で読む。
こういう日常が回っているのは、この35条のおかげです。
学校は、著作権についてかなり優遇されている——まずここを知っておくと、気持ちが軽くなります。
キーワードは「授業のため」と「必要な範囲」
35条が効くには、条件があります。
非営利の教育機関であること
先生または子どもが使うこと
「授業の過程」のための利用であること
「必要と認められる限度」であること
著作権者の利益を不当に害さないこと
特に後ろの2つ——「必要な範囲」と「不当に害さない」——が、AI利用でもそのまま効いてきます(くわしくは3回目)。
「教材研究」は“授業のため”に入る?
いちばん気になるところです。
授業“中”の利用はイメージしやすい。
では、授業“前”の教材研究や準備は?
SARTRASの運用指針では、授業用資料作成のための準備段階も、「授業の過程」に関係する利用として整理されています。
ただし、ここで大事なのは「授業準備なら何でも保存していい」ではなく、授業に必要な限度で、適切に管理するということです。
文部科学省の生成AIガイドラインでも、著作権・個人情報・情報セキュリティへの配慮が求められています。
だから、
明日の自分の授業のために、教科書を分析して、発問や流れを考える
——この教材研究は、35条の考え方に乗りやすいんです。
一方で、
校務(授業以外の仕事)で使う
——この場合は35条の緩和は効かず、通常の著作権の判断になります。
ここで線が変わる、と覚えておいてください。
複数の整理を重ねて読む
心強いのは、立場の違う資料を重ねて読むと、見えてくる線があることです。
文部科学省:生成AIの活用では、著作権・個人情報・情報セキュリティを確認することが必要。
SARTRAS運用指針:授業のために必要な限度での利用は認められ得るが、著作権者の利益を不当に害しないことが条件。
吉田塁先生(東京大学・弁護士チェック済みの資料):授業目的なら著作権の扱いは大きく緩和される一方、条件や出力の扱いを確認する必要がある、という整理。
東京書籍:ある先生の個別の問い合わせに「法令・ガイドラインの許容範囲なら、条件付きで使える」と回答。
※東京書籍の件は、公式の統一見解ではなく、その先生が受け取った個別回答のまとめです。「東京書籍が全教員に認めた」と広めないよう、ここは正確に。
つまり、「教材研究なら使える可能性はある」。でも同時に、「必要な範囲・出力・保存・共有をかなり丁寧に管理する必要がある」。
ここまでをセットで押さえるのが、現場としては安全だと思います。
ありがちな疑問
Q. 隣のクラスや学年でも使える?
35条の基本線は「その授業のため」。担任する自分の授業の準備が中心です。広く配る・共有するほど、慎重になった方が安全です。
Q. 指導書(教師用)は?
指導書も著作物です。授業準備での扱いは教科書本文と同じ感覚で、「必要な範囲・自分の準備・外に出さない」を守るのが無難です。
Q. じゃあ授業のためなら何でもOK?
いいえ。「必要な範囲」「不当に害さない」の縛りは残ります。次回の“丸ごと問題”が、まさにそこです。
身近な例で考える
たとえば、明日の説明文の授業。
教科書の本文をもとに、「子どもがつまずきそうな言葉」や「筆者の主張に迫る問い」を整理する。
これは“自分の授業の準備”そのものなので、35条の考え方に乗りやすい場面です。
一方、同じ作業でも、できた発問集を学年だよりや学校のホームページに載せて配るとなると、話は別。
「授業のため」から「外への発信」に変わった瞬間に、35条の緩和は外れます。
同じ素材でも、出口が変わるとルールが変わる——この感覚を持っておくと、判断がぶれません。
今日の一歩
自分のAI活用を、「授業のため」か「それ以外(校務)」かで仕分けてみる。
明日の自分の授業づくり → 35条が効きやすい
所見・通知文・公開資料 → 通常の著作権判断(別の注意)
この仕分けができると、「どこまでやっていいか」の感覚が、ぐっと安定します。
次回は、つい一番やりたくなる**「丸ごと」がなぜダメなのか**を、正直に書きます。
※本記事は法的助言ではありません。最終判断は自治体・学校のルール、各サービスの利用規約、必要に応じて専門家にご確認ください。
参考
著作権法第35条/改正著作権法第35条運用指針(SARTRAS) https://sartras.or.jp/unyoshishinfortranslation/
文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0」(2024年12月)
吉田塁「生成AIと著作権」(東京大学 LLM寄附講座, 2026年4月)
(シリーズ「教科書とAIと著作権」全7回。各回のリンクは公開後に追記します。)
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