「はねてないからバツ」を、いったんやめてみた。──漢字の採点を、AIと文化庁の指針で見直す話|AI活用100本ノック #050
「現役教員がAI活用を毎日1本書く」と決めた100本ノックの50本目です。
ちょうど半分まで来ました。
50本目は、毎日の採点の話を書きたいと思います。
漢字の丸つけをしているとき、ふと手が止まることがあります。
「木」の最後の縦画が、少しはねている。
「糸」の下が、とめてあるのか、はねているのか、微妙。
「牛」の縦画が、上に少し突き出している。
さて、これはマルか、バツか。
たぶん、多くの先生が、一度は迷ったことがあると思います。
そして、忙しい丸つけの中で、なんとなく自分の基準で決めている。
私もそうでした。
でも、あるとき気づいたんです。
その「なんとなく」が、子どもによって、日によって、少しずつ違っている。
ここに、AIと、ある資料が役に立ちました。
今日は、その話です。

「とめ・はね・はらい」で、赤を入れる前に
漢字の採点で、いちばん迷うのは、字の細かい形です。
とめか、はねか。 はらいの長さ。 点の向き。 線が、くっついているか、離れているか。 少し、突き出しているか。
ここを、どこまで許すか。
先生によって、かなり幅があります。
厳しく見る先生もいる。 ゆるやかに見る先生もいる。
どちらが正しい、という話ではありません。
ただ、子どもから見ると、これはけっこう大きな問題です。
去年の先生はマルにしてくれた形が、今年はバツになる。
同じ「木」なのに、丸つけする人によって変わる。
子どもは、字の意味ではなく、「先生のクセ」を覚えはじめる。
これは、少しもったいない気がしました。
漢字で本当に大事なのは、その字だと読めること。
そして、意味が伝わること。
細かい形のクセに、子どもの「できた・できない」が左右されすぎるのは、避けたい。
そう思っていたときに、あらためて読み直したのが、文化庁の指針でした。
文化庁の指針は、許容をかなり広く認めている
文化庁が出している「常用漢字表の字体・字形に関する指針」という資料があります。
少し長い名前ですが、中身はとても実用的です。
ざっくり言うと、こういう考え方です。
字の骨組み(字体)が保たれていれば、細かな形(字形)の違いは、いろいろあってよい。
たとえば、印刷の文字(明朝体)と、手書きの文字(楷書)は、もともと形が少し違います。
それなのに、印刷の形を「正解」にして、手書きをバツにしてしまう。
これは、本当は理にかなっていない、という話です。
具体的には、こんな違いが「どちらでもよい」とされています。
縦画の最後を、とめても、はねてもよい字がある
画の長さが、少し違ってもよい
線の方向や角度が、少し違ってもよい
くっつける・離す、が、どちらでもよい場合がある
上に少し突き出す・出さない、が、どちらでもよい場合がある
「木」の縦画のはね。 「令」の下の形。 「牛」や「糸」の細部。
このあたりは、手書きでよくある形なら、許容される範囲が広い。
これを読んだとき、正直、少しほっとしました。
自分が迷っていた多くの形は、実は「どちらでもいい」ものだったんです。

でも、現場が本当に迷うのは「別字との境界」
ただ、ここで安心しすぎると、今度は別の問題が出ます。
「じゃあ、全部マルでいいのか」
そうではありません。
許容には、境界があります。
その境界は、たいてい「別の字に見えてしまうかどうか」です。
たとえば、「木」。
縦画のはねは、許容の範囲です。
でも、点が一つ増えて「本」や「未」に見えたら、それはもう別の字です。
「字」の下の「子」が、はねるのは許容。
でも、上の部分が崩れて、別の字に見えてしまったら、話は変わります。
つまり、採点で本当に判断したいのは、
「これは、許容範囲の形のゆれなのか」
それとも、
「これは、別の字や、読めない形に近づいているのか」
この線引きです。
ここが、いちばん迷うところで、いちばん時間がかかるところでもあります。
そして、ここに、AIが入ってきました。

AIに「許容か、別字か」を、指針を根拠に判定させる
私がやってみたのは、AIに採点の「相談相手」になってもらうことです。
ポイントは、ただ「これマル?」と聞かないこと。
文化庁の指針の考え方を、先に渡しておくんです。
たとえば、こんなふうに頼みます。
あなたは、小学校の漢字採点を手伝う相談相手です。 文化庁「常用漢字表の字体・字形に関する指針」の考え方にもとづいて答えてください。 基本の方針は「字体(骨組み)が保たれ、その字として読めるなら、字形の細部の違いは許容する」です。 これから、ある手書きの漢字の気になる点を伝えます。 それが「許容範囲のゆれ」か、「別の字や誤りに近づいているか」を判定し、 理由を、とめ・はね/長短/方向/接触/突き出し などの観点で説明してください。 最終判断は教師が行う前提で、断定しすぎないでください。 対象の字:「牛」 気になる点:縦画が上に少し突き出している
こう聞くと、AIは「これは突き出しの範囲で、許容と考えられます。中心の縦画と横画の関係が保たれていれば『牛』と読めます」といった形で、観点つきで返してくれます。
大事なのは、ここで終わらせないことです。
AIの答えは、たたき台。
「本当にそう?」
「それは指針のどの考え方に当たる?」
と、自分でもう一度確かめる。
前に書いた「AIにつっこむ」のと、同じです。
AIが言ったから許容、ではなく、
AIの判定をきっかけに、自分の基準を言葉にしていく。
これをくり返すと、面白いことが起きました。
自分の中の「なんとなくの基準」が、だんだん言葉になっていったんです。
「あ、自分はここを無意識に厳しく見ていたな」
「ここは、別字に近いから、声をかける場面だな」
採点が、「クセ」から「基準」に変わっていく感覚がありました。

迷いを、その日のうちに「道具」にした
ここで、100本ノックらしい一手を加えました。
毎回AIに聞くのも悪くないのですが、丸つけの最中に、いちいち長い指示を打つのは大変です。
そこで、よく迷う代表的な漢字について、
どこが許容か
どこから別字に近いか
をまとめた、小さなアプリをAIと一緒に作りました。
漢字を選ぶと、
許容されやすいポイント
別の字に見えてしまう境界
先生向けのひとこと、保護者向けのひとこと
がパッと出る、というだけのものです。
難しい技術は使っていません。
「こういう画面がほしい」と言葉で伝えて、AIにたたき台を作ってもらい、中身を直していく。
これも、AI活用の一つの形だと思います。
困りごとを、その日のうちに、小さな道具に変える。
完璧なアプリを作るのが目的ではありません。
自分と、近くの先生が、採点で迷ったときにサッと開ける。
そのくらいの軽さでいい。
AIが来て変わったのは、「便利なツールを誰かが作ってくれるのを待たなくてよくなった」ことだと感じています。
自分の困りごとに合った道具を、自分で立ち上げられる。
これは、地味だけど、かなり大きい変化です。
保護者にも、同じ言葉で説明できる
採点の基準がぶれて困るのは、教室の中だけではありません。
家庭でも、同じことが起きています。
「学校でバツだったけど、これ合ってるんじゃない?」
「お母さんのときは、はねたらダメって習ったよ」
子どもが家でそう言われて、混乱することがあります。
ここでも、文化庁の指針は助けになります。
「字体が保たれて、その字と読めれば、細かな形のゆれは許容される」
この一本の軸を、教師と家庭で共有できると、子どもが板挟みになりません。
だから、私が作った小さなアプリには、先生向けの言葉だけでなく、保護者向けの言葉も入れました。
たとえば「木」なら、
先生向け:四画の骨組みが保たれていれば、縦画末のとめ・はねは許容範囲
保護者向け:横線・たて線・左右のはらいがそろっていれば大丈夫。最後が少しはねても、とめてもかまいません
同じ判断を、相手に合わせた言葉で渡す。
これも、AIが得意なところです。
「この内容を、保護者にやさしく一言で言い換えて」と頼めば、すぐに整えてくれます。
採点の基準を、教師が一人で抱えこむのではなく、家庭にもひらいていく。
そうすると、「先生によって違う」も「家と学校で違う」も、少しずつ減っていきます。
それでも、最後に決めるのは教師
ここまで書いて、念のため確認しておきたいことがあります。
AIも、アプリも、指針も、「最終判断」ではありません。
判断の材料です。
実際の採点では、
学校や学年でそろえている方針
その子の発達段階や、今の指導の重点
テストなのか、ふだんの練習なのか
によって、見方は変わります。
たとえば、字を習いはじめの時期に、とめ・はねを丁寧に意識させたい場面はあります。
逆に、文章を書く中で、読めればよしとしたい場面もあります。
つまり、「許容できる」ことと、「今その子に何を意識させたいか」は、別の話です。
指針は、「バツにしすぎない」ための後ろ盾になります。
AIは、その判断を言葉にする手伝いをしてくれます。
でも、目の前の子に何を返すかは、教師が決める。
ここは、手放してはいけないところだと思っています。

今日のノック
今日のノックは、これです。
自分が「バツにしがちな字」を3つ書き出して、それが許容範囲かどうか、指針かAIで確かめる。
まず、最近の丸つけを思い出します。
「これ、迷ったな」
「いつもなんとなくバツにしているな」
という字を、3つ。
そして、AIにこう聞きます。
文化庁「常用漢字表の字体・字形に関する指針」の考え方で、 次の手書きの形は「許容範囲のゆれ」か「別字・誤りに近いか」を、 理由とともに教えてください。最終判断は教師が行う前提で。
出てきた答えを、そのまま信じなくていい。
「これは許容でいいな」
「これは、別字に近いから、声をかけよう」
と、自分の基準に通し直す。
それだけで、明日の丸つけが、少しだけ変わります。
「はねてないからバツ」を、いったんやめてみる。
そのうえで、本当にこだわるべきところに、エネルギーを使う。
漢字で育てたいのは、形のクセへの正確さだけではありません。
その字を読めること。
言葉を、自分のものにしていくこと。
採点を見直すことは、子どもが「漢字って楽しい」と思える余白を、少し増やすことでもあると思っています。
50本目に、この話を置いておきたいと思いました。

注記・参考
文化庁「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」 https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/94336801.html
漢字の評価は、学校・学年でそろえている方針や、児童の発達段階によって変わります。本記事は、日々の採点を見直すための一般的な考え方をまとめたものです。
AIの判定は参考であり、最終判断は教師が行ってください。生成AIを校務で使う際は、各自治体・学校のルールと個人情報の扱いを確認してください。
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