AI活用100本ノック #070 AIの練習に、本物の校務データは使えない。だから架空データを作る
AI活用100本ノック、70本目。
今回のテーマは、練習用のダミーデータです。
一言で言うと、これです。
AIを覚えられない原因は、たいてい「安全に触れる材料がない」こと。
「AI、便利らしいですね。でも何から試せばいいのか分からなくて」
同僚からよく言われます。
こちらとしては「まず自分の仕事で試してみたら」と言いたいのですが、そこで止まる理由もよく分かります。
手元にある材料が、全部本物だからです。
学級の振り返り。保護者アンケート。会議の資料。名簿。
どれもAIに入れるには判断がいる。判断に迷うから、結局試さない。試さないから、いつまでも分からない。
この詰まりを外す方法があります。
架空のデータを作って、それで練習する。
本物で練習してはいけない理由
まず、ここをはっきりさせておきます。
本物の校務データで練習しない方がいい理由は、3つあります。
1. 判断が要る
「これは入れていいのか」を毎回考えることになります。練習したいだけなのに、その手前で止まる。
2. 共有できない
同僚に「こうやるんだよ」と見せたくても、自分の学級のデータは見せられません。教え合いができない。
3. 失敗できない
練習の価値は、失敗できることにあります。変な入れ方をした、うっかり全部貼ってしまった——本物だとそれが事故になる。
つまり、本物のデータは、練習の材料として向いていないのです。
架空の学校を、まるごと作る
そこで、架空の小学校を1つ作りました。
実在しない市の、実在しない学校。人名も地名も、実在のものは使いません。
そのうえで、校務でよくある書類を一式そろえます。
① 職員会議の資料(PDF)
行事の実施案、方針の提案文書。それらしい体裁で、それらしい分量。
② 職員会議の文字起こし
会議の音声を書き起こした想定のテキスト。発言が行ったり来たりする、あの読みにくさも再現します。
③ 学級通信の骨子メモ
箇条書きの走り書き。「運動会 みんな頑張った」「リレーで転んだ子を助けた場面」くらいの粗さで。
④ 学校評価アンケートの自由記述(CSV・数十件)
保護者の声を想定。褒める意見も、厳しい意見も、要領を得ない意見も混ぜる。
⑤ 児童の振り返りコメント集(番号のみ)
最初から名前のない状態のデータ。
⑥ 単元テストの得点表(架空の氏名つき)
この6つがあると、校務で使う場面のほとんどが練習できます。
この6つで、何が練習できるか
会議資料 → 資料に質問する練習
資料を読み込ませて、「雨天の場合はどうなる?」「決定事項と宿題を一覧にして」と聞く。読む時間が、質問する時間に変わる感覚を体験できます。
文字起こし → 議事録を整える練習
だらだらした発言記録から、決定事項だけを抜き出す。これは多くの人が「明日から使える」と感じる場面です。
学級通信の骨子 → 文体を整える練習
箇条書きのメモを、保護者向けの文章にしてもらう。ここで大事なのは「メモにない事実を足さないでください」と指示することです。放っておくと、AIはそれらしい嘘を足します。それを目の前で確認できるのが、練習の価値です。
アンケート自由記述 → 分類・傾向の練習
数十件を人力で分類すると1時間かかります。AIなら数十秒。ただし出てきた分類を鵜呑みにせず、少数意見を自分で拾い直すところまでを1セットにします。
振り返りコメント → 見取りの練習
子どもの言葉から、理解できていること・曖昧なことを整理させる。「AIに子どもを評価させる」のではなく、「自分が見るための下ごしらえ」だという位置づけを、ここで体で覚えます。
⑥だけ、あえて名前を入れておく
得点表にだけ、架空の児童名を入れてあります。
個人情報を扱う手順を、危なくない場所で練習するためです。
手順はこうです。
得点表を開く
氏名の列を削除する
それからAIに渡す
「個人情報は入れないでください」と口で言うのは簡単です。聞いた人も「そりゃそうだ」と思う。でも、実際に自分の手で名前の列を消したことがある人は、意外と少ない。
その1回をやっておくと、本番で手が動きます。
ただし、ここで大事な但し書きがあります。
氏名を消せば匿名化が完了する、わけではありません。
番号に置き換えても、記述の内容や属性の組み合わせから、誰のことか分かってしまう場合があります。「1学期に転入してきた子」「あの係をやっていた子」——それだけで特定できることもある。
だから、これはあくまで架空データでの操作練習です。
実データを扱うときは、氏名を消したあとに「この内容、誰か分かってしまわないか」を必ず自分で確認する。そして最終的な判断は、所属先のルールに従う。
練習は架空データで。判断は本物のルールで。
ここは分けて考えてください。

作るのはAI、決めるのは人間
この6つは、AIに作ってもらえます。
ただし、丸投げではありません。
まず人間が決めること
どんな場面を練習したいか
そのために必要な書類は何か
実在の情報を絶対に入れないこと
次にAIに頼むこと
その書類を、それらしい体裁と分量で書く
自由記述を、意見が偏らないように数十件生成する
会議の文字起こしを、実際の会議らしい読みにくさで書く
この「読みにくさ」を注文できるのが面白いところでした。きれいに整った議事録では、要約の練習になりません。「話が脱線して、また戻ってくる感じで」と頼むと、それらしくなります。
最後にまた人間
実在の人名・学校名・地名が混ざっていないか確認
内容に不自然な点、不快な表現がないか目視
ここは自動化しません。人に見せる可能性があるものなので、最終確認は自分の目です。
作るときに気をつけたこと
1. リアルすぎない
実在の学校を思わせる細かい記述は避けます。地域の特色、特徴的な行事名、実在しそうな人名。「どこかの学校っぽい」ではなく「どこの学校でもない」を目指します。
2. でも、雑すぎない
内容がスカスカだと練習になりません。自由記述が全部「よかったです」では、分類する意味がない。厳しい意見、要望、的外れな意見も混ぜて、初めて分類の練習になります。
3. 「困る要素」を入れておく
きれいなデータだけだと、AIの出力もきれいに出ます。それだと「すごい」で終わってしまう。
だから、あえて判断に迷う要素を混ぜます。どちらとも取れる意見。少数だけど重要そうな声。矛盾する記述。
そこで初めて、「AIの出力をそのまま使ってはいけない」が体感できます。
使い回せる、という利点
作ってみて気づいた利点があります。
古くならない。
実データは、その年度のものです。個人情報も含むので、いつまでも置いておけない。
架空データは、来年も再来年も使えます。若手に説明するとき、自分が新しい使い方を試すとき、校内で共有するとき。
一度作れば、しばらく使えます。
ただし、注意点も書いておきます。
「自作だから何でも自由」ではありません。
AIが生成したものでも、既存の文章と偶然似ることはあります。使ったサービスの利用規約もあります。校外に配布したり、公開したりする場合は、その範囲で確認が必要です。
自分の練習用・校内での共有までなら、リスクはかなり低い。でも「AI生成物だから権利関係を考えなくていい」ということではない、というのが正確なところです。
今日のノック
今日のノックは、これです。
練習用の「架空の1枚」を、AIに作ってもらう。
いきなり6つ作らなくていいです。まず1枚。
いちばん作りやすいのは、学校評価アンケートの自由記述(架空)だと思います。
こう頼みます。
架空の小学校の学校評価アンケート(保護者向け)の自由記述を、40件作ってください。
実在の学校名・地名・人名は使わないでください。
肯定的な意見だけでなく、要望・批判・どちらとも取れる意見も混ぜてください。
分類の練習に使うので、テーマが少しばらけるようにしてください。
出てきたら、実在の固有名詞が混ざっていないか自分の目で確認します。
これが1枚あるだけで、「AIに分類させるとどうなるか」を安全に試せます。
AIを覚えられない原因は、才能でも忙しさでもなく、たいてい安全に触れる材料がなかったことでした。
材料は、作れます。
効果と感想
「本物は使えない」で止まっていた練習が、架空データを1枚作っただけで動き出した。しかも実データと違って古くならないので、翌年もそのまま使える。
安全に失敗できる場所があると、人は試します。
逆に、失敗が事故になる場所では、誰も試しません。
AIを校内に広げたいなら、たぶん必要なのは説明会より、安全に失敗できるデータを1枚用意することです。
注記・参考
本記事のダミーデータは、実在の学校・人名・地名を含まない架空データとして作成する前提のものです。
個人情報の匿名化は、氏名の削除だけで完了するものではありません。記述内容や属性の組み合わせによる特定にも注意が必要です。実データの取り扱いは、所属先の規定に従ってください。
生成AIに校務データを入力する範囲は、自治体・学校によって異なります。必ず所属先のルールを確認してください。
AIで生成したデータも、既存著作物との類似や利用規約の確認が不要になるわけではありません。校外への配布・公開時は特に確認してください。
AI活用100本ノック
