創業者が退いたのに、なぜ金子半之助は131店舗まで伸びたのか:職人の味を“会社の資産”に変えたオイシーズの経営とは?
職人の味を、職人だけのものにしない経営 ※写真はイメージです
外食のM&Aでは、創業者が抜けたあとに味が薄れ、物語が痩せる例が珍しくありません。日本橋の天丼ブランドを引き継いだオイシーズ株式会社は、その逆を歩いてきました。創業者の感性を組織の共通言語に翻訳し、職人技を中央で守りながら現場作業を標準化し、国内・海外・中食・ライセンスへ展開する。今回のNOTEでは、その設計思想を公開資料と業界統計を辿りながら読み解きます。ブランドとは何か?掘り下げます。

「店」を売ったのではなく、ブランドを売った
オイシーズ株式会社は2016年10月に設立された外食企業です。公式の会社概要では、事業内容を「傘下子会社の経営支援、海外フランチャイズ事業」と整理しています。関連会社には、つじ田を運営するH.I.T WORLD、金子半之助のバイザ・エフエム、田中商店・田中そば店のGMS、天むす金子半之助とブランドシェアリングサービスのand RICEが並びます。現場で一店舗ずつ回す会社というより、ブランド群を束ねるホールディングス型の外食企業、という整理が近いです。
注目したいのは、2017年のM&Aの経緯です。
M&Aコンサルティング会社の成約事例によれば、つじ田と金子半之助という別々の人気業態をひとつのグループにまとめ、店舗別の月次収支管理、複数会社の損益管理、組織再編を進めたうえで、アドバンテッジ・パートナーズへ譲渡されています。売ったのは「店」ではなく、拡大可能な経営単位に整理されたブランド群でした。ここに、その後の展開のすべての伏線が置かれています。
理念を、戦略の言葉として読む
オイシーズの理念は「日本の『おいしい』を世界へ」「世界の『おいしい』を日本へ」。表面上は、外食企業によくある柔らかなスローガンに見えます。ところが、公式サイトを読み進めると、同社が大事にしているのは「店舗体験によるブランド価値向上」だと記されています。料理だけでなく、空間、カウンター越しの調理音、座席の回転、創業者の物語までを含めて価値化する、という設計思想です。
味は模倣されます。価格は上がります。人は採れません。原材料費は止まりません。だからこそ、味を商品の一点で終わらせず、物語、空間、オペレーション、中食、海外展開、ライセンスへ分解して再利用する。理念の柔らかい言葉の裏に、こうした編集の構えが透けて見えます。
四本柱の事業ポートフォリオ
オイシーズの事業は、ざっくり四つに分けて読むと整理できます。
一つ目は国内外食。
金子半之助、つじ田、田中商店、田中そば店など、専門性の強い業態を複数持っています。
二つ目は海外展開。
金子半之助は台湾、香港、北米、東南アジアへ。つじ田は米国を中心に。2024年にはタイのサハ・グループ系企業と金子半之助のライセンス契約が結ばれ、2026年にはインドネシア進出が発表されています。
三つ目は中食と物販。
金子半之助は店舗の天丼だけでなく、天むす、押し寿司、弁当へと商品を広げています。
四つ目がブランドシェアリングサービス。
既存の飲食店の厨房と人員を借りる形で、有名ブランドのメニューをデリバリーやテイクアウトに乗せる仕組みです。
店舗を増やすだけの会社ではなく、ひとつのブランドを直営、フランチャイズ、海外、百貨店、中食、EC、ライセンスへ横展開する会社。事業領域の置き方が、外食ではなく出版社の構造に近い、と言うと言い過ぎでしょうか。
オイシーズ株式会社「国内事業」 オイシーズ株式会社「加盟店」
今回概要まとめ図
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