見出し画像

メニューを1つに絞ったら、世界16カ国に広がった」”挽肉と米”が証明する、引き算の経営哲学:株式会社挽肉と米


「国内4店舗・海外16店舗」という逆転現象が示す、特化型ブランドの本質と今後の買収シナリオ ※写真はイメージです



どーも、セオドアアカデミーです。


朝9時。吉祥寺の店先に、すでに外国語が飛び交っている。

台湾から来たという女性二人が、スマートフォンを片手に記帳用紙と向き合っている。その隣では、韓国語で話す家族連れが整理券を確認している。平日の朝、ここは観光地でも商業施設でもない。ハンバーグ定食を1種類だけ出す、カウンター20席ほどの小さな食堂だ。

なぜ、こうなったのか。

答えは案外シンプルで、だからこそ深い。

ハンバーグ3つ。ちょうど良いんだよねー

セオドアアカデミー独自まとめ

最悪のタイミングで、最高の設計をした

「挽肉と米」の1号店が吉祥寺にグランドオープンしたのは、2020年6月1日のこと。

外食産業にとって、これほど過酷なスタートラインはなかった。コロナ禍の初期。人流は止まり、飲食店の先が見えない中、あえて新業態を立ち上げた。

手を組んだのは、3人のコーファウンダーだった。「山本のハンバーグ」を生んだ株式会社俺カンパニーの山本昇平氏、株式会社LAMPの清宮としゆき氏、そして日本を代表するクリエイティブディレクターで POOL inc.を率いる小西利行氏。飲食のプロと、ブランド設計のプロが、最初期から手を組んだジョイントベンチャーとして誕生した。

これが、他の飲食起業と根本的に異なる点だ。多くの「行列店」は、まず料理が評判になり、後からブランドが育つ。しかし挽肉と米は逆だった。コンセプト、空間、オペレーション、店名にいたるまで、すべてが設計図から始まった。

コロナ禍が育てた逆説がある。人が来られない時代だからこそ、「わざわざ行く価値」を設計することに全エネルギーを注げた。


「うまいハンバーグ」ではなく「一番うまい瞬間」を売る

公式サイトに書かれた言葉は、驚くほどシンプルだ。

「ハンバーグが一番うまいのは"できたて"。だから、できたての瞬間を提供できる店を世界中につくりたい。」

ここから逆算して生まれたのが、「挽きたて、焼きたて、炊きたて」の三たてというコンセプトだ。毎朝店内で挽いた牛肉100%の挽肉を、客の目の前で炭火焼きにする。炊きたての羽釜ご飯と一緒に出す。それだけ。

「うまいハンバーグを出す店」と「ハンバーグが一番うまい瞬間を出す店」は、言葉が少し違うだけで、設計思想がまったく別物だ。

前者なら、良い食材と腕のある料理人がいれば成立する。後者は、空間、オペレーション、来店管理、すべてが「瞬間」のために再設計されなければならない。

挽肉と米が選んだのは、後者だった。


単品特化は「楽をするため」ではない

公式FAQには明記されている。メニューは「挽肉と米 定食」のみ。焼きたてハンバーグは挽肉90gが3つまで同価格で提供され、ご飯はおかわり自由だ。

メニューが1つしかない。この事実を聞いて「制約が多い」と受け取るか、「すごい覚悟だ」と受け取るかで、経営センスが分かれる。

飲食店の宿命的な悩みがある。メニューを増やせば仕入れ品目が増え、廃棄が増え、教育が複雑になり、ピーク時の提供速度が落ちる。しかし単品化すれば、客が「他に何があるか」と比べられなくなる代わりに、「これで満足できるか」という一点に価値判断が集中する。

挽肉と米はその賭けに勝った。

重要なのは、単品化によって「楽になったわけではない」点だ。浮いた経営資源は、すべて体験品質に再投資されている。

挽肉は時間と温度で鮮度管理し、店内の挽き場で毎朝挽く。作業は冷蔵室で行う。ご飯は毎月各地のお米をスタッフで味見して選び、大きな羽釜で時間差の連続炊飯をする。これだけのことをやりながら、提供できる商品は1種類だけ。削るからこそ、深くなる。


「記帳制」は混雑管理ではなく、生産管理だ

挽肉と米の現場で最も独創的なのが、記帳制というシステムだ。

公式サイトでは、こう説明されている。「挽肉と米のおいしさは、タイミングが命。すべてのお客様に、できたてのハンバーグと炊きたてのご飯をご提供するために、タイムテーブルに合わせてベストなタイミングを計算しながらお料理を準備しています」。

普通の飲食店にとって、予約や整理券は混雑をさばくための道具だ。しかし挽肉と米にとって、記帳制は製造業で言うジャスト・イン・タイムに近い。来店時間が分単位で読めるから、そこに合わせて米を炊き、肉を挽き、炭火を整える。直前キャンセルや無断キャンセルが「最高の瞬間」を台無しにするから、それをシステムで防ぐ。

空間設計も同じ発想から生まれている。全席が焼き台を囲むカウンターのみ。焼き上がりから1秒で皿に届けるための最短動線だ。90gという小さめのサイズで3つまで順番に提供するのも、最後まで焼きたてを食べてもらうための設計だ。

食事時間は早い方で30分ほど、平均50分くらい。このペースを見ながら次の90gを焼くタイミングを計る。カウンターという設計が、そのコミュニケーションを可能にしている。

さらに、WEB記帳では定食代の事前決済と、海外など遠方客向けのAdvance Priority Ticket(1,000円/席)も設定されている。席を先行取得できる数量限定チケットで、8日後から最大2ヶ月先まで確保できる。単なる人気店の混雑対策ではなく、需要のコントロールと収益の多層化を同時に実現している。

今回概要まとめ図

ここから先は

3,208字 / 1画像
この記事のみ ¥ 380
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

1800本以上の有料コンテンツを読み放題にしたお得なパック!!。毎月50本以上の新規コンテンツを追加…

熟成プレミアムプラン(有料記事 読み放題パック) 

¥580 / 月

ありがとうございます!引き続きよろしくお願いいたします!