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【ハーブ天然ものがたり】銀梅花|マートル|イヴの祈りとリリスの沈黙|エデンの記憶|二人の花嫁を繋ぐ祝祭の木|天と地の統合




二人の花嫁を繋ぐ祝祭の木、マートルが導く天と地の統合


銀梅花(ギンバイカ)、学名は Myrtus communis(ミルトス・コミュニス)。 地中海沿岸を故郷にもつ常緑樹は、日本では「マートル」の名で精油としても親しまれています。

「銀梅花」という和名の通り、まるみを帯びた五弁の花は梅に似ていますが、その中心から溢れだす無数の雄しべは、星々が爆発した瞬間の光の粒をとどめているかのようです。
その華やかさから、古くより結婚式のブーケや髪飾りにつかわれ、「祝いの木」として愛されてきました。

ティトリーやユーカリと同じフトモモ科に属していますが、マートルの香りは、やさしく穏やかです。
ティトリーは「今すぐここを浄化しまーす!」という即効性重視の救急隊、ユーカリは「頭を冷やして呼吸を整えよ」と鋭く命じるたたき上げの導師だとすれば、マートルは「すこし呼吸をゆっくりととのえて、あたまを軽くしましょう」と、やさしいブーケでおくるみしてくれるような、安堵感をもたらしてくれる香りです。

マートルは、土元素の比重が多い、この地表環境において、泥臭い生存競争には深入りしない印象があります。 足場を一段高くしたところに、ふわりと佇んで、凛とした輝きを放ちます。

肺や気管支の不調が慢性化し、強い精油の香りが「痛み」と感じるとき、マートルの柔らかな芳香は、そっと傷ついた粘膜と魂に触れ、天界の澄んだ空気を吹き込んでくれる良き相棒となってくれます。

銀梅花の実はオリーブに似て、ソーセージやお肉料理の風味づけに使われます。生食もできますが苦味があるので、完熟してから乾燥したものをスパイスとして使うことが多いです。
ヨーロッパでは果実や葉を用いたミルト(Mirto)というリキュールが有名です。

フトモモ科ハーブにはほかにも、マートルにレモンの香りを足したようなレモンマートルがあります。ブッシュタッカーのひとつで伝統的にアボリジニの人々が薬用に、食用に使用してきました。
最近では西オーストラリア産のハニーマートル(メラレウカ属)も出まわるようになり、はちみつのような甘い香りが加味されたフトモモ科ハーブとして人気が高まっているようです。

《ちょっと寄り道コラム》

銀梅花/マートルに似ているユーカリ、ティトリーと、
レモンマートルの香りリファレンスともいえるレモンやレモングラスなどは、どの植物も地上で生き抜くための抗菌、殺菌力をもち、香りも「きっぱり」主張してきます。

大地に根づき、郷に従いつつ、生き抜く手段を開花させてきた「たたき上げ」感、下積み力のようなものを感じさせ、体調を崩しているときなんかは、香りのなかに頼もしさも見え隠れして、芳香させると一瞬にして安堵感に包まれます。

地上で生き抜くコツなら任せてよ!といわんばかりの即レス対応で、からだや環境の不具合にコミットしてくれるような感じです。

ヨーロッパではマートルは伝統的に香水に使用され、愛の水薬と呼ばれる催淫剤に使われてきました。つまったところをクリアにする効果があるとして呼吸器や尿路のさまざまな症状によいと伝えられています

葉を乾燥させたものはハーブティとしてはもちろん、きめ細かい粉状にしてパウダーにしても心地好いです。

肺や気管支の不調が慢性化したときや、花粉症対策に「まいにちユーカリやティトリーの香りだときつすぎるなぁ」と感じる方には、銀梅花/マートルの精油が、よい相棒になるのではないかな、と。

*精油の長期使用や、いちどに大量に使用することは粘膜や皮膚を刺激することがあるので上手におつきあいください。

なぜ『結婚を拒んだ巫女』が、祝いの木になったのか?


マートルは、古くから女神たちに捧げられる聖なる花でした。
古代シュメールのイナンナ、ギリシャのアフロディテ、ローマのヴィーナス。豊穣と愛を司る美しき神々の傍らには、常にこの花の香りが漂っていました。古代ローマでは毎春開催されるウェネラリア祭で女神像をきれいに洗い、銀梅花の花を飾り、女たちも銀梅花の花冠をかぶって入浴するという一連の儀式がありました。

ある有名な神話があります。
女神ヴィーナスに仕えていた、美しい巫女の物語です。
彼女には熱狂的な求婚者がいましたが、彼女はその求婚を拒み、自らの純潔を守るためにヴィーナスの魔法によって「一本のハーブ」へと姿を変えました。それがマートルです。

ここで、ひとつの奇妙なパラドックスが生まれます。
「地上の結婚」から逃れるために植物になった巫女が、なぜ後世、地上の「結婚式」に欠かせない「祝いの木」となったのでしょうか?

自らは花嫁にならない道を選んだ彼女が、他者の花嫁姿を祝福する。
このねじれを紐解く鍵は、わたしたちがエデンの園に置き忘れてきた、もうひとりの花嫁の記憶にありました。

イヴの祈りと、リリスの沈黙

アダムには、二人の妻がいたという説があります。
聖書の創世記を読みとくと、肋骨からつくられた従順な「イヴ」の前に、アダムと同じ土から、対等な存在として造られた最初の女性が存在します。

それが、現代では夜の女王や魔女の元祖とされる「リリス」です。

「私たちは同じ土から生まれたのだから、平等であるはずだ」 そう主張したリリスは、アダムとの支配・被支配の葛藤の末、エデンの園を去り、紅海へと姿を消しました。
分離のプロセスにおいて、両性具有的な神聖さを手放すことを拒んだ彼女は、正史から消され、影の領域へと追いやられました。

神々はリリスが去ったあと、アダムのなかに残っていた「女性性(肋骨)」を切り出し、より調和しやすい二番目の妻、イヴを創り出しました。

人類の女性原理の「分断」のはじまりです。

天上の野生を保持したまま闇に消えた「リリス」と、地上の平穏を支えるために形を与えられた「イヴ」。

マートルという植物は、この引き裂かれたふたりの花嫁を、再び結びつけるために地上へ降ろされた「媒酌人」なのかもしれません。

リリスの系譜


リリスの系譜はイナンナ/イシュタルから
アスタルト/アスタロト
⇒ヴィーナス/アフロディテ
⇒聖母マリアへと(いろんな思惑、プロパガンダの波に揉まれつつも)なんとか現代に伝承されています。

聖書の創世記に「神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。男と女にかたどって創造された」という一節が、「アダムの肋骨からイヴをつくった説」のまえに登場します。

陰陽分割、人のかたちを男女というひな形に落とし込むプロセスもいろいろと試行錯誤があったんですね。

上位(両性)存在である神々の創造分化によって生み出された男性原理のアダムと、女性原理のリリス。

きっとはじめての分離では、うまいこと陰陽配分できなくて、両性的なプレゼンスは男女ともに保たれていたのではないかと。
それを失うことを拒んだのが女性性が比較的多めのリリスだったのかな、と想像しています。

とはいえ男女分割の初めてチャレンジ(人に生殖能力を与えるという試み)以降も、神々の創造降下は続いてゆき、もっと従順な女性原理をつくりだそうと、トライ&エラーをつづけてきたのではないかと。

銀梅花/マートルの誕生秘話は、リリスと同じ系譜にあると思われる女神ヴィーナスの変化魔法によるものです。
地上の花嫁となるべく生み出された2番目の妻イヴをサポートするために、ヴィーナスの分身でもある巫女がハーブとして地上降下し、天界とのきざはしが断たれないよう、みまもってきたのかもしれません。


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自らは地上の結婚を拒み、一本のハーブへと姿を変えた巫女。
「拒絶」の結晶であるはずのマートルが、なぜ数千年の時を超え、地上のあらゆる花嫁の門出を祝う「最高の祝福」として愛され続けているのでしょうか。

その矛盾を紐解く鍵は、わたしたちがエデンの園の入り口に置き忘れてきた、「もう一人の花嫁」の記憶にありました。

ここから先は、正史から消された最初の妻・リリスと、現代を生きるわたしたちの規範であるイヴの、引き裂かれた二人の女性原理が、マートルの香りをとおして再びひとつに結ばれる、魂の「聖なる結婚(ヒエロス・ガモス)」のものがたりです。

あなたの胸にある「詰まり」をほどき、天地を往来する自由な呼吸を取りもどす旅へ、ご一緒できるとうれしいです。

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