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「10億宣言」を聞いて考えたこと

成長企業を増やすだけで、地域は本当に豊かになるのか

なんかご無沙汰してしまいました。
小さい会社の経営者は何かと忙しいものです。

先日、当社の担当の方にお越しいただき、「10億宣言とは?中小企業庁の最新成長支援策と補助金戦略」というテーマで説明を受けました。


「10億宣言」という言葉を聞いたとき、私はまず、以前からある「100億宣言」を思い出しました。

国として、中小企業を成長軌道に乗せたいという趣旨はよくわかります。
人口減少が進み、人手不足が当たり前になっていく中で、中小企業が稼ぐ力を高め、賃上げできる会社になっていくことは、とても大切です。

特に地方では、企業が弱くなれば雇用も弱くなります。
雇用が弱くなれば、若い人は地域に残りにくくなります。
そう考えると、成長意欲のある中小企業を後押しする政策そのものは、必要なものだと思います。

ただ、その一方で、私は説明を聞きながら、いくつかの違和感も覚えました。

それは、単に売上10億円を目指す会社を増やすことが、地域経済全体の幸せにつながるとは限らないのではないか、ということです。


成長企業は、地域の「循環の核」になるのか

説明の中では、成長を地域経済の奥深くまで浸透させる、という趣旨の話がありました。

言いたいことは理解できます。
地域の中に成長企業が増えれば、雇用が生まれ、取引が増え、地域経済にも良い影響が広がる。
そのような考え方だと思います。

しかし、私は少し引っかかりました。

「浸透」という言葉は、良い意味で使われているのだと思います。
けれど、聞き方によっては、地域の中に成長企業が入り込み、小さな地場企業を飲み込んでいくような印象にもなりかねません。

もちろん、すべての成長企業がそうなるという意味ではありません。
むしろ、地域に根差し、取引先や従業員、地域社会とともに成長していく会社もあるでしょう。

ただ、制度として考えるなら、ここはとても大事です。

10億企業が、地域の小さな会社を支える存在になるのか。
それとも、地域市場を奪う存在になるのか。

ここを曖昧にしたまま「成長」を支援すると、地域の小規模事業者がますます苦しくなる可能性もあります。

本来、目指すべきは、単に大きな会社をつくることではないはずです。

地域の雇用を守り、賃金を上げ、取引先にも良い影響を与え、地域の産業や文化を次の世代へつなぐ。
そういう意味での「地域を幸せにする成長企業」を育てることが大切なのではないかと思います。

中小企業の強みは、計画通りに進めることだけではない

もう一つ、補助金制度そのものについても考えました。

中小企業、とくに小規模な会社の強みは何でしょうか。

私は、意思決定の速さだと思います。
そして、試してみて、違うと思えばすぐに変えられること。
現場で気づき、すばやく軌道修正できること。

これは、大企業にはなかなかできない中小企業の大きな力です。

ところが、補助金制度は、どうしても申請時の計画に縛られがちです。
採択され、交付決定を受けた後は、申請時に書いた計画や経費の内容に沿って進めることが求められます。

もちろん、不正を防ぐためには一定のルールが必要です。
補助金である以上、何に使ったのか、目的に合っているのかを確認することは当然です。

しかし、現実の経営は、計画通りに進むとは限りません。

やってみたら、想定していた顧客が違った。
販売方法を変えた方がよいとわかった。
採用したい人材が見つからなかった。
競合が似たような商品やサービスを始めた。
思ったよりも利益が出ない構造だと気づいた。

こうしたことは、経営では普通に起こります。

むしろ、早く気づいて、早く変えられる会社の方が健全です。
それなのに、補助金の計画に縛られて、だめだとわかっていることを続けてしまうとしたら、それは本末転倒です。

計画を守った会社より、成果を出した会社を評価できないか

私は、補助金制度はもう少し変わってもよいのではないかと思っています。

もちろん、最初に計画は必要です。
何を目指すのか、どのような仮説で取り組むのか、どのような経営資源が必要なのか。
それを考えることは大切です。

しかし、採択後もその計画に強く縛り続けるのではなく、実際に取り組む中で、計画を変えることを前提にした制度にできないでしょうか。

たとえば、最初に計画を登録する。
その後、四半期ごと、あるいは半年ごとに、何を試し、何がわかり、なぜ変更したのかを報告する。
計画変更が必要な場合は、伴走する専門家や金融機関などが、その合理性を確認する。

そうすれば、単なる思いつきの変更ではなく、現場の学びに基づく軌道修正として記録できます。

さらに、その情報が集まれば、国にとっても有益な政策データになるはずです。

どの業種で人材確保が難しいのか。
どの分野で価格転嫁が進まないのか。
設備投資よりも販路開拓でつまずいているのか。
地域に専門人材が不足しているのか。
事業承継や右腕人材の不足が成長の壁になっているのか。

今のように、補助事業が終わってから経過を見るだけでは、対策が遅くなりがちです。
途中で何が起きているのかを把握できれば、政策そのものももっと現実に近づくのではないかと思います。

初期支援は必要。ただし、大きな設備より「人」と「実装」ではないか

一方で、補助金をすべて後払いにすればよい、とも思っていません。

小さな会社には、最初に動くための資金が必要です。
自己資金に余裕がある会社ばかりではありません。
成果が出た後に支援される仕組みだけでは、そもそも挑戦できない会社が出てしまいます。

では、初期支援として何がよいのか。

私は、まず「人」だと思います。

たとえば、成長に向けた取り組みに従事する従業員の人件費の一部を助成する。
30%程度であれば、会社側も本気で負担しながら、挑戦に必要な人の時間を確保しやすくなります。

小さな会社では、新しい取り組みをしたくても、既存業務で手一杯です。
新規事業、販路開拓、採用、業務改善、DX、顧客対応の仕組み化。
どれも大事だとわかっていても、担当できる人がいない。

だからこそ、従業員の一部時間を成長プロジェクトに振り向けるための支援は、現実的だと思います。

また、地域には専門的な実務人材が少ないこともあります。
その場合、外部から専門人材を短時間で雇用したり、短時間正社員のような形で受け入れたりすることも認めてよいのではないでしょうか。

フルタイムで雇うほどではない。
けれど、週1日、週2日、あるいは月数回でも、専門的な人材が実務に入ることで、会社が大きく変わることがあります。

さらに、単なるアドバイスではなく、実務を一緒に動かしながら会社を変えていく支援も重要です。

私はこれを「実務実装型の伴走支援」と考えています。

伴走支援は、助言だけでなく実務に入り込むべき

今の伴走支援は、どうしても助言や計画づくりに寄りがちな面があります。

もちろん、助言は必要です。
経営者が自分の考えを整理し、金融機関や専門家と一緒に方向性を確認することには意味があります。

しかし、小さな会社に本当に足りないのは、助言を受けた後に、実際に手を動かす力です。

顧客対応を整える。
問い合わせを受ける。
営業や採用の一次対応をする。
業務フローを作る。
マニュアル化する。
顧客情報を整理する。
現場の声を分析する。
改善策を一緒に回す。

こうした実務を通じて、会社の中に仕組みや知識が残っていく。
これこそが、小さな会社にとって本当に必要な支援ではないかと思います。

単なる外注ではなく、実務を担いながら、会社の中に能力を残していく。
このような支援を、補助対象としてきちんと位置づけてもよいのではないでしょうか。

市場検証費や教育費には慎重さも必要

一方で、市場検証費については、私は少し慎重です。

これまでの補助金では、販売する前の準備費が中心になりやすく、チラシ、ホームページ、広告、展示会、試作品などに多くの費用が使われてきました。
もちろん、それらが必要な場合もあります。

しかし、実際には水増しや形式的な支出が起きやすい分野でもあります。

だから、もし市場検証費を認めるのであれば、単に「作った」「出した」ではなく、顧客の反応を確認することを条件にすべきだと思います。

問い合わせがあったのか。
商談につながったのか。
試験販売で売れたのか。
リピートの可能性があるのか。
顧客の声から何がわかったのか。

このように、制作物そのものではなく、顧客反応を検証する費用として扱うべきだと思います。

教育・リスキリング費についても同じです。

研修を受けること自体が目的になってしまうと、現場は変わりません。
特に小さな会社では、そもそも研修に出る時間を確保することも難しい。
また、教える側に現場経験が乏しい場合、学んだことが実務に結びつかないこともあります。

それならば、実務を一緒に進めながら学ぶ形の方が現実的です。
働きながら変わる。
実務を回しながら身につける。
外部の力を借りながら、社内に能力を残す。

この方が、小さな会社には合っていると思います。

評価指標は、シンプルでよい

制度を理想的に作ろうとすると、指標がどんどん増えていきます。

売上、付加価値、賃金、雇用、地域取引、キャッシュフロー、地域貢献、事業承継、女性活躍、若者雇用。
どれも大事です。

しかし、あまりに複雑にすると、小さな会社が使えない制度になります。

だから、私はまず、シンプルでよいと思っています。

見るべき基本指標は、売上、粗利、経常利益、人件費総額、賃金上昇率。
このあたりでよいのではないでしょうか。

売上だけでは危険です。
売上が増えても、粗利が減っていれば、無理な安売りかもしれません。
経常利益が残っていなければ、持続可能な成長とは言えません。
人件費総額が増えていなければ、人への還元が弱いかもしれません。
賃金上昇率が低ければ、一人ひとりの生活はよくなっていないかもしれません。

つまり、単に大きくなったかではなく、
「粗利を増やし、利益を残し、人に還元し、賃金を上げたか」
を見ることが大切だと思います。

そのうえで、地域内取引や地元雇用、地域資源の活用などは、加点項目として評価してもよいでしょう。

成長企業をつくるのではなく、地域を幸せにする成長企業を育てる

今回の説明を受けて、改めて感じたことがあります。

国の成長支援そのものは必要です。
中小企業が稼ぐ力を高め、賃金を上げ、地域経済を支える力を持つことは、とても重要です。

ただし、売上規模だけを追いかける制度になってはいけないと思います。

10億円を目指す会社が、地域の雇用を増やすのか。
従業員の賃金を上げるのか。
取引先にも良い循環を生むのか。
地域の小さな会社を支えるのか。
地域の文化や産業を次世代につなぐのか。

そこまで見て、初めて本当の意味での成長支援になるのではないでしょうか。

計画通りに進めることだけを評価するのではなく、試して、学び、変えて、成果を出す会社を評価する。
設備や広告だけでなく、人と実務に投資する。
助言だけでなく、実装まで支える。
そして、売上だけでなく、粗利、利益、人件費、賃金を見ていく。

そうした制度であれば、補助金は単なる資金支援ではなく、中小企業が賢く変わり続けるための仕組みになると思います。

私は、地方の小さな会社には、まだまだ可能性があると思っています。
ただ、その可能性は、計画書の中だけでは育ちません。
現場で試し、失敗し、変え、また挑戦する中で育っていきます。

だからこそ、これからの成長支援は、
「計画を守らせる制度」から、
「変わりながら成長する会社を支える制度」へ。

そして、
「成長企業を増やす政策」から、
「地域を幸せにする成長企業を育てる政策」へ。

そう変わっていくことを、私は強く期待しています。

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