【実録】会議で黙る部下に「もっと自信を」は逆効果。上司が知るべき「緊張」と「萎縮」の違い
大企業でマネージャーを務めていると、「なぜか会議で意見が出ない」「メンバーの表情が硬く、チームの動きが重い」と感じる瞬間があります。
例えば、こんなシーンに心当たりはありませんか?
1on1では施策のアイデアや課題感を生き生きと語ってくれる部下が、他部署を交えた重要会議や上位レイヤーへの報告の場になると、別人のようにガチガチになり、言葉に詰まってしまう。
当時の私は、良かれと思ってこう声をかけていました。
「1on1の時みたいに、もっと自信を持って堂々と話せばいいのに。緊張しなくて大丈夫だよ」と。
しかし先日、チームの課題と向き合う中で、私はこの日常の違和感の正体に気がつきました。それは、リーダー側にある「緊張」と「萎縮」の履き違えです。
『言葉の定義』シリーズ第2回となる今回のテーマは、マネジメントが知るべき「萎縮と緊張のメカニズム、そして『緊張の糸が切れる』構造」についてです。
1. 「似て非なるもの」がチームを凍りつかせる
「仕事には適度な緊張感が必要だ」という言葉を盾に、現場で無意識に生み出されているのが「萎縮」です。プロフェッショナルとして、以下の2つは明確に区別しなければなりません。
❌ 萎縮 = 防衛のための「機能不全(フリーズ)」
「怒られないようにしよう」「ミスを隠してやり過ごそう」と、意識の矢印が自分自身(保身・恐怖)に向いている状態。思考が止まり、挑戦を避けるようになります。
⭕️ 緊張 = 成果を最大化する「集中のエネルギー」
「このゴールをやり遂げたい」「顧客のために最高のアウトプットを出したい」と、意識の矢印が課題・ゴールに向いている状態。集中力が高まり、エネルギーが前に出ます。
結論から言うと、「萎縮」は恐怖による自己防衛(停止)であり、「緊張」はミッションへの真剣さ(集中)です。
2. 実録:饒舌な部下と、上司の前で「思考停止」した私の失敗
なぜ私がこの違いを痛感したのか。それは、部下に無邪気な励ましを送っていた私自身が、上司の前で完全に「萎縮」する手痛い経験をしたからです。
1on1で見せる「本来の力」と、会議での「異様な沈黙」
私のチームにある優秀なメンバーがいました。
隔週で行う1on1では、彼はこちらが驚くほどよく喋り、鋭い着眼点を見せてくれました。「今のオペレーション、ここを自動化すれば工数を3割削れますよ」「次の施策、他社事例を調べたらこういう勝ち筋がありました」と、メモ帳を片手に目を輝かせてアイデアを語ってくれるのです。私との間には確かな信頼関係(心理的安全性)があり、彼は持っているポテンシャルを100%発揮していました。
ところが、他部署の重鎮が同席する定例会や、役員・部長陣への事業報告の場になると、彼の様子が一変します。
背筋は不自然に固まり、視線は手元の資料に落ちたまま。発言を求められても「あ、ええと……その件については確認中です」と、普段の切れ味が嘘のように言葉を濁してしまう。
ミーティング後、私は彼にこう声をかけました。
> 「1on1の時はあんなに良い視点を持ってるんだから、もっと堂々と話せばいいのに! 上の人たちだって別に取って食おうとしてるわけじゃないんだから、緊張しないで気楽にいこうよ」
>
「もっと自信を持てばいいのに」「場慣れが足りないのかな」と、完全に彼個人のメンタルの問題として片付け、無邪気なアドバイスを送っていたのです。
そして迎えた、上司との「息が詰まる30分」
そんなある日、今度は私自身が当時の上司と1対1で重要プロジェクトの進捗を報告する場がありました。
その上司は社内でも指折りの切れ者で、ロジックの甘さや数字のズレを絶対に許さないタイプ。少しでも曖昧な表現をしようものなら、「で、結局何が言いたいの?」「その前提の根拠は?」と、鋭い指摘が間髪入れずに飛んでくることで知られていました。
会議室のドアを閉め、上司の前に座った瞬間、私は自分でも引くほど身体が強張るのを感じました。
背中には嫌な汗が流れ、喉がカラカラに乾く。
資料をめくる指先が震えそうになるのを必死で抑えながら、私の頭の中を占領していたのは、事業をどう伸ばすかではなく「どうすれば突っ込まれずにこの場をやり過ごせるか」という保身だけでした。
「これを言ったら『なぜ?』と詰められるかもしれない」
「完璧な正解を返さなければ、無能の烙印を押される」
普段なら頭の中でスムーズに組み立てられるはずの論理が、霧がかかったように消えていく。上司からの純粋な問いかけすら、自分を責め立てる攻撃のように聞こえてしまう。
結局、私は用意していた資料を上辺だけ早口で読み上げ、本来伝えたかった現場の課題や提案を何一つ話せないまま、ただ「確認して善処します」とペコペコ頭を下げて部屋を出ました。
襲いかかってきた猛烈な自己嫌悪
終わった後に残ったのは、どっと押し寄せる激しい疲労感と、情けなさでした。
その時、頭をガツンと殴られたような衝撃とともに、あの部下の顔がフラッシュバックしたのです。
> 「……あの時、『堂々と話せよ』と無神経に言っていた私と、今の自分は完全に一緒じゃないか」
>
部下は他部署の前で「緊張」していたのではありませんでした。
「何か言ったら否定されるかもしれない」という恐怖の中で、完全に脳のメモリを防衛に奪われ、「萎縮」していただけだったのです。
足元が凍りついた崖っぷちに立たされている人間に対して、「もっと堂々と全力疾走しろよ」と言っていた自分の浅はかさに、猛烈な恥ずかしさを覚えました。
3. なぜ「萎縮」すると動けなくなり、「緊張の糸」は切れるのか?
この違いを構造で紐解くと、メカニズムは非常にシンプルです。
① 脳のメモリ(考える力)の使い道が違う
人間の頭が一度に考えられる量(メモリ)は100%と決まっています。
緊張(集中モード):
90%「どうやって成果を出すか」を考えている。意識が「仕事」に向いているため、本来の実力が発揮される。
萎縮(防衛モード):
100%「どうやって怒られないか」「どう身を守るか」を考えている。意識が「上司の顔色」に向かい、思考がフリーズして実力がゼロになる。
② 「緊張の糸が切れる」メカニズム(テニスのガットの比喩)
そもそも「緊張」は、英語で Tension(テンション=張り・張力) と言います。
テニスのラケットをイメージしてみてください。
適度な張り(健全な緊張):
ガットに適度な「しなり・たわみ(安心感)」があるため、ボール(失敗や厳しい指摘)が当たっても衝撃を吸収し、強く打ち返すことができます。
限界まで締め上げる(萎縮):
上司の厳しい詰問などでミスが一切許されない空気になると、ガットがカチカチになり、衝撃を逃がす「たわみ」がゼロになります。
糸がプツンと切れる(限界・機能停止):
張り詰めた状態にさらなる負荷が加わった瞬間、衝撃に耐えきれず、突然の思考停止、無気力(バーンアウト)、離職につながってしまいます。
上司が威圧感で部下を萎縮させるのは簡単です。何のスキルも要りません。
しかし、相手の脳のメモリを保身で埋め尽くし、糸を限界まで引っ張って壊している時点で、マネジメントとしては0点なのです。
4. 脱・萎縮。チームの力を解放する3つのアクション
では、どうすればチームから「萎縮」を排し、メンバーが持っている本来の力を引き出せるのか。私が実践しているアクションは以下の3つです。
1. 「減点されない足場(心理的安全性)」を担保する
「どんな意見を出しても、どんなミスを正直に報告しても、人間として否定・攻撃されることはない」という土台をつくること。衝撃を受け止める「たわみ(安心感)」があって初めて、人はリスクを取って強い打球を打ち返せます。
2. 意識の矢印を「上司」から「ミッション」へ向け直す
上司自身の機嫌や威圧感で糸を締め上げるのではなく、「顧客のために、この基準のアウトプットを目指そう」と、意識の矢印を「上司の顔色」から「仕事の成果」に向けさせます。
3. 詰問ではなく「思考を前に進める問い」に変える
「なぜできないの?(詰問)」と原因を責めて防衛モードにさせるのではなく、「何がボトルネックになってる?」「どうすれば前に進めそう?(支援)」と、相手の思考を前向きに回転させる問いを投げかけます。
おわりに
プロフェッショナルなチームが目指すべきは、「上司が怖くてピリピリする組織」ではありません。「目指す山が高くて心地よい緊張感を持っている組織」です。
もし今、会議で黙り込んでしまうメンバーがいたり、表情が硬い部下がいたら。
「もっと自信を持てよ」「緊張するな」と個人の内面を責める前に、ぜひ自分自身に問いかけてみてください。
「自分という存在やその場の空気が、相手の脳のメモリを『防衛(萎縮)』で奪っていないか?」
「糸を強く引っ張りすぎて、相手がプツンと切れる寸前になっていないか?」
無意識の「萎縮」を取り除き、全員が余計な恐怖を持たずに仕事そのものへ向き合える環境をつくることこそが、リーダーの最も重要な役割なのだと思います。
明日の現場から、部下の足元にある「安心感」を一緒に点検してみませんか。
あなたのチームの緊張は、いま「萎縮」に変わっていませんか。
── 連載【言葉の定義】──
マネジメントで無自覚に使われている言葉を、現場で使える解像度まで分解していく連載です。
前の回:vol.1 チームを殺す「遠慮」と、チームを救う「配慮」
次の回:vol.3(近日公開)
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