WIndy 大学生の夏:横浜、港の風に吹かれて
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地下駅で電車を降り、階段を上がって外出た瞬間、空気が変わった。
湿り気を含んだ風が、頬をなぞる。
東京とは違う。千葉とも違う。
「……ここが横浜か」

初めて訪れた街。
理由は分からないけれど、どこか心が和む感覚があった。
港の方へ歩くと、視界が開けてくる。
遠くまで続く空と、低く流れる雲。
洗練された街並みなのに、どこか懐かしい匂いが混じっている。
潮の香りに、ふと足が止まった。
どことなく博多とも似ている。
近代的な街並みでありながらも、柔らかい空気が漂っている。
「いいな……ここ」
小さく呟いてから、すぐに首を振る。
「まあ、住むのは無理だな」
人は多い。それは東京とあまり変わらない。
すれ違うだけの他人が、無数の物語を抱えて歩いている。
それを眺めているだけで、時間は過ぎていく。
港では、静かに風だけが吹いていた。

特に目的があって来たわけではなかった。
あてもなく歩き、帰路につく。
陽が落ち始めた。
「夜のこの街も見てみたいけど、
もう帰らないとな」
そのとき、街路樹が大きく揺れた。
葉擦れの音を聞いた瞬間、
なぜか、先日の東京の祭りが脳裏によみがえった。
屋台の向こうで見かけた、あのなつかしい横顔。
高校のクラスメイトに、あまりにも似ていて。
思わず声をかけてしまった。
人違いだったけれど。

東京だ。
似ている人なんて、いくらでもいる。
それでも
花火が上がった夜の空気や、火薬の匂いと一緒に、
高校時代の、あの頃の記憶が一気に戻ってきた。

(……楽しかったな)
ただの友達だった。
それだけの関係だったはずなのに。
歩きながら、無意識に足を進めていたらしい。
気づくと、見知らぬ駅の前に立っていた。
「……あれ?」
駅名を見て、眉を寄せる。
「ここ、降りた駅じゃないな……」

スマホを取り出して、地図を見る。
思った以上に歩いていた。
「どうやって帰るんだ、これ」
苦笑しながら空を見上げる。
疲れているはずなのに、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、少しだけ満たされている。
まあ、いいか。
風に任せて歩いていたら、
こんなことも起きる。
それも、夏だ。
