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60代のリアル|第2幕、第4話【実録・無謀な事務仕事】月末の超多忙期と不穏な紙折り機。現場を見ない上司の「正論」に挑んだ日


前回までのあらすじ

笑いとドタバタに満ちた在宅介護は、母の突然の緊急搬送によって終わりを告げました。

「延命治療はしない」という苦渋の決断、
バルンカテーテルという医療的ケアの壁、
迫る転院期限と年間36万円もの死活問題。

心身ともにボロボロになりながらも、私は自力で特養への申し込みを済ませます。
しかし病床の母からは「明日、一緒に帰る」と切実な願いを打ち明けられ、胸を締め付けられる日々。

家には帰れない現実と割り切れない想いを抱えたまま、私の日常は容赦なく次の局面へと動き出します。



月末の超多忙期と、不穏な紙折り機

6月29日(月)入金処理

パート事務員の私にとって、この日は最も気合が必要な「月末の超多忙期」の幕開けでした。

デスクのパソコン画面に向かった瞬間から、気持ちを完全に仕事モードへと切り替えます。

まずは銀行から送られてくる入金情報
──口座自動引落のデータ──を基幹システムに取り込む作業です。

顧客番号と紐づいたデータはすべて自動処理されるため、振込データのような突合の手間はありませんが、その分、ここからは時間との勝負になります。朝一番から集中して、流れるように処理を進めていきました。

無事に入金確認が終了すると、続いて発行された「支払証明書」の封入作業に移ります。

大量の書類を抱え、オフィスの片隅にある紙折り機へと向かいました。

「あとはこれを通すだけ」
と思いながら機械を動かしたのですが、出てきた紙がどうも変な風に積まれていきます。

(おかしいな……これ、放置したら絶対に紙詰まりになる)

目の前で不穏な動きを見せる古い機械を前に、私は嫌な予感を抱いていました。



動かない古い紙折り機と、現場を見ない上司の「正論」

すぐに紙折り機の担当者である男性社員に声をかけると、彼は直ちに見にきてくれました。しかし、機械の様子を確認した彼の口から出たのは、厳しい現実でした。

「右側のローラーが回っていないんです。でもこれ、相当古い機械だから、メーカー側からも『もう部品がない』って言われていて……」

実は以前、女性の課長に相談した際にも、
「保守契約が切れているから修理には費用がかかるし、そもそも部品がないから元通りにならない可能性がある。完全に壊れるまではそのまま使用するように」
と突っぱねられていたそうなのです。

とはいえ、このままでは仕事になりません。私は担当者の彼と一緒に、課長の席へと向かいました。

現場の状況を伝えたものの、課長はこちらの顔や機械を見ようともせず、座ったまま冷淡に言い放ちました。

「使えないわけではないんでしょ? 機械の傍に張り付いて、出てきた紙をその都度取り除けば、紙詰まりにはならないから」

現場を見ない上司からの、あまりにも無茶な「正論」でした。

思わず
「でも危ないですし、手作業で紙を折った方がいいと思うので、人を確保してほしいです」
と食い下がりましたが、それもあっさりと却下されてしまいました。

課長はただ自分の言いたいことだけを言い、私たちはそれ以上何も言えなくなってしまいました。

仕方なく、私はこの現状を男性の主任に相談することにしたのです。



「誰だよ、傍にいろって言ったのは?」主任の男気と300枚の奇跡

相談を受けた主任はすぐに動いてくれました。

二人で再度紙折り機を見にいき、課長に言われた通り、出てきた紙を傍で取り除く作業を始めます。

ところが、テスト折りを終えていざ本番というところで、紙折り機は完全に沈黙してしまいました。

そのとき主任が、ぽつりと言いました。

「誰だよ、傍で出てきた紙を取り除けって言ったのは?」
現場を見ない課長への、少し怒りの混じった一言に救われる思いがしました。

主任に
「貼り紙をしておくから席に戻っていて」
と言われ、
私が担当者の男性に完全停止を伝えると、彼は
「えっ……」
と言って、女性社員が管理している工具の場所を探し始めました。

席に戻ると、主任の素早い段取りで2名の社員が集まってくれていました。

私が折り方を伝え、300通の支払証明書の手折りと封入作業がスタートします。

その途中で主任が戻り、
「ダメだ、使えない」
と肩を落としましたが、

工具の場所を教えた女性社員が
「担当の彼がローラーのベルトのよじれを見つけて、分解して直したみたい!」
と走って教えてくれました。

ちょうど300通すべてを手で折り終えたタイミングでした。

試しにいらない紙を通してみると、問題なく綺麗に折れていきます。

「凄い!」
と担当の彼に言うと、
「もっと褒めて、褒められて伸びるタイプだから」
とニッコリ。
オフィスに小さな笑いが広がりました。

理不尽なトラブルからの、まさかの大逆転劇。月末の荒波の中、手折りの連帯感と担当者のチャーミングな一言に、張り詰めていた心がすっと軽くなるのを感じていました。



🌿次回予告

職場のドタバタ劇をなんとか乗り切った私に、次なる展開が訪れます。 それは、ずっと待ち望んでいたはずの、母の「退院日程」に関するお話です。

一歩前へ進むかのように見えた母の未来。しかし、介護の現実はそう簡単には微笑んでくれないのです……。

つづく


▼ 第5話はこちらです。



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