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60代のリアル|第2幕、第7話【実録・介護の崖っぷち】思いがけない上司の涙と一歩進めるために婦人科の紹介状手配


前回までのあらすじ

7月7日(火)に予定していた介護医療院への転院。しかし、その前日夕方に届いた「母が38度の発熱をしたため転院は見送り」という1通の連絡により、準備してきた計画は直前で白紙となりました。

振り返れば、7月4日(土)のお見舞いの時点で予兆は現れていたのです。

自分の娘であることは分かりながらも名前が出てこず乾いた声で笑った母の姿や、喉を鳴らしてリンゴジュースを一気飲みした強烈な渇き。

静かに進行していた身体の異変は、発熱という形で現実となりました。

転院が延期となり途方に暮れる間もなく、仕切り直しに向けた新たな手続きと、仕事との調整に追われる日々が再び始まります。


▼ 前回はこちらです。



急遽必要となった紹介状──止まる連絡と募る焦り

7月9日(木)

7月7日の転院が直前で白紙となり、仕切り直しとなった介護医療院への手続き。計画が崩れたもどかしさを抱えながらも、私は次の一手を打つために動き出していました。

その中で頭に浮かんでいたのが、婦人科の紹介状(診療情報提供書)の存在です。

実は少し前、あの連帯保証人の件で病院側と押し問答になっていた際、私の方から

「婦人科の紹介状も用意しておいたほうがいいでしょうか?」
と念のため確認を入れていました。

病院側の反応は
「まあ、あったに越したことはないですね」
という程度のもの。絶対に必須という条件ではありませんでした。

しかし、介護の現場では「後から言われる」ことほどタイムロスを生むものはありません。

土壇場になって
「やはり紹介状が必要です」
と言われ、また手続きがストップする事態だけは絶対に避けたかったのです。

二度手間を防ぐため、私は自分の判断で急遽、紹介状の取得に向けて動くことにしました。

7月9日、木曜日。さっそく婦人科へ電話をかけたものの、担当の医師は不在でした。その先生は水曜日が担当だったためです。

電話口で対応してくれたスタッフからは、
「明日、7月10日(金)の16時過ぎに再度電話してください」
と案内されました。

16時過ぎ──。

「その時間なら外来の診察も一段落して、先生の手が空きやすいのではないか」と自分の中で密かに推測しながら、私は翌日の夕方に改めて電話をかける約束をしてスマホを切りました。



朝のデスクで流れた涙──課長が差し伸べた想い

7月10日(金)

病院への手配を進める一方で、職場での日常も続いていました。

7月10日の朝、始業前の静かなオフィスのデスクで、私は入金取込の作業をしていました。

就業時間前に作業をしていることを注意されるかもしれない
──そう思いながら手を動かしていたところへ、課長がやってきました。

しかし、口から出たのは注意の言葉ではなく、意外な問いかけでした。
「お母様、様子はどうですか?」

本来、社員の家族や家庭の事情について上司が根掘り葉掘り聞くべきではないとされている時代です。

私自身、普段から職場では母のことや家庭の事情を多く語らないようにしていたため、課長はずっと気にかけて心配してくれていたようでした。

私は、率直に現状を話しました。

発熱のために7月7日の転院が白紙になってしまったこと。
母が食事をほとんど食べず水分も摂れていないこと。
そのために再び点滴主体の生活に戻ってしまい、ぐったりとして意識ももうろうとしている様子を伝えたのです。

すると、私の話を聞いていた課長が、突如ポロポロと涙を流し始めました。

驚く私に、課長はご自身のお母様の話を打ち明けてくれました。

実家におられるお母様の介護を、地元のお兄様に任せきりにしていること。

仕事でぶつかることもありつつも、人として根は温かい課長です。
弱っていく私の母の姿にご自身のお母様を重ね合わせ、感極まって抑えきれなくなったようでした。

ドライに割り切るビジネスの場でありながら、一人の人間として想いを寄せてくれたその涙に、私の心も静かに揺さぶられていました。



交錯する日常──止まらずに動き続ける時間

婦人科への電話で返ってきた「明日16時過ぎ」という時間。
そして朝のオフィスで、私の母の厳しい現状に思わず涙を流してくれた課長の姿。

介護と仕事。まったく異なる二つの領域でありながら、どちらも私の目の前で地続きに存在する現実です。

病院での手続きが進まないもどかしさに焦る時間もあれば、職場で人の温もりに触れて胸が熱くなる瞬間もあります。

どんなに不安や感情が揺れ動こうとも、オフィスでは次々と処理すべき業務が持ち込まれ、時計の針は止まることなく刻み込まれていきます。

「明日、16時過ぎに連絡をする」──。

自分の中で決めた次のアクションを見据え、私は気持ちを切り替えてデスクに向かい、キーボードを叩き始めました。

止まらない時間の中で、一つひとつ目の前のタスクをこなしながら、私は次の一手を待つことになります。



🌿次回予告

止まらない日常と介護の狭間で、時間が静かに過ぎていきます。

職場で生じた「他課との業務調整」をめぐり、 手隙の作業をひとつお願いするだけでも、 組織のルールや縦割りの壁が立ちはだかります。

介護だけでなく、仕事の現場でも感じる「噛み合わなさ」やもどかしさを綴ります。

つづく


▼ 次回はこちらです。



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