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『Beyond the Bottom』ふたつの繰り返すコード進行

コード進行を繰り返すのも、技術のうち。

今回は Wake Up, Girls!(以下、WUG)屈指の名曲である『Beyond the Bottom』(以下、BtB)について、楽曲中に用意された二つの「コード進行の繰り返し」を、和声的な観点から整理してみます。

前回のnoteでは、この楽曲に出会ったことが、私を作曲という沼に引き込んだ、という話を書きました。よろしければ、そちらも併せてご覧ください。


概要『Beyond the Bottom』

Beyond the Bottom
作詞:辛矢 凡
作曲:田中 秀和(MONACA)
編曲: 〃
歌唱:Wake Up, Girls!

https://monaca.jp/wiki/Beyond_the_Bottom/

この曲は、2015年12月に公開された 劇場版『Wake Up, Girls! Beyond the Bottom』の主題歌としてリリースされました。

WUGというアニメ作品について

作品『WUG』は、仙台を拠点に活動するアイドル7人たちの成長を描くアニメ作品です。映画『BtB』公開時点で既に、映画『七人のアイドル』、テレビシリーズ12話ぶんと、映画『青春の影』まで物語が進んであります。即ち、それらの集大成にあたる映画ということになります。あらすじは以下の通りです。

仙台の弱小プロダクションに所属する7人組アイドルグループの青春を描き、2013年1~3月にテレビシリーズが放送されたアイドルアニメ「Wake Up Girls!」の続編となる劇場版2部作の後編。東北代表として出場した「アイドルの祭典」での活躍でメジャーレーベルbvexとの契約も決まり、東京へと進出した「Wake Up Girls!」だったが、ブレイクの立役者だったプロデューサーの早坂相が退いてしまい、激動する東京の芸能界の中で7人は苦い挫折を味わう。それでもあきらめずに前を向く彼女たちに早坂は新曲を授け、7人は再び仙台から活動を再開。その地道な努力が着実に全国のファンへと届きはじめる。

https://eiga.com/movie/82015/

新曲 = 『少女交響曲』のこと。BtBではない。


①序盤の繰り返しは苦しみの反芻

東京っぽい写真がこれしかなかった

聴き始めてまず、イントロのボーカルチョップに圧倒される方も多いと思いでしょう。

このイントロからAメロ終盤にかけて、この曲は二つの和音の往復を続けます。進行としては概ね、
IVΔ7 ↔ Ⅵm7(サブドミナント → トニック代理)
の反復だと捉えられます。

ここが面白いのは、SD(サブドミナント)→トニック代理(ⅵ)という機能関係にあるので、まったく停止しているわけではないのですが、2つの和音が共通音を多く共有している点です。IVΔ7Ⅵm7は、構成音のうち 3音が共通になるので、聴感としては「進もうとしては戻る」「前に出たいのに同じ場所を踏む」ような漂っているような感覚が生まれます。

歌詞と照らし合わせるなら、ここは「過去(主に東京進出後)の苦しさを反芻し、切実に吐露しているゾーン」として機能しているように感じられます。そうした心理状態が、和声進行の性格にもよく表れていると言えるのではないでしょうか。

和声進行からは少し逸れますが、このあたりは編曲としても音数が引き算されており、結果的にボーカルへ耳を集中せざるを得ない設計になっています。歌の文字数はかなり詰められていて、息の混じり方から必死さが伝わってくるので、ここも大きな聴きどころです。


②サビの繰り返しは重ねた祈り達

WUGの練習場所である仙台・青年文化センター

Bメロを越えたサビでは、もう一度、別の「繰り返し」が用意されています。進行の骨格は、
【 I ↔ IVm6 on ⅰ(トニック上での借用SDの反復) 】
のように捉えるのが分かりやすいと思います。

記号で雑に書くなら「I の上で IVm(短調側のサブドミナントマイナー)が差し込まれる」動きで、これは聴感上、いわゆるアーメン終止的な身振りに近いニュアンスを生みます。

つまり、強い決着感で「終わる」ための終止というより、祈りの姿勢を保ったまま、同じ構えを何度も重ねるための反復として機能している、という印象です。そして歌詞もまさに祈りの形式を取ります。

もしも神がいるのなら 聞いて欲しい僕の想いを

Wake Up, Girls! 『Beyond the Bottom』 (作詞:辛矢 凡)

この一節が出てくる以上、サビで“祈りの身振り”たるアーメン終止の動きが繰り返されるのは、内容面とも非常に噛み合っています。秀和の作風を踏まえても、この一致は偶然というより「そう聴こえるように設計されている」と読む余地が十分あると思います。さすが、

余談ですが、秀和は IVm6 を非常に効果的に使うことが多い印象があります。たとえば『7 Girls War』でも、サビ後半の進行の中で似た質感が鮮烈に出ていた記憶があります。


繰り返しの意味が段々と変わる

特に、サビのアーメン終止は、2サビ・ラスサビと経るごとに意味合いを強めていく印象があるでしょう。

傷だらけになってでも 必ず僕は君を護る。

Wake Up, Girls! 『Beyond the Bottom』 (作詞:辛矢 凡)

この部分も同じ反復の枠組み「I ↔ IVm6 on ⅰ」に乗っているにもかかわらず、ここでは祈りというより、むしろ決意のニュアンスが前面に出てきます。反復が続くことで、言葉が「願い」から「誓い」へと変質し、確固たる想いが固まっていく…… その変化が、この曲のドラマを支えているように思います(ここは私の解釈ですが) 。


コードを繰り返すという選択

複雑なコード進行が嗜好されやすい時代ではありますが、循環・反復を意図して楽曲に取り入れること自体が、強いドラマを生む場合があります。BtBは、そのことをとても分かりやすく示している曲だと感じます。

もちろん、私自身は複雑な方が好みですが…… ただ、それとは別に、「繰り返す」ことでしか作れない説得力があるということをこの曲は教えてくれます。


結びに

勾当台公園・野外音楽堂、WUGの聖地

『Beyond the Bottom』の構造に魅せられて作った曲が世の中にはいくつか存在するので、そのうちふたつをご紹介します。

Kanimo Friends『Brilliant Tale Continues』

いわゆる「MONACAコンピ」のVol.3に収録されている曲です。WUGやBtBに寄り添って、リスペクトを込めて作られた曲ですので、こちらも是非聴いてみてください。こちら(↓)のnoteも含めてぜひ!

ましろ そにか『MiRaKLe MiLer』

私の拙作になりますが…… BtBをかなり意識して作った曲になります。もろボーカルチョップから入ってますし(笑)、しっかりアーメン終止させて頂いています。BtBだけではなくWUG作品のオマージュポイントがいくつか織り込んでありますので、一度は聴いてください。


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