俺たちが見た敗北の景色〜最初で最後の余興(後編)〜
前編はこちら。
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会場スタッフからコード付きの手持ちマイクを二本渡され、私たちは互いに顔を見合わせた。
何度数えても私たちは五人だった。
少しずつ、静かに、敗北は始まった。
信じられないことだが私たちは、この瞬間までマイクのことを何も考えていなかった。
一体どうするつもりだったのだろう。
200人規模の酔客相手に、地声で勝負をするつもりだったのだろうか。
完璧だと思っていた私たちの余興に、思いがけない綻びが生じ始めた。
しかし、おにくさんは諦めなかった。
「マイクが二本あるなら掛け合いはできる。
セリフは頭に入ってるんだから、次にセリフを言うやつに素早くマイクを渡せば良いんだ。」
言うは易しである。
本番が始まってすぐに、そんなことは不可能だと悟った。
最初の笑いどころである、おにくさんのオーバーリアクションは盛大にすべった。
ホームラン狙い。フルスイングの空振り。
我々の足元がぐにゃりと歪んだ。
その後も、マイクを渡すために生まれる余計なタイムラグのために、本来のネタの切れ味が出ない。
練習では自分たちでも笑いを堪えきれなくなるほどの爆発力を誇った自慢の掛け合いの不発が続く。
次第にガイアたちの顔から表情が失われていった。
それは負けを受け入れた男の顔だった。
練り上げ、磨き上げてきた自慢のネタが、たったひとつの想定外によって崩壊していく。
私の自信は見るも無惨に打ち砕かれ、膝はカクカクと揺れていた。
ほんの数分前、
私たちは「それでは、新郎のご友人による余興です。」というアナウンスに背中を押されて席を立った。
みんなの目は語っていた。
さぁ、盛大にぶち上げようぜ、と。
それが今はどうだ。
仲間の誰一人とも目が合わない。
彼らは思考を停止し、自らの心を守ることに必死になっているように見えた。
私は救いを求めておにくさんを見た。
ギトギトと脂ぎり、目はバッキバキ。
見たことのない表情のおにくさんが、隣でまだ抗っていた。
必要以上に声を張り、練習でも見せたことのない大袈裟なリアクションで。
しかし、他のメンバーの心は根本からポッキリと折れている。
その対比がより滑稽さを際立たせていた。
コントパートが終わった。
しかし、まだまだ地獄の一丁目。
この1か月で何度も聞いてきたイントロが流れ始める。
嵐 One Love
さぁ、傷口に塩タイムの始まりだ。
ふと気がつくと私たちは深い海の底に沈んでいた。
百年先も愛を誓うよ、と歌いながら、一瞬でもこの時間が早く終わりますように、と祈っていた。
余興実行委員会は解散した。
いや、壊滅した。
その後私たちの口からあの余興のことが語られたことは一度もない。
私たちの二度目の青春は終わった。
五人の心に、それぞれ違った形の染みを残して。
