『アベンジャーズ・ドゥームズデイ』向けのネタバレ⑬『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップ』

読者諸君、これよりお話しするのは、神々の領域たるレトロフューチャーな世界を舞台に、家族という絆を抱えたヒーローたちが星々の食人鬼と対峙し、やがて全宇宙の命運を壊乱させる破滅の序曲を鳴らし始める物語、映画『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップス』である。
【あらすじ】
1960年代を思わせるレトロフューチャーな別次元のアース。宇宙線を浴びて超能力を得た四人の英雄集団ファンタスティック・フォーは、世間の羨望を集めるレトロなポップスターとして平和を享受していた。ミスター・ファンタスティックことリード・リチャーズと、インビジブル・ウーマンことスー・ストームの間に新しい命が宿り、世界が祝福に包まれる中、空から銀色の使者シルバーサーファーが現れる。
世界の崩壊を告げるその使者の背後には、星々を喰らい尽くす太古の神ギャラクタスが潜んでいた。 unborn(胎児)の段階で神をも凌駕する宇宙的エネルギーを秘めた愛息フランクリンを狙われた時、リードとスー、そしてヒューマン・トーチことジョニー・ストームとシングことベン・グリムは、家族の愛と地球の存続をかけた絶望的な星間決戦へと身を投じていく。
1. 構造の解剖:太古の食人神と神格化されし胎児の黙示録

物語は、鮮やかな1960年代風のレトロフューチャリズムで彩られた異世界アースから幕を開ける。ペドロ・パスカル演じるリード・リチャーズと、ヴァネッサ・カービー演じるスー・ストームは、科学と外交の力で人類を平和に導いた完璧な偶像として君臨していた。しかし、宇宙の調和は神の如き巨人の降臨によって一瞬にして破綻する。
① 神への生贄と試される人間性

ジュリア・ガーナー演じるシルバーサーファー(シャラ・バル)が飛来し、地球がラルフ・アイネソン演じる惑星貪食神ギャラクタスの標的となったことを告げる。宇宙船でギャラクタスに直接立ち向かった四人だったが、圧倒的な絶対者を前に拘束される。そこでギャラクタスは、スーの胎内に宿る幼き命——フランクリン・リチャーズの持つ破格の宇宙的エネルギーを感知し、「その赤子を引き渡せば地球を喰らうのをやめる」という悪魔の取引を提示するのだ。

地球へ逃げ帰り、スーがフランクリンを出産すると、世界中にその取引の事実が露見する。「たった一人の赤子を生贄に捧げれば世界が救われる」という世論の激しいバッシングと暴動が巻き起こる中、四人は功利主義的な悪魔の誘惑を拒絶。人類の命と我が子の命の双方を救うため、地球規模の物質転送ゲートを築き、ギャラクタスを別の宇宙空間へ追放する壮大な計画を実行に移す。
② 赤き力の奇蹟と『ドゥームズデイ』へ誘う運命の歪み

追い詰められたギャラクタスは、バクスター・ビルディングへと直接侵攻し、生まれたばかりのフランクリンをあわや強奪しかける事態が発生する。この危機に駆けつけたスーは、愛する我が子を守るため渾身のフォースフィールドを展開。さらに土壇場で寝返ったシャラ・バルとジョセフ・クイン演じるジョニー・ストームが連携して脱出を防ぐ中、スーは己の全生命力を振り絞って巨大な神を転送装置のポータルへ押し込み、異次元の彼方へと追放することに成功する。しかし、能力を限界まで使い切ったスーは意識を失い、一時的な死に至ってしまう。

絶望に打ちひしがれたリードが、生まれたばかりの赤子フランクリンを亡き妻の胸に抱かせた瞬間、驚愕の奇蹟が起きる。不完全な神をも超える概念的な力を持つフランクリンは、自らの手で死者であった母スーを完全蘇生させてみせたのだ。
この「神の如き現実に干渉し、死すら超越するフランクリンの超常的な力」こそが、世界の均衡を狂わせる決定的な引き金となる。不完全な転送装置によってギャラクタスがどの次元へ吹き飛ばされたのか不明なまま幕を閉じる本作だが、この次元の穴と超常の子供の誕生という事象こそが、マルチバース全体に亀裂を入れ、全宇宙を統一しようとする絶対的君主ドクター・ドゥームの目にとまる完璧な崩壊の土壌を作り出してしまうのだ。
③ ポストクレジットシーン:影の君主ドクター・ドゥームの降臨と破滅のカウントダウン
劇中の激闘から四年後を描いた重要なミッドクレジットシーンにおいて、ついにマルチバースの核となる最悪の脅威が姿を現す。

バクスター・ビルディングの平穏な居間で、すくすくと育った幼いフランクリンに絵本を読み聞かせるスー。彼女がほんのわずか部屋を離れた隙に、暗闇の中から素顔でありながらまだその表情を完全には観客に見せない謎の男が静かに姿を現す。ロバート・ダウニー・Jr演じるヴィクター・フォン・ドゥーム(ドクター・ドゥーム)が、幼きフランクリンの手を取って不敵に微笑むこの一瞬こそが、映画『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』への直接的な宣戦布告である。
ドゥームが狙うのは、現実そのものを書き換えるフランクリンの絶大な神の能力に他ならない。この侵入と接触によって、ファンタスティック・フォーは我が子を取り戻し、あるいは彼らの世界を壊滅させられたことで、別次元(MCUのメイン世界)へと時空を超えて跳躍せざるを得なくなるのだ。

なお、エンドロールの最後を飾るポストクレジットシーンでは一転して、1960年代のクラシックなレトロアニメ風のファンタスティック・フォーが描かれ、ポップカルチャーの象徴としての彼らの歴史を称えるコミカルで心温まるオマージュで映画は幕を閉じる。
神の腹を満たすは星々にあらず、現実を歪める無垢なる赤子の奇蹟なり。
2. 異彩を放つ空間美と技術の対比
1960年代レトロフューチャリズムの完全構築: 実物大のバクスター・ビルディングと、丸みを帯びたアナログSF調の宇宙船セットを実際に建設。CGに依存しすぎない重厚なプロップと暖色系のライティングが、旧き良き「未来像」の哀愁とディストピア性を画面に同居させている。
ギャラクタスの圧倒的スケール表現: 巨神ギャラクタスの巨大感を表現するため、カメラの視野角と被写界深度を精密に計算。雲を突き抜ける巨大な顔面と、地球の地平線を覆い尽くす影の描写が、観客に神話的な絶望感を与える手法として機能している。
3. 総評

ノスタルジックなレトロフューチャーの美学の中に、家族の葛藤と神話的な絶望を巧みに融合させた本作は、単なるチーム結成の物語を超えた異彩を放っている。
本作で描かれたフランクリン・リチャーズという超常的存在の誕生と、ミッドクレジットでのドクター・ドゥームの降臨は、映画『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』におけるマルチバースの壊滅劇へとダイレクトに接続していく。我が子を奪われ、あるいは世界を追われたファンタスティック・フォーが次元の壁を破ってメインアースへ逃れる展開は、他作品の『サンダーボルツ*』のラストで描かれる「空から飛来する異世界の宇宙船」の描写とも重なり、地球上のヒーローたちを巻き込んだ未曾有のクロスオーバーへと直結する。
さらには、不完全な転送装置によって解き放たれたギャラクタスという脅威の拡散や、今後描かれるであろう『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ』における膨大な世界の統合(バトルワールド)の布石となっており、本作こそがMCUフェーズ5からフェーズ6にかけての多次元崩壊の決定的な起点なのである。
