『アベンジャーズ・ドゥームズデイ』向けのネタバレ⑪『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』

読者諸君、これよりお話しするのは、偉大なる象徴の影を背負いし一人の男が、陰謀と肉体の変容が渦巻く国家の闇に挑み、血塗られた新世界の扉を開く葛藤の記録、映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』である。
【あらすじ】

スティーブ・ロジャースから盾を継承し、二代目キャプテン・アメリカとなったサム・ウィルソン。超人血清を持たぬ「ただの人間」として象徴を背負う彼に、アメリカ合衆国大統領となったサディアス・ロスからアベンジャーズの再建が打診される。
しかし、かつて「ブルース・バナー(ハルク)」の血液を浴びて超能力を得た元軍人科学者サミュエル・スターンズ(リーダー)の影の暗躍により、ホワイトハウス内部で暗殺未遂事件が発生。かつてのヒーロー・イザヤの洗脳暴走、日米間を揺るがす軍事衝突の危機、そして超人血清の闇が生み出した怪異によって、サムは国家の根幹を揺るがす巨大な陰謀と、世界を統治しようとする新たな「赤き力」の脅威へと巻き込まれていく。
1. 構造の解剖:血清なき聖者と赤き怒りの終末論

物語は、かつてファルコンとして空中を舞っていたアンソニー・マッキー演じるサム・ウィルソンが、先代キャプテン・アメリカであるスティーブ・ロジャースの遺志を継ぎ、星条旗の盾を掲げてからの葛藤と戦いから始まる。彼は超人血清を打っておらず、驚異的な脚力も無敵の肉体も持たない。その「生身の人間」としての脆弱性と倫理観こそが、本作における最大の宗教的・倫理的な問いかけとなる。
① 暗殺未遂と日米間を激震させる「陰の超人」の謀略

ハリソン・フォード演じるサディアス・“サンダーボルト”・ロスが大統領に就任し、サムに対してかつてS.H.I.E.L.D.を上位から管理・監督していた世界安全保障委員会のような国家主導の枠組みに縛られない新たな「アベンジャーズの再編成」を打診した直後、ホワイトハウスの式典で突如としてテロ事件が発生する。発砲したのは、かつて冷戦時代に超人血清の実験台にされ、国から存在を抹消されていたカール・ランブリー演じる元黒人超人兵士イザヤ・ブラッドレイであった。
イザヤは何者かによってマインドコントロール(洗脳波)を受けており、意識がないまま大統領殺害を試みていた。サムはイザヤの無実を信じ、彼を洗脳した黒幕を追う中で、イスラエル諜報局官のシラ・ハース演じるルース・バット・セラフとともに調査を開始。その過程で、かつて映画『インクレディブル・ハルク』でブルース・バナーの血液を浴び、頭脳が肥大化したサミュエル・スターンズ(リーダー)が暗躍している事実へ突き当たる。

スターンズの謀略は二重に張り巡らされていた。イザヤの洗脳暴走と並行し、アメリカ政府支援の傭兵集団を用いて日本が確保した初のアダマンチウム備蓄を強奪しようと画策。日本の首相がこの裏工作を把握したことで、日米間は一気に武力衝突寸前の緊迫状態へと追い込まれる。スターンズの最終目的は、かつて古代の「神々の肉体」として海中に沈んだ巨大な遺物——映画『エターナルズ』の結末で太平洋に出現した古代の巨大神「ティアーマット」の死骸(セレスティアル・アイランド)から産出されるアダマンチウムの権益を世界各国に奪い合わせ、国際秩序を破滅へ導くことだったのだ。
② レッドハルクの覚醒と『ドゥームズデイ』へ繋がる構造的伏線

スターンズの企みは単なる世界政情の攪乱にとどまらない。ロス大統領は重い心臓病を患っており、極秘裏にスターンズから供給される治療薬を服用していたが、それは心臓病薬に見せかけてガンマ放射線を過剰投与する恐ろしい罠であった。サムが事件の真相を暴き、大統領自身の隠蔽工作やスターンズとの極密のつながりを追及・告発したことで、ロス大統領は政治的にも自制心という意味でも完全に追い詰められていく。
スターンズの精神的煽りと体内のガンマ線、激怒による過剰なストレスが重なった結果、ロス大統領は感情を制御できなくなり、全身が赤く巨大化する超人「レッドハルク」へと変貌を遂げてしまう。

ホワイトハウスの前庭で繰り広げられるサムとレッドハルクの死闘は、単なる物理的暴力では決着しない。極限状態の中、サムは激昂するロスに対し、かつて彼が愛娘ベティとともに桜の木を見に行った思い出など、疎遠になってしまった娘との記憶を静かに語りかける。その泥臭く温かな「人間の感情」への訴えかけこそがロスの理性を呼び覚まし、暴走を喰い止める決め手となるのだ。

この「ティアーマットの死骸から採掘されるアダマンチウム」を巡る日米および世界各国の争奪戦こそが、映画『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』への強烈な架け橋(伏線)となっている。アダマンチウムは「X-MEN」作品群における象徴的な金属であり、ウルヴァリンの体内の骨格に結合されている超高強度物質として知られるが、これがMCUのメインアース(アース616)に正式に流通し始めたことを意味する。今後、世界各国がこの希少金属を奪い合い、国際秩序が崩壊することによって生じる世界の混乱(インカージョンや国境の崩壊)こそが、やがて絶対的統治者であるドクター・ドゥーム降臨の「完璧な土壌」を作り出すのだ。
③ ポストクレジットシーン:新たなる脅威と『アベンジャーズ』への不可逆な因果
決戦後、正気を取り戻したロスは自らの罪と向き合うため大統領を辞任して収監され、サムは「超人血清ではなく、人間の倫理観を持つキャプテン・アメリカ」として民衆から真のヒーローと認められる。
そして物語の最後、エンドロール後に挿入される重要なポストクレジットシーンにおいて、更なる重要な伏線が描かれる。

収監されたスターンズの独房をサムが訪れた際、スターンズは不気味な笑みを浮かべながら「私を捕まえても無駄だ。世界はすでに壊れ始めている。これからやってくる者たち(ドゥームや多次元の脅威)に対し、お前たちの弱き『人間性』では到底太打ちできない」と警告する。さらに、サムが収監されたロスを訪ねる場面では、ロスが全力を注いだアダマンチウム協定が彼にちなんだ「ロス条約」として正式に批准・発効されたことが伝えられる。
一見すると平和的な解決に見えるこのロス条約によるアダマンチウムの国際管理体制こそが、かえって奪い合いの欲望を裏へ潜伏させ、やがて『サンダーボルツ*』で描かれる裏社会のヒーローたちの暗躍、そして『ドゥームズデイ』における次元の崩壊とドクター・ドゥームの侵攻を招き寄せる要因となっていくのである。
2. 総評

スティーブ・ロジャースという絶対的アイコンの影を振り払い、「生身の人間」として新たなキャプテン・アメリカのあり方を提示した本作は、単なる一ヒーローの成長劇にとどまらない。
本作で描かれた「ティアーマットの死骸から得られたアダマンチウム」という資源の争奪戦とロス条約の発効は、映画『サンダーボルツ*』で描かれる裏社会の暗躍へと直結し、やがて国家間の均衡が完全に破綻することで『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』におけるマルチバースの交錯とドクター・ドゥームによる世界再編へと崩壊の連鎖を引き起こしていく。
さらには、映画『ヤング・アベンジャーズ』結成への伏線や、ミュータント(X-MEN)の世界的な大台頭への引き金となっており、本作こそがMCUフェーズ5およびフェーズ6における「地球規模の政治・構造的崩壊」の起点となる決定的な金字塔なのである。
