『アベンジャーズ・ドゥームズデイ』向けのネタバレ⑫『サンダーボルツ*』

読者諸君、これよりお話しするのは、過ちを背負いし落ちこぼれたちが手にした思いもよらぬ「再生」と、やがてMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)全体を大激震へと巻き込む巨大な宿命の物語である。かつて英雄の影に隠れ、使い捨ての駒として扱われたアンチヒーローたちが集結する『サンダーボルツ*』。本作は単なるならず者たちの痛快なアクション劇にとどまらない。国家の暗部、贖罪を求める傷だらけの肉体、そしてタイトルの末尾に刻まれた「*(アスタリスク)」の意味が明かされる驚愕の結末を通じて、次なる大事件『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』へ直結する重大な特異点として、MCUの歴史に決定的な楔を打ち込む作品なのだ。
【登場人物と背景:使い捨てられたアンチヒーローたち】
本編を紐解く前に、まずは本作で一堂に会する主要メンバーの来歴と関わりを整理しておこう。

メインメンバーの初登場・関連作品
エレナ・ベロワ(2代目ブラック・ウィドウ)
登場作品:映画『ブラック・ウィドウ』、ドラマ『ホークアイ』
解説:ナターシャ・ロマノフの妹分。偽りの家族と洗脳に苦しめられた過去を持ち、今作の実質的な主人公ポジションとしてチームの中核を担う。バッキー・バーンズ(ウィンター・ソルジャー)
登場作品:映画『キャプテン・アメリカ』シリーズ、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』など多数
解説:かつて洗脳され暗殺者として利用された悲劇の兵士。チームの中で最も古くからMCUに存在する最古参であり、現在は下院議員として政界から不穏な動きを監視している。ジョン・ウォーカー(USエージェント)
登場作品:ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』
解説:政府に任命されて2代目キャプテン・アメリカになろうとしたものの、重圧と失態により挫折・解任された男。承認欲求と正義感の狭間で苦悩する。レッド・ガーディアン(アレクセイ・ショスタコフ)
登場作品:映画『ブラック・ウィドウ』
解説:キャプテン・アメリカに対抗して作られたロシアの元超人兵士で、エレナの疑似的な父親。過去の栄光に固執しながらも、愛娘への不器用な愛情を抱く。ゴースト(エイヴァ・スター)
登場作品:映画『アントマン&ワスプ』
解説:量子事故により体が分子レベルで不安定化し、物体をすり抜ける特殊能力を得た暗殺者。生存のために苦闘してきた孤高の存在。タスクマスター(アントニア・ドレイコフ)
登場作品:映画『ブラック・ウィドウ』
解説:父親によって人間兵器へと改造され、相手の動きを瞬時にコピーする戦闘能力を持たされた刺客。マインドコントロールから解放された後も自身の存在理由を探している。
チームを束ねる人物
ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ(ヴァル)
登場作品:ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』、映画『ブラック・ウィドウ』『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
解説:CIA長官であり、各作品の裏で不遇な超人たちをスカウトして回っていた黒幕。国家の利益と自らの野望のため、怪しげな極秘プロジェクトを推し進める。
【あらすじ】
CIA長官ヴァレンティーナの策謀により、秘密裏に抹殺されるはずだった「捨て駒」のアンチヒーローたちが、ある極秘施設で鉢合わせる。仕掛けられた罠を突破した彼らは、施設に拘束されていた謎の青年ボブと出会う。神のごとき力を秘めたボブ=セントリーを巡り、国境や組織の利害を超えて自らの存在価値を証明するため、傷だらけの者たちが歪なチームを結成する。
1. 構造の解剖:犠牲と贖罪、そして「アベンジャーズ」再編の罠
① 「聖なる犠牲者」としての存在証明と原罪

本作の核をなすのは、徹底した肉体の可逆性と贖罪のテーマである。登場する者たちは皆、過去に国家や権力によって意志を奪われ、暗殺者や兵士として消費されてきた「被害者」であり「加害者」だ。エレナ・ベロワを筆頭に、過ちを犯した者たちが「自らの意志で誰かを救う」という選択を行うプロセスこそが物語の主軸となっている。誰からも肯定されなかった無法者たちが、血と汗に塗れながら肩を寄せ合う姿は、神話における聖なる犠牲者たちの叙事詩を思わせる。
② 神のごとき力「セントリー」と精神の亀裂、そして「ボブ」としての着地

物語のキーマンであるボブを演じるルイス・プルマンの正体は、太陽100万個分の爆発に匹敵するパワーを持つ超人「セントリー」である。しかし、彼の絶大な力は裏を返せば、内に抱える闇の精神構造「ヴォイド」と表裏一体だ。ヴァレンティーナを演じるジュリア・ルイス=ドレイファスが国家の超人兵士兵器として利用しようとしたこの力は、あまりにも巨大すぎた。

暴走しかけたボブに対し、エレナたちは力でねじ伏せるのではなく、自らの傷や失敗をさらけ出すことで彼の孤独に寄り添う。エレナの共感と受容を受け入れたボブは、精神の平穏を取り戻し、ヴォイドの侵食を食い止めることに成功する。
クライマックスの結末として、ボブは圧倒的な破壊兵器「セントリー」としてではなく、ありのままの「ただのボブ」という一人の人間として生きる道を選択する。ヴァレンティーナの支配を完全に脱した彼は、チームの面々と共に歩むことを決め、新生チームの拠点となった旧アベンジャーズ・タワー(通称ウォッチタワー)で彼らと食卓を囲む穏やかな日常を手に入れるのだ。
③ 『*』の伏線回収:サンダーボルツから「ニュー・アベンジャーズ」への改名

劇中で最も衝撃的な仕掛けは、クライマックスにおけるチーム名のすり替えである。ヴァレンティーナの不正を暴き、彼女を失脚させたチームに対し、米国政府は事態の揉み消しと自国の威信維持のため、彼らを政府公認の「公式ヒーロー」として利用する道を選ぶ。
エンドクレジット中、タイトルロゴの「Thunderbolts*」からアスタリスクが弾け飛び、文字通り「The New Avengers」へと変化する演出が挿入される。捨て駒だったはずの裏稼業チームが、政府承認のもとで『ニュー・アベンジャーズ』として世に発表されるという痛烈な皮肉。彼らは『アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン』以来となる象徴的な拠点「ウォッチタワー」を活動基地として手に入れ、表舞台へと躍り出ることになるのだ。
3. 画面が物語る肉体のリアリティ
過剰なCGに頼らない泥臭い格闘術:
超能力による派手な光線飛び交うバトルではなく、エレナを演じるフローレンス・ピューやバッキーに扮するセバスチャン・スタンらが繰り広げる、泥泥としたボディアクションと泥臭いナイフワークが画面を支配する。痛みが直接伝わるリアリズムが、彼らの背負う過去の重みを際立たせる。閉塞感あふれる美術とライティング:
冷戦時代の残滓を感じさせる密閉施設や地下実験室の美術デザインは、キャラクターたちが内面に抱えるトラウマと孤独を視覚的に見事に増幅させている。
4. ポストクレジットシーンの衝撃:分裂するアベンジャーズと異次元からの飛来
映画の幕が下りた後、観客に示されるポストクレジットシーンは、MCUの未来を決定づける極めて重要な2つの軸を提示する。
【ポストクレジットシーンのネタバレ】

1つ目の軸は、サム・ウィルソン(キャプテン・アメリカ)陣営との法的な対立だ。かつてトニー・スタークたちが築いた「アベンジャーズ」の名称を政府とヴァレンティーナ側が勝手に「ニュー・アベンジャーズ」として商標登録・使用したことに対し、サム・ウィルソン率いる独自のアベンジャーズ側が商標権侵害で提訴したというニュースが流れる。公式の称号を巡るこのコミカルながらも深い溝は、正統な意志を継ぐ「サムのアベンジャーズ」と、政府の傀儡として発足した「ヴァルのニュー・アベンジャーズ」という2つのアベンジャーズの対立構造を決定づける。

2つ目の軸は、次元の境界線を越えてやってくる異物の存在だ。ウォッチタワーの監視システムおよび防衛レーダーが突如として緊急アラートを発動する。モニターに映し出されたのは、崩壊の危機に瀕した別次元(アース828)から次元の裂け目を突っ切り、地球へと接近する謎の大型宇宙船。その船体には、はっきりと「4」のエンブレムが刻まれていた――。
このポストクレジットシーンは、単なるファンサービスにとどまらず、以下のようにMCUの今後の展開と多角的に接続していく。
『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップ』との直接接続:
アース828でギャラクタスらの脅威に晒され、世界を逃れざるを得なくなったファンタスティック・フォーの面々が、本編世界(アース616)へと漂着する歴史的瞬間にニュー・アベンジャーズが立ち会うことになる。『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』での二重の分裂とドゥームの影:
「サム率いるアベンジャーズ」と「ヴァル配下のニュー・アベンジャーズ」という2つのアベンジャーズが互いに不信感を抱き、主導権争いと名義問題を抱えたまま冷戦状態に突入する。防衛陣営が足並みを揃えられないこの内紛状態こそが、のちに飛来するドクター・ドゥームにとって、地球を容易に攻略・支配するための絶好の隙となる。「ただのボブ」となったセントリーの危うい立場:
ニュー・アベンジャーズの隠し玉としてウォッチタワーに身を寄せるボブだが、チームが「サム陣営との対立」や「異次元からの来訪者」との交戦に巻き込まれる中で、その絶大な力と不完全な精神がどう揺さぶられるのか。彼の存在そのものが『ドゥームズデイ』における戦局の大きなキャスティングボートを握っている。
5. 総評:歪んだ称号を背負う者たちと、分裂した地球の行く末

『サンダーボルツ*』は、過去の過ちに囚われ、世界から「欠陥品」と焼き印を押された者たちが、互いの傷を舐め合いながらも自らの足で立ち上がる姿を描き切った、魂を揺さぶる傑作である。彼らは「サンダーボルツ」という影の存在から、不本意にも「ニュー・アベンジャーズ」という光の称号を背負わされることとなった。
しかし、彼らが手に入れたその名誉は、同時にMCU全体を破滅へと誘う巨大な罠の始まりに過ぎない。地球は今、サム・ウィルソンのアベンジャーズと政府公認のニュー・アベンジャーズという「2つの正義」に分裂し、そこへ異次元からファンタスティック・フォーが雪崩れ込むという、かつてない混乱の渦中にある。
この防衛網の分断と混乱の果てに待っているもの――それこそが、あらゆる世界線を統合・支配せんとする絶対者ドクター・ドゥームの降臨である。『サンダーボルツ*』で生まれた歪な絆と二つのチームの対立は、今後訪れる『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』、そして全世界が崩壊する『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ』へとノンストップで雪崩れ込んでいく。壊れた者たちが下した選択の真価は、訪れる多元宇宙の決戦の中でこそ試されるのだ。
