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第1章|耕さない人が耕す挑戦

この連載は、「耕さない人が耕す」という挑戦を続けている私自身の記録です。
経験も知識も農機もないところから始めた試行錯誤が、誰かの参考になれば嬉しいです。


動画でも記録しています。

YouTubeでは、
本編映像・ショート動画も公開しています。

▶ 横動画(本編)
https://youtube.com/playlist?list=PL_0aDXAUWgnz2vpqnKoFRhrFJqrQhmSFD&si=YwKZTufFBDFSXdKT

▶ ショート動画
https://youtube.com/playlist?list=PL_0aDXAUWgnyljDXSPIN9k0_dpZEWyNf3&si=geIF6peYDiz3eFzH

文章では伝えきれない部分は、
ぜひ、映像でもご覧ください。


第1話|私でもできるかもしれないと思った日

ドローンを飛ばし始めて数年が経った頃、
私は地域のイベントで、ドローン体験や機体展示を企画し、
開催する機会が増えていた。

そうした活動を続ける中で、
ある時、農業用ドローンを扱う会社と繋がることになる。

それが、株式会社エアーアシストジャパンだった。
ここでは、以降「AAJ」と表記する。

最初の出会いは、
私が企画したイベントに参加させて欲しい、という声かけだった。

繋がっているドローン所持者に声をかけ、
展示イベントを企画した際、
農業用ドローンを持って参加したいと手を挙げてくれたのが、
AAJと関わりのある方だった。
(その方は後に、AAJへ入社されることになる。)

その後、国家資格取得のためにもっと練習が必要だと感じた時、
力になってくれたのが、AAJの社長である椿さんだった。

驚くほど快く、
機体も練習環境も提供してくれた。

何度も通い、何度も練習を重ね、
一等無人航空機操縦士という難しい資格を取得できたのは、
あの時間があったからだと思っている。
そんな中で、自然とAAJへの信頼が深まっていった。

何かを返したいという気持ちと、
産業用ドローンへの興味もあり、
AAJが出店するイベントには、できる限り顔を出すようになっていた。

そんなある日。
AAJが出店しているイベントで、
新しい農業支援システムが紹介されていた。

それが「ザルビオ」だった。

品種や作業日程を入力すると、
気象データや衛星画像などをAIが解析し、
作業のタイミングを教えてくれるというものだった。

経験がなくても、
適切な判断をサポートしてくれる仕組み。

説明を聞きながら、
私は強い衝撃を受けていた。

農業は、経験の世界。
素人にはできないもの。

そう思い込んでいた私にとって、
それはまったく違う可能性を示していた。

もし、これを使えば。

もしかしたら、
私のような農業経験のない人間でも、
米づくりができるのではないか。

そんな思いが、
胸の奥に芽生えた。

けれど現実は、すぐに動き出せるものではなかった。

私には、それを試す場所がなかったのだ。

そう。
私は農家でもなく、
田んぼを持っているわけでもなかった。

だからこそ、その時の私は、
自分がそれを実際にやることになるなんて、
まったく想像していなかった。

ただ一つだけ、確かなことがあった。

——

私でも、できるかもしれない。

そう直感した、すべての始まりの日だった。


第2話|可能性が挑戦になった日

月日は流れた。

ザルビオを知り、「私でもできるかもしれない」と思ったあの日から、
すぐに何かが動き出したわけではなかった。

私は相変わらず、何もできなかった。

2024年11月、
創業塾で出会った一人の女性が、
私の話に関心を持ってくれた。

スマート農業のこと。
休んでしまっている田んぼのこと。
担い手不足のこと。

話を重ねるうちに、
彼女はこう言った。

「うちの田んぼ、使ってみる?」

思いがけない一言だった。

けれど、私はすぐに頷くことはできなかった。
まずは、本当にできるのかを確かめたかった。

ちょうどその頃、AAJが実演会を予定していた。
私は彼女に伝えた。
すると彼女も、参加して内容を知りたいと言ってくれた。

スマート農業が実際にどんなものなのかを、
彼女自身の目で確かめてもらった。

ドローンでの散布。
作業の効率化。
そして、ザルビオの仕組み。

彼女は真剣に話を聞き、
その内容を同地域の農会長へ伝えてくれた。

やがて、
農会長と自治会長も話を聞きたいということになり、
AAJの椿さんたちと、私を含め、
村の自治会館で説明をする機会が設けられた。

その席で、農会長はこんな話をしてくれた。

以前、自分も散布用ドローンを使用していたこと。
しかし、墜落させてしまい、それ以降使っていないこと。
近隣でドローン散布をしていた例もあったが、
思うような結果が出ていなかったこと。

村には、期待と同時に、不安もあった。

本当にできるのか。
素人がやって、大丈夫なのか。

それでも話し合いの末、
一つの提案が出た。

担い手を失った田んぼ。
さらに十年休んでいる田んぼ。

合わせて約八反。

「やるなら、ここでやってみたらどうか」

正直、規模を聞いても、
農業経験のない私には大きさを想像できなかった。

自治会館での説明後、
その田んぼの一部を所有している彼女が
田んぼへ案内してくれた。

八反。
想像していたより、ずっと大きい。

お金もない。
経験もない。
成功する保証もない。

私は二度、椿さんに確認した。
モデル地として本気で挑戦したいこと。
そして、休耕田まで含めるなら規模も責任も大きくなること。

私には資金も経験もない。
赤字になる可能性が高いなら、踏み出せない。

それでも――本当に形になりますか、と。

間を置くこともなく、
返ってきた言葉は、あまりにもまっすぐだった。

「大丈夫ですよ。ぜひやりましょう。」

その一言で、
覚悟が決まった。

私の中にあった“可能性”は、
この瞬間、後戻りできない挑戦へと変わった。

〈2026年2月14日公開〉


第3話|耕作者になるということ

約八反。
五筆に分かれた田んぼ。
地主さんは四名。

「やってみよう」と決めたその瞬間から、
私には一つ、最初に越えなければならない現実があった。

——耕作者になること。

田んぼを使わせてもらうには、
それぞれの地主さんと正式に利用権を設定し、
私が耕作者として登録されなければならない。

当たり前のことだけれど、
農業経験のない私にとっては、すべてが未知の世界だった。

右も左もわからないまま、
私は椿さんとともに、たつの市の農林水産課を訪ねた。

私たちがやろうとしているのは、
スマート農業。
散布ドローンやザルビオを活用し、
専門コントラクターの力を借りながら進める米づくり。

しかし窓口で返ってきたのは、
未来の話ではなく、手順の話だった。

補助金を活用するには、
一定の農業経験が必要であること。
耕作者として実績を積むには、
年単位の時間がかかること。

話は、うまく噛み合わなかった。

制度の前で、
挑戦はいったん立ち止まった。

その後、私は農会長に相談した。

市役所での経緯を伝えると、
農会長はすぐに「話をしてくる」と動いてくれた。

そして利用権設定の手続きに必要な用紙を準備し、
地主さんへの説明も進めてくれた。

私に「田んぼを使ってみる?」と声をかけてくれた彼女も、
農会長とともに、他三名の地主さんへ話を通してくれた。

こんな人がいること。
こんな挑戦をしようとしていること。
本当に任せても大丈夫かということ。

一人では到底できなかった話が、
少しずつ、地域の中で整えられていった。

やがて四名すべての地主さんから承諾を得ることができ、
利用権の設定が進むことになった。

行政では止まった話が、
地域の中では静かに動いていた。

制度より先に、
人の信頼が道をつくってくれていた。

その後、農会長から
田んぼがある村で耕作者となる私を紹介しておきたいと、
農業会議への参加を勧められた。

経験も知識もない私だったが、やる気だけはあった。

村の農家さんが集まる中、
農会長に紹介され、私は説明した。

スマート農業のモデル地として挑戦したいこと。

村の反応は、想像と少し違っていた。

「ドローンでの直播なら、水のタイミングはどうなるんだ?」
「入水はどうする?」

心配する声はあったが、
それは否定ではなく、協力の前提だった。

最後には、
「頑張ってください。期待しています。」と
声をかけてもらった。

その後、私は自分の住んでいる村の農会へ、
水稲生産実施計画書及び営農計画書を提出した。

どの地番で、どの品種を育てるのか。
面積はどれだけか。

初めて書く書類だった。

一つひとつ確認しながら、記入していった。

これが毎年必要な手続きであることも、
このとき初めて知った。

そして後日。

たつの市から、
利用権設定通知書が届いた。

私は正式に、耕作者になった。


第4話|休耕田という現実

約八反。
そのうち四反が通年稲作地、残りが休耕田だった。

通年稲作地は、ほぼ長方形の整った形。
見慣れた、いわゆる“田んぼらしい田んぼ”。

けれど休耕田側は違った。

一枚の四角い田んぼではない。
いくつもの角を持つ、歪んだ形の土地だった。

その歪んだ形は、
草刈りだけが続けられてきた十年という時間を、
静かに物語っているように見えた。

私が向き合うのは、
タイプがまったく違う田んぼだった。

だからこそ、この二枚の田んぼをモデル地として考えた。

4月9日。
私は田んぼを、上空から撮影した。

この挑戦を、
空からと地上から記録していこうと、私は決めていた。

空からはドローンで。
地上からはスマホで。

新規就農者であると同時に、
私は記録者でもあった。

作業が始まる前の、何も変わっていない姿を
残しておきたかった。

通年稲作地は、静かに整っている。
それに対して休耕田は、明らかに様子が違った。

草が伸び放題で、色も地肌も荒れている。

同じ四反でも、
そこにはすでに“田んぼとして使われなかった十年分の差”があった。

左:休耕田/右:通年稲作地
(2025.4.9 空撮)

▶4月9日の空撮記録(Instagram)
https://www.instagram.com/reel/DJDNRY_SCYQ/


4月10日。
最初の耕起の日。

椿さんと同じ地域で事業をしている車屋さん、
BunnyFactoryの大林さんが、作業を担ってくれることになった。
ここでは以降「大林さん」と表記する。

この日、耕起の撮影が行えたのは休耕田側だった。

休耕田 耕起前(左)と 耕起後(右)
(2026.4.10 空撮)


私が到着した時には、
すでに耕起は始まっていた。

言葉を交わすより先に、
私はドローンとスマホで撮影を始めた。

すると——

トラクターが大きく浮いた。
ドコンッ、と音がした。

しばらくして、またドコンッ。

何が起きているのか分からなかった。

後で聞くと、
「石が多すぎますね」と。

十年、田んぼとして使われなかった土地。
その下には、大きな石がいくつも眠っていた。

米づくりの妨げにもなる。
農機を傷める可能性もある。

私にできることは、
と尋ねると——

「次の耕起の時、後ろをついて石を拾ってもらえたら助かります」

そう言われた。

その時の私は、
その言葉の重さを、まだ知らなかった。

ただ、「なるほど」と思っただけだった。

挑戦とは、
決意の問題だけではない。

目の前の土の状態を受け入れることから始まる。

休耕田は、
静かに、しかし確実に問いかけていた。

——本当に、やるのか。

作業が終わった頃、
椿さんが様子を見に来てくれた。

▶ 4月10日の空撮記録(Instagram)
https://www.instagram.com/reel/DJS1mJhSSW-/


第5話|農会長と歩いた日

4月20日。
田んぼに初の農機が入ったあと、
私は水のことが気になった。

水は、どこから流れてくるのか。
どこでせき止めるのか。
どこから入るのか。
どこから抜けるのか。

農会長に連絡すると、
すぐに田んぼまで来てくれた。

そして、一緒に歩きながら教えてくれた。

「ここが水門」

そう言って指さした場所は、
隣の田んぼを2枚越えた、道路の向こう。

水門は、思っていたよりも遠かった。

それから、
通年稲作地と休耕田の
入水口と落とし口の位置。

休耕田側は、
入水口も落とし口も、
土に埋もれていた。

4月20日、休耕田側の入水口。


「まずはここを掘り起こさないとね」

水が流れやすくするための作業だ。

水位を調整する板も、もう残っていなかった。
通年稲作地側で使っている板を参考にすることにした。

休耕田側の周囲を流れている水路には
大きいせき板が必要だった。

農会長は言ってくれた。
「ここの大きいせき板は作ってあげるよ」

その言葉に、
私は「ありがとうございます」と言った。

直播は、他の田んぼよりも早く水が必要になる。

だから私は、
最初に水門を開ける人になる。

その開き方を、
この日、教えてもらった。

スマート農業を掲げてはいるけど、
休耕田を含んでいること、
農業素人であることで、
やることは全くスマートじゃない。

田んぼを歩き、
土を掘り、
水の道を探す。

この日、私は水の流れ方を知った。


第6話|つながりが動き出す

入水口と落とし口を掘り起こす必要があった。
けれど私は、スコップも持っていなかった。

思い浮かんだのは、
異業種交流ギルドクロストークでつながった青野さんだった。
ここでは以降「クロストーク」「青野さん」と表記する。

草刈りを専門に仕事をしている方。

「手伝ってもらえませんか」

そう声をかけると、
返事はすぐに返ってきた。

「いいですよ」

4月29日。
地主さんたちも交えて、田んぼに立った。

休耕田をどうやって復旧させるか。
入水口を掘ること。
落とし口を整えること。
水量を調整する板を作ること。
畦の雑草管理をどうするか。

話は具体的に進んだ。

そして、4月30日。

青野さんは、早速作業に入ってくれた。

4月30日、落とし口の復旧。


土に埋もれていた落とし口は、
少しずつ形を取り戻していった。

草に覆われていた場所に、
水が通る道が見え始めた。

私は、上から撮影しながら、
地面で動く人の姿を見ていた。

ひとりでは、進まなかった。

声をかけたこと。
応えてくれたこと。

この日、つながりは動き出した。

▶ 4月30日の空撮記録(Instagram)
https://www.instagram.com/reel/DJfSUCwzlhw/

〈2026年2月23日公開〉


第7話|もう始まっていた

5月13日。
田んぼを見に行った。

最初の耕起から、1ヶ月。
休耕田側。
あの時、肥料になると思っていた
薙ぎ倒された雑草たち。

でも、その日の景色に驚かされた。

膝のあたりまで伸びた草が、
田んぼ一面を覆っていた。

5月13日、耕起前の休耕田側。


思わず立ち止まる。

こんな状態で、耕起できるんだろうか。

ストーリーズに上げたのを覚えている。
不安のまま、ただ共有した。

翌日、5月14日。
2回目の耕起の日だった。

その日は、もう一つの挑戦と重なっていた。
カケルDAYのミーティング。

時間がかぶるかもしれない。
撮影できないかもしれない。

それでも、耕起前の田んぼを撮っておきたくて、
早めに足を運んだ。

草に覆われた田んぼを、空から確認する。

そしてミーティングへ向かった。

ミーティングを終え、
大急ぎで戻る。

まだ、間に合うかもしれない。

田んぼに着いたとき、
トラクターはまだ動いていた。

安堵と同時に、ドローンを飛ばした。

耕起された後の田んぼは、
さっきまでとは全く別の顔をしていた。

畦がくっきりと浮かび上がり、
土の色が整っている。

2回目の耕起後。(2025.5.14 空撮)


空から見下ろすと、
きれいな線が引かれていた。

まるで、最初からそうだったみたいに。

その横で、オレンジ色の積車が動いていた。

「あれ、動いてる?」

近づくと、
「リモコンなんですよ。」と、大林さんは教えてくれた。

自動でゆっくりと動くその姿に、
思わず声が漏れた。

こんな世界があるのか、と。

きれいになった田んぼを見ながら、
胸の奥で少しだけ安心する。

けれど、草はまた伸びる。

それは、もう分かっていた。

種の準備も、
時間の流れも、
すでに進んでいる。

もう、始まっていた。

▶ 5月14日の空撮記録(Instagram)
耕起 | https://www.instagram.com/reel/DJ2tMBtTZh8/ 
積車 | https://www.instagram.com/reel/DJ5DYCBzp6Z/ 

〈2026年3月3日公開〉


第8話|石拾いが始まった

5月15日。

前日の2回目の耕起で、
田んぼはきれいに整っていた。

けれど、問題は残っていた。

石だった。

最初の耕起のとき、
トラクターが大きく揺れた。

田んぼの中に
大きな石がある。

それは分かっていた。

2回目の耕起の日、
トラクターの後ろをついて
石を拾ってほしいと言われていた。

けれどその日は
予定が重なり、できなかった。

その夜。

私はInstagramのストーリーズに
こう書いた。

「石拾い、手伝ってくれる人いませんか?」

翌朝。

2人が来てくれた。

休耕田側 石拾いの様子。
(2025.5.15 空撮)


バケツを持って田んぼに入る。

石を拾う。

また拾う。

拾っていくうちに
すぐに分かった。

これは
なかなか大変な作業だ。

この日集めた石
バケツ一つでは足らない…


そしてもう一つ。

集めた石を
どこに持っていけばいいのか。

悩んだ末、
田んぼの畦の外側に
置いていくことにした。

広い田んぼだったので、
場所をいくつかに分けて
畦にならしていく。

石を拾う。

バケツに入れる。

畦まで運ぶ。

そんな作業を
繰り返していった。

翌日。

地主さんも
手伝いに来てくれた。

そこで
一輪車を貸してもらえることになった。

これで楽になる。

そう思った。

バケツに集めた石を
一輪車に入れる。

また石を拾う。

また入れる。

いっぱいになったら
畦まで運ぶ。

…はずだった。

耕起したばかりの田んぼは
土が柔らかく、でこぼこしている。

石を積んだ一輪車は
まったく進まなかった。

思わず笑った。

田んぼの土は、
思っていたより柔らかかった。

なるほど、そういうことか。

結局
一輪車は畦に待機。

石を集めた一輪車。
貸してもらえて助かった。


そこまでバケツで運び、
石を集める方法に変えた。

こうして

石拾いが
本格的に始まった。

▶ 5月14日の空撮記録(Instagram)
https://www.instagram.com/reel/DKIioUST4_T/

〈2026年3月7日公開〉


第9話|急遽決まった除草剤散布

5月20日。

2回目の耕起から続いている石拾いの日々。

石拾いを続けていた日の午後、
田んぼに散布ドローンがやってきた。

とらこの田んぼに初めてやってきた散布ドローン DJI T50
(2025.5.20 空撮)


本来、この田んぼで
最初に散布ドローンがやってくるのは
直播の予定だった。

けれど予定を変更して、
除草剤散布を行うことになった。

作業に来てくれたのは、
AAJの椿社長と社員の方だった。

まず畦を歩いて
田んぼの測量をする。

その測量データを入力すると、
田んぼの面積内で自動飛行が可能になる。

測量が散布ドローンと連携された様子。(送信機画面)


休耕田側、約四反。

機体から
除草剤が散布されていく。

私はドローンを飛ばし、
その様子を空から撮影していた。

上空から、
散布ドローンを追いかけるように撮影した。

かっこいい。

これが、スマート農業だ。

自分では飛ばせない散布ドローンが、
田んぼの上を飛んでいる。

それだけで、
少し感動していた。

そして、
正直に思った。

——飛ばしてみたい。

作業は
驚くほど早かった。

測量して、
散布して、
片付ける。

それだけで、
もう終わりだった。

散布していた時間は、
10分も無かったと思う。

椿社長の口癖がある。

「皆さん、スマートにお過ごしでしょうか?」

まさにその通りだった。

休耕田側 除草剤ドローン散布の様子。
(2025.5.20 空撮)


石を拾い続けている田んぼに、
散布ドローンがやってきた。

泥だらけの作業と、
スマート農業。

その両方が
この田んぼにはあった。

除草剤散布が終わると、
それぞれ次の仕事へ向かった。

田んぼの石は、
まだ残っている。

石拾いは
まだ終わらない。

▶ 5月20日の空撮記録(Instagram)
散布 | https://www.instagram.com/reel/DKQkOJMSvuH/
作業 | https://www.instagram.com/reel/DKSu41HTtqE/

〈2026年3月14日公開〉


第10話|石拾いは続く

除草剤散布が終わったあとも、
石拾いはまだ続いていた。

5月21日頃からは、
ほとんど一人の作業だった。
自分が動ける時間に合わせて。

仕事を終えて、
夕方4時ごろ田んぼへ向かう。

日が落ちるまで、
田んぼの中を歩く。

一日に拾えるのは
一輪車で2杯か3杯ほど。

毎日続けていると、
それでもかなりの量になる。

ある日、
一輪車をひっくり返そうとした瞬間、

一輪車と一緒に畦を転がり落ちた。

服が引っかかった。

幸い、
見た人はいない。

四反近くある田んぼを、ひたすら拾い歩く。
流石に疲れも出てくる。

それでも
できることはやる。

その気持ちだけはあった。

そんな石拾いの日々の途中、
もう一つ出来事があった。

5月22日。

農会長が
畦を整えてくれた。

農会長の畦塗り機。


10年休んでいた田んぼは、
畦の一部が崩れていた。

特に入水口の近くは、
水を張ると漏れるかもしれない状態だった。

相談すると農会長は言ってくれた。

「頑張って欲しいから
今年は少しやってあげるわ」

忙しい合間をぬって届いたメッセージは、
とても短かった。

「今からやるよ」

その時、私は姫路にいた。

慌てて仕事を終わらせ、
急いで田んぼへ向かった。

でも着いた時には
作業はもう終わっていた。

残念ながら
作業風景は撮れなかった。

それでも
整えられた畦を見れば分かる。

整えられた畦の様子。
(2025.5.22 空撮)


本当に気持ちでやってくれたのだと。

やってもらえたことがありがたい。

この村で
田んぼを借りられてよかった。

そう思えた出来事だった。

石拾いは
まだ終わっていない。

そして次は、水を張り始める。


第11話|水が来た日

5月23日、朝。

5月25日に予定していた代かきに向けて、
田んぼに水を入れ始めた。

水路のせき止めを調整する。

農会長に教えてもらっていたけど、
一人でやるのは初めてだった。

水門を閉じる。

水路をのぞき込む。

すると──

水が流れてきた。

田んぼに向かって、
水が流れていく。

そして、
ついに田んぼへ水が流れ込んだ。

思わず声が出る。

「うわ、来た…!」

ただそれだけのことなのに、
とても嬉しかった。

しばらく水の流れを見ていると、
少し気になることに気づいた。

通年稲作地には、
順調に水が入っていく。

でも――

休耕田側は、
どうも水の入りが悪い。

気になって見ていると、
農会長が通りかかった。

状況を見るなり、言った。

「これはスコップで入り口を広げんとダメやな」

入口に堆積物が多く、
奥まで流れ込みにくいようだ。

休耕田側の入水口。
堆積物が多く、水が奥へ流れにくい状態だった。


そう言うと農会長は、
その場を離れていった。

どうしようか考えていると、

農会長はスコップを持って戻ってきてくれた。

本当に、
いつもありがたい。

入口を広げてもらうと、
水の流れは少しよくなった。

入水口を広げてもらい、水が流れ込みやすくなった。


これで順調に進んでくれたらいい。

そう思いながら、
しばらく水の様子を見守った。

水を張り始めて約3時間後(2025.5.23 空撮)
田んぼ全体を空から確認する。



この時はまだ知らなかった。

休耕田側の水が、
簡単には溜まらないことを。


第12話|水が止まっていた日

5月23日。
入水を始めた。

次の予定は、
5月25日の代かきだった。

5月24日。
お昼前から雨が降った。

その影響で、
夜には上流の水門が閉じられていた。

ただ、この時はまだ気づいていなかった。

休耕田側は、
ほとんど水が入っていない。

通年稲作地の方も、
完全に満水とは言えない状態だった。

雨が降る前の入水状況。(2025.5.24早朝 空撮)
左:通年稲作地 / 右:休耕田


それでも――

雨の中、
田んぼには水が広がっていく。

一見すると、
問題はないようにも見えた。

だけど、

2つの田んぼには、
はっきりとした差が出始めていた。

雨の中、明らかな差が見えた2つの田んぼ。
左:通年稲作地 / 右:休耕田


次の日には、
代かきの予定が入っている。

このままで、
本当にできるのか。

不安だけが、残った。


第13話|代かきのはずだった日

5月25日、朝。

田んぼに向かった。

前日、雨も降った。

満水になっていて欲しいと、
願いながら。

けれど――

目の前の景色に、言葉が出なかった。

休耕田側の田んぼに、
水がない。

水面すらも、消えていた。

「え…?」

雨が止んだあとの入水状況。(2025.5.25早朝 空撮)
左:通年稲作地 / 右:休耕田


思わず立ち止まる。

入れっぱなしで帰ったはずの水が、
どこにも、見当たらない。

通年稲作地の方には、
水がある。

でも、休耕田側だけが、
明らかに違っていた。

前夜、
上流の水門が閉じられた影響は、確かにあった。

けれど――
2つの田んぼを見比べると、
それだけが理由ではないことは、明らかだった。

午後には、
代かきの予定が入っている。

水を入れたくても
水門が閉じられている。

水が、来ない。

この状態で、
できるのか。

午後。

水がない状況を伝えたけど、
「見に行きます」と言って、
大林さんが来てくれた。

積車にトラクターを乗せて、
いつものように。

そして田んぼを見て、
同じように立ち止まった。

何かがおかしいと見比べた2つの田んぼ。
左:通年稲作地 / 右:休耕田


「……水、本当にないですね」

それ以上の言葉は、いらなかった。

どうするか。

その場で考える。

出した答えは、ひとつだった。

「もう一回、耕しましょう」

予定していた代かきは、
できない。

急遽、
3回目の耕起をすることに。

10年休んでいた田んぼだ。

簡単にはいかなかった。

▶ 5月23~25日の空撮記録(Instagram)
水張り | https://www.instagram.com/reel/DKqm1rmR2Bv/


第14話|耕した先に見えた変化

5月25日、午後。

3回目の耕起が始まった。

通常なら、2回で終わる工程。

けれど、
この休耕田は、違った。

トラクターが、
もう一度、土を起こしていく。

しかも、
今まで以上に丁寧に。

丁寧な耕起後の休耕田。
(2025.5.25 空撮)


まるで、
満水になるのを願うように。

そして——

耕起が終わった、その時だった。

「あーー、水が来たーー」

止まっていた水が、
耕し終わるのを待っていたかのように
再び、流れ始めた。

まるで——

「もう一度、耕せ」と
言われていたかのようだった。

再入水2時間後の様子。
(2025.5.25 空撮)


耕起の後、
水の溜まり方は、明らかに変わった。

この変化が、
どこまで続くのか。

次回の代かき予定は、
5月28日。

▶ 5月25日の空撮記録(Instagram)
耕起 | https://www.instagram.com/reel/DKssylBzUc9/
積車  | https://www.instagram.com/reel/DK0KZe6T9h5/

〈2026年3月26日公開〉


第15話|消える水と、見え始めた理由

5月26日、朝。

田んぼに向かいながら、
ただ一つのことを願っていた。

水が、溜まっていてほしい。

見えた瞬間、思わず足が止まる。

水は、広がっていた。

全面ではない。
それでも、4分の3ほど。

明らかに良くなった、休耕田の水張り。
(2025.5.26 7時 空撮)


「いけるかもしれない」

そう思えた朝だった。

その日も、田んぼの中を歩く。

畦を歩いていると、
足元が、ボコッと沈む。

昨日はなかった場所に、また穴。

踏むと、横へと続いていく。

モグラだ。

畦の下に、トンネルができている。

一つ潰しても、また次がある。

その時はまだ、
それが何を意味しているのか、分かっていなかった。

5月27日。

休耕田側に気を取られすぎていたので、
通年側を歩く。

ジャバジャバと音がする。

おかしい。

音のする方へ回ると、
畦の外側に、大きな穴が開いていた。

そこから、水が漏れている。

これは、マズイ。

どうするか。

聞いてみた答えは、シンプルだった。

石で埋めて土を被せる。

石は、いくらでもあった。

拾い続けてきた石。

それを、穴に詰めていく。

思っていた以上に、石が必要だった。

柔らかい土に、どんどん飲み込まれていく。

それでも、詰め続ける。

畦で見つけた穴。
左:畦外の陥没 / 右:陥没を塞いだ素人作業


ようやく、水は止まったように見えた。

まだ土はかぶせない。

もう少し、様子を見る。

この時は知らなかった。
畦の内側の穴も塞がなければならないことを。

休耕田の水は変わらない。

朝も、夕方も、ドローンを飛ばして確認する。

入水を続けても、変わらない。(2025.5.27 空撮)
左:9時半頃 / 右:19時頃


広がらない。

全水面にならない。

5月28日。

代かきの予定日。

朝、田んぼに立つ。

また、水が減っていた。

延期。

これ以上、できることが見えない。

水を入れ続けるしかなかった。

その日の夕方。

一つ、決断をする。

通年側の入水を止めた。

代かきは、
2枚の田んぼ同時進行が望ましい。

このまま入れ続けても、
畦が持たない。

そう思った。

そして、翌朝。

田んぼに向かう。

通年側の水面は、ほとんど消えていた。

入水停止一晩で水が減った通年側の様子。
(2025.5.29 朝 空撮)


一晩で、ここまで減るのか。

太陽も出ていない。

それでも、水は消えていた。

はっきりとは分からないながらも、
思った。

畦に、穴があるのだろう。

5月29日、夕方。

もう一度、空から見る。

すると、
休耕田側の色が、全て変わっていた。

まだ水面ではない。

でも、全体が水を含んだ色になっている。

今までになかったことだった。

水面ではない。でも、変わっていた。(2025.5.29 空撮)
左:7時半頃 / 右:17時頃


下に、溜まり始めている。

少しだけ、流れが変わり始めていた。


第16話|水をつなぐ人と、まだ見えない結果

5月29日、夕方。

田んぼに立っていると、声がした。

AAJの仕事帰りだった古一さんだ。

どうすれば、
水が回るのかを色々調べてくれていた。

私が唯一持っていた農作業用の道具は、
農会長から貰った小さなレーキのみ。

古一さんは、
それで、畦の内側に溝を作り始めた。

すると、水が流れる。

溝に沿って、
水が、届いていなかった場所へと動き出す。

唯一の道具で、水の通り道を作る。


「なるほど」

そういうことか。

その日は、もう日が落ちていった。

5月30日、朝。

田んぼに向かう。

「えっ⁉︎」

全面、水面になっていた。

思わず、声が出る。

「やったーー。」

ドローンを飛ばす。

朝7時。満水になっていた休耕田。
(2025.5.30 空撮)


何度も、何度も。

この景色を、残したかった。

でも、
それは長くは続かなかった。

昼過ぎ、もう一度田んぼへ行く。

水が、減っている。

朝あった水が、半分ほどまで消えている。

14時。水面は、半分まで減っていた。
(2025.5.30 空撮)


なぜだ。

もう一度、やるしかない。

地主さんである彼女と一緒に、畦の内側を掘る。

溝を繋いでいく。

すると、見つかる。

穴。

やっぱり、あるんだ。

石を詰める。

埋める。

その時だった。

農会長が、トラクターでやってきた。

「また女性同士で、頑張ろうと無理してるな。」

そう言いながら、
トラクターで田んぼへ入っていく。

水がある場所から、ない場所へ。

トラクターの大きなタイヤで、道を作る。

タイヤ痕が、水の通り道になる。
(2025.5.30 空撮)


水が、動き出す。

さらに、畦の内側を一周。

通年側も一周。

水が回るように、整えてくれた。

「これで、様子をみよう。」

そう言って、
帰って行った。

ありがたかった。

本当に、ありがたかった。

明日、
代かきはできるのか。

願うしかなかった。


第17話|迎えた代かきの日、応援が形になった

5月31日、朝。

田んぼは、全面満水になっていた。

「できる。」

そう思えた。

その日の午後。

大林さんの積車が、
トラクターを載せてやって来た。

休みだった藤戸さんも来てくれた。

「よかったですね。」

そう言いながら、

当たり前のように手を動かす。

大林さんが、トラクターに乗る。

本来なら、
3回目の耕起の日にやるはずだった代かき。

でも、
その日は、できなかった。

その一日があったから、
ここまで来た。

水の上を、
トラクターが進んでいく。

土が動く。

水が濁る。

田んぼが、整っていく。

水と土が混ざり、形が整っていく。
(2025.5.31 空撮)


その様子が嬉しくて、
ひたすら映像に収めた。

作業が終わる頃、
椿さんと農会長が来てくれた。

「やっとやな。」

誰かが言う。

「できてよかったな。」

本当に、そうだった。

あの数日を知っているからこそ、

その一言が、
そのまま残る。

一人では、
ここまで来れていない。

何度も、
止まりかけた。

でも、
止まらなかった。

人が、つないでくれたから。

応援は、田んぼの形になっていた。
(2025.6.1 朝 空撮)


応援は、
言葉だけじゃなかった。

動いてくれた人がいた。

気にかけてくれた人がいた。

来てくれた人がいた。

それが、
ここに残っている。

これが、
この日のとらこの田んぼだった。

▶ 5月26~31日の空撮記録(Instagram)
水張りその後 | https://www.instagram.com/reel/DK8F9WaThTL/ 
溝作り | https://www.instagram.com/reel/DLBHs99zQKD/ 
荒代かき | https://www.instagram.com/reel/DLG26XYSp2c/

〈2026年4月4日公開〉


第18話|整ったはずの田んぼで起きたこと

2025年6月1日。

前日の代かきを終えた田んぼは、
これまでとはまったく違う景色になっていた。

濁りは残っているものの水は落ち着き、
水面は綺麗に整っていた。

待ち望んだ光景だった。

ここまで来たんだと、
素直にそう思えた朝だった。

でも、
畦を歩いたとき、
違和感に気づいた。

音がする。

今まで聞いたことがないほどの、大きな音。

水が、
畦の穴から外へ流れていた。

これまで届かなかった場所まで、
ようやく水が広がったことで、
畦の外側にある大きな穴から、
一気に水が漏れていた。

モグラの穴だ。

一人ではどうにもならず、
農会長に連絡をして、
一緒に畦を踏み、
穴を塞いで、
なんとか修復を試みた。

雨が降る中での作業となった。

翌日、
様子を見に行くと、
また水が漏れていた。

おかしい。

そう思ってよく見ると、
水面の下、
田んぼの内側にある大きな穴を見つけた。

つながっていた穴。
左:畦の外側 / 右:田んぼの内側


農会長に教えてもらった方法を試す。

黒マルチを丸めて、
水の中に手を入れ、
そのまま穴に押し込んだ。

手探りで塞いだその穴は、
ちゃんと水を止めてくれた。

でも、
それは一箇所ではなかった。

同じことが、
いくつも、いくつも続いた。

モグラの穴とのいたちごっこだった。

トンネルのように横に延びた穴を踏んで潰す。

畦の外側を歩き、
水が漏れていないか、確認する。

潰しても、潰しても、
別の場所にトンネルができる。

水を張ってからは、
水位と、畦の穴を見て回るのが日常になった。

さらに、
水路には刈られた草や上流からのゴミが流れ込み、
そのまま田んぼに入ってきていた。

水を入れているはずなのに、
水と一緒に、
別のものも流れ込んでくる。

整ったと思った田んぼには、
見えていなかったことが、
次々と現れていた。

それでも、
この景色は確かに変わっていた。

水があり、
空が映り、
風で揺れる水面がある。

代かきから2日目の田んぼ。
(2025.6.2 朝 空撮)


ようやく、
“田んぼらしさ”ができてきた。

ここから、
もう一歩進めるために。

次は、
本代かきを行う。

▶ 6月1~2日の空撮記録(Instagram)
代かき後の水田 | https://www.instagram.com/reel/DLLYOvqzHbJ/


第19話|水を入れすぎた田んぼ、それでも進んだ2回目の代かき

2025年6月4日。

2回目の代かきを迎えた日。

水が溜まらなかった経験から、

気づけば、
水を入れすぎるようになっていた。

代かきは、
水があればいいわけじゃない。

多すぎても、
うまくいかない。

そのことを、
この日、初めて知った。

本代かきの日。

早朝に、一度水を抜いて、
水位を整えてから作業に入ってもらうことにした。

仕事の都合で、
すべてを見届けることはできなかった。

それでも、
戻ったときには、
田んぼは確かに前に進んでいた。

本代かきで整っていく田んぼ。
(2025.6.4 空撮)


この一連の工程を支えてくれたのが、
BunnyFactoryの大林さんだった。

最初の耕起から、
3回の耕起、
そして2回の代かきまで。

仕事の行き帰りに、
何度も田んぼの様子を見に来てくれた。

気にかけてくれていたことが、
すごく伝わっていた。

空撮の映像も、
とても喜んでくれていた。

この日で、
大林さんの役割は一区切りとなった。

耕起、代かきを担ってくれたBunnyFactoryのトラクターと積車。
(2025.6.4 空撮)


ひとりでは、
ここまで来ることはできなかった。

ここから先は、
また次の工程へ。

この田んぼは、
まだ進んでいく。

▶ 6月4日の空撮記録(Instagram)
本代かき | https://www.instagram.com/reel/DLjzwJVRsMj/
トラクター | https://www.instagram.com/reel/DL0jbEWzLoT/

〈2026年4月17日公開〉


第20話|この挑戦の核に触れた日

2025年6月6日。

ついに、
ドローン直播の日を迎えた。

本代かきが終わってからの2日間。

畦の穴を埋め、
水位を調整し、

ただひたすら、
準備を続けていた。

素人だけど、米作りに
挑戦してみようと思ったきっかけーー

それが、
散布ドローンによる直播だった。

それを現実にしてくれる仕組みも、
すでにあった。

もみ種は、
但馬米穀(株)さんから。

鉄でコーティングされた黒い種は、
水に浮かず、土に着底する。

発芽を助ける菌も、
まとわせてある。

ただの種ではない。

散布ドローンに、
もみ種が入る。

左:散布ドローンに、もみ種投入 / 右:鉄黒コートのもみ種


この日、
「しきゆたか」という品種のもみ種は、
兵庫県の北、豊岡市から但馬米穀(株)の
池田さんが持参してくれた。

この挑戦の一推し「ドローン直播」。

散布の日程が決まってから、
多くの人に見てもらいたいと、呼びかけた。

地域の人や、
農家さんたちも、

様子を見に来てくれた。

そして、
田んぼ一面に、
ほぼ均一に、広がっていく。

散布ドローンで種を蒔く。
(2025.6.6 空撮)


撮影に力が入る。

ドローンで空から。
スマホで地上から。

あっという間だった。

ここまで来たんだと、

何度も、
思った。

椿さんが気を遣ってくれて、
ほんの少しだけ、自分でも、
散布させてもらった。

教官の元、教習のようにーー

自分の田んぼに、
自分で種を撒く。

その感覚は、
忘れられないものになった。

ただ、

これを仕事にしようとは、思わなかった。

農機を持たず、
委託で田んぼをやる。

それが、
耕さない人の挑戦だから。

見に来ていた人たちからは、

「早いな。」
「普通の田植えと、全然違うな。」

そんな声も聞こえてきた。

呼びかけにより、見に来てくれた。
(2025.6.6 空撮)


呼びかけに応えてくれ、
たくさんの人が、
集まってくれた。

待ちに待った、
最高の一日となった。

——

ここから、
また始まっていく。

▶ 6月6日の空撮記録(Instagram)
鉄黒コート | https://www.instagram.com/reel/DL3FsazzcQ6/
ドローン直播 | https://www.instagram.com/reel/DLmWeMaxE8R/

〈2026年4月27日公開〉


第21話|発芽を待つ時間

ドローンで種をまくという核の日を迎えた。

6月7日。

翌日からの作業は、これまでと変わらなかった。

もみ種の着底を確認する。
ここからの3日間は、
水を張った状態を保つ必要があった。

その間にひたすらやり続けたのは、
畦の管理だった。

畦を歩く。
モグラの穴を見つけては塞ぎ、また見つけては塞ぐ。
その繰り返し。

ときには、
穴が大きすぎて畦が崩れ、なかなか塞ぐことができず、
心まで折れそうにもなった。

でも、
穴をそのままにしておけば、水は抜けてしまう。
せっかく着底した種も、流れてしまうかもしれない。

水の調整も難しかった。
入れすぎれば畦を越えて漏れ、
少なければ、休耕田側はすぐに土が見えてしまう。

思った通りにはいかない。
それでも、
やるしかなかった。

ただ、
大変なことばかりではなかった。

この時期だけ楽しめる、
「田んぼリフレクション」

この時期だけ現れる、田んぼのリフレクション。
(2025.6.9 空撮)


それは、
頑張っているご褒美のような景色だった。

6月9日。
ドローン直播から、3日目。

但馬米穀(株)さんからは、
強制落水の指示が出ていた。
土にひびが入ってもいいから、
カラカラの状態を維持してほしいという。

あれだけ大変だった水張り。
ここで一度落とすことになる。
発芽を促すために、必要な工程だった。

けれど、
ここでも思うようにはいかなかった。

雨が続き、水はなかなか抜けきれない。
場所によっては、水たまりが残り続ける。

乾かしたいのに、乾かせない。

様子を見続けるしかなかった。

6月12日。
強制落水から3日目。

発芽を確認した。

小さかった。
1センチにも満たないような、ほんのわずかな芽。

初めて自分の目で確認した、小さな発芽。


それでも、確かにそこにあった。

日を追うごとに、その芽は少しずつ大きくなっていく。
やがて根が出て、土の中に伸びていく。

最初は持ち上げられていたもみ種も、
気づけば、もう簡単には動かなくなっていた。

根がついたということだった。

その変化を見ながら、
少し安心したのも束の間だった。

休耕田側の水たまりがある場所では、
発芽した芽が、いくつも浮いていた。

左:根付きはじめる苗 / 右:水面に浮いてしまった苗

原因ははっきりとは分からない。
ただ、水辺に降りてきた鳥が、
餌を探して荒らしたのかもしれない。

せっかく根を張ろうとしていたのに、
根付くことはなかった。

そして通年側では、別の変化が起きていた。

水が残る場所に、ジャンボタニシが集まっていた。
想像以上の数だった。

芽が出たばかりの苗は、次々と食べられていく。
気づけば、その一帯だけぽっかりと、何も育たない場所ができていた。

同じ田んぼでも、起きていることは違う。

すでにいくつものズレが生まれていた。

それでも、芽は出た。

小さくても、確かに。

▶ この期間の空撮記録(Instagram)
リフレクション | https://www.instagram.com/reel/DMuR8xcxu6_/


第22話|静かな時間

6月18日。

少しずつ、
田んぼが落ち着いてきていた。

強制落水のあと、
ようやく土が乾き始めた。

水たまりも、
少しずつ消えていく。

その中で、
苗は、少しずつ伸びていた。

少しずつ伸びていく苗。
(2025.6.18 空撮)


あの小さな芽が、
ちゃんと、形になっていく。

ところどころ、
育たない場所もある。

それでも、
この時は、少しだけ穏やかだった。

苗の成長を感じながら、
その変化を、追いかけていた。

6月19日。
田んぼへの挑戦に、興味を持ってくれ
初めて見学に来てくれた人。

クロストークメンバーの「はじめちゃん」だ。

彼は、
おじいさんが残した休耕田のヒントを得たいと、
田んぼに来てくれた。

その翌日は、椿さん。
さらにその翌日は、但馬米穀(株)の黒田さん。

私はその場にいなかったけど、

苗の様子を気にして、
立ち寄ってくれていた。

6月21日。
強制落水から10日以上。

苗は成長しているが、
土のひび割れが目立ってきた。

水がなくても大丈夫なのか?
不安を感じながら、田んぼに入ってみた。

カチカチだ。

ありがたい事に、
6月の来圃者はまだいる。

6月28日。
クロストークメンバーの「りなさん」が来てくれた。

彼女も、はじめちゃん同様で家族が所有している
田んぼのこの先が気になっていた。

6月29日。
大阪から、ドローンパイロット仲間の「岡田さん」が、
高校生の起業家が、稲作に興味があるとのことで、
一緒に来圃してくれた。

知識、経験、農機なしで始め、
分からないことばかり、
思うようにならないことも多い。

休耕田の甦りも合わせると、

今年は期待するな。
蘇るには3年は掛かる。
など、色んな言葉を掛けられた。

でも、
この挑戦に、自分ごととして興味を持ってくれる人がいる。

この挑戦に、足を運んでくれる人が現れた。
(2025.6.28 空撮)


それだけで、
続けていこうと思えた。

そんな時間が、そこにあった。

▶ この期間の空撮記録(Instagram)
発芽〜生育促進 | https://www.instagram.com/reel/DNWbVgJzIJP/

〈2026年5月2日公開〉


第23話|水を入れた、そのあとで

6月29日。

大阪から見に来てくれた人たちが帰ったあと、
夕方、椿さんが田んぼの様子を見に来てくれた。

強制落水から、20日。

土はしっかり乾いて、
ひび割れ、カチカチになっていた。

それでも苗は成長し、
このままで大丈夫だと言われていた。

本当にこのままでいいのか。

どこかでそう思いながら、
毎日、田んぼを見ていた。

一度、走り水をしましょうか。

椿さんにそう言われて、
一緒に水を入れ始めた。

強制落水から20日。待っていた入水。
(2025.6.29 空撮)


全面にさっと広がるくらいまで入れて、
また止める。

そんなイメージだった。

でもそのまま、
入水を続けていくことになった。

水が入ると、
苗の色が変わったように見えた。

少しだけ、濃くなる。

ああ、やっぱり水が必要なんだと、
そのときは素直にそう思った。

けれど、
思った通りにはいかなかった。

やっぱり休耕田は
なかなか溜まらない。

一方で、通年側は、
あっという間に水が満ちていく。

入水を再開しても、差がでる2つの田んぼ。
(2025.6.30 空撮)


入れすぎているかもしれない。

判断が揺れる。

水を入れたら、整うと思っていた。

でも実際は、
水を入れたことで、
見えてくるものが増えていった。

ここから、どうすればいいのか。

毎日が手探りだった。

このまま続けるのか。
それとも、何かを変えるのか。

水が戻った田んぼを見ながら、
そんなことを考えていた。

▶ この期間の空撮記録(Instagram)
走り水〜稲成長 | https://www.instagram.com/reel/DNdCManR31D/


第24話|分けて考える

7月3日。

田んぼの状態を見ながら、
ドローンでの散布を行った。

元肥と、除草剤。

元肥を入れたのは、通年側だけ。
休耕田側には、入れなかった。

長い間使われていなかった田んぼは、
土の中に養分が残っている。

だから、今回は必要ない。

同じに見えても、
やることは変わる。

これまでとは違う判断が必要になる。

除草剤は、両方に散布した。

元肥と除草剤の散布。
(2025.7.3 空撮)


今回の除草剤は粒剤。

水で溶かして、
土に浸透させていく。

何をするかだけでなく、
どう見るか。

少しずつ、
判断の基準が変わっていく。

▶ 7月3日の空撮記録(Instagram)
元肥・除草剤散布 | https://www.instagram.com/reel/DNJlUOuTG2f/


第25話|水が保てない

7月4日。

田んぼに行くと、
休耕田の水が減っていた。

前日に散布した除草剤の粒が、
そのまま残っていた。

水位が保てない休耕田。
左:通年側 / 右:休耕田側


水が足りていない。
慌てて、入水量を調整した。

入れたと思えば、また減る。

少し落ち着いたと思えば、
また足りなくなる。

休耕田は、
思うように水位を保てなかった。

一方で、通年側はすぐに満ちる。

気づけば、
入りすぎていることもあった。

どこで止めるのか。
どこまで入れるのか。

調整が、追いつかなかった。

7月7日。

満水の位置が分かるように、
田んぼに目印を立てた。

細い棒に、水位の印をつける。

これ以上入れると多い、という目安。

田んぼに立てた、満水の目印。


稲が伸びてくると、
上空からでも水の状態が分かりにくくなる。

だから、見えるようにする。

判断できるようにする。

やりながら、整えていく。

まだ、正解は分からない。

それでも、
手を止めるわけにはいかなかった。

〈2026年5月4日公開〉


第26話|増えていく

田んぼを始める前から、
この地域にはジャンボタニシがいると聞いていた。

そして、
入水を始めた頃から
通年側でジャンボタニシを確認していた。

最初は、
隣の田んぼでピンク色の卵を見た。

「うわー。これが卵かーー。」

えぐいピンクだった。

水の中を動く姿も、
もう見えていた。

ただ、入水後から強制落水をするまでの3日間は、
モグラの穴と水の管理で手いっぱいで、
休耕田に掛かり切りだった。

落水後、
水が抜けきらない通年側の水たまりの部分では
発芽した苗をジャンボタニシに食べられてしまった。

面積にすると、そんなに広くはない。

ただ、水たまりになりやすい箇所は数箇所あった。

水があるところで活性があがるジャンボタニシ。
水がない時は、地中に身を隠す。
暖かい地域では、冬も越えてしまう。
柔らかい苗や雑草を食す。
水に触れない高い位置に卵を産みつける。
ピンク色の卵には毒がある。そのため、天敵がいない。

そうーー
無限に増える。

入水を再開してから
動きが一気に目立ち始める。

左:ジャンボタニシの卵 / 右:ジャンボタニシが集まり始めた通年側


ピンク色の卵も増えていく。

水があると、動く。

柔らかい苗を、どんどん食べる。

モグラの穴に向いていた時間が、
一気にジャンボタニシへと変わっていった。


第27話|回収する日々

早朝、田んぼに行く。

日中は暑過ぎるので、一度帰宅。

夕方、また田んぼに行く。

ジャンボタニシを、回収するために。

これ以上、苗を食べられたくない。
ピンクの卵を放置すれば、さらに増える。

嫌だったーー。

石拾い。
雑草。
水が溜まらない。
モグラの穴。

スマート農業を掲げながら、農機を持たずに稲作を始め、
数々の泥臭い人の手でしか出来ない作業を頑張り、
田んぼがかわいいとさえ思うようになっていた。

それなのにーー。

ジャンボタニシの好きにさせたくない。

最初は、農会長に貰った小さいレーキで掬ってみた。

効率が悪い。

100均で虫取り網を買ってきた。

土まで掬ってしまう。

自作した。

長さを変えれるように、
つっぱり棒を利用し、先端に穴が開いた「おたま」を取り付けた。

なかなかいい。

バケツに袋を被し、
ひたすらジャンボタニシを掬う。

左:苗に産みつけられたピンクの卵 / 右:回収したジャンボタニシ


最初は、回収すればマシになると思っていた。

でも、そんな簡単な数じゃなかった。

取っても、取っても、まだいる。

次の日には、また増えている。

ピンク色の卵も、放置できなかった。

稲が低い間は、
田んぼの中まで入って回収した。

それは、稲が膝くらいの高さまで続けた。

さすがに、それ以上稲が成長すると田んぼの中を
歩けなくなった。

畦から見える範囲のみの回収になった。

毎朝、毎夕、田んぼで作業していると、
農道を散歩する人に
「何をしてるんですか?」と声を掛けられることもあった。

AAJの人たちも、
農会長も、
気にして田んぼを見に来てくれていた。

「そこまでやらなくても大丈夫ですよ。」

そう言われることもあった。

でも、放置はしたくなかった。
放置するとピンクの卵が増える。

それも嫌で、
頑張り続けていた。

水の管理もしながら、
苗の状態も見ながら、
その傍らで、ひたすら回収する。

どう処理するのかも問題だった。

回収したものを車に積んで持ち帰る。

最初は、生ゴミに出した。

でも、匂いがかなりきつい。

だからといって、
その辺に捨てるわけにもいかなかった。

別の田んぼに広がる。

それは避けたかったから、別の方法を取った。

気づけば、毎日記録していた
写真も動画も、ジャンボタニシばかりになっていた。

7月8日。

ストーリーズの更新を一旦止めた。

さすがに、
毎日これを見せ続けるのは違う気がしたし、
撮影するのも嫌になった。


第28話|それでも、育っている

7月12日。

中干しを始めた。

水を抜くと、
ジャンボタニシは動けなくなる。

だから、
水が残る場所に集まっていた。

もちろん、回収する。

そしてそこは、
最初に苗を食べられてしまった場所でもある。

見事に、ぽっかり抜けている。

ジャンボタニシに苗を食べられ、稲が残らなかった場所。


見にきてくれる人が、
ドローンで種を蒔き損ねたのか、と勘違いするほどに。

そう思われるのも、悔しい。

見にきてくれる人には説明するけど、
モデル地として進めているスマート農業は素晴らしい。

この田んぼでは、散布ドローンでの作業を担ってくれている
AAJさんが成育状況などを『ザルビオ』で管理し、
適期に作業やアドバイスをしてくれている。

素人が農機を持たずに
ここまで稲を成長させられているのは、
そのサポートがあるからだ。

だからこそ、
ジャンボタニシの好きにはさせたくないし、
スマート農業を勘違いしてほしくはない。

ジャンボタニシは、地域性の問題であり
稲作全般の問題ではないということも。

そして、作業は続く。

ジャンボタニシの回収。
水の管理。

少しずつ、
水位の変化にも気づけるようになっていた。

畦が崩れて、
水路の水が入り続けていたこと。

水が高いと、
ジャンボタニシが一気に動き出すこと。

通年側は、水位を低めに保つようになった。

一方で、休耕田側は、
以前より安定して水が入るようになっていた。

救いだったのは、
10年休んでいた休耕田側では、苗の成長期には
ジャンボタニシがほとんどいなかったことだ。

水路から水と共に入ってくるので、
後半には目立っていたが、
すでに食べられる時期は過ぎていたから。

空から見ると、
休耕田側の方が緑が濃く見えた。

休んでいた分、栄養が豊富で育ちがいいのかと
錯覚を起こしそうになるが、違った。

空から見た稲成長の比較。
左:通年側  / 右:休耕田側
(2025.7.20 空撮)


休耕田は、ジャンボタニシの問題はないものの
雑草が多く、稲より背が高くなるものもあり、
不安もあった。

それでも、
何もなかった田んぼに、
ここまで稲が育っている。

地上での稲成長の比較。
左:通年側  / 右:休耕田側(2025.7.21)


その稲を見るたびに、
やっぱり最後まで頑張ろうと思えていた。

〈2026年5月8日公開〉


第29話|届き始める

7月後半。

カケルDAYに向けた準備が続いていた。

「農」の新たな可能性について
パネルディスカッションに参加。


資料を作る。

作ったものを見直す。

登壇の内容を考える。

日中は、
ほとんどその作業に追われていた。

それでも、
朝と夕方は田んぼに出ていた。

ジャンボタニシ。

水の管理。

雑草。

やることは、
相変わらず山ほどあった。

そんな毎日の様子も、
ストーリーズに載せ続けていた。

7月25日。

岡山県西粟倉村でドローン事業をされている
合同会社misoraのお二人が、
田んぼを見に来てくれた。

岡山から取材に来てくれた、
合同会社misoraのお二人。


YouTubeで発信したいと、
取材を兼ねて撮影に来てくれた。

自分たちも来年から、
田んぼを始めようと思っている。

だから、
実際の様子を見てみたい。

そう言ってもらえた。

ただ田んぼをやっているだけでは、
こういう形にはならなかったと思う。

農機を持たないこと。

ドローンで種を撒いたこと。

毎日、変化を発信していたこと。

他の人が、
あまりやらない形だったからこそ、
興味を持ってもらえた。

自分では、
毎日必死だった。

でも、
続けていたことで、
少しずつ外に届き始めていた。

▶ 合同会社misora 白旗ちえみチャンネル 取材記録(YouTube)
農機具ゼロでスマート就農 | https://youtu.be/9VyUk9Mq4sA?


第30話|適期を逃さず追肥

7月29日。

ドローンによる追肥を行った。

粒状の肥料を散布した。
(2025.7.29 空撮)


ジャンボタニシ。
水管理。
雑草。

日々の記録は、
作業の話が増えていく。

でも、
目の前の作業に集中できていたのは、

AAJさんが、
「ザルビオ」を使いながら、
圃場管理を支えてくれていたからだ。

本来は、生産者がザルビオを見て動くのかもしれない。

ただ、
この「耕さない人が、耕す挑戦。」を、
全面的に支えてくれていた。

この時期、
散布作業はかなり忙しい。

それでも、
AAJの古一さんが、
出勤前に田んぼへ寄り、追肥の散布を行ってくれた。

朝6時半頃。

到着して、
準備をして、
そのまま散布。

約8反ある2つの田んぼに追肥の散布が完了した。

到着から、約30分の出来事。

本当に、
あっという間だった。

でも、
その短い時間の中に、
積み重ねられた技術と経験を感じた。

「ザルビオ」が示す適期に合わせて、
必要な作業を進めていく。

田んぼを始める前は、
どんな作業があって、
“適期”があることすら知らなかった。

もちろん、
委託すれば費用は掛かる。

でも、
農機を持たずに始められたのは、
こうして任せられる環境があったからで、
知識がなかったからこそ、
素直にその判断を信じ、任せ、
目の前に広がる青々とした稲を見ることが
出来ていると、感じていた。

毎日、暑い中、
時間が許す限り田んぼに出ていた。

でも一方で、
空から数分で作業を終わらせていく、
スマート農業の力にも、
何度も助けられていた。

追肥後の稲は、
また少し勢いを増したように見えた。

▶ 7月29日の空撮記録(Instagram)
追肥散布 | https://www.instagram.com/reel/DNjNYNVTYsb/


第31話|止まらない雑草

相変わらず、
ジャンボタニシの回収を続けていたが、
手が回らなくなっていた休耕田側では
別の問題が大きくなっていた。

雑草だった。

どんどん伸びていく。

追肥散布の影響は雑草にも出てしまうのかーー
と、思うほどに。

気づけば、
稲よりも高く目立つ場所も増えていた。

2つの田んぼの
畦の雑草もそうだ。

田んぼの中までは無理だけどーー

農具を持っていないので、
枝切りバサミで少しずつ畦周りの雑草を刈った。

歩きやすくするため。

産み付けられた卵に気づきやすくするため。

そんなことを考えながら、
毎日少しずつ刈っていた。

刈った後は、腕がプルプルする。

さらに困ったのは、水路だった。

近隣で刈られた雑草が流れ込み、
水路を塞ぐ。

そうすると、
通年側では畦を越えて水が入り続ける。

水位が上がる。

そして、
ジャンボタニシがまた活発になる。

ゴミも流れ込む。

言いに行くことも出来ない。

時折行っていた、地道な作業。
左:畦の除草 / 右:水路に詰まった刈草


結局、
自分で引き上げるしかなかった。


第32話|除草剤散布

8月13日。

雑草を気にしている発信を見て、
AAJさんが、
お盆にも関わらず、
除草剤を散布してくれた。

到着。
準備。
2つの田んぼを上空から除草剤散布。

液体の除草剤を散布した。
(2025.8.13 空撮)


相変わらず、早い。

ドローンの散布時間は、15分ほど。

しかも、
その効果は、想像以上だった。

稲より飛び抜けていた雑草が、
少しずつ色が変わっていく。

除草剤散布後の変化。
左:3日後 / 右:6日後


その変化を見ていた農会長も、
「何を使ったの?」と興味を持っていた。

それくらい、
変化は大きかった。

通年稲作地と休耕田。

比較しやすく並んでいるから、
余計に休耕田側の雑草が気になった。

実際は、これ以上に雑草が多い田んぼもあり、
気にしすぎる必要はないレベルのようだったけど、
まだまだ、これからが実っていく時期。

雑草だけが色を変えていく景色を見て、
少しほっとした。

▶ 8月13日の空撮記録(Instagram)
除草剤散布 | https://www.instagram.com/reel/DOpaVeAkU9f/


第33話|お米の赤ちゃん

除草剤の散布を行ってくれた古一さんが、
稲を一本取り、
茎を割って見せてくれた。

「そろそろ、見れるかもしれないですね。」

時期的には、
「幼穂(ようすい)形成期」というらしい。

中を見ると、
小さな白いものが付いていた。

幼穂。

稲を割ると見えた、幼穂。


お米の赤ちゃんだった。

本当に、
でき始めていた。

ずっと、作業はしてきた。

姿を変え続ける田んぼを見てきた。

幼穂。

その姿を実際に見ると、
気持ちは少し変わった。

しっかり、
お米を作っているんだ。

そう思えた。

そんなタイミングで、
この日、一つの記事も公開された。

クロストーク仲間で姫路経済新聞の記者・山本さんによる
メディア「innovaTopia(イノベトピア)」に、
女性パイロットが見せる新たな景色という
インタビュー記事が掲載された。

innovaTopiaに掲載された記事。


▶ innovaTopia 記事掲載
インタビュー | https://innovatopia.jp/smart-agriculture/smart-agriculture-news/62880/


第34話|敵だったはずなのに

同日。

古一さんに、言われた。

ジャンボタニシの回収は、もうしなくていいよ。

稲も成長しているから、
そこまで気にしなくて大丈夫。

農会長にも同じように助言されていた。

それでも、
ピンク色の卵が増えていくのを見ると、
放置する気にはなれなかった。

でも、
少しずつ、違和感が出てきていたのも確かだ。

休耕田側は、
雑草がどんどん増えていく。

でも、通年側は、
そこまで雑草が目立つわけではない。

考えてみると、
成長していく稲ではなく、
ジャンボタニシは、雑草の芽を食べているんだーー

そう考えると、
今まで見えていた景色が、
少し違って見えてきた。

もちろん、
稲を食べられたことは悔しい。

ジャンボタニシに食べられた場所の一部分。


でも、
ただの「害」で終わる話でもなかった。

そこから少しずつ、
回収の頻度も変わっていった。


第35話|出穂

8月20日。

8月30日開催の、ひょうご地域創生フェス「カケルDAY」で
一緒にトークセッションをする人たちが、
現地視察のため、来圃された。

案内や説明をしながら、稲穂に目を向けるとーー

初めて、出穂を確認した。

初めて確認できた出穂。


自分の目で見ても、
「これ、本当にお米で合ってる?」と、
来てくれてた人たちに聞くほど、驚いた。

「お米で間違いないよ。」

その言葉に、素直に喜んだ。

その日は、
他の人の現地視察もあり、
ゆっくり確認は出来なかったけど、
翌日、しっかり確認した。

一箇所だけじゃない。
通年稲作地も、休耕田も
確かに穂が出始めていた。


第36話|ドローン防除

8月26日。

ドローン防除を行なった。

出穂を確認した頃から、
よく見ると穂についている虫がいた。

出穂したばかりの穂は、
まだ柔らかかった。

まっすぐ伸びている穂に、花が付く。

出穂から2日後、お米の花を確認できた。
左:通年稲作地 / 右:休耕田


出穂が始まってから、一週間ほどで田んぼ全体の穂が出揃う
「穂揃い期」を経過する。

そして、防除。

この時期は、水の管理も徹底しなければならなかった。

穂を実らせるために欠かせない水。

朝、夕、入水量を調整する。

田んぼから見えた、スカイホール。


この時期の空は、秋の気配を感じさせ
珍しい空も見せてくれた。

▶ 8月26日の空撮記録(Instagram)
防除 | https://www.instagram.com/reel/DO-huV_j8f8/


第37話|垂れはじめる稲穂

8月31日。

カケルDAY。
左:ブースを手伝ってくれた仲間/右:散布ドローンの展示


前日行われた「カケルDAY」には、
AAJさんやクロストークの仲間、家族など、
多くの人に応援されながら
無事に終了した。

余韻に浸りながら田んぼへ向かうと、
まっすぐ伸びていた穂が、
垂れ始めていた。

穂が垂れ始めた田んぼ。
左:通年稲作地 / 右:休耕田


カケルDAYを頑張っている間、
稲も頑張ってくれていた。

ここまでくると、
作業は水の管理が中心になっていた。

9月3日。

台風情報が入り、
慌てて田んぼへ向かう。
水路のチェックを行う。
幸い、稲が倒れることもなく
「シキユタカ」は持ちこたえてくれた。


第38話|ラストのドローン散布

9月6日。

この日、最後となる
カメムシ防除のドローン散布が行われた。

カケルDAYでの発表や、インタビュー記事などで
興味を持ってくれた人たちが見学に来てくれた。

椿社長が、この挑戦とスマート農業について
説明してくれた。

「耕さない人が耕す挑戦」を説明してくれた椿社長。(右端)


ドローンでの散布を実際に見た人は、
口を揃えて言う。

「すごい。」

私もそうだった。

他の人と、ちょっとだけ違ったのはーー

稲作を全委託でやってみよう。
と、行動に移したことだけだった。

多くの新規就農者は、
この方法を取れない。

まず、入口がない。
つながりもない。
そして、出口もない。

就農をしたくても、
農業経験を積んで、補助金を申請する。
高額農機の購入を検討する。

高い壁がありすぎる。

そんな壁にブチ当たっている人は、
ぜひ相談してほしい。

そして、
新規就農希望者を受け入れる体制を整えている
株式会社エアーアシストジャパンの
ホームページも覗いてみてください。

▶ 株式会社エアーアシストジャパン
ホームページ | https://air-assist.co.jp/

▶ 9月6日の空撮記録(Instagram)
カメムシ防除 | https://www.instagram.com/reel/DPQoltFjxBb/

〈2026年5月11日公開〉


第39話|色づき始める

9月中旬。

ラストのドローン散布が終わり、
田んぼは少しずつ、
収穫へ向かっていた。

でも、
ある異変に気づく。

田んぼの外周側だけ、
白くなっている籾が目立っていた。

触ってみる。

中身がなかった。

白く変色した稲穂。


どうやら、
スズメに食べられたようだ。

外周側が狙われていた。

「うわ、めっちゃ上手に食べるな……」

そう思った。

悔しいというより、
もう笑うしかなかった。

美味しいんだろうな。

そう思うしかなかった。

その頃、
奈良県在住で、
淡路島・由良地区を盛り上げようと活動している
由良カンコウキョクの落合さんが田んぼを見に来てくれた。

来年度、
自分たちも田んぼへ挑戦したい。

そう話してくれた。

この挑戦を見て、
「やってみたい」と思ってくれる人がいることは、
素直に嬉しかった。

同じころ、
「カケルDAY」開催記事が、公開された。

あの日の熱量が、記事になった。


そして、
田んぼの景色も変わり始める。

緑から黄金色へと変化していく稲穂。
(2025.9.15 空撮)


緑色だった稲が、
少しずつ黄金色へ近づいていく。

畦に咲く彼岸花。秋の訪れ。
(2025.9.22 空撮)


彼岸花も咲き始めた。

秋が来る。

収穫が近づいている。

そう実感し始めていた。

でも、
嬉しい気持ちだけじゃなかった。

ずっと通ってきた田んぼ。

毎日のように見てきた景色。

収穫が終われば、
この時間も終わってしまう。

もちろん、
収穫は楽しみだった。

でもそれ以上に、
寂しくなる気持ちもあった。


▶ 関連記事(ライター 合楽 仁美さんによる記事)
カケルDAY 開催レポート | https://note.com/hyogo_sousei_pj/n/n5426a5884d5f


第40話|認められた田んぼ

9月22日。

田んぼにいると、
農会長が様子を見に来てくれた。

一緒に田んぼを見ながら、
「よくここまで来たな。」

そう声をかけてくれた。

休耕田だった場所。

しかも、
農業経験もない状態から始まった挑戦。

始めた頃から、ことあるごとに助けてくれた農会長。

村の田んぼを、
任せる不安もあったと思う。

たくさん支えてもらいながら、
ここまで稲が育った。

農会長は、
ドローンでの作業や、
使用した除草剤のことも気にされていた。

休耕田だったとは思えない景色。
(2025.9.22 空撮)


「これだけ出来るなら、
自分たちも取り入れていった方がいいかもしれない。」

そんな話もしてくれた。

実際に稲を見ながら、

「他の田んぼより、
1.3倍くらい大きいんじゃないか。」

とも言ってくれた。

それくらい、
稲の成長は良かった。

自分一人では出来なかったことだ。

農機もない。

知識もない。

経験もない。

でも、
つながりがあった。

助けてくれる人がいた。

応援してくれる人がいた。

エアーアシストジャパン。

地域の人たち。

見に来てくれた人たち。

その支えがあったから、
この挑戦を続けてくることが出来た。

最初は、
本当に休耕田を甦らせることが
出来るのか分からなかった。

でもこの頃には、
休耕田でも、
ちゃんとお米が出来る。

そう確信に変わっていた。


第41話|初収穫祭へ

9月後半。

10月4日に収穫することが決まった。

「ここまで頑張ってきたから、
何かやりたいね。」

椿さんたちが、
そう声をかけてくれた。

「初収穫祭、やろうか。」

そこから、
みんなで内容を考え始めた。

最初は、

バーベキューができたら。

採れたお米を食べてもらえたら。

そんな話も出ていた。

でも、
収穫当日にそこまでやるのは難しい。

だったら、
収穫を体験してもらおう。

実際に、
収穫の瞬間を見てもらおう。

そうやって、
少しずつ形になっていった。

収穫を待つ田んぼ。
(2025.10.1 空撮)


初収穫祭への参加を呼びかけた。

本当に、多くの人に関わってもらった。

新規就農の壁を低くしたい。

高齢化が進む農業界に希望を持たせたい。

出来る人。では、なく。
やりたい人。が、出来る農業を。

そう思って、
Torakoの田んぼプロジェクト
「耕さない人が耕す挑戦!」に、
チャレンジして来た。

だからこそ、
多くの人に見てほしかった。

そう思いながら、
初収穫祭の準備を進めていた。

〈2026年5月14日公開〉


第42話|初収穫祭

10月13日。

ついに、
初収穫祭の日を迎えた。

当初予定していた、
10月4日は雨で延期になった。

前日には、
加西市から、
農事組合法人「あぐりーど玉野」さんの
大型コンバインが搬入された。

こんな大きなコンバインを見るのは、
初めてだった。

早朝。

最後の稲穂風景を撮影しに田んぼへ向かう。

黄金色になった田んぼ。

初収穫日の朝。
(2025.10.13 空撮)


いよいよ、
刈り取りの日を迎える。

初収穫祭は、
10時スタート。

収穫祭をやると決まった時、
隣の畑のおじいさんに、

「テントを張らせてもらってもいいですか?」

そうお願いして、
場所を貸してもらっていた。

少し早めに行って、
準備を始めていると、

事前申し込みしてくれていた人たちが、
続々と集まって来てくれた。

テント立てなどの準備を、手伝ってくれた。

エアーアシストジャパンのみんなも到着し、
コンバインを運搬するトラックも到着。

そして、
あぐりーど玉野の理事、
高井さんとも挨拶を交わした。

椿さんと共に、
この挑戦を見守り続け、
時には、アドバイスをくれた人。

その高井さんが、
実際に来てくれていた。

「今日はよろしくお願いします。」

そう言葉を交わしながら、
初収穫祭が始まった。

まずは、
椿さんの挨拶から。

ここまでの挑戦や、
どんな想いで進めてきたかを、
参加者のみんなに話してくれた。

その後、
参加者全員で自己紹介。

10時30分。
コンバイン始動。

いよいよ、
刈り取りが始まった。

まずは通年稲作地から刈り取り開始。
高井理事が、大型コンバインを動かす。

刈り取りが始まった。


速い。

撮影しようと追いかけたけど、
早足でも厳しいほどだった。

外周を2〜3周刈り取った後、
もみをトラックへ移していく。

刈り取ったもみを、トラックへ積み込んでいく。


そのタイミングで、
巨大なコンバインの前で、
記念撮影をした。

初収穫祭🌾 記念撮影。


続いて、
トラクターで耕起や代かきを担ってくれた
大林さんが、
大型コンバインの操縦にチャレンジ。

初めての大きさだと言ってたけど、
上手く操縦する。

本当にあっという間に、
稲が刈られていく。

準備されたトラックは、2台。

積みきれないとの判断で、
1台が一杯になった時点で、加西市まで搬送。
トラックを空にして、戻って来てくれた。

休憩を挟みながら、
休耕田側も刈り取り。

でも、
コンバインでも刈れない場所もある。

畦際の端の部分だ。

そこは、
参加者のみんなに、
鎌で手刈り体験をしてもらった。

子供たちも、
一生懸命手伝ってくれた。

手刈りで頑張ってくれた。


楽しそうに稲を集めてくれる姿が、
すごく嬉しかった。

ある程度刈り取りが進むと、
今度はコンバイン試乗体験。

止まった状態ではあったけど、
順番に運転席に乗ってもらった。

コンバイン試乗体験。


子供たちは、
特に大喜びだった。

そして、
初収穫祭のメインイベント、
「稲穂グランプリ」。

手刈りした稲の中から、
一番実が多そうな稲穂を一本選び、
何粒お米がついているかを競う。

稲穂グランプリチャレンジ。


みんな、
テントの下で夢中になって数えていた。

一本で、
100粒近くついていることも分かった。

こんなに実るまで育ったんだ。

そう思うと、
改めて、すごいことなんだなと思った。

優勝したのは、
手刈りを頑張ってくれていた
子供たちのお母さんで、佐々木さん。

さらに、
カケルDAYで行っていた、
「新米5kgプレゼント企画」の抽選会も行った。

くじを引いてくれたのは、
参加してくれていた子供。

そして当選したのは、
大阪から来てくれていた岡田さんだった。

当選を喜んでくれた、岡田さん。(右端)


カケルDAYでも、
現地上映する映像編集や設営まで、頑張ってくれた。

本当に色々と関わってくれた人だったから、
当たってくれて嬉しかった。

そんなこんなで、
初収穫祭は、
あっという間に終了した。

本当に、
たくさんの人が来てくれた。

そして初収穫祭が終わった後、
田んぼには静かな時間が流れていた。

▶ 初収穫祭の空撮記録(Instagram)
前半 | https://www.instagram.com/reel/DQIIRDkE09V/
後半 | https://www.instagram.com/reel/DQS9HI1D325/


第43話|刈り取り後の田んぼ

片付けが終わり、
みんなが帰った後。

田んぼは、
静まりかえっていた。

さっきまで、
たくさんの人がいた場所。

でも、
目の前の景色は、
もう変わっていた。

稲がなくなっている。

あんなに黄金色だった田んぼが、
姿を変えていた。

トラック2台半分ほど。

刈り取った籾は、
あぐりーど玉野さんへ運ばれていった。

乾燥と調整を行い、
その後、
但馬米穀さんへ販売する流れになっていた。

ただ、
全部売ってしまうわけにはいかなかった。

プレゼント用のお米も必要だったし、
自分でも食べたかった。

だから、

「150kgだけ、
 置いておいてください。」

そうお願いした。

みんなが帰った後の田んぼを見ながら、
いろんな感情が込み上げてきた。

本当に終わったんだな。

そう思った。

何もなくなった田んぼ。

刈り取りを終えた田んぼ。
(2025.10.15 空撮)


毎日のように通った場所。

草だらけだった景色。

石拾いをした日々。

水が入らなかった日々。

少しずつ変わっていった田んぼ。

これまでの景色が、次々と思い出された。

もちろん、
やり切った気持ちもあった。

休耕田を甦らせることが出来た
喜びもあった。

でも、
それ以上に、
やっぱり寂しかった。

ただーー

この挑戦は、
ここで終わりじゃない。

今年やったことを、
次へ活かしていく。

そして、
まだ、結果は出ていない。

そう。
委託した作業費をみんなに支払わなければ。

収穫したお米を売った収益で、支払ってくれればいい。
と、待ってくれている。

収量。

買取価格。

委託費支払い。

その結果、手元にいくら残るのか。
そこまで受け止めなければ。

そこまで受け止めて、初めてこの挑戦になる。

〈2026年5月17日公開〉


第44話|耕さない人が残した記録

収穫祭が終わり、
刈り取られた籾は、
あぐりーど玉野さんへ運ばれていった。

反収は、500kg弱だろう。
と、高井さんから連絡をもらった。

当初の刈り取り予定日が雨で、少し時期が延びた。

その影響もあり、
反収が若干減ったようだった。

正確な数字は、後日。

それを待つ間、
この挑戦を振り返った。

これから、どうするのか。

収穫したら終わり。
というわけではなかった。

そんな中、
この挑戦に関する記事が出た。

一つは、「カケルDAY」の続編。
この挑戦への取り組みを取り上げられた。

もう一つは、
エアーアシストジャパンさんとの取り組みについてだった。

凄いことだ。

この挑戦をしなければ、
自分のことが記事になることはなかっただろう。

ただ、
やり遂げた中でも思うことはあった。

スマート農業を掲げながら、
泥臭く田んぼで作業を繰り返したことと同じく、
体験し、納得できないと伝えていけない。

そんな性分だった。

初めてのシーズンを手探りで進め、
休耕田でもしっかり収穫できた。

でも、
自分の中で、気づき始める。

それは、
収穫後、色々と行動を起こした中で
少しづつ見えてくることになる。

12月。

古一さんが、あぐりーど玉野さんから
初収穫米を持ち帰ってくれた。

30kgを5袋。

中は、玄米だった。

実は、
精米の経験もない。

プレゼントの初収穫米を届けるために、
初精米機にチャレンジ。

新米なのに、精米方法を間違えて
ずいぶん減ってしまった。

早速、食べてみた。

品種は「しきゆたか」

初めて食べる品種だったけどーー

美味しい。

匂いもいい。

粒は、しっかりしていて大きく、甘みも強い。

自分で育てたお米を食べるーー

贅沢だ。

初収穫米をプレゼントする予定の、
佐々木さんと岡田さんに連絡をした。

佐々木さんが、驚く行動をしてくれた。

この挑戦を少しでも多くの人に知ってもらうため、
子ども食堂へ寄付するから、一緒に行こうと。

ずっと、応援してくれていた。

最後の最後までーー

感謝しかない。

岡田さんは、忙しい中わざわざ大阪から
取りに来てくれた。

彼もまた、
ずっと応援してくれていた一人だ。

ありがとう。

陰ながら支えてくれた妹にも新米を分けた。

めちゃくちゃ美味しい。
ほんまに頑張った結晶やな。と。

12月中旬。

正確な収量と販売金額。

そして、委託費が出た。

最終的に、
支払いを終えて、
手元に残ったのは約46万円。

赤字にはならなかった。

ただ、
この結果をどう受け取るかは、人それぞれだと思う。

でも、

知識もない。

経験もない。

農機もない。

それでも、
たくさんの人に支えられながら、
この結果を残せた。

そして、
約四反の休耕田を甦らせることが出来た。

初年度の挑戦として、
この結果を素直に喜びたい。

それが、

関わってくれた人たちへの
感謝になるとーー。

ありがとう。


耕さない人が耕した田んぼは、
一年を終えた田んぼになっていた。



あとがき

ここまで、
「第1章|耕さない人が耕す挑戦」を
読んでいただき、
ありがとうございました。

この連載は、
2025年の出来事を、
2026年2月から振り返りながら
書き続けてきました。

書き進める中で、
当時は見えていなかった気持ちや、
挑戦の意味にも、
少しずつ気づかされました。

そして現在、
挑戦はすでに2年目へ入っています。

第2章では、
今年の挑戦と、
収穫後に見えてきた現実も含めて、
少しずつ記録していこうと思います。

第44話の中で触れた記事は、こちらから読むことができます。

▶ 関連記事(ライター 合楽 仁美さんによる記事)
カケルDAY 続編記事
 https://note.com/hyogo_sousei_pj/n/n8aafc2e31608

▶ 関連記事((株)エアーアシストジャパンさんとの取り組み記事)
日本農業新聞
 https://www.agrinews.co.jp/news/prtimes/340986


ここまで読んでいただき、
本当にありがとうございました。

とらこ

〈2026年5月18日公開〉

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