《欲しがりさん》と《あげたがりさん》
今は昔。あるところに、二人のお婆さんがひっそりと住んでおりました。
村人達は山奥で一人暮らしをする二人のことをシイ婆さんとタエ婆さんと呼んでおりました。
シイ婆さんは田んぼや畑で暮らしておりました。明るく楽しいお調子者なので、皆から好かれておりました。
タエ婆さんの生業はお針子さんでした。穏やかでおとなしく親切なので、皆から好かれておりました。
シイ婆さんは困った事があると、タエ婆さんにやって欲しいと言いました。
『田植えを手伝ってくれんかの』
『柿が生ったで、取ってくれんかの』
『着物の袖に穴が空いた。縫ってくれんかの』
タエ婆さんは、世の為人の為にしてあげることが嬉しくて、そんな風に頼まれるたびに快く引き受けました。代わりに米や柿を分けて貰ったり、どこかに出掛けた先のお土産物にありつけました。
とある年の春のことです。シイ婆さんの裏山が崩れてしまいました。埋まった田んぼは、あっという間に草だらけ。田植えどころではありません。
困ったシイ婆さんは言いました。
『草をむしってくれんかの』
『土砂をどかしてくれんかの』
タエ婆さんは、頼まれた通りに引き受けて草まみれ泥まみれになって手伝いました。
ところがこの夏。その疲れが元で、タエ婆さんはすっかり具合を悪くしてしまいました。治りかけても、ちっとも咳込み止みません。
そんなでしたので、シイ婆さんから頼まれ事を言われても、やってあげる事ができません。なんともすまなく思って居ました
そして、この年の秋のことです。そんな様子に耐えかねたシイ婆さんは言いました。
『あの人は、頼んだってちっともやってくれない。全くもって役立たずだわさ』
そう吐き捨てると、村の若い衆に稲刈りや柿取りを頼み、やってもらいました。お礼に米も柿も若い衆に分けて、タエ婆さんには持っていきませんでした。
すると、タエ婆さんは言いました。
『今まであんなにしてあげたのに、何ひとつよこしゃしない。全くもってケチだわさ』
と、仲の良かった二人はすっかりケンカばかりになってしまいました。
そんな冬の、とある大雪の日。薪割りをキッカケに言い争う二人の前に、編笠を被った一人の僧侶が現れました。
『こらこら、どうしたものかのう。ひとまずケンカはやめなされ』
僧侶の声掛けに落ち着いたシイ婆さんとタエ婆さんは、口々に不平不満を訴えました。
『この人はいくら頼んでも、ちっとも私を手伝ってくれやせぬ』
『この人は、あんなに色々してあげたのに、お礼の一つもよこしゃせぬ』
ひと通り話を聞き終えると、僧侶はシイ婆さんに言いました。
『あなたはやって欲しいの《欲しがり》ばかりで、それが当たり前だとなってやしませんか?!』
そして僧侶はタエ婆さんに言いました。
『あなたは《してあげたかった》からではないのかね。見返り欲しさにやったのですか?!』
二人は、それでも口々に文句を並べました。僧侶は今一度、二人を落ち着け窘め言いました。
『自分のことを他人任せにする、あなたの図々しさがバレましょう』
『あなたの《してあげたい》は欲のため。世のや人の為なぞ、嘘だったんだとバレましょう』
シイ婆さんもタエ婆さんも、もう何も言い返せませんでした。そして僧侶は笑いながら言いました。
『二人とも、鏡写しの傲慢者。持ちつ持たれつ、仲良しこよしじゃ!ワッハッハッ』
そう告げると、シャリンシャリンと独鈷を鳴らして吹雪の中に消えてしまいました。
村にも山にも、また春が来ました。
シイ婆さんもタエ婆さんも、僧侶の言葉に我に返って、すっかり独り立ちして、自分で自分の仕事と暮らしをしておりました。
そして己れが満ち足りたなら、苦も喜びも幸いも、互いに時々お裾分け。
めでたしめでたし。昔は今。おしまい

この説話を書くキッカケとなった実話↓
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