見出し画像

波の音屋 #シロクマ文芸部

「いらっしゃいませー。」
波の音、屋?
看板に「波の音屋」とあるから、土産屋だと思って入ってみた。

「いらっしゃいませー。気になるものがあったら、お鏡の前であわせていただいていいですよおー。」
店員が棚を片付けながら横目で声をかける。
音なのに、なんで鏡なんだろうと思いつつ、中に入る。

波の音らしく、貝殻が並べてある。
つやつやの巻貝。
サザエみたいだけどすごく輝いてるやつ。
オレンジからピンクへのグラデーションが美しい合わせ貝も置いてある。

アワビみたいなのを手に取る。
普通、こういうの巻貝でしょ、と思いながら耳に当てる。

とたんに目の前に広がるのは波。ほんとに波!
そして見上げる青い空。風を切る感覚。
息を吸い込む!

「いかがですか?サーフィンの聖地ゴールドコーストの波の音です。」
サーフィン?!これがサーフィンなんだ。そっか、こうなのか。

水しぶきが顔にかかった気がして、思わず顔を拭う。

これは…。
次、何にするか悩む。

「日本のものはいかがですか?お客様。ご出身は?」
「北海道の右上の方」
町の名前を言っても分からないことが多いから、こんな風に説明する。
「それでしたら、こちらはいかがですか?」
差し出されたのは、でかいシジミみたいな貝。

ホッキ貝だ。

まさかと思いつつ、耳をあてると、ちりっと波の音がはじける。
さっきの爽快な夏の海とは真逆の光景。

冬の海。

ただただ重い空と、広い海。
波の飛沫まで凍ってしまう町。

近くに流氷が来た時にこっそり拾ってかじったら、そんな塩味でもなかった。
短い夏のきのこ狩り。
ほめてもらおうと思って取りすぎて、その後毎日食べることになる。
でかい鮭の切り身。
いつも流れっぱなしのラジオ。
朝の薪ストーブの匂い。
床下のじゃがいもの冷たさ。

あぁ。
子ども時代が一気に押し寄せてきた。

「お客様、お鏡であわせてみてください」

なるほど。

鏡に映る俺。
思い出で胸がいっぱいになるときは、こんな顔なのか。
少しうれしくなった。

「これにします。」

「ありがとうございます。とても、お似合いでしたよ。」



参加させていただきました。
いつもお題をありがとうございます。
#シロクマ文芸部  前回のお題は夜店からでした。


ダ・ヴィンチWebの読書感想文に応募しました。
よかったらこちら↓にもお立ち寄りください。


いいなと思ったら応援しよう!

ことり|読書と読書感想文 最後まで読んでいただきありがとうございます。 スキしていただいたり、コメントしていただいたりしたらうれしいです。 もしチップをいただいたら、本の購入に使わせていただきます。