水たまり #シロクマ文芸部
ばしゃっ、と水が上がった。
深い水たまりの上を車が通ったせいだ。
あんなに深い水たまり。
もしかして湖につながってて、入るとすごい潜れたりして。
そんなことを考えながら、塾へ向かう。
「郵便局、またあのお姉さんだったわ。もう、家バレしちゃうね。」
お母さんは今日、中学受験の願書を出しに行った。
受験するのは、ぼく。
塾に近づくにつれ、同じバッグを背負った子どもたちが増える。
今は塾にいる方が気が楽だ。
家にいて、リビングにいると、親から出ている「勉強しなくていいのか」という空気が気になる。
だから部屋にいる。
部屋にいたってそんなに勉強してない。
ふつうにゲームしたり、絵をかいたりしてる。
もともと勉強はいやじゃない。
やったらできるところが楽しい、それだけ。
やらないといけない勉強は、今までやったことがなかった。
道路沿いの歩道はどこもところどころ水たまりがある。
そこにぼくが映る。
いつものパーカー短パンに瞬足。そして塾のバッグ。
よけようとしても歩くと波紋ができる。
ぼくの目の前にたしかにある水たまり。
「受かるはずだ」と言われる。
でも受からないこともあるかもしれない。
いやそもそも受かるとか受からないとか、なに?
受かったらうれしい。
で?
勉強は、やったらできるのが楽しい、それだけじゃ、だめ。
そんなこと、考えたこともなかったのに、
考えはじめると、水の中に体をまるめて浮いているようなきぶんになる。
プールに入るみたいに、どぶんと入ってそのまま体育座り。
ひざを曲げ、手を組んで、背中を丸める。
自然に体が浮いてくる。
そのまま丸まっていると何も聞こえない。
どのくらい息がとめられるのかな、考えているのはそのくらい。
あの水たまりから、どこかの深い湖に出ることができるなら、
どぶんと入ってそのまま静かに、湖にたどり着く。
考えながら歩いて、塾についた。
やらなきゃいけないことをするのは、そのあとのため。
顔をあげたら、もう水たまりは見えない。
参加させていただきました。
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