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【小説】仮面と怪人-10-【オリジナル】

前回

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 それから、一睡も出来ない日々が続いた。



 日に日に憔悴していくサチは、余計に視線を集めた。

 遂には授業中に倒れ、サチはしばらく別教室で自習。

 という形を取ることになった。


 人の目から離れ、少しだけ気が楽になった。

 だが、『特別扱い』されていること。

 それが、余計に追い詰められているような気がした。


 自習を監督するのは、基本的に女性教師だった。

 中でも、以前話しかけてきた、英語教師がよく来ていた。


 その教師は二十五歳と、この学校の教師の中では比較的若かった。

 そのためか、生徒からもよく言えば親しく、悪く言えば馴れ馴れしく接されることが多かった。


 良くも悪くも生徒との距離が近いその教師は、サチにも親身に接していた。


「疲れがでちゃったのよね」


 最初は、そう言って寄り添ってきた。


「調子が悪いのなら、無理に学校に来ることもないのよ?」


 何度目かの自習。

 彼女はそう言ってきた。


「成績、落とすわけには、いかないんです」


 サチがそう答えると、


「頑張り屋さんね」


 と、彼女は頭を撫でてきた。

 サチは、その手つきに体が震えた。


 顔を上げれば、そこには、優しく微笑みを浮かべる顔があった。

 それがたまらなく、不気味だった。


 その日を境に、彼女のスキンシップは徐々に増えてきた。

 最初は肩や手。

 次第に、寄り添って教えるフリをして、頬と頬を触れさせるようにまでなった。


 彼女はいつも、そういったスキンシップのあとは、何事もなかったように微笑みを浮かべていた。

 サチは次第に、彼女の微笑みが、貼りつけた仮面のような無機質なものに見えて、不気味に思うようになった。


 しかし、厄介なのは彼女はただ触れてくるだけ、ということだった。

 それ以外、特に不審なこともなく、誰かに助けを求めることも出来なかった。

 サチはただ、我慢するしかなかった。


 ある時、また彼女は頬を寄せてきた。

 冷や汗の滲んだサチの肌と、彼女のすこしヒヤリとした肌が張り付く。

 いつもの通り、サチは耐えてやり過ごそうとした。

 だが、彼女はサチの顎に手を添えると、顔を横に向かせ、唇を重ねてきた。


 なにが起こったか、彼女の唇が離れるまで理解が追いつかなかった。

 唇が離れたあとも、『なにをされたか』が分かっただけで、『なぜそんなことをしたか』は全く理解できなかった。


 彼女は何事もなかったかのように、ただ、笑みを浮かべているだけだった。


 サチはその時、彼女へ抱く感情が明確に恐怖に変わった。

 授業終了のチャイムがなると同時に、逃げるように空き教室を出た。


 助けて、助けて。


 心の中で、声が生まれた。


 だが、その声はすぐにかき消えた。

 休み時間に、一斉に廊下に溢れ出す人の波の中。


 彼ら、彼女らの顔が、すべて張り付けた仮面のように見えた。


 いつ、その仮面が剥がれ、自分に襲いかかってくるのか、分からない。


 サチは、心臓が握りしめられたような感覚に襲われた。

 脳に届かない、浅い呼吸を繰り返し、その場に膝をついた。


「ねぇ、大丈夫?」


 誰かが声をかけてきた。

 誰かは分からないが、心配そうに見下ろしてきていた。


「気分悪いの? 保健室行く?」


 なんで自分が優しくされるのか、サチは理解が出来なくなっていた。


 心配してくれている?

 こいつも何かしてくる ?

 憐れんでるの?

 見下してるの?


 その優しさに裏があるんじゃないか、と勘ぐった。

 そして、そう思ってしまう自分を嫌悪した。


 頭の中が感情で埋め尽くされ、グチャグチャになった。

 腹の底から嫌悪感が噴き上がった。

 抑えきれず、それは床にまき散らかされた。


 目の前の女生徒、そして周りから悲鳴が上がった。


「汚ね」

「廊下の真ん中で」

「はやく拭けよ」


 侮蔑の視線を、サチは感じた。

 目の前に居た娘の制服も汚れ、申し訳なさに圧し潰されそうだった。


 そんな時、ふと顔を上げると、いつも自分の席を取るあの女子が居た。

 自分を見下ろすその視線が、全部を見通してきているようで、怖かった。


 騒ぎを聞きつけたのか、教師達も集まってきた。


 その中に、あの女教師も居た。


 包囲され、圧し潰されてしまいそうだった。


 サチは悲鳴を上げて、その場から逃げ去った。


次回


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