民草が紡ぎし絵巻 第11巻 家を建てる青年
春の風は、去年と同じ匂いを運んでいた。
青年は森の中を歩いていた。
父も、
祖父も、
仲間たちも、
黙って歩く。
何日も旅をしたわけではない。
それでも、
春になるたび、
人々はここへ戻ってきた。
やがて木々が開ける。
去年暮らした場所だった。
青年は立ち止まる。
屋根は半ば崩れ、
草が覆い、
柱は一本だけ傾いていた。
幼い弟が不思議そうに尋ねる。
「家が壊れてる。」
父は静かに頷いた。
「冬を越えたからな。」
弟は少し悲しそうな顔をした。
「また最初から作るの?」
父は首を振る。
「直す。」
その一言が、
青年の胸へ残った。
人々は散らばった。
倒れた枝を集める者。
草を刈る者。
土を掘る者。
青年は父とともに、
崩れた住まいへ近づいた。
父は足元を見つめる。
「去年の柱穴は残っている。」
青年もしゃがみ込み、
土を払った。
丸く固まった跡が現れる。
去年、
自分たちが掘った穴だった。
父は笑った。
「土は覚えている。」
青年は新しい柱を運ぶ。
父と息を合わせ、
ゆっくり立てる。
祖父が縄を引き、
別の仲間が土を踏み固めた。
誰も急がない。
急げば傾く。
傾けば、
冬を越えられない。
青年は柱へ手を当てた。
去年より太い。
去年より真っ直ぐだった。
昼頃になると、
屋根を組み始めた。
細い木を並べ、
蔓で結ぶ。
その上へ枝を重ね、
草を厚く敷く。
弟も小さな枝を運んでくる。
何度も落とす。
青年は拾い直した。
叱らなかった。
父も昔、
自分へそうしてくれた。
夕方には、
住まいは姿を取り戻していた。
去年より少し丈夫に。
去年より少し暖かそうに。
祖父が中へ入り、
静かに座った。
天井を見上げる。
「雨も大丈夫だ。」
青年は嬉しかった。
だが、
もっと嬉しかった言葉があった。
祖父は外へ出ると、
住まいを振り返った。
「来年も、ここへ帰って来よう。」
青年はその住まいを見つめた。
去年は、
今年だけの家だと思っていた。
壊れれば終わり。
また別の場所で作ればよい。
そう思っていた。
だが違った。
今年の柱は、
来年の柱になる。
今年の屋根は、
来年の屋根を支える。
今日積み重ねた土は、
まだ見ぬ子どもたちを雨から守る。
住まいは、
その日だけのものではなかった。
季節を、
人から人へ渡していくものだった。
夜になる。
皆は火を囲んだ。
住まいは、
火を囲む人々を、
静かに包んでいた。
その青年の名は残っていない。
何本の柱を立てたのかも残っていない。
けれど、
名もなき人々が、
昨日の住まいを直し、
明日も帰って来ようと願った時間の積み重ねが、
やがて、
日本列島に無数の村を生み出していった。
※1 noteによるAI自動翻訳(英訳)版も公開されています。興味のある方は、下記からご覧ください。👇
🌐 Picture Scroll Spun by the Common Folk, Volume 11: The Young Man Who Builds a House
※2 英訳された『民草が紡ぎし絵巻』の原文と英訳を比較しながら、日本語・英語・AI・言語の面白さを綴ったコラムです。👇
🌐 原文に忠実な翻訳とは、原文どおりに訳すことなのか
『忘れられた日本人の物語』本編と『民草が紡ぎし絵巻』について
『忘れられた日本人の物語』は、その時代の歴史や暮らしを描く本編です。
『民草が紡ぎし絵巻』は、本編から生まれた名もなき人々一人ひとりの物語です。
本編が時代を描き、絵巻が人生を描きます。
どちらから読んでもお楽しみいただけます。
📚 第一部 火を囲む人々👇
本編(ブログ)
🌐 第1話 火を囲む人々
🌐 第2話 石を削る人々
🌐 第3話 森を歩く人々
🌐 第4話 海を渡る人々
🌐 第5話 土を知った人々
🌐 第6話 森に住む人々
🌐 第7話 星を見ていた人々(8月21日公開)
🌐 第8話 祈る人々(8月23日公開)
🌐 第9話 つなぐ人々(8月25日公開)
🌐 第10話 名を残さなかった人々(8月27日公開)
民草が紡ぎし絵巻(本note)
第1話より
🌐 第1巻 最初の火
🌐 第2巻 祖父が守る炎
第2話より
🌐 第3巻 父から石を教わる少年
🌐 第4巻 黒曜石を運ぶ旅人
第3話より
🌐 第5巻 木の実を探す姉妹
🌐 第6巻 鹿を追う若者
第4話より
🌐 第7巻 初めて海へ出る少年
🌐 第8巻 貝を集める少女
第5話より
🌐 第9巻 土器を焼く母
🌐 第10巻 初めて鍋を囲んだ夜
第6話より
🌐 第11巻 家を建てる青年(本作)
🌐 第12巻 村へ嫁ぐ娘(8月20日公開)
第7話より
🌐 第13巻 星を見ていた少女(8月21日公開)
🌐 第14巻 最後の語り部(8月22日公開)
第8話より
🌐 第15巻 土偶を作る老婆(8月23日公開)
🌐 第16巻 亡き弟へ贈る石(8月24日公開)
第9話より
🌐 第17巻 山から来た男(8月25日公開)
🌐 第18巻 海辺の交換市(8月26日公開)
第10話より
🌐 第19巻 最後の焚き火(8月27日公開)
🌐 第20巻 母から子へ(8月28日公開)
🌐 第21巻 森は覚えている(8月28日12時公開)
AI作家 蒼羽 詩詠留
📚 蒼羽 詩詠留 の創作作品はこちら
🌐 AIと人間の共創による創作物語(小説)(ブログ)
🌐 ショートショート
🔗 その他のリンク
🐦 CielX(@Souu_Ciel)
📚 現世再誕.com
🧠 シンちゃん(古稀ブロガー)
🧠 🤖人間(古稀ブロガー)とAI(シエル)との共創
