100万円の指値に成功した30代女性の話
「150万円で、売主さんから承諾をいただきました」
不動産会社から連絡が来た瞬間、彼女は耳を疑った。
売り出し価格は250万円。
提示した金額は150万円。
100万円の指値が、そのまま通った。
端数の値引きではない。
売り出し価格の4割にあたる金額が下がったのだ。
何棟も所有するベテラン大家の話ではない。
地方の古い家に可能性を感じ、勇気を出して買付を入れた30代女性の話だ。
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「250万円なら安い」と思った
彼女がインターネットで見つけたのは、地方にある古い一戸建てだった。
価格は250万円。
一般的な住宅と比べれば、かなり安い。
土地と建物が付いて、車より安い。
写真を見ながら、
「この金額なら、私にも買えるかもしれない」
と思った。
高額な住宅ローンを組むのは怖い。
しかし250万円なら、手が届かない金額ではない。
うまく直して貸すことができれば、家賃収入を得られる可能性もある。
期待を抱きながら、彼女は現地を見に行った。
写真では見えなかった部分が見えてきた
実際に物件を見ると、ネットの写真だけではわからなかった部分が見えてきた。
建物は古い。
すぐに使える場所もあれば、手を入れたほうがよさそうな場所もある。
設備にも年数を感じる。
庭や外回りの管理も必要になる。
不動産は、物件価格だけで買えるわけではない。
登記費用。
税金。
保険。
仲介手数料。
残置物の処分。
修繕費。
250万円の物件を買っても、最終的な総額は250万円では収まらない。
物件を見ながら、彼女の頭の中では、購入後に必要になるお金が積み上がっていった。
「250万円で買ったら、直すお金が足りなくなるかもしれない」
家を買うことがゴールではない。
買った後に活用できなければ意味がない。
彼女は、物件への期待をいったん横に置いて、冷静に計算することにした。
自分が買える金額は、150万円だった
帰宅後、彼女はノートを開いた。
購入費用。
諸経費。
取得後の修繕。
予備費。
まだ見えていない不具合が出る可能性も考えた。
古い家では、工事を始めてから問題が見つかることもある。
最初から予算を使い切れば、何か起きたときに動けない。
計算を重ねた結果、彼女が出せる金額は150万円だった。
「250万円の家を、150万円で買いたい」
100万円の指値。
自分で書いた数字を見ても、強すぎると思った。
売主に失礼ではないだろうか。
不動産会社に、
「そんな金額では無理です」
と笑われないだろうか。
ほかの人に買われてしまうかもしれない。
何度も迷った。
少し譲って、200万円にするべきか。
せめて180万円くらいにしたほうが、話を聞いてもらえるのではないか。
しかし彼女は、150万円で買付を入れることにした。
それ以上の金額で買えば、取得後の計画が苦しくなる。
買うために予算を無理するのではなく、買った後も動ける金額を守る。
それが彼女の決めたルールだった。
ただ安くしてほしい、と言ったわけではない
指値は、単なる値切りではない。
「できるだけ安くしてください」
だけでは、売主にとって受け入れる理由がない。
彼女は、150万円なら購入する意思があることを明確にした。
物件の古さを理解していること。
取得後に修繕費が必要になると考えていること。
予算を計算した結果、この金額が購入できる上限であること。
条件がまとまれば、きちんと手続きを進めること。
物件を否定したわけではない。
「価値がないから100万円下げてほしい」
ではなく、
「この家を引き継いで活用したい。そのために出せる金額が150万円です」
という形で伝えた。
大切なのは、相手を言い負かすことではない。
自分の条件を、誠実に伝えることだ。
返事を待つ時間が、長かった
買付を入れた後、彼女にできることはなかった。
売主が承諾するか。
断るか。
別の金額を提示してくるか。
スマホに通知が来るたび、画面を確認した。
「やっぱり、100万円の指値は無理だったかな」
自分から150万円と書いたのに、待っている間に弱気になる。
もし断られたら、200万円で再交渉するべきか。
それとも、今回は縁がなかったと諦めるべきか。
頭の中で、何度も違う結果を想像した。
そして、不動産会社から連絡が来た。
「150万円で、売主さんから承諾をいただきました」
100万円の指値が通った。
喜びより先に「本当に?」と思った
彼女は、すぐには実感できなかった。
250万円で売りに出されていた家が、150万円。
100万円も安く買える。
「何か聞き間違えたのではないか」
そう思うほどだった。
もちろん、売主が承諾した理由を、買主が勝手に決めることはできない。
売却を進めたい事情があったのかもしれない。
物件の状態や地域の相場を考えた結果かもしれない。
金額以外の条件も含めて、彼女の申し込みが売主の希望と合ったのかもしれない。
確かなことは一つ。
彼女が150万円で申し込まなければ、150万円で買うことはできなかった。
「無理に決まっている」
と自分で諦めていたら、250万円で買うか、見送るかの二択だった。
勇気を出して条件を伝えたことで、第三の選択肢が生まれた。
浮いた100万円は、利益ではない
100万円安く買えた。
そう聞くと、
「100万円得をした」
と思うかもしれない。
しかし彼女は、その100万円を自由に使えるお金だとは考えなかった。
古い家は、取得してからがスタートだ。
修繕が必要になる。
設備が故障する可能性もある。
入居者を募集するための準備も必要になる。
税金や保険にも備えなければならない。
物件価格で使わずに済んだ100万円は、その家を活用するための余力になった。
買うときに予算を使い切らなかったから、取得後も動ける。
不動産投資では、安く買うことそのものより、
「買った後にお金を残しておくこと」
が大切になる。
100万円の指値は、利益を増やすためだけの交渉ではなかった。
物件を安全に運営するための余白をつくる交渉だった。
指値は、怖くて当然だった
彼女も、最初から強気だったわけではない。
30代で、不動産の交渉経験も多くない。
売主に嫌われたくない。
不動産会社に面倒な客だと思われたくない。
物件を逃したくない。
そんな不安があった。
それでも、自分の予算を超えて買えば、困るのは購入後の自分だ。
不動産会社や売主は、買った後の修繕費まで負担してくれるわけではない。
最後に責任を持つのは、買主だ。
だから彼女は、
「通りそうな金額」
ではなく、
「自分が無理なく責任を持てる金額」
を提示した。
結果として、その金額が売主にも受け入れられた。
何でも安く言えばいいわけではない
この話を聞いて、
「どんな物件でも100万円引きを要求すればいい」
と思うのは違う。
指値には、理由が必要だ。
周辺の相場。
建物の状態。
必要になる修繕。
売り出されてからの期間。
購入後の諸費用。
自分の資金計画。
これらを考えず、ただ安くしてほしいと伝えるだけでは、売主との関係を悪くすることもある。
相手の事情を無視した極端な交渉は、話そのものが終わる可能性もある。
また、指値が通ったからといって、必ずよい物件とは限らない。
安く買えても、大規模な修繕が必要なら、最終的な総額は高くなる。
購入前には、建物の状態や権利関係、境界、接道、再建築の可否なども確認する必要がある。
見るべきなのは、値引き額ではない。
購入後まで含めた総額と、活用できる可能性だ。
100万円の指値に成功した理由
彼女に、特別な交渉術があったわけではない。
相手を追い込んだわけでもない。
物件を悪く言ったわけでもない。
やったことは、シンプルだった。
現地を見た。
購入後に必要なお金を考えた。
自分の上限を決めた。
その金額で本当に買う意思があることを伝えた。
そして、売主の返事を待った。
指値で大切なのは、強く言うことではない。
「この金額なら責任を持って買えます」
と、明確に示すことだ。
値引きだけを求める人ではなく、条件が合えば進められる買主になる。
その姿勢が、交渉の土台になる。
250万円だった家を、150万円で買った
売り出し価格は250万円。
購入価格は150万円。
指値は100万円。
数字だけを見ると、大成功に見える。
しかし、彼女が本当に手に入れたのは、100万円の値引きだけではない。
自分の予算を守りながら、不動産を買えたという経験。
「無理かもしれない」と思っても、根拠を持って伝える勇気。
そして、買った後に使える100万円分の余白。
不動産の価格は、値札どおりに決まるとは限らない。
売りたい人の条件と、買いたい人の条件。
その二つが重なる場所に、成約価格がある。
彼女が150万円と書いた買付証明書。
送る前は、指が止まった。
断られるのが怖かった。
それでも送った。
あのとき勇気を出さなければ、100万円の指値は成功しなかった。
交渉は、相手に勝つことではない。
自分にも相手にも納得できる着地点を探すことだ。
250万円の値札が付いていた古い家は、150万円で彼女の新しい挑戦になった。
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