「この人なら、お金を払ってくれるかもしれない」と思った瞬間を、ちゃんと次につなげたい
プロダクトを作ることは、ずいぶん簡単になった。
AIに相談すれば、企画の壁打ちができる。ノーコードやAIコーディングツールを使えば、昔なら何か月もかかったようなWebサービスが、かなり短い時間で形になる。
でも、作ったものを最初の誰かに使ってもらうことは、全然簡単になっていない。
むしろ、ここがいちばん難しい。
自分自身、何度も「作ること」と「売ること」の間にある大きな溝にぶつかってきた。採用動画サーチを作ったときも、TATTOOMEEを作ったときも、技術的には前に進んでいるのに、最初の顧客に届くところで立ち止まった。
最近、その問題について考えているうちに、欲しいサービスの輪郭が少しずつ見えてきた。
それは、単なるユーザーインタビューサービスでも、広告運用代行でもない。
試作品を本当に使ってくれる人、条件が合えばお金を払ってくれる人を見つけるサービスだ。
「インタビューできた」だけでは足りない
ユーザーインタビューは好きだ。
実際に困っている人の話を聞くと、自分たちが机の上で立てていた仮説が、すぐに現実に引き戻される。どんなタイミングで困るのか。今はどうやってしのいでいるのか。何にお金を使っているのか。何を面倒だと感じているのか。
こういう話を聞いていると、ときどき明らかに熱量の違う人が現れる。
「それ、もしできたら使いたいです」
「いまも似たようなことにお金を払っています」
「その条件なら、試してみたいです」
もちろん、言葉だけでは信用できない。「便利そうですね」は、ほとんどの場合、購入の約束ではない。
でも10人くらい、ちゃんと対象を絞って話を聞くと、肌感覚として分かってくることがある。
この課題は本当に切実だ。
この人は、未完成な試作品でも試すかもしれない。
価格や導入条件が合えば、PoCに参加してくれるかもしれない。
逆のことも分かる。
みんなが困っているようには見える。でも、その困りごとは今すぐ解決したいほどではない。既存のやり方で我慢できる。お金を払うほどではない。
そういうときは、「これは売れないかもしれない」と判断できる。
それは失敗ではない。作り込む前に分かったなら、むしろ価値のある検証だと思う。
いちばん熱い瞬間で、関係が切れる
ところが、既存のインタビューサービスには大きな前提がある。
それは、ユーザーリサーチのための場であることだ。
参加者は、話を聞かせるために来る。謝礼は、その協力への対価として支払われる。これはとても大切な原則だと思う。参加者が「調査に協力しただけなのに、後から営業される」と感じたら、安心して参加できなくなる。
だから多くのサービスでは、インタビュー後に参加者へ営業したり、サービス外で直接つながったりすることが制限されている。
その考え方は理解できる。
でも、新規事業を考える側からすると、少しもどかしい。
なぜなら、インタビューのなかでまさに「この人ならPoCに参加してくれるかもしれない」と感じた、その最も価値のある瞬間に、正規の導線が切れてしまうからだ。
もちろん、ルールを破ってつながるべきではない。
ただ、本来なら参加者にとっても悪い話ではないはずだと思う。困っていることを話して、その解決策になるかもしれない試作品を、本人が望むなら早く試せる。作り手にとっても、最初の顧客候補と出会える。
その両方を、ちゃんとした同意のもとでつなげられたらいい。
欲しいのは「回答者」ではない
ここで考えたのが、エバンジェリストユーザーを見つけるサービスだった。
ただし、最初から「紹介してくれる人・発信者」を集めるわけではない。
探したいのは、次のような人だ。
- いま、具体的な困りごとを抱えている
- すでに代替手段に時間やお金を使っている
- 新しい解決策を試す理由がある
- 試作品が未完成でも、早く解決できるなら検討したい
- 価値を感じたら、継続利用や紹介につながる可能性がある
つまり、ただのインタビュー回答者でも、無料のベータテスターでもない。
**実際に困っていて、価値があれば自腹で払う人**だ。
この人たちに会えることが、新規事業にとってはものすごく大きい。
作り手は、プロダクトの完成度を上げる前に、「そもそもこの課題にお金を払う人がいるのか」を見られる。参加者は、課題を聞いてもらえるだけでなく、希望すれば自分の課題を早く解決する選択肢にもアクセスできる。
謝礼と有料利用は分ける
このサービスで大事なのは、報酬と購入を絶対に混ぜないことだと思う。
初回参加では、参加者は課題について話す。その対価として謝礼を受け取る。ここでは、試作品を使う義務も、後から営業を受ける義務もない。
そのうえで、本人が希望した場合に限り、別のステップとして試作品の案内を受けられるようにする。
たとえば、参加者は面談後にこう選べる。
- 今回はヒアリングだけで終える
- 試作品の案内を受け取る
- 有料の先行利用やPoCの案内も受け取る
ここで初めて、試作品を使うかどうかを本人が決める。
そして試作品は、無料ベータではなく、基本的には有料にする。
もちろん、初期利用価格は通常より安くていい。期間限定の先行利用でもいい。返金条件付きのデポジットでもいい。
目的は売上を最大化することではない。
**「無料なら触ってみる」と「自分のお金を払ってでも使いたい」の境界を確かめること**だ。
前者は興味のシグナルで、後者は事業性のシグナルになる。
BtoBにもBtoCにもある話
これはBtoBだけの話ではないと思う。
BtoBなら、有料PoCやデザインパートナーという形になる。企業の課題を聞き、条件が合う担当者や決裁者に、試作品の導入を提案する。導入支援や個別対応を含めて、有料パイロットとして始める。
BtoCなら、もっとシンプルだ。
生活者の課題を聞く。希望者には、アプリ、デジタルサービス、サブスクリプション、商品などの先行利用を案内する。少額でも払って使う人がいるかを見る。続けるか、誰かに話すか、レビューするかを見る
作ることと、欲しい人に会うことは別の能力だった。
採用動画サーチでも同じだった
採用動画サーチを作ったときも、似た感覚があった。
開設時点で2万ページ以上のページを用意した。YouTube上の採用関連動画や企業動画を検索できるようにして、これだけのサイトボリュームがあればSEOでもかなり強いのではないか、と期待していた。
でも、自然流入は雀の涙だった。
コンテンツを集めて並べるだけでは、人は来ない。ページがあることと、誰かがそのページを見つけて、使う理由があることはまったく別だった。
「良いものを作れば、いつか見つかる」
この期待は、かなり危ない。
少なくとも初期は、どこに困っている人がいて、どういう文脈なら会えるのかを、プロダクトそのものと同じくらい先に設計しないといけない。
これは「最初の顧客」を見つける仕組み
既存のユーザーインタビューサービスは、調査として完成している。既存のベータテストサービスも、試作品を使ってもらう仕組みとして存在している。
でも、その間には少し空白がある。
- 本当に困っている人を集める
- 謝礼付きで、丁寧に課題を聞く
- 希望者だけに、試作品の案内を出す
- 少額でも有料で使う意思があるかを見る
- 継続、改善協力、紹介につながる人を見つける
この一連を、参加者を不意に営業対象にせず、本人が選べる状態で正面から扱う。
それができたら、作り手にとっては「最初の顧客を見つけるための実験場」になると思う。
商品を作った人が買うのは、広告枠ではない。
「登録者数」でもない。
まして、根拠のない「ユーザー100人」でもない。
買うのは、**自分の仮説を壊さず、必要なら前に進めるための検証機会**だ。
10人に話を聞き、何人が試作品の案内を望んだか。何人が有料で使ったか。使わなかった人は、何に引っかかったか。
その結果を見れば、作るべきか、直すべきか、やめるべきかが少しずつ見えてくる。
たぶん、自分がいちばん欲しい
正直、このサービスは僕自身がいちばん欲しい。
作るのは好きだ。話を聞いて、仮説を変えるのも好きだ。
でも、最初の一人に出会うまでが長い。誰に声をかければいいか分からない。広告を出しても、欲しい人に届くとは限らない。コミュニティに入って発信するのも、必要だと分かっていても、すぐに効くわけではない。
プロダクト開発のコストは下がった。
次に必要なのは、初期顧客に会うまでのコストを下げることなのかもしれない。
「この人なら、お金を払ってくれるかもしれない」と思った瞬間を、裏ルートで終わらせない。
そのための、最初の顧客と作り手の出会い方を、ちゃんとしたサービスとして作れないか。
いまはそんなことを考えている。
