グライコのススメ
私はヤマハのモニタースピーカーHS5を愛用しています。アンプ内蔵で音質も良く、それでいてペア3万円台と価格も手頃。大昔はもっと高額なスピーカーを使っていた時期もありましたが、今はこのHS5に大いに満足しています。
そんなHS5にも少々物足りない点があります。それは低音が物足りないことです。
5インチウーファー搭載の2ウェイモニターとしては、GenelecやNeumannなどの価格がずっと高価な製品はもちろん、JBLなどの近い価格帯の製品と比べても低音はあまり出ていないようです。
厳密には全く出ていないわけではないのですが、低域に対して中高域の方がよく出ているために相対的には低音不足に感じるのです。

HS5の周波数特性を見てみると、確かに中高域に対して低域の出力レベルが低めなのが確認できます。80Hzくらいが少し盛り上がってますが、それでも中高域より2〜5dBほど低く、それ以下はダラ下がりです。しかし、ダラ下がりの低域に変なピークや谷はないので、その部分を持ち上げてあげれば出てくる音の印象はかなり変わるはずです。
そこで思いついたのがグライコ(グラフィックイコライザー)の導入です。
昔はオーディオシステムにグライコは必須と言っても過言ではないくらい一般的でした。しかし、グライコはおろかトーンコントロールすらも音質を最優先する上では良くない、という風潮が高まってきます。そして、気がつけばピュアオーディオ界隈でグライコはほぼ使われなくなってしまいました。今も残っているのは、アキュフェーズの高級機くらいではないでしょうか。
一方、業務用オーディオの世界では、まだまだいろいろな製品が存在します。価格も手頃なものも多く、それらの評判は決して悪くありません。
そこで、業務用機器の中から良さそうなものを検討することにしました。
安価で評判の良いメーカーにBEHRINGERがあります。BEHRINGERには2万円を切るグライコがあり、評判も悪くありません。これでいいかなと思っていた時に、何気なくヤフオクをチェックすると、dbx 215sが安価で出品されてました。状態も良さそうなので、すぐに入札。結果としてBEHRINGERよりも安価でdbx 215sを導入することになりました。

dbx 215sはステレオ15バンドのグラフィックイコライザーです。接続はとてもシンプル。私のシステムだとHS5とESI MoCoの間にXLRで接続するだけでOKです。とくに設定などの必要もありません。
ちなみに215sに電源スイッチはありません。常に電源は入りっぱなしです。私は電源入れっぱなしにしてますが、少し筐体が暖かくなる程度なので、この使い方で問題はないと思われます。
接続したら早速セッティングです。本当はマイクと専用のソフトで部屋を含めた測定をすべきなのですが、マイクもソフトもありませんので、メーカーが発表しているHS5の周波数特性を参考にセッティングしていきます。

低域を持ち上げるのですが、それは40Hzまで。それ以下はそもそも出ていないので持ち上げても意味がありません。あとは周波数特性を見ながら、相対的に出力が低い帯域をフラットに近づけるイメージで持ち上げてあげるわけです。ただ、HS5の特徴である中高域の盛り上がったところを下げることはしません。これはHS5の良い個性だと考えているからです。これを左右両チャンネル、個別に行います。
ちなみに215sを通すと、この状態で最大6dBブーストされます。
まず、このセッティングで試聴してみます。
音が出た瞬間、まるで別物と思うくらい低域が豊かです。ベースやドラムの低音がきれいに聴き取れます。しかも、ボワつくことのない、歯切れの良い気持ちの良い低音です。これは気持がいい!
低音が豊かになることで、中高域の良さがスポイルされるかと思いきや、そんなこともありません。逆に基礎がしっかりした建築物のように、中高域のキレの良さや軽やかさもより生きてきた印象です。
ソフトによっては、ごくわずかに低音に歪みが出ているように感じるものもありますが、基本的には音質の劣化はほとんど感じられません。なかなか良い具合です。
CDとアナログでは、やや低音不足気味だったアナログの方が効果が高いだろうと予想してました。確かに効果覿面なのですが、意外にもCDも低音過多になる感じもなく素晴らしく気持ちが良いのです。アナログに関しては、もっと低音を持ち上げても良いのかもしれません。

幸い、215sにはRANGEスイッチがついています。これを押せば最大12dBブーストできるのです。ちなみにRANGEスイッチを押すと、ボタンが赤く光ります。RANGEスイッチを押すと、さらに低域が豊かになります。これでCDに対して少し物足りなく感じていたアナログがベストバランスに変わります。とても豊かで厚みのある気持ちの良い音質です。
さすがにそこそこ音量を上げると、CDでは低音が増えすぎて、少々やり過ぎな感じになります。ただ、アナログはこのくらい低音を持ち上げてあげた方がバランスが良いようです。
グライコの良さが一番発揮できるのは、実は小音量再生時です。夜、ヘッドホンではなく、どうしてもスピーカーで音楽が聴きたくなった時は、どうしてもボリュウムは下げざるを得ません。すると、まず真っ先に聴こえづらくなるのが低音です。すると、とても痩せた音になってしまうわけです。音楽のダイナミズムが失われてしまうのです。
それをグライコで持ち上げてあげるだけで、小音量でもびっくりするくらいバランスの良い音で音楽を再生することができます。音量を上げた時と同様とまでは行きませんが、十分に音楽を楽しめる音質だと感じています。
今はグライコの使用は決してメジャーではありません。PCオーディオであればソフトウェアによる補正の方が、もっと細かな設定もできると思いますし音質も有利でしょう。それに、サブウーファーを導入すればもっと本格的に質の高い低音再生が可能です。
しかし、サブウーファーは場所もとりますし、使いこなしも容易とは言えない部分があります。そんなときグライコの導入は、意外にも気軽に音質を向上させることができるアイテムなのではないかと感じています。
私が導入したdbx 215sは、販売価格2万円台前半の製品です。しかし、実績もあるメーカーなので安心して使えますし、品質もしっかりしています。最初のグライコとしては申し分のない品質を持っていると思います。
音をグライコでいじることに抵抗を感じる方は多々いらっしゃると思います。しかし、実際は手軽に音を調整するのには極めて効率的で、音質劣化はほぼ感じません。ソフトウェアも含めてグライコの導入は、自分が求める音質で音楽を楽しむのにとても有効ではないでしょうか。
必要以上に機器の買い替えを推進するよりも、一度グライコを試してみるというのは選択肢の一つとしてあっても良いように思います。現状のオーディオの音に満足していない方で、システムにグライコの導入が難しくない方は、是非、一度お試しください。
