住み替えはすごくいいと思うのだけれど、そのタイミングが難しい | 老後の暮らしを整える
私の親は、栃木にある祖父母が住んでいた家と、さいたまの自宅を、気楽に行き来していた。かつては車で、母が免許を返納してからは、電車で移動していた。
父は、70代に入るまで仕事を続けていたが、仕事を辞めたあとは、祖父母の家での畑しごとを、生きがいにしていた。
年齢を重ねていくにつれ、2軒の家を行き来するのが難しくなることは明白だった。が、父も母も、どうするかを決めきれないでいた。
そして、コロナ禍となった。栃木の家に比べると、さいたまの家の周りは圧倒的に人が多い。しばらく栃木の家で暮らすのがいいだろう、ということになった。
当時、父も母もさいたまの家を離れる、という覚悟はなかったと思う。
しかしながら、コロナ禍は長引き、母のデイサービスをはじめとした介護サービスも、住所を移して、栃木で体制を整えたほうがいいだろう、ということになった。(ケアマネージャーさんたちの協力のおかげで、さいたまから栃木への介護サービスの移行は、驚くほどにスムーズだった。感謝!)
祖父母が暮らしていた栃木の家は、平屋で、小さな畑のできる庭もあり、周囲ものどかな住宅地だ。近所のかたも、老夫婦の暮らしを気にかけてくれている。老後の家として、サイズ感もちょうど良い。祖父母が晩年を過ごしていたこともあり、玄関やトイレ、廊下などに、手すりがついていたりと、最低限の安全も確保されていた。
さいたまの家は2階建てで、私がいくら片づけても階段にものを置くし、家の裏は車の通行量が半端ない大きな通りだったりと、心配ごとが多かった。父と母が栃木の家に住所を移すことを決めたときは、心底ほっとした。
さいたまの家も、水回りなどのリフォームをしていた。が、父主導で行ったリフォームは、ヒートショック対策も、生活動線の見直しも十分とはいえず、私は不安を拭えずにいた。そんな経緯もあって、栃木の家の見直しについては、父との衝突は覚悟の上、私はがしがしと踏み込んでいった。
長年住み慣れた家を、老後の暮らしに向けて手直ししていく、というのは、正直、かなり難しいことだと思う。本人たちの気持ち、費用面も含めて、かなり高いハードルがあることは承知の上で、私は、よりコンパクトな家への住み替えを勧めたい。
何十年も繰り返してきた家事というのは、年をとって、体力が衰えてきても、ぎりぎりまで気力でカバーできてしまう、というのが、非常にやっかいなのだ。ぎりぎりの状態になる前に手を打たなければ、本人たちの自覚がないままに、生活の質が落ちていってしまう。一番のネックは、現実に即した気持ちの切り替えができない、ということだと思う。
3大家事と呼ばれる、料理、洗濯、掃除、だけでなく、家計管理(お金の管理)や生活用品の出入りに伴う整理収納、庭の手入れ、不用品の処分など、高齢になるにつれて、ハードルが上がってしまうことが、どんどん増えていく。
高齢者が、安全に、健康的な環境を保ちながら自宅で暮らし続けるためには、多くの名もなき家事も含めて、できること、できないことを把握しつつ、できないことへの対処をしていく必要がある(そして、日々、状況は変化していく)。体力、気力とともに、判断力が低下していくなか、「まだだいじょうぶ」では、とうてい太刀打ちできない。
私の場合、父と母が、75歳前後のタイミングで、家を住み替えることになり、私ががっつりとサポートをすることで、なんとか老後の暮らしを整えることができた。家の住み替えによって、生活を一新せざるを得ない状況に追い込まれたからこそ、暮らしの見直しができたのだと思う。
父と母がさいたまの家での生活を続けていたら、今まで通りでいい、まだだいじょうぶ、と親の抵抗はもっと強かっただろうし、私も途中で諦めてしまったと思う。そうなると、今のように父と母で自宅で暮らし続けることは、すでに難しくなっていたと思う。
老後の暮らしを整えるにあたって、一番大切なことは、自分が老いていく将来を現実的にとらえて、必要な手立てをしていく、ということだと思う。
例えば、サービス付き高齢者用住宅(サ高住)に住み替える、と、決めているのであれば、自宅の見直しは必要ないだろう。が、私の親のように、できるだけ自宅で生活を続けていきたい、と考えているのであれば、現実的に、今まで通りというわけにはいかないのだ。
祖父母の家がなければ、私の親も、家の住み替えなどできなかったと思う。
母がおれおれ詐欺に遭ってしまったように、うすうすと不安を感じながらも、なにかしら問題が起きるまで、手を打てない。親たちは、ぎりぎりまで、頑なに、今まで通りを続けていたと思う。
私自身のことを考えると、こどもがいないので、親のように、誰かにサポートしてもらいながら老後の暮らしを整える、というシナリオは存在しない。
自力でやるとなると、期限をもって準備したほうがいいだろう。時間切れ、を目の当たりにすることが本当に多いのだ。
私が今住んでいるところは、リゾート地として人気がある一方、冬の寒さが厳しく、高齢になると、お子さんの家の近くや都市部に引っ越しされるかたがとても多い。その際、ご自身では引っ越し荷物をまとめられず、家の中はそのまま、身ひとつで転居していく、というケースが本当に多い。歳をとると、以前は当たり前にできたことが、できなくなってしまうのだ。
私の親が、さいたまから栃木に住所変更をしたのが75歳前後、役場の手続きや住所変更手続きなど、結局、すべて私が代行せざるをえなかった。近所のかたをみていても、75歳を越えると、どんなにしっかりされているかたでも、なんらかのサポートなしでの引っ越しはかなり厳しそう、という印象だ。
知人、友人を見回してみると、60代前半のひとたちは、なんなら私よりも元気にみえる。65歳〜75歳の10年の間に「老い」の大きな変化があるのだろう。
自力で、老後の暮らしを整える、ためには、65歳までに、ひととおりの準備を終えることが、安全そうだ。65歳が年金をもらい始める年齢、と考えると、確かに、理にかなっている。
が、はたして、60代前半、現役世代と変わらずに元気な状態で、老後の暮らしを整えることなどできるのだろうか。定年後に自宅のリフォームをするひとは多いが、私の父のように、現状維持するための手直し、になってしまうのが多いのではないだろうか。
老後の暮らしを整えるって、そのタイミングが難しすぎる、というのが一番の問題のようだ。うーむ。
