【娘のために】49歳会社員が、AIと12万字のファンタジー長編を書いた話
はじめに
娘が、オオカミの本ばかり読んでいる。
いや、オオカミだけじゃない。神話もファンタジーも。家の本棚も、学校や図書館で借りてくる本も、そんなジャンルばかり。その姿を横目で見ながら、ある日ふと思った。
「全部詰め込んだ世界を、自分で書いてみたらどうなるんだろう」
本を読むのは好きです。でも、小説を書いたことはありません。前作『非・入力型AI活用術』はビジネス書で、初めてのKindle本でした。noteにもその経緯を記事にしています。自分の業務経験をまとめたもので、構成も論理も、仕事の延長線上でなんとかなった。
小説は違う。キャラクターが動く。世界がある。感情がある。論理だけでは書けない。
それでも書き始めたのは——娘が夢中になっているものを、丸ごと一つの世界にしてみたかったからです。
それが、約12万字の長編ファンタジーになりました。
第1章:ビジネス書と小説は、まったく別の生き物だった
前作のビジネス書に加えて、AIを使ったアプリ開発もやっていました。AIとの協業にはそれなりに場数を踏んでいた。あの記事にも書きましたが、役割を与え、議題を出し、決裁を下す。あのやり方でいけるだろう。
甘かった。
書き進めるうちに、同じ違和感が積み重なっていきました。AIが返してくる文章は、文法も構成も正しい。でも、読んでいて心が動かない。
「文章としては正しい。でも、これは小説じゃない」
ビジネス書なら「正確でわかりやすい」が正義です。でも小説は違う。正確でわかりやすい文章は、むしろ退屈になる。
読者の心に残るのは、説明しすぎない文章です。書かれていない行間を、読者自身が想像で埋める。その余白がなければ、小説は動かない。
AIは聞かれたことに答えようとします。小説に必要なのは、答えを書かないことでした。
第2章:「文体設計書」という発明
困った時はビジネスの発想に戻る。
業務で品質を安定させたいなら、マニュアルを作る。同じことを小説でもやりました。「文体設計書」と名付けた資料です。
この物語は5部構成で、主人公の心理状態が部ごとに変わります。それに合わせて、文体そのものを変化させる設計にしました。
たとえば——
主人公が恐怖で孤立している第一部では、短い文を連ねて呼吸を詰める。オオカミの群れに居場所を見つける第二部では、文が長くなり、森の匂いや獣の体温を描く余裕が生まれる。戦争に入る第三部では、同じ五感描写が冷徹な情報処理に変わる。
文体がキャラクターの心理と連動する。
物語の終盤では「五感だけが残る」文体にしました。感情が剥がれ落ちた後の、むき出しの知覚。最終章では、主人公とオオカミの感覚が境界なく溶け合う。文体そのものが、物語の一部になるように作りました。
この設計書があることで、AIに「この場面はこのルールで書いてほしい」と明確に伝えられるようになりました。ルールが曖昧なままだと、AIはきれいだが平板な文章しか返してこない。具体的に詰めた分だけ、出てくる文章が変わりました。

第3章:AIが書いたのか、私が書いたのか
AIは使いました。フルに使いました。
プロットの壁打ち、場面の草稿、文字数の管理、矛盾のチェック、文体の検証。一人では絶対に完成しなかった。
では、AIが書いた小説なのか?
違います。
実は、この小説は一度完成しています。約4万字。AIと一緒に最後まで書き切った。
でも、読み返して愕然とした。物語が薄い。設定が甘く、見せどころが少ない。短いこと自体が問題ではなく、書くべきものが足りていなかった。
4万字を捨てました。正確に言えば、捨てる決断をするまでに数日かかりました。「なんとか手直しで済ませられないか」と足掻いた末の判断です。
そこから作品設定の作り直しが始まりました。世界の成り立ち、勢力の構造、キャラクター同士の関係性。一つ直すと別の場所が矛盾する。矛盾を潰すとまた別の場所が崩れる。作品設定は最終的にr14——14回改訂しました。プロットも8回、文体設計も8回書き直しています。
AIは与えたルール通りに書いてくれます。しかし、「このルールでは足りない」と気づくのは私です。4万字の完成稿を捨てて、土台から作り直す判断は、AIには下せなかった。
骨格はAIと一緒に作った。でも、骨格を一度壊してもう一度組み直したのは、私です。
第4章:12万字を書き切るということ
設定を組み直し、プロットを立て直して、二度目の執筆が始まりました。
全5部+終章、30を超える場面。書き直し後の第一部を終えた時点で約1万字。完成まであと何万字あるのか、まったく見えていませんでした。ところが、書き進めるうちに物語の方が先に歩き始めた。
たとえば、主人公の少女は、プロットでは「居場所を見つけて安心する」段階を踏むはずでした。でも書いてみると、彼女はそう簡単に安心しなかった。群れの中にいても、どこかで「ここにいていいのか」と問い続ける。その不安を書き飛ばすことが、私にはできなかった。
第二部は全体の25%を超える最大のパートになりました。居場所を得るまでの全過程を、省略せずに書き切った。プロットの想定より膨らんだのは、彼女がそれを必要としたからです。
プロットは設計図。でも住むのはキャラクターです。
設計図通りに建てても、住人が「ここに窓がほしい」と言えば、窓を開けなければならない。
あとがきにこう書きました。「作者が物語を作るというより、物語に連れていかれる感覚が何度もありました」と。
第5章:娘が一気に読んだ
完成した原稿を娘に渡す時、少し不安でした。
娘が好きな要素で始めたはずの物語が、思った以上に重い物語になっていた。4万字を捨てて作り直した分だけ、物語は深くなったけれど、同時に痛みも増していた。
娘は一気に読んでくれました。
それだけで、この本を書いた意味がありました。
おわりに:小説を書くということ
49歳で初めて小説を書いて、わかったことがあります。
小説は「自分が知らなかった自分」に出会う作業です。
ビジネス書は、自分が知っていることを整理して伝える。小説は、自分が知らなかったことが、書いている途中で出てくる。キャラクターの口を借りて、自分でも気づいていなかった感情が言語化される。
かけがえのない体験でした。
AIがいなければ完成しなかった。それは間違いありません。でも、道具が連れて行ってくれるのは途中までです。最後の一歩は、自分で踏み出すしかない。
こうして完成したのが『だれも呼ばない名前 ——アシエラ戦記——』です。

名前を呼ばれない少女が、オオカミの群れに居場所を見つける。しかし、人間とオオカミの戦争が始まった時、少女は選択を迫られる——。
異世界ファンタジー長編、全五部+終章。約12万字。
▼ Kindle本『だれも呼ばない名前 アシエラⅠ』(新版・250円)
【2026年7月31日 追記】この本は新版(第2版)になりました。シリーズ名の変更にともない『だれも呼ばない名前 アシエラⅠ』に改題し、全編を書き直しています。物語の結末は変わりません。上のリンクが新版です。旧版をお持ちの方が買い直す必要はありません。続篇『還る温もり アシエラⅡ』も刊行しました。二作目を書くまでの話は、こちらに書いています。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
アシエラの物語は、まだ続きます。
次にお会いする時も、どうぞよろしくお願いします。
