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【経営理念は現場から生まれる⑨】現場→理念→現場――中小企業に必要な経営の循環



ここまで、「経営理念は現場から生まれる」というテーマで書いてきました。

松下幸之助も、最初から完成された経営哲学を持っていたわけではない。
経営者の理念は、成功だけではなく、失敗や苦労から生まれる。
孔子も、先に人生があり、あとから言葉が残った。
人を育てることも、任せることも、現場の必要から生まれてきた。

そして、社長が本当に大切にしているものは、言葉だけではなく、時間の使い方に表れる。

ここまで書いてきて、私は一つのことにたどり着きます。

経営理念とは、
現場から生まれ、現場に戻っていくもの
だということです。

理念は、会議室から生まれるのではない

経営理念をつくろうとすると、
会議室に集まる。
ホワイトボードを出す。
付箋を貼る。

「私たちの存在意義は何か」
「社会にどんな価値を提供するのか」
「10年後にどんな会社になりたいのか」
と考える。

もちろん、考えること自体は大切です。

しかし、私は中小企業の場合、そこから始めなくてもいいと思っています。
なぜなら、会社にはすでに歴史があるからです。

創業した。
苦労した。
売れなかった。
人が辞めた。
資金繰りに苦しんだ。
お客様に助けられた。
社員に支えられた。
大きな判断をした。
間違えた。
やり直した。

その積み重ねの中に、すでに理念の原石があります。

だから、ゼロから作るより、
これまでの現場から掘り起こす
方が自然なのです。

現場には、経営者の判断の跡が残っている

会社を20年経営していれば、社長は何千回、何万回と判断しています。

この仕事は受ける。
これは断る。

この人を採用する。
今回は見送る。

このお客様は守る。
この取引はやめる。

設備投資する。
今はしない。

社員に任せる。
自分が出る。

一つひとつの判断には、その社長の価値観があります。

つまり、
現場には、経営哲学の痕跡が残っている
のです。

それを拾い上げる。

なぜ、あのときそうしたのか。
なぜ、あの仕事を断ったのか。
なぜ、あの社員を守ったのか。
なぜ、あの失敗以来やり方を変えたのか。

そこを掘ると、理念が見えてきます。

現場→経験→原則→理念

私は、経営理念が生まれる流れをこう考えています。

現場

経験

原則

理念

まず現場がある。
そこで成功する。

失敗する。
悔しい思いをする。

人に助けられる。
そして経験が積み重なる。

すると、
「こうした方がいい」
「これはやってはいけない」
「これだけは守りたい」
という原則ができる。

それを言葉にしたものが理念です。

この順番なら、理念に体温があります。
社長自身の経験から出ているからです。

しかし、理念を作っただけでは終わらない

ここで、多くの会社が止まります。

理念を言葉にした。
社内に貼った。
ホームページに載せた。
朝礼で唱和した。
これで終わる。

でも、それでは半分です。
理念は、再び現場に戻さなければ意味がありません。

つまり、

理念

判断基準

行動

仕組み

時間配分

現場

まで落としていく。
ここが重要です。

「社員を大切にする」を現場に戻す

例えば、
「社員を大切にする」
という理念がある。

それを現場に戻すとは、どういうことでしょうか。

社員の健康を犠牲にしてまで受注しない。
部下との面談時間を確保する。
無理な顧客要求には線を引く。
人材育成の時間を先に取る。
仕事を任せる。
失敗から学ぶ機会をつくる。

これが現場への戻し方です。

言葉だけではありません。
判断が変わる。
行動が変わる。
時間の使い方が変わる。
そこまでいって、理念が生きます。

「信用を大切にする」を現場に戻す

例えば、
「信用を大切にする」
という理念がある。

では、
売上は大きいけれど、約束を守らない取引先とどう付き合うのか。
短期的には儲かるけれど、誇張した営業をするのか。
ミスを隠すのか。
早く報告するのか。

ここで理念が使われます。

信用を大切にするなら、
目先の売上より信頼を取る。

不都合なことでも早く報告する。
できない約束をしない。

こういう判断に変わる。

理念とは、
迷ったときに使うもの
なのです。
迷った時にこそ、本当の価値が発揮されます。

経営理念は、現場の迷いを減らす

会社が大きくなると、社長がすべての現場を見ることはできません。
社員が判断しなければならない場面が増えます。

そのたびに、
「社長、これはどうしますか」
と聞いていたら、会社は回りません。

そこで必要になるのが理念です。
「ウチの会社なら、どうするか」
を社員自身が考える。

理念が判断基準になっていれば、
社長がいなくても判断できます。

つまり経営理念は、
社長の代わりに現場で判断してくれるもの
でもあるのです。

理念と現場の間に「翻訳」が必要である

ただし、理念はそのままでは抽象的です。

「誠実」
「挑戦」
「人を大切にする」
「社会に貢献する」
これだけでは、現場は迷います。

だから必要なのが、
翻訳
です。

理念を、
行動に翻訳する。
判断基準に翻訳する。
制度に翻訳する。
時間配分に翻訳する。

例えば、
「挑戦する」
なら、
失敗をどこまで許すのか。
いくらまでなら現場判断していいのか。
新しい提案を出した人をどう評価するのか。

そこまで決める。
これが、理念を現場語に翻訳するということです。

現場からまた新しい経験が生まれる

ここで終わりではありません。

理念を現場に戻す。
すると、また新しい経験が生まれます。

新しい判断をする。
新しい失敗をする。
新しい成功をする。
時代も変わる。
お客様も変わる。
社員も変わる。
会社も変わる。

すると、
「今の理念では足りない」
「この原則は見直した方がいい」
ということも出てきます。

つまり、理念は一度作ったら終わりではありません。
現場から学び続けながら、磨かれていくもの
なのです。

理念は固定物ではなく、磨かれるもの

私は、経営理念の核は簡単には変わらないと思っています。

信用。
人を大切にする。
本業を大切にする。
社会に役立つ。
そうした根本は残るでしょう。

しかし、表現や使い方は変わることがあります。

創業期と成長期では、会社の課題が違う。
社員5人の会社と100人の会社では、任せ方が違う。
市場が変われば、求められる判断も変わる。

だから、理念は石碑のように固定するものではありません。
現場との対話の中で磨き続けるもの
だと思います。

中小企業ほど、この循環が重要である

大企業には、
制度がある。
マニュアルがある。
規程がある。
階層がある。

しかし中小企業では、社長の判断が会社そのものになりやすい。

だからこそ、
社長の頭の中にある判断基準を言葉にする。
そして現場に渡す。
これは非常に重要です。

社長が全部判断している会社は、
社長が倒れたら止まります。
社長が休めば止まります。
事業承継も難しい。

しかし、
「うちの会社なら、こう判断する」
が共有されていれば、
社長がいなくても会社は動きます。

理念は、事業承継にもつながるのです。

後継者には「言葉」だけを渡してはいけない

後継者に理念を引き継ぐときも同じです。

「うちの理念はこれだから、守ってくれ」
だけでは足りません。

なぜ、この理念になったのか。
どんな失敗があったのか。
どんなお客様に助けられたのか。
何を守るために、この判断基準が生まれたのか。
そこまで伝える。

つまり、
理念と一緒に、理念が生まれた現場を渡す
必要があります。

そうすれば、後継者は理念の意味を理解できます。
そして、自分の時代に合わせて使えるようになります。

社長の時間配分も、この循環の一部である

ここまでの話は、時間にもつながります。

理念が、
「人を育てる」
なら、
人を育てる時間を取る。

「未来をつくる」
なら、
未来を考える時間を取る。

「任せる」
なら、
社員が考える時間を奪わない。

つまり、
理念が時間配分を変える。

そして時間配分が変われば、現場が変わる。
現場が変われば、新しい経験が生まれる。
その経験から、また理念が磨かれる。

これが循環です。

現場→理念→現場

整理すると、こうなります。

現場

経験

原則

理念

判断基準

行動

仕組み

時間配分

現場

そして、また最初に戻ります。
私は、これが中小企業に必要な経営の循環だと思っています。

理念だけでもダメ。
現場だけでもダメ。
両方を行き来する。

現場から理念を掘り起こす。
理念を現場に戻す。
そして、また現場から学ぶ。

この循環が回っている会社は強い。

「理念のある会社」ではなく「理念が回っている会社」へ

経営理念を持っている会社は多い。

しかし、
経営理念が回っている会社
は、それほど多くないかもしれません。

理念が判断に使われる。
判断が行動になる。
行動が仕組みになる。
仕組みが時間の使い方を変える。
現場からまた学ぶ。

この循環が回っていれば、理念は生きています。

逆に、
額縁に飾ってあるだけなら、理念は止まっています。

大切なのは、
理念があるかどうかではありません。

理念が、経営の中で動いているかどうか
です。

経営理念は、現場から生まれる。
そして、現場へ戻っていく。
その往復の中で、会社は少しずつ強くなっていく。

私は、そう考えています。


次回予告

次回は、このシリーズのまとめとして、
【経営理念は現場から生まれる⑩】時間の使い方から経営を変える「時間工学®」とは何か
について書いてみます。

経営理念。
人材育成。
任せる経営。
判断基準。
未来投資。

これらは、すべて最後には、
社長が何に時間を使うのか
という問題につながってきます。

次回は、このシリーズ全体を「時間工学®」という視点からまとめます。



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