見出し画像

【経営理念は現場から生まれる③】経営者は「成功」より「失敗」を棚卸しせよ



経営者のプロフィールを見ると、たいてい成功実績が並びますね。

創業○年。
売上○億円。
社員○人。
店舗数○店。
業界シェア○%。

もちろん、それは立派な実績です。
会社を続けること自体、簡単なことではありません。

ただ私は、経営者の考え方や経営哲学を本当に知りたいなら、
「何に成功したのか」よりも、「何に失敗したのか」を聞いた方がいい
と思っています。

なぜなら、成功しているときよりも、失敗したときの方が、その人の本音や価値観がはっきり表れるからです。

成功には、いろいろな要因が混ざっている

事業がうまくいった。
大きな注文が入った。
良い社員が採用できた。
新商品がヒットした。
売上が一気に伸びた。
こうした成功には、経営者自身の努力だけでなく、いろいろな要素が関係しています。

景気が良かった。
市場が伸びていた。
良い取引先に恵まれた。
たまたま競合が少なかった。
優秀な社員が頑張ってくれた。
運が良かった。
もちろん、経営者の判断も重要です。

しかし、成功した理由というものは、後から振り返ると、意外と分かりにくいものです。

ところが、失敗は違います。

失敗すると、
「あの判断がまずかった」
「あの人を採用したのが間違いだった」
「売上欲しさに無理をした」
「人に任せなかった」
「一社に依存しすぎた」
「お金の管理が甘かった」
と、原因を考えざるを得なくなります。

失敗には、自分を振り返らせる力があります。

痛い経験は、経営者の判断基準をつくる

例えば、売上を伸ばすために、どんな仕事でも引き受けていた社長がいるとします。

社員も忙しい。
残業も増える。
クレームも増える。
それでも、売上は上がっている。

ところが、あるとき社員が次々に辞めてしまう。
そこで社長は初めて気づく。

「売上が増えれば会社が良くなる、と思っていた。でも違った」

そして、
「社員を犠牲にしてまで売上を取りにいかない」
と決める。

これは、本で読んだ理念ではありません。
自分が痛い思いをしたから生まれた経営原則です。

別の社長は、大口顧客一社に依存していた。
売上の半分以上を占める大切なお客様だった。

ところが、突然契約を打ち切られる。
会社が一気に苦しくなる。

その経験から、
「どんなに良い取引先でも、一社に依存しない」
と決める。
これも、立派な経営哲学です。

失敗とは、単なる過去の傷ではありません。
その後の経営判断を支える、大切な材料になるのです。

社長は、失敗を忘れようとする

ところが、多くの経営者は失敗をあまり話したがりません。

当然です。

人に知られたくない。
思い出したくない。
自分の判断ミスを認めたくない。
社員の前で格好悪いことを言いたくない。
成功した話の方が話しやすい。

「売上が伸びました」
「社員が増えました」
「新しい事業がうまくいきました」
こちらの方が気分もいい。

でも、会社の将来に本当に役立つのは、
成功談よりも、
「二度と同じ失敗をしないために、何を学んだのか」
ではないでしょうか。

失敗を経験しただけでは、意味がない

ただし、一つ注意があります。
失敗したからといって、自動的に経営哲学ができるわけではありません。

同じ失敗を何度も繰り返す経営者もいます。
社員が辞める。
また辞める。

それでも、
「最近の若い人は我慢が足りない」
で終わってしまう。

顧客とのトラブルが続く。

それでも、
「変なお客様ばかり来る」
で終わってしまう。

紹介が増えない。

それでも、
「周りが紹介してくれない」
で終わってしまう。

これでは、経験が知恵に変わりません。

大切なのは、
失敗したことではなく、失敗から何を学んだか。
です。

経営者に聞きたい5つの質問

私は、経営者の棚卸しをするなら、成功実績を聞くだけでは足りないと思っています。

むしろ、次のようなことを聞きたい。
「これまで経営してきて、一番悔しかったことは何ですか?」

「今でも、あの判断は間違っていたと思うことはありますか?」

「もう一度やり直せるなら、何を変えますか?」

「あの経験以来、絶対にやらないと決めたことはありますか?」

「逆に、どんなことがあっても守ろうと決めたことはありますか?」

こういう質問をすると、その社長が何を大切にしているのかが見えてきます。

そして面白いことに、
「経営理念は何ですか?」
と聞くよりも、ずっと具体的な言葉が出てきます。

「やらないこと」の中に、理念がある

経営理念というと、
「何をするか」
ばかり考えがちです。

社会に貢献する。
社員を大切にする。
お客様を幸せにする。

もちろん大切です。

しかし私は、
「何をしないか」も、経営理念の一部
だと思っています。

値段だけで選ぶお客様とは仕事をしない。
社員に無理をさせてまで仕事を取らない。
法令ギリギリの仕事はしない。
紹介されたからという理由だけで取引しない。
自分たちの得意分野から外れた仕事は無理に受けない。

こうした「やらないこと」は、多くの場合、過去の失敗から生まれています。

失敗した。
痛い目に遭った。
だから、線を引いた。

その線こそ、その会社の経営哲学です。

失敗談は、後継者に残すべき財産である

これは、後継者育成にも重要だと思います。

創業者は、何十年もかけて多くの失敗を経験しています。
ところが、後継者には成功した会社だけが渡される。

すると後継者は、
「なぜ、このやり方をしているのか」
が分かりません。

「なぜ、このお客様とは取引しないのか」
「なぜ、借金を増やさないのか」
「なぜ、人を急に増やさないのか」
「なぜ、この仕事だけは断るのか」

理由を説明しないと、
単なる古いルールに見えてしまいます。

しかし、その裏側に、
「昔、こういう失敗をした」
という話があれば、意味が分かります。

だから私は、
創業者の失敗談は、後継者に残すべき重要な経営資産
だと思っています。

成功体験だけを伝えるのではありません。
「何を間違えたのか」
「その結果、何を学んだのか」
「だから今、何を大切にしているのか」

ここまで伝えて初めて、経営哲学が継承されます。

社長の時間の使い方も、失敗の積み重ねから変わる

これは時間の使い方にも同じことが言えます。

若い頃は、何でも自分でやった。
営業もする。
顧客対応もする。
社員の相談にも乗る。
トラブルがあれば全部自分が出る。

それで会社が伸びる時期もあります。
ところが、会社が大きくなると、それでは回らなくなる。

社長の時間が足りない。
社員が育たない。
判断がすべて社長に集中する。
未来を考える時間がない。

そこで初めて、
「何でも自分でやる経営には限界がある」
と気づく。

そして、
任せる。
会議を減らす。
付き合いを減らす。
顧客対応を手放す。
考える時間を先に確保する。
事務代行や外注を活用する。

こうした時間配分の原則も、失敗から生まれることが多いのです。

だから、私は経営者の時間を見るときにも、
「今、何に時間を使っていますか?」
だけではなく、
「なぜ、その時間の使い方になったのですか?」
を見ます。

そこには、その社長が過去に経験した成功と失敗が隠れています。

失敗は、未来の判断基準に変えてこそ価値がある

失敗を振り返る目的は、反省することではありません。

「あのとき失敗したな」
で終わっても仕方がない。

大切なのは、
失敗を、未来の判断基準に変えること
です。

あの失敗から、何を学んだのか。
それ以来、何をやめたのか。
何を守るようになったのか。
これから同じ状況が起きたら、どう判断するのか。
ここまで言葉にできれば、その失敗は経営資産になります。

経営理念というのは、
きれいな言葉を考える作業ではありません。

社長が何十年もかけて経験した成功、失敗、後悔、決断を整理して、
「私は、これからこう経営する」
という原則に変えることなのだと思います。

松下電器(現パナソニック)の経理部門には、「経理は経営の羅針盤」という言葉が伝わっています。
そして、厳格な経理規定があります。

これは、戦後圧倒的な資金不足の中から再起した松下電器の苦闘の足跡なのです。
多くの失敗の中から、経営や実務運用のルールを積み重ねてきた「生きた歴史」なのです。

成功を語る会社より、失敗から学べる会社へ

成功した会社には、成功の理由があります。

しかし、長く続く会社には、
失敗から学び続ける力
があります。

失敗を隠す。
失敗を人のせいにする。
失敗を忘れる。
これでは、会社は同じことを繰り返します。

一方で、
失敗を振り返る。
意味を考える。
判断基準に変える。
次の世代に伝える。
そうすれば、失敗は会社の知恵になります。

私は、経営者が自分の会社を振り返るとき、
「何を成し遂げたのか」
だけではなく、
「何を失敗し、そこから何を学んだのか」
を一度、棚卸ししてほしいと思っています。
そこに、その社長にしか語れない経営哲学があります。

経営理念は、成功実績の中だけにあるのではありません。

むしろ、
一番悔しかった出来事の中に、会社がこれから守るべきものが埋まっている。
私は、そう思っています。


次回は、
「孔子も最初から『論語』を持っていたわけではない」
について書いてみます。

松下幸之助も孔子も、最初から完成された思想を持っていたわけではありません。

先に人生があり、経験があり、失敗があり、迷いがある。
その積み重ねが、後から言葉になり、思想になっていく。

経営理念を考えるうえで、ここにも大きなヒントがあると思っています。



いいなと思ったら応援しよう!