AI活用の全社浸透に向けた「社内AI Day」開催のススメ 〜kubellのAI Day for BackOfficeの事例から〜
株式会社kubellパートナー執行役員 CAOの角田(@takeshisumida_)です。
以前のnoteで、私がPMOとして、kubell全社で挑んでいるAI推進プロジェクト「kube-AI(くべあい)」についてお話ししました。
AI推進のプロジェクトにおいて、「ツールは導入した、でも思うように浸透しない」という声は非常によく聞きます。ChatGPTやGeminiを全社展開した、勉強会も開いた、でも数ヶ月後には使っている人と使っていない人が固定化されて、結局アーリーアダプター的な社員だけが使っている状態に、というパターンです。
上記のnoteでは、そのような状況を打破するために、「AI推進は、ツール導入ではなく組織文化の変革として設計すべきである」、ということを、kube-AIの実例と共にお伝えしました。
先日、そのkube-AIの施策の一環として、kubellとしても初となる「AI Day」という社内イベントを開催しました。

せっかくですので、まだ熱が冷めないうちに、今回は「AI Day」について書いていきたいと思います。
単なる開催レポートにとどまらず、開催にあたっての苦労、プログラム設計の裏側や押さえておくべきポイント、またその中でCEOの山本が語った「AI時代のバックオフィスの未来」などについて、できるだけ詳細にお話しできればと思います。
特に以下のような方に読んでいただけると嬉しいです。
・AI推進にあたって課題を感じている会社の経営者、推進責任者の方
・AI推進をこれから行おうとしている会社の経営者、推進責任者の方
・自身のAI活用について、悩みや不安を抱えているバックオフィス職種の方
「AI Day」開催の背景
全社プロジェクトであるkube-AIの発足から約半年が経過し、社内では確かにAI活用の熱が高まってきました。それは社内サーベイやシステムデータにも定量的に現れています。
しかし、その一方で、社内サーベイからは課題も見えてきました。それは、メンバー間で、AIに対する知識(Knowledge)と使いこなす力(Ability)に、明確なバラつきが生まれ始めているという現実です。

「AIが重要だとわかっていても、日々の業務が忙しい中で、まとまって学ぶ時間を取るのは簡単ではない」
「いざ学ぼうと思っても何から始めればいいのかがわかりにくい」
「Claude Codeが有用であることは分かっているが、日々の業務に追われていてまだ手が付けられていない」
というような声も、サーベイには多くありました。
であれば、みんなであえて同じタイミングに学びに集中できる時間を設けるのはどうか。詳しい人がこれから始める人をサポートし、それぞれのレベルに合ったセッションに参加してもらう。そうすることで、AI活用への一歩を踏み出しやすくしたい。
そのような思いで、元々はCEOである山本の発案により企画されたのが「AI Day」です。

なぜ「バックオフィスから」始めたのか
今回の「AI Day」は、全社展開前のプレ開催として、コーポレート部門、経営企画部門、ピープル部門、事業推進部門等、いわゆるバックオフィスメンバー約80名を対象に、範囲限定で開催しました。
範囲限定の意味についてですが、kubellとしても初の開催となるため、最初は小さく始めてみる、というのは運営観点ではありました。しかし、順番論として、まずはバックオフィスに焦点を当てたかったという狙いがあったことも事実です。
イベントの冒頭に設けたCEOトークセッションの山本の言葉も引用しながら、なぜ「バックオフィスから始めたのか」について、3つの観点で説明させていただきます。

1. AI時代に向けてバックオフィスは変わるべきだから
言うまでもなく、AIの技術は猛烈なスピードで進化しています。2022年のChatGPTの登場から始まり、現在では、かつての「質問に答えてくれるツール」から、「仕事を依頼すると解決してくれるエージェント」へと劇的な進化を遂げました。
この波の中で、世界経済フォーラムの「仕事の未来レポート2025」では、2030年までにルールベース型の業務(データ入力、一般事務、経理・給与計算事務など)が急速に失われると予測している、という話がされました。
海外ではすでに、AIアシスタントが業務を代替することにより、コールセンターや管理部門の人員が、数百人から数千人規模で削減されることが報じられていることは、皆様もSNS等で目にしているかもしれません。
しかし、山本は「これは悲観すべきことではない」と強調します。なぜなら、失われるのは「仕事」ではなく、あくまで「作業」だからです。
逆に言うと、AI時代においては、「作業だけをする人は職を失い、仕事をする人は大きく市場価値が上がっていく」と捉えることができます。この言葉には、特に多くのバックオフィスメンバーが大きく頷いていました。
作業:定められた手順やルールに従って行う、具体的で反復的なタスク
仕事:目的(価値提供)を持ち、自ら考え、判断して行う能動的な活動
「作業」をAIに任せていく中、人の「仕事」は、「問いを立てること」と「意思決定すること」に比重が移っていく。
だからこそ、会社の中でも特に多くの「作業」を持つバックオフィスは、受け身の作業処理を手放していき、率先して仕事をつくる側へと能動的に変わっていかなければならないのです。

2. バックオフィスはAI活用の最前線になれるから
AIが学習しているデータは、世の中の0.01%未満とも言われています。例えば、会社における業務プロセス、顧客情報、過去の意思決定、職場の人間関係のようなデータを、AIが自律的に学習することはできません。
つまり、自社にとっていま何が必要なのか、前述の「問いを立て」、「意思決定」をできるのは、その99.99%を持つ「人」にしかできないことなのです。その観点においてもバックオフィス人材は明確に強みを持っています。
まずは、ドメイン知識の塊であることです。会社のルール、複雑な業務フロー、そしてマニュアル化されていない例外対応も含め、AIに学習・指示すべき生きた文脈を、誰よりも豊富に持っていると言えます。
次に、AIに適した「作業」の宝庫であることです。各種申請・確認、データの照合、集計、定型的な文書作成など、AIに任せやすい業務が多くの割合を占めています 。つまり、最もAIの導入効果(ROI)が出やすい領域なのです。
最後に、優れた「仕組み化」の土壌があることです。多くのバックオフィス人材は、日常的に複数のSaaSや業務システムを使いこなし、オペレーション改善や工夫を重ねてきた経験と、積み上げられてきた高い素養を持っています。
元々これらの強みを持つバックオフィス人材であれば、AIという強力な武器を手に入れることにより 、「作業を処理する部門」から「会社の仕組みを進化させる部門」へと、確実に変わることができると考えています。
3. kubellのバックオフィスとしてAIを使いこなす意義があるから
そして、私たちkubellにおいて、バックオフィスがAIネイティブになることには、単なる「自社の業務効率化」を超えた意義もあります。
現在、kubellでは「BPaaS(Business Process as a Service)」を事業として強く推進しています。経理・労務・採用・事務などの様々なバックオフィス業務を、オンラインで簡単にアウトソースできるサービスです。(以下、運営中の「タクシタ」のサービスサイト)
お客様のバックオフィス変革を支援する私たちが、自らのバックオフィスで足を止め、従来通りの「作業」に追われていては、説得力のあるサービス提供などできるわけはありません。
私たち自身がAIを駆使し、圧倒的な自動化や業務プロセスの変革を血肉化する、そこで得られたリアルな知見やノウハウをBPaaS事業にも還元していく。ゆくゆくはそれらがコアコンピタンス(競合優位性)にも繋がっていく、と考えています。
プログラム設計の核心:「作る・学ぶ・知る」の3トラック
なぜバックオフィスなのか、の話が少し長くなりましたが、次にイベントをどう設計したか、の話に移っていきたいと思います。
今回の「AI Day」は、企画・準備の期間としては約2ヶ月での開催となりました。冒頭で触れたように、目的自体ははっきりとしていたものの、いかんせん初めてのイベントであったため、プログラムの構成には特に頭を悩ませました。(ここに一番時間がかかりました)
プログラムを組み立てるにあたって、まずは今回対象となる各部署に対して、現場のAI活用事例を、スプレッドシートに記載してもらう形で募集するところから始めました。

ありがたいことに、事例自体は30件超と、想定よりも多く集まったのですが、ここで悩んだのが、レベル感や施策の粒度のばらつきでした。
全部を同じ形式で発表させると各々のAI活用レベルによって興味の差が出てしまう、あまりに特定の業務の活用事例だと他の部署への応用が効かない、など、「どんな形態で届けるか」「誰に合わせるか」の検討をする必要がありました。
そして行き着いたのが、「作る」「学ぶ」「知る」の3つのパート(Track)に分ける、ということでした。

Track A:ハンズオン(作る)
今習得すべきツールに焦点を当て、実際に手を動かし自分でその場で動くものを作ることで、「自分にもできる」という体感を得てもらう場。
Claude CodeはCEOの山本が自ら、Coworkは社内でもトップクラスの実践者である採用マネージャーの渡辺が講師を担当。

Track B:セミナー(学ぶ)
事例の中でも特に活用レベルが高いことに加えて、部署横断での横展開が可能な事例をピックアップ。
いずれも、社内の実践者が、実例や苦労も交えながら直接語り、その場で質疑にも応えることで、学びを深めてもらう場。

Track C:ミートアップ(知る)
kubellのバックオフィスに当たる10部署がブースを設置。時間枠を設けず自由に訪れ、他の部署のAI活用方法を直接見せてもらい、カジュアルに話を聞くことができる。
普段業務では関わりながらも、AIの話まではなかなかできていなかった状態を解消する、まさにお互いのことを知る場。

参加者は、この3トラックすべてを、好みの順番で40分ずつ回る形式で、「作る・学ぶ・知る」の全体験を半日でできるようにしました。どれか1つだけでは、いずれかの「自分ごと化」が弱くなります。3つを組み合わせることで、「自分もやってみよう」「自分もできる」という状態により持ち込みやすくなると考えました。
ハンズオン、セミナーは、ある意味プログラムとして思いつきがちかとは思うのですが、個人的に、このイベントの肝だと感じたのがミートアップでした。
前述の「レベル感や施策の粒度のばらつき」という課題に対しても、事前にそれぞれのブースで話せる内容を開示、オープニングでも各部署のブース紹介の時間を設けておくことで、各々の課題やレベルに合ったブースを狙って訪れることで対応が可能となりました。
加えて、ハンズオン、セミナーと異なり、より双方向なコミュニケーションが発生することで、ただ一方的に知識をインプットするだけではなく、今抱えている業務課題に対して「AIでこうアプローチできないか」といったディスカッションがその場で多く発生していたのが印象的でした。
設計・運営で意識したポイント
上述プログラムの全体設計に加えて、実際に開催してみて、うまくいったと感じた設計・運営上のポイントをいくつかご紹介します。
コンセプトを言語化した
「AIで、ひとりひとりの火を、もっと大きく。」これが今回の「AI Day」のコンセプトでした。それに合わせたロゴやスライドテンプレ、またオープニング動画も制作しています。
コンセプトや見た目を整えたことで、単なる単発の勉強会とは異なる「ちゃんとした場」であるという意識が醸成され、参加者の心理的なコミットメントにも繋がったと感じています。(ちなみに、もちろんそれらの制作についても、すべてAIによって行われています 笑)
CEOに前面に出てもらった
冒頭のCEOセッションを設けたこと、またCEO自らがClaude Codeのハンズオンを行ったことで、「経営がAIに本気で取り組んでいる」という強いメッセージを参加者に直接伝えられました。
kubellの場合はCEOがエンジニア出身なのでそのような布陣になった面はもちろんありますが、とにかく「経営層」が前面に立ち、直接伝え、一緒に手を動かす。この本気度の可視化が、参加者の熱量を高める上で非常に重要であると感じています。
登壇者を社内の実践者に限定した
登壇者は、外部の有識者ではなく全員社内メンバーとしました。外部講師の話は「すごいな」で終わりやすい。同じ会社の、しかも同じバックオフィスの人間が「うちではこうやっている」と話すと、「自分にもできるかもしれない」という感覚が生まれます。
話す内容の質はもちろんですが、同じような立場の人と話してもらうという建て付けが、参加者の自分ごと化に大きく効いたと思っています。
回遊が起こりやすくした
先ほどポイントとしてあげたミートアップも、完全に自由参加にしてしまうと、ワークショップやセミナーばかりに人が集まってしまう構造にもなりかねません。
前述のように、大前提のルールとして、3つのTrackすべてを回ってもらうようにしたことに加えて、ミートアップエリアをワークショップとセミナーの間に配置したこと(=視界に入りやすくする)、また総参加人数を踏まえてワークショップとセミナーの席数を一定数にあえて限定したことなど、回遊が起こりやすく、特定のエリアに人が偏らない設計を意識しました。

会場とサーベイで見えた確かな手応え
かくして「AI Day」は、初開催ながら、大盛況のうちに幕を閉じました。終了後にその場で回答してもらったサーベイではイベントの満足度は90%を超え、サーベイの定性コメントや会場でのリアルな声からも、確かな手応えを感じることができました。
とくに多かったのが、「やりたい」が「やれる」に変わったという声です。「AIを活用したいという気持ちはあったが、具体的にどうすればいいか迷っていた。でも今日のハンズオンを体験して明確になった。」
「明日からすぐに自分のワークフローに組み込んでみる。」
など、まさに、元々持っていた抽象的なDesire(欲求)が、具体的なKnowledge(知識)やAbility(能力)に変化したことを感じました。
さらに、部署の壁を飛び越えた「横のつながり」が生まれたことも大きな価値でした。
「他部署の事例を知ることで、自部署との活用レベルの違いを客観視できた。」
「全然違う業務をしていると思っていた他部署と、実は抱えている課題の構造が似ていることに気づけた。」
「あの人がAIに詳しいらしいという噂は聞いていたが、直接教えを乞う勇気が出なかった。でも、このミートアップのおかげでついに直接話を聞くことができた。」
など、日常業務の中では可視化・共有されにくい暗黙知や個人のAIスキルが、「AI Day」というイベントを介して組織全体に流動していく、まさにkube-AIとして取り組んでいる組織変革が、1日の中で起こったことを目の当たりにしたようでした。
おわりに
以上がkubellで行った「AI Day」という取り組みのご紹介でした。
改めて、冒頭で触れたように、AI活用の組織浸透をツール導入ではなく組織文化の変革として進めるにあたっては、社内での「AI Day」の開催は非常におすすめです。
今回はバックオフィス向けの限定開催でしたが、参加者についた火を絶やさないようにしつつ、次はバックオフィス以外への展開も見据えて、我々としても引き続きPDCAを回していきたいと思います。
kubellでの取り組みが、同じくAI活用の組織浸透を行っている皆様の参考に少しでもなっていましたら幸いです。
これからも、皆様のお役に立つ話をnoteやXでしていければと思います。最後までご覧いただきありがとうございました。
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