ツールを入れても浸透しない—AI推進を「組織変革」として設計する6つの要素
kubellの角田(@takeshisumida_)です。
以前、「AI活用の前に捨てよ」という趣旨のnoteを書きました。AIで色々なものを自動化・高速化する前に、そもそも不要な業務を整理・廃棄しておくことでAI活用の効果は最大化される、というような話です。
今回は、そこでは触れていなかった、後段の「AI活用を組織にどう浸透させるか」について書きたいと思います。
主に、AI活用の推進を絶賛行っている or これからまさに行おうとしている会社の経営者、推進責任者・担当者の方に読んでいただけると幸いです。
AI推進を「組織変革」として設計する6つの要素
AI推進に取り組む他社の担当者と話していると、「ツールは導入した、でも思うように浸透しない」という声をよく聞きます。ChatGPTやGeminiを全社展開した、勉強会も開いた、でも数ヶ月後には使っている人と使っていない人が固定化されて、結局アーリーアダプター的な社員だけが使っている状態に、というパターンです。
これはツールの問題ではなく、設計の問題だと思っています。そしてこの問いに真っ向から向き合っているのが、私がPMOとして関わっている「kube-AI(くべあい)」というkubellの全社プロジェクトです。
これまでkubellにおいても複数の全社プロジェクトをPMやPMOとして推進してきましたが、AI推進は他のプロジェクトと根本的に異なる点がひとつあります。それは、「型がない」ということです。
業務改善プロジェクトであればある程度の成功パターンが存在しますが、AI推進は「誰がどう使うか」が不確定で、正解がまだ誰にも分かっていない、その上テクノロジーの進化スピードも異常に速く、昨日の正解が今日には陳腐化することもあります。
そういう状況で、私たちが何を考え、どう設計しているか。まだ道半ばではありますが、「こういう観点が参考になるかもしれない」という気持ちで、現時点での考えをまとめてみます。
結論から言うと、全社でのAI推進を行う上で、以下の6つの要素が重要であると考えています。

以下、それぞれについて説明していきます。
① 経営コミット—AI活用を経営アジェンダの中核に置く
こちらは既に他社の例でも言われているように、経営陣の高いコミットメントはまずは何より重要です。kubellにおいても「kube-AI」が動き出した最大の理由は、これに尽きます。
社内で共有されている中期戦略の冒頭には、「すべての戦略にAIを強く組み込む」と明記されています。AIの進化が転換点を越えた今、「AI時代のリーディングカンパニー」になるべく全社で積極的に活用を推進する、という宣言です。
これは単なるスローガンではありません。エンジニア出身でもあるCEOの山本が、全社員が集まる社員総会で直接このメッセージを伝えています。「なぜAIが重要か」を技術的な解像度を持って自分の言葉で語れるCEOがいること、それが戦略として最も上位に位置づけられていること、これらがなければ、全社を巻き込んだプロジェクトとして動かすことは難しかったでしょう。
重要なのは、それが一度きりのメッセージではないことです。半期に一度開催される全社総会「kubell CAMP」では戦略や事業計画へのAIの組み込み方とその重要性を語り、全社の月次会議「kubell-ba(くべるば)」では最新のAIトレンドの共有や制度の告知なども行っています。
経営層が定期的に発信し続けることで、今だけの話ではなく、会社の方向性として本気だというメッセージが全社員に伝わっていきます。
その思いは、プロジェクト名である「kube-AI(くべあい)」にも、込められています。kubellという社名は「薪をくべる」に由来しています。そことも紐付け、「AIにお願いできることは、どんどん薪をくべるようにお願いしていって、生産性の炎を大きくしていきましょう」というコンセプトから名付けられました。
「AIを『組織のOS』とし、全社の生産性と市場価値を飛躍させる」というプロジェクトの目標と、CEOのコミットが、プロジェクト名そのものに刻まれているのです。

② 体制設計—「誰が動かすか」を正しく設計する
①の経営コミットがあったとしても、動かす体制がなければプロジェクトは机上の空論で終わります。
CEOからの中期計画の方針発表があった後にすぐに取り組んだのは、プロジェクト体制の構築でした。具体的には、「kube-AI」は以下の体制で進めています。
PO(プロジェクトオーナー)を最終的な意思決定者としつつ、PM(プロジェクトマネージャー)が主管として戦略方針を持ち、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)である私が各部門の関係者と連携しつつ実行推進を担う形です。
なお、PMが人事責任者となっているのは、kubellの場合は「生産性向上」というテーマの推進を人事が担っているからであり、こちらは各社の事情により異なると思います。

その上で、この体制で大事にしたのは2点です。
ひとつは、POはCEOであるとしたこと。最終的なオーナーシップを会社の代表が持つことで、「経営課題としてのAI推進」というメッセージが全社に伝わりますし、意思決定も迅速化されます。
もうひとつは、各部門からメンバーをアサインしたこと。これには、単に、複数部門を巻き込むことで現場浸透を図る、ということ以上の意味がありました。
「kube-AI」を立ち上げる前から、各部門における独自のAIの取り組み自体は徐々に始まっていました。プロダクト部門はClaude Codeを試し始めていた、マーケティング部門は画像・動画生成系のツールを実務で使い始めていた、などです。また、ツール利用だけでなく、部署単位での勉強会や独自のAIプロジェクトも複数立ち上がっていました。
一方で、それらは分散していてお互いの動きは見えおらず、特に連携も行われておらず、いわゆる"点"の状態でした。
プロジェクトの開始に伴い関係する部門から適切なメンバーをアサインしたことで、それぞれが持っていたナレッジや取り組みが一箇所に集まり、"点"だったものが"線"・"面"になっていきました。
つまり、横断体制は「現場を巻き込む、現場での推進役を育てる」だけでなく、「すでに動いている取り組みを統合・可視化する」という役割も担っているのです。
なお、人の体制と合わせて、情報・コミュニケーションの体制も整えました。プロジェクト立ち上げ以前は、AI関連の情報やノウハウが複数のチャットに散在し、結果的に、誰に何を問い合わせればいいのかも分からない状態でした。
そのため、「kube-AIチャット」というグループチャットをChatwork上に立ち上げ、情報共有・問い合わせの窓口を明確化しました。(このチャットの活用方法については後述します)

③ 組織変革設計—ツール導入ではなく、文化形成として捉える
次に組織変革の設計です。ここが、このプロジェクトで最もこだわった部分とも言えます。
多くのAI推進プロジェクトが思うように進まない理由は、これまでのSaaS導入のような動きの延長で、「ツール導入」プロジェクトとして進めてしまっているからではないかという仮説を個人的には持っています。
しかし、AIに限っては、全社への浸透まで行き着くには、「ツール導入」ではなく「組織文化の変革」として捉えるべきだと考えています。この上段の認識の違いが、設計全体に影響してきます。
そこで参考にしたのが、変革管理のフレームワーク「ADKAR(アドカー)」です。組織変革の定着を支援する手法として広く使われているこのモデルは、組織変革が定着するために必要な5つの要素を以下のように定義しています。

こちらに基づくと、多くのAI推進施策が定着しないのは、主にこの中のKnowledge(知識)やAbility(能力)にフォーカスして、Awareness(認知)やDesire(欲求)に対する力の入れ方が相対的に弱いからではないかと思っています。
そのような仮説に基づき、kubellにおいては、Awareness(認知)やDesire(欲求)を含めて、極力網羅的に施策を打つような設計を心掛けています。具体的な施策にも少し触れつつ、各領域について説明していきます。
Awareness(認知):
CEOから全社への直々のメッセージは、認知を高める上で特に重要です。冒頭で触れたように、半期に一度の全社総会「kubell CAMP」に加えて、月次会議「kubell-ba」でも一定の頻度でCEOがAI関連についての共有・通知を行っています。
加えて、新入社員やAI初学者のために「スターターキット」と呼んでいるコンテンツ集を作成しています。会社の戦略とAIの関係を理解する過去のCEOプレゼン資料、AIに関する用語説明や実際のツールの使い方などをまとめた自習用ガイドで、Awareness(認知)とKnowledge(知識)をまたぐ位置づけのものです。
これにより、「AIは推奨ではなく必須のビジネススキルと位置づけている」という会社のメッセージも、ここに込められています。

Desire(欲求):
まず最初に行ったのが「AIスキルレベル」の設計です。開発職・非開発職で大別し、それぞれに5段階の定義を設けています。
基本的には、個人での活用から組織・会社への貢献へ、またチャットでの対話からAIを使った業務設計・業務構築へ、という形で、その影響範囲や活用幅が広がることでレベルの段階が上がっていく設計です。
(こちらについては、完全に独自の設計ではなく、先陣を切って情報公開をしていただいた先進企業を大いに参考にさせていただいています。)
こちらは後述する全社サーベイにも組み込んでおり、自身のレベルが定期的に認識されるプロセスになっています。また、一定のレベル以上が使えるツールも存在するため、「レベルを上げたい、レベルを上げなければならない」という向上心が自ずと芽生える効果を意図しています。

Knowledge(知識):
こちらは皆様の会社でも特に多く行っており、施策の幅もかなり広い領域かもしれません。kubellにおいては主に以下のようなことを行っています。
・事例紹介
毎月優れた活用事例を選出して月次会議「kubell-ba」にて紹介しています。こちらは実際にプロジェクトにも直接的に多く要望をいただいたものであり、「社内の他の人がどう使っているか」を具体的に知ることが、Knowledge向上の大きな原動力になると考えています。
なお、事例創出の促進のために、優れた事例には報奨金(数万円)を授与する制度も同時に作っています。

・スターターキットの提供
前述のAwareness(認知)のセクションでも触れましたが、「スターターキット」と呼んでいるコンテンツ集をプロジェクトチームで作成しています。
各自が自立的に学習をしようとしても、世の中には既に多くのコンテンツが溢れ返っており、どれがいいのか迷いがちです。それらを社員各自が探していては非効率なので、プロジェクトチームの方で有用なコンテンツを予め選定しています。(用語説明、ツール説明、セキュリティ、具体活用方法 等)
なお、AIについては毎日のように情報がアップデートされ、その度に新たなコンテンツが生まれ続けています。ゆえに、内製でコンテンツの作成をするのは非効率と考えており、社内の資料(全社戦略やセキュリティルールなど)以外は、ありもの(Youtube、note、Web記事)のリンク集とすることにあえて割り切っている形です。
・kube-AIチャットでの情報提供
前述の②体制設計で触れましたが、社内におけるAI関連の発信の場を一定統一しています。(もちろんそれ以外に部署固有のものを必要に応じ設けることは制限はしていませんが。)
上記スターターキットの観点と似ていますが、Xやnoteを中心に、日々AIの最新情報が出てきている中で、各々がキャッチアップするのは全社観点で非効率ですし、誰しもがXやnoteを頻繁に見ているとも限りません。
そこで、プロジェクトチームが一定のパターンの中で、最新情報をkube-AIチャットで提供するようにしています。(ツールの最新アップデート、ツールノウハウ、社内展開ができそうな活用事例 等)

Ability(能力):
上述のKnowledge(知識)で紹介された事例を含め、横展開が可能な事例については、事例を推進した本人にできる限り個別の勉強会を開催してもらっています。kubell-baのような全社集会の場では、どうしても時間が限られており、Ability(能力)の向上まではなかなか行き着かないためです。
その上で、プロジェクトチームとしては、全社へのアナウンスや当日の進行を担うなどして、現場への負担を極力減らし、勉強会が開催しやすくなるような支援を行っています。

ただし、正直に言うと、この領域は、プロジェクトとしての直接的なサポートがまだ薄い部分です。と言うもの、Ability(能力)のより直接的な向上には各部署固有の業務に踏み込む必要があり、プロジェクトチームがそこに全て入り込むのは現実的ではないからです。また同様の文脈で、よくある(?)全社のためにみんなが使えそうな便利ツールをAIで作ってみました、という取り組みも今は注力していません。部署固有の事情で、結局使われないことが多いと想定しているためです。
そういう意味では、薄いというより、プロジェクトとしてはADKARの他の領域の施策により力を入れている、という言い方が正しいかもしれません。プロジェクトチームが直接的にAbility(能力)を向上させるのではなく、その前段のAwareness(認知)、Desire(欲求)、Knowledge(知識)を向上させることにより、各自・各部署が自律的にAbility(能力)を向上させるムーブメントの醸成に今は力を入れている状態です。
ただ、こちらもあくまで順番論であり、自律で終わらせるつもりはありません。この支援を強化するために、現在「AIオペレーションマネージャー」の採用を開始しています。会社運営上必要なオペレーションをAIセントリックに再設計・実装していく役割で、各部署のAbility(能力)向上を会社としてもより強力に整えていく予定です。

Reinforcement(定着):
ADKARの最後はReinforcement(定着)です。こちらは、評価やマネジメントと強く結び付く領域だと考えています。文化は、日常のマネジメントの中に組み込まれてこそ定着すると考えているためです。
まずは大前提、kubellの組織長クラスは、各々の組織目標にAI活用が組み込まれています。①経営コミットのパートで「すべての戦略にAIを強く組み込む」というCEOメッセージを紹介しましたが、それと連動している形です。ただのメッセージで終わらせず、各階層においてその進捗が評価にも反映される仕組みにしています。
また半期に一度の全社総会「kubell CAMP」で行われる全社表彰「kubellアワード」でも、AI活用は大きな評価項目になっています。上述の組織レベルに加えて、個人レベルでもAIの活用にスポットライトを当てるようにしている形です。
加えて、社外への情報発信もこの領域における施策のひとつと考えています。そのため、kubellでは、社員個人によるnoteやSNSでの発信、イベント登壇を奨励しています。広報による記事・資料の校正体制も整えた上で、公開のたびには全社で共有が行われます。
「AIに本気で取り組んでいる会社だ」ということが内部のみならず外部にも伝わっていくこと、そして外部からの評価も感じること、その結果社員の誇りの醸成に繋がっていくことが、AI活用を文化として定着させるための重要な要素だと考えています。(以下社員個人発信の例)
④ 環境整備—使える土台を、段階的に整える
一方で、どんなに素晴らしい文化を作っても、AIを十分に使える環境がなければ当然意味がありません。環境整備の観点においては、kubellでは大きく3つのステップを経て段階的に整えてきています。
Step 1:Geminiの全社展開
まず最初に行ったのは、Google Workspaceの「Gemini」を全社員が使える状態にすることでした。既存のGoogle Workspace契約の範囲で使えるため、追加コストを最小限に抑えながらスピーディーに展開できるのがメリットです。
「とにかく全員がAIに触れられる土台をまずは作る」という意味で、この一手は他の企業と比較しても早い段階から打てていたと思います。
Step 2:プロダクト部門におけるClaude Codeの展開
次に動いたのは、「kube-AI」プロジェクトとしてではなく、プロダクトを管掌する執行役員の判断でした。開発メンバーにとってGeminiでは物足りない領域、特にコーディング支援やAIエージェントとしての活用においては「Claude Code」が圧倒的に有効だと判断し、プロダクト部門の予算において全面的に展開しました。
これも2025年6月のことなので、組織レベルでの展開という意味では割と早い方だったと思います。
Step 3:非開発職へのClaude展開
上述プロダクト部門の流れ、世の中でのAIエージェント活用の拡大、さらに社内サーベイで「会社のAI環境に対する満足度」の声を継続的に拾っていたことも受けて、『Claude』については、非開発職にも展開することをその後決めました。(2026年4月より)
ただし、こちらについてはプロダクト部門とは異なり、非開発職一律ではなく、AI活用レベル3以上の社員のみを対象としています。前述のようにGeminiは引き続き全社基盤として継続しているため、Claudeについては、あくまでClaude CoworkやClaude Codeなど、より複雑性がある活用を行える人に限定した形です。と同時に、こちらは③組織変革設計のADKARのDesire(欲求)でご説明したように、「レベルを上げればより良いツールが使える」というスキルアップへの内発的な動機付けにもなります。
繰り返しになりますが、AIについては日々状況が変わり続けています。最初から完璧な環境を整えてからスタートするのではなく、サーベイを軸とした社員の声の収集の仕組みも活用しながら、使える状態を段階的に拡張していくというアプローチは、AI推進においては有効だと感じています。
⑤ ガバナンス設計—安心して使えるルールをつくる
次にガバナンスです。AI推進でともすれば見落とされがちなのが、「どう守るか」という設計だと思っています。
「何でも使っていい」という状態は、実は現場からしたら不安です。「機密情報はどう扱えばいいのか」「どのような設定をしておけばいいのか」、分からないまま使うことへの心理的抵抗は想像以上に大きく、結果足踏みしてしまうことも往々にしてあります。
つまり、守るという観点ももちろんですが、ガバナンスの方針がはっきりしていないことにより、結果推進スピードが阻害されるということも起き得る訳です。
kubellでは、主に以下4つの観点で整備しています。
1. AI利用ガイドライン
セキュリティの観点で最も軸となるガイドラインです。情報区分別の入力ルール(極秘、限定、内部、公開)、AI利用時の注意事項や禁止事項、主要なツールごとの機能別利用可否(例:ClaudeにおけるRemote ControlやAuto Modeの扱い 等)、仮にインシデントが発生してしまった時の対応フローなどがまとめらています。
全社員が閲覧可能なドキュメントとして公開されており、また前述のスターターキットにも含められていることで、新しく入った社員もすぐに認識ができる状態にしています。
2. AIサービス評価一覧
世の中には膨大な数のAIサービスが存在、また日々誕生しており、「このサービスは使っていいのか」という問い合わせが現場から絶えず上がってきます。
そこで、社員が利用する可能性のあるサービスを個別に評価し、情報区分ごとの利用可否や注意事項をまとめた一覧を社内に公開しています。(記事執筆時点で50超のサービスが掲載されている)
社員が自分で判断できる状態を作ることで、問い合わせ対応のコストを減らしながら、現場の自律的な判断を促す仕組みです。
3. 利用条件の設計
前述の非開発職向けのClaude利用については、社内独自のセキュリティテストで満点を取ることをアカウント付与時の必須条件としています。
ただの通過儀礼ではなく、セキュリティ専門部隊の監修を入れた上で、社員がリスクを本質的に正しく理解するための学習機会として設計しています。
また、付与後に低利用が続く場合はアカウントを停止する可能性があることも明示しており、AIツールが不要に広く配られている状態を防ぐ仕組みも同時に整えています。

4. 定期的な見直し運用
ガイドラインもサービス評価も、当然ながら作って終わりではありません。社内にはセキュリティ専門部隊への問い合わせフォーム(セキュサポ)を設けており、「このサービスは使っていいか」「このケースはどう判断すればいいか」といった現場からの相談を随時受け付けています。
その問い合わせ内容を踏まえながら、ガイドラインやサービス評価を継続的にアップデートしています。
AIの進化に合わせて、「使わせないためのルール」ではなく「安心して使うためのルール」として機能させることを常に意識しています。
⑥ 測定設計—感覚ではなくデータで変革を回す
施策を打ったら、それが効いているかどうかを測る必要があります。感覚では改善できません。そのためには、当然ながらまず「何を測るか」を定義する必要があります。
「kube-AI」では、測定を二軸で設計しました。一つはアンケート形式の全社サーベイ、もう一つはシステムデータのトラッキングです。
サーベイ
プロジェクト開始直後の現状把握から含めて、概ね2ヶ月に一度、全社員に対してサーベイを実施しています。
設問については、単に使っているかを聞くだけでなく、前述ADKARの各領域を意識して設計しています。
ようはADKARに基づいた施策が、実際に現場で効果が出ているのか一定定量的にも把握できるようにしている形です。
・あなたは今後のAIの重要性についてどのように思いますか?
・あなたはAIの情報についてどの程度インプットを行っていますか?
・あなたの業務におけるAIの活用頻度を教えてください
・あなたの部署では、AIの活用に対して積極的に取り組んでいますか?
・AIの活用により、1ヶ月あたりどれくらいの自身の業務時間を削減できていると感じますか?
・あなたのAI活用レベルはどれにあたりますか?
・kubellのAI環境について満足していますか?
まだ開始してから半年程度ではありますが、結果として、マインド面・行動面では変化がはっきりと数字に出ています。
また初回では課題として見えていた部門別のスコアの偏り(=特に低い部門が存在する)も是正されており、全社への浸透が前進していることを実感しています。
一方で、業務時間削減やAIスキルレベルについては、向上はしているものの伸び幅は相対的にはまだ限定的です。
使うという文化自体は醸成され始めている中、全社としての活用レベルを上げ、しっかりと成果に繋げていく、というのが次のステップになると考えています。

システムデータ
活用頻度については、スピードを重視してまずは上記サーベイにも組み込んで確認していましたが、どうしても回答者の感覚になってしまうため、その後システム的なモニタリング環境も整備しています。
具体的には、「Gemini」と「Claude」の利用データを、リアルタイムでトラッキングできるダッシュボードを内製で作っています。
主には、利用回数(≒プロンプト数)とアクティブ率であり、それらの時系列トレンド、および組織別・個人別でのブレークダウンが確認できる作りとなっています。
利用回数については従業員数の増加にも相関するため、プロジェクトとしては特にアクティブ率に注目していますが、半年が経過し、初回計測時の60%台から90%台まで大きく向上しています。
なお、このダッシュボードについては、マネージャー以上の役職者に公開しています。こちらは、③組織変革設計のADKARのReinforcement(定着)でご説明した、各マネージャーがAI活用を組織目標としても課されていることとも関連しています。
自部署のAI活用状況をリアルタイムで確認できる環境を作ることで、日常のマネジメントの中で自ずとAI活用が話題となり、データが「管理のツール」ではなく「自律促進のツール」となることを意図しています。
おわりに—「使う」から「任せる」フェーズへ
以上が、プロジェクト開始から半年ほどの振り返りであり、現時点でのまとめです。
しかし、「kube-AI」はプロジェクトとしてはまだまだ道半ばであり、「これが正解である」と言い切れるほどの完成度には達していません。

ただ少なくとも、AIを個人のツールではなく「組織のOS」レベルまで浸透させていくには、組織文化の変革として捉え、その前提で一連のプロセスを設計する必要性を感じています。③の組織変革設計でADKARを特に厚めにご紹介したのもそれが理由です。
冒頭で「AI推進には明確な型がない」と書きましたが、それは今も変わりません。Xをはじめとして、日々様々な会社が新しい施策に取り組んでいることが目に入ってくる度に、「うちの会社もこれをやった方がいいのでは?」「今のやり方は合っていたのか?」と迷うところも正直あります。
ただ、型がないからこそ、都度都度目移りすることなく、今回ご紹介した6つの要素を軸に、まずは恐らくこうであろうという設計をしつつ、その効果を計測し、徹底的に振り返りながら、徐々に自分たちの型を作っていくしかないと考えています。
AI推進は、組織に「未知のものを面白がり、変化を許容する土壌があるか」を映し出す鏡のようなものでもあり、AI推進のプロセスそのものが、次世代の組織文化を耕すことでもあります。
そして、AI活用によって生まれた時間をただの時間削減で終わらせず、その時間を「人間にしかできない業務」に再投資していき、AIと人間が本質的に協業する組織に変革していくことが大事だと考えています。
今回の記事が、AI推進をこれから始めるという方、AI推進は始めているものの迷っている方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
(※2026年6月追記)
より簡単に内容をご覧いただけるように、スライド版を作成しましたので、よろしければこちらも合わせてご覧ください。
これからも、皆様のお役に立つ話をnoteやXでしていければと思います。最後までご覧いただきありがとうございました。
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