カウチポテトの様式美【カフェ浪漫主義14】
ひと昔の夏場に流行ったカウチポテト族とは、夏休みにも何処へも行かず自宅で優雅に映画やゲームを楽しむ人達の事だった。
その風習がコロナ以降は大勢にまで普及したようで、数日の休暇があると好みの飲物やジャンクフードを大量に買い込み、長編アニメやゲームに何日も浸る人がかなり増えている。
我がカフェ浪漫主義ではそのカウチポテトのスタイルに手を入れ、抹茶煎茶の様式美にも比肩する離俗高雅なスタイルへ近づけてみたい。

ピューターゴブレット ドイツ20世紀前期
まずは菓子器茶器には折角ある古き良き物を使わない手は無い。写真は古織部の菓子鉢で、陶器製の物なら緑釉か青磁の器が夏には涼しげで良いだろう。
夏の定番の梅味ポテトチップスと激辛スナックや鱈チーズなどによく合う。ガラスや竹編みの器も良いがジャンクフードの鉢にはある程度の重厚感が欲しいので、あまり繊細優美な物よりやや無骨な古陶器が適している。
大正昭和頃の茶会用の菓子鉢ならネットオークションでも沢山出ていて誰にでも入手し易く、四季それぞれに合う物を集めても大した散財にもならないだろう。
世界では日本や中国製陶磁器は最高級の定評があるのに、日本国内では和風の高級食器類が西洋ブランドの陶磁器に比べて不当なほど安いのが情けない。
飲物用には同じく重厚感と古格を考慮して古いピューター製のゴブレットを選んだ。少し大きめのゴブレットなら冷珈琲や清涼飲料、またビールにも使えて重宝する。
傍らの本は若山牧水の歌集『別離』初版。
これで気分は100年ほど前の古き良き茶席の格式に近づけたと思う。
そしてこのジャンクフード類にふさわしい音楽は1970〜80年代のオールドロックしか無い。
当時最新鋭のオーバハイムの強力なシンセサウンドで世界的ヒットとなったヴァン・ヘイレンの『Jump』は、光輝く若者達の夏にふさわしい名曲だ。
ひたすら能天気でノリの良いオールドアメリカンロックは、古き良き時代のアメリカを象徴し今聴いても力強い。
精神的にもう少し高雅に行くなら、昔の茶室の床飾りに学ぼう。
俳句の短冊や軸は折々の季節の物を選べて、しかも何故か他の古書画軸に比べ圧倒的に安価で入手し易い。

青磁マグ 竜泉窯 民国時代
三田青磁皿 幕末頃
写真の掛軸は夏季の涼しげな句の中ではこれ以上無い名句中の名句。
瀧落ちて群青世界とどろけり
この比類なく美しく壮大な句は、単純明解だからこそ揺るぎない強さがあり他を寄せ付けない。私は毎年梅雨が明けるとこの句幅を掛けて、俗世の暑さに穢れそうな心を日々浄化している。
和歌や俳句の夏物掛軸はみな涼しさを旨として詠まれてはいるが、残念ながら夏季の名作となると春秋物に比べて極端に少ないのだ。
また漢詩の夏向けでは「松風清し」とか「竹林涼風を生ず」とかの詩句を良く見るが、お寺関係の一行書ではよほど書が優れていないと返って凡俗に堕ちそうだ。
一方文人画では観瀑図や江舟図が涼を呼ぶ夏の画題として数多く描かれている。墨一色で余分な色彩を排除しているのも涼しげで、精神的な清浄さもある。
文人画は一見地味で稚拙に見えるためか価格も安めでそこそこ良い画が沢山あるのでまた折を見て紹介しよう。
