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梅雨明けの光輝【カフェ浪漫主義13】

【カフェ浪漫主義】
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昔の山岳写真家が梅雨明けの青空が最も美しいと言っていたが、長雨が全ての塵芥を洗い流した後の翠滴る鎌倉の天地はその通りに光り輝いている。

梅雨明けの朝の窓辺には栄光の夏の始まりとも言うべき光がある。

この先はつい暑さでだらけがちな酷暑期も、絶大なる音楽の力も借りてせめて精神だけでも輝ける栄光の夏としたい。

そんな光輝の朝のコーヒーは虹色の光を纏うファイアーキングのオーロラガラスの出番だ。半透明の乳白色の地に爽やかに陽光が透き通っている。

オーロラガラスカップ ファイアーキング 1950年代

西欧ロマン派音楽の名作中の名作であるラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」は、私に美しい一夏の時の流れを思い起こさせる。日本の四季のイメージに当てはめれば第1楽章が初夏から五月雨、第2楽章が梅雨明けの光で第3楽章が盛夏から晩夏の感じだろう。

第1楽章↓

第2楽章↓

第3楽章↓

特に第2楽章の光輝に満ちた格調高い旋律は、雨に洗われた後の美しい田園風景が思い浮かぶ。元々ロマン派音楽は情景喚起力に満ちているが、この曲は繊細かつ壮大で明るさの中に憂愁が漂い、我が夏の思い出の情景や自然風景にも永遠の旋律を加えてくれる。

紹介した音源は2005年のレイフ・オヴェ・アンスネスとベルリンフィルの演奏をドルビー・アトモスでリマスターしたものだ。指揮は2025年現在ロンドン交響楽団の首席指揮者をしているアントニオ・パッパーノで、弦楽の録音はとりわけ優れている。

この曲はピアノ協奏曲の中で私が最も好きなものなので、Apple Classicにあるほとんど全てのアルバム(200枚以上)を聴き比べた。その中で総合的な完成度が最も高かったのがアンスネスとベルリンフィルのこの演奏だった。同じ曲の様々な演奏を聴き比べできるところもクラシック音楽の魅力だ。古い録音と近年のドルビー・アトモス録音では全く別の曲に生まれ変わることもある。今でこそApple Classicで簡単に聴き比べできるようになったが、それまではレコードやCDを集めなければならず、一つの曲を100枚以上収集する人もいたようだ。当記事の最後に聴き比べで高く評価した録音をまとめておくので、興味があれば参考にしてほしい。

この名曲とともに雨季の終わりから酷暑期に入る寸前の、僅か数日しか無い煌めくような時を精一杯味わいたい。

梅雨が明ければ我が【カフェ浪漫主義】でも麦茶の出番となる。

麦茶用の茶器はノスタルジックな明治頃の古伊万里染付の大振りの急須と湯呑がで涼しげで良いと思う。

古伊万里染付茶器 幕末明治頃
粉彩壺 清朝末期

およそラフマニノフと同時代の古い茶器で、呉須絵の山水が鎌倉の海や地中海を思わせてくれる。

花器も同じ時代の清朝末期の物で、粉彩特有のパステルトーンの奏楽天女達が爽やかだ。

今週はあまり良い花が無く、代わりに庭の椿の実が色付いたのを活けてある。

麦茶はその古風な香りが風鈴の音や我家の脇の沢音などと共に、何の不安も無く遊び回っていた子供時代の夏休みの記憶に結び付いている。

今でも気分だけはその頃に戻り遊びに熱中したい物だが、現実の夏は昔より遙かに暑く長くなっていて、慣れ親しんだ衣食住も根本から見直さないと心身共に不調になる。

特に精神面で輝かしい夏にするためには、だらけてばかりいないで酷暑の中でも夏の良さを探し出しそれを大いに楽しむべきだろう。

まずは藍浴衣でも引っ張り出して八幡宮の七夕を観に行き、自宅でも簡単な趣向で星祭の宴を楽しもうと思う。

我家の七夕は本来の旧暦でやるのだが、まあ見物だけなら世間に合わせても良いだろう。七夕のような美しい行事なら2度やるのも悪くない。


ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」名盤紹介


第1位:レイフ・オヴェ・アンスネス(2012ライヴ)※Dolby Atmos

指揮:アントニオ・パッパーノ
オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

音質:S
ピアノ:A
オケ:S
速度:速い

アンスネスのこの曲は2005年のアルバムと、それを再収録した2012年の「ラフマニノフ全ピアノ協奏曲集」があり、ドルビー・アトモスになっているのは再収録版の方だけなので注意が必要だ。協奏曲を聴いていると要らないと感じる楽章がよくあるものだが、この曲は全ての楽章が素晴らしい。私がピアノ協奏曲を頭から終わりまで通して聴いて満足できるのはラフマニノフとスクリャービンのものだけだ。それだけにそれぞれの楽章に鑑賞するポイントがある。第1楽章なら冒頭の8つの和音、第2楽章ならフルートの抒情性、第3楽章ならタッチの安定感などだ。ベルリンフィルとの協演は流石で、どの楽章にも欠点らしい欠点は見当たらない。特に第2楽章の出来は白眉で、他の録音では籠もりがちな管弦の細かな音色まで鮮明に聴こえる。リマスター前の2005年版はそこまで高く評価していなかったが、ドルビー・アトモス版で大きく輝きを増した一枚だ。ちなみに、この曲の第2楽章の主題は"All By Myself"として歌がつけられ、セリーヌ・ディオンがカバーして有名になった。


第2位:ルカーシュ・ヴォンドラーチェク(2022)

指揮:トマス・ブラウネル
オーケストラ:プラハ交響楽団

音質:A
ピアノ:A(第1楽章はS、第3楽章はB)
オケ:A
速度:普通

チェコの怪物ヴォンドラーチェクによる演奏は特に第1楽章が素晴らしい。第1楽章だけなら一番の出来かもしれない。静謐な部分と歌わせる部分それぞれにキレがあり、タッチも非常に安定している。一方、第3楽章は走りすぎな部分とタメすぎな部分が目立ち、タッチにも少し粗があった。ドルビー・アトモスではないが、近年の録音のため、音質は十分満足できる。ちなみに、この曲の第1楽章の主題もまた"Broken Vow"という曲に編曲され、ララ・ファビアンが歌っている。ヴォンドラーチェクはラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」を演奏してエリザベート国際コンクールで優勝した。その時の演奏は本当に圧巻だった。2番よりも3番の方が得意なのだろう。


第3位:スヴャトスラフ・リヒテル(1959)

指揮:スタニスワフ・ヴィスウォツキ
オーケストラ:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団

音質:B
ピアノ:S
オケ:B
速度:やや速い(第1楽章は遅い)

帝王リヒテルによる雄大な演奏だ。なんと言っても第3楽章は驚異的な打鍵で、一音一音が格別に粒立っている。50年近くこの曲の決定盤として君臨していたのもよく分かる。1959年の録音ながら音質はそれほど悪くないのだが、オーケストラが下がりすぎていてバランスが良くないため、特に第2楽章は近年の録音と比べると劣ってしまう。リヒテルの録音はもう一枚1956年のものがあり、演奏自体はそちらの方が評判が良いのだが、流石にそちらの音質には満足できない。


第4位:ウラディーミル・アシュケナージ(1972)※Dolby Atmos

指揮:アンドレ・プレヴィン
オーケストラ:ロンドン交響楽団

音質:A
ピアノ:A
オケ:A
速度:やや遅い

アシュケナージの演奏も古い録音ながら、ドルビー・アトモスのリマスターによって音質はむしろ良い方だ。アシュケナージのピアノは端整で、オーケストラともよく合っている。ただ、いずれも全体的に大人しく、ロシア的なダイナミズムはそれほど感じられないため、眠くなってしまう演奏かもしれない。第1楽章冒頭の和音は手が大きくないと同時に押さえられないため時間差で弾くことがあり、アシュケナージもそうしたようだ。身長が2メートルほどあったラフマニノフ本人の録音でも時間差で弾いているものが残っているため正統な解釈とも言えるのだが、好みが分かれるところだろう。非常に聴きやすい演奏なのだが、1位のアンスネスの演奏と比べると音質では流石に劣ってしまうため、相対的に評価が下がってしまった。


第5位:キリル・ゲルシュタイン(2023)※Dolby Atmos

指揮:キリル・ペトレンコ
オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

音質:S
ピアノ:B
オケ:S
速度:とても速い

ラフマニノフ生誕150周年を記念してリリースされたアルバムだ。音質とオーケストラはこの演奏が最上だろう。ただ、ゲルシュタインのピアノがとにかく速すぎる。1位のアンスネスの演奏も速い方だが、こちらの演奏は不安になるほどの速さだ。ラフマニノフ本人の録音が同じような速さで残っているため、それに倣ったのかもしれないが、どうしても繊細さに欠け、大味に感じてしまう。弾き急いだからか、音が固まってしまうところもあり、音質が良いだけに残念だ。第2楽章のフルートやオーボエは抒情的で極めて美しかった。


各楽章ごとに名演を探して、それをプレイリストに並べるのも面白い。音楽がストリーミングサービスに移行したことで思わしくないところもあるが、このような楽しみ方ができるようになったのはありがたいことだ。

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