涼趣の花器茶器【カフェ浪漫主義12】
日本の古来からある花はその季節季節の伝統的な詩情を呼び覚ましてくれるので、毎週何らかの和花は飾りたい。そしてその花に合った花器選びも結構楽しいのだ。
夏の卓上の器はすべからく涼しさを旨に取合わせたい。

染付磁器はその青と白のシンプルな色彩が涼味を感じさせて夏向きだ。また、古くて良い物が大量にあるので入手し易く、絵柄も豊富で飽きない。
中国明末清初の古染付のコバルトは彩度と深みにおいて格別な物があり、絵付も日本人好みの草体の筆致で古来茶方でも珍重されている。
鞠形の紫陽花にはこの古染付壺の大きさと丸みがぴったりで、強すぎない渋めの青と灰白が紫の花を引き立てている。
精密な色絵の花模様などは返って生花と喧嘩してしまうが、こうした簡略な筆致なら花の邪魔にならない。
今週の茶は淡色の紫陽花に似合いそうなアイスカモミールティーが良いだろう。茶器は18〜19世紀ヨーロッパで中国の取手の無い染付碗をティーボウルに使っていた形を真似てみた。
また、冷珈琲なら意外と古伊万里の蕎麦猪口や筒形の湯呑が重厚で古格があり結構使える。絵柄も多彩で蕎麦猪口ばかり収集している人も大勢いるほど人気も高い。
ただ、氷を沢山入れる人は大きめの物を探さないと、江戸時代の物は小振りに出来ているので注意すべきだろう。
花器は涼しさだけで選ぶならガラス器が一番だが、ガラス器はどんなに年月を経ても古色が染み付かないないのが弱点だ。
昔から格調高い花には青磁が良しとされて来たが、色にも清涼感があるので殊に夏にはお薦めだ。

ピューターポット マグ イギリス19世紀
青磁花器は古来から中国物が最上とされ、我家では宋の物は無理だが元明時代の物を幾つかと高麗李朝の物を使っている。
古い青磁のちょっと良い物は今や大変な価格になっていて、我家ではかなり昔の安い頃に買った物以外はもう手が出ない。
写真の四方瓶は明時代のいわゆる七官青磁で、牡丹や芍薬にはこれ以上ない色の取合わせとなる。
特に薄紅色の花には元時代のやや暗緑がかった天龍寺青磁より明るい発色の明時代の物が最適で、今日は花屋で遅咲の芍薬を運良く見つけ買って来た。
その取合わせを邪魔しないように、珈琲器は暗灰の古色が付いたピューターにした。
ピューターの新品は言うまでも無く銀器より安物のイメージだが、100年ほど経た鈍錆色は銀器には無い古格が出て、抹茶碗の古色と同じように歴史の深みを感じさせアイスコーヒー用の器では最高級だと思う。
英仏あたりの19世紀物なら大抵この古色が付いていて、しかも欧州ではそう高価な物でも無いから入手し易い。
取手の無いタンブラーの形も沢山あり、また緻密なレリーフ模様のヴァリエーションも多くて楽しめる。
この卓上の小宇宙に流すべき音楽はイタリア・バロックが良いだろう。梅雨の後半から酷暑時には流石にロマン派でもやや重く感じる。その点でコレッリやアルビノーニといった初期イタリア・バロックの軽さと平坦さが暑い時には清々しく聴こえるのだ。
トマゾ・アルビノーニは17〜18世紀に活躍したヴェネツィアの作曲家だ。しかし、アルビノーニ本人よりも20世紀になって別人が作曲した「アルビノーニのアダージョ」の方が有名になってしまった。「アルビノーニのアダージョ」も間違いなく名曲なのだが、アルビノーニ自身の曲もなかなか良い。アルビノーニは特にオーボエやヴァイオリンの協奏曲の作曲家として知られ、バッハにも大きな影響を与えたようだ。
今回紹介したアルバムはアルビノーニの「5声の協奏曲作品10」で、イタリア人のクラウディオ・シモーネがヴェネツィア室内合奏団を指揮している。独奏はバロック・ヴァイオリンの名手ジュリアーノ・カルミニョーラだ。
バロック時代の曲の演奏には、しばしば「古楽器」と呼ばれる作曲当時の音色を再現した楽器が用いられる。ガット弦を使用したバロック・ヴァイオリンは、通常のヴァイオリンよりも柔らかな音色になりやすい。カルミニョーラの演奏も柔らかく流麗で気品に満ちている。以下の動画はヴィヴァルディの曲だが、地中海世界の清々しさとカルミニョーラの知的で気品のある演奏がよく合っている。
バロック期の音楽は、ロマン派の名曲と比べると聴き応えがあるわけではないが、じっくり一曲を聴き込むには暑すぎる時季なら良いBGMとなる。また、これといった名曲は多くないが、全体的に完成度やバランスが一貫しており、アルバムやプレイリストを通して聴き流すにはちょうどいい。
暑さが厳しくなってきたなら、冷たい珈琲でも飲みながら、このようなイタリア・バロックの名演にヴェネツィアの運河や地中海の爽やかな風景を思い起こし、清涼感のある精神世界を保ちたいものだ。
