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【お通し】あやかし居酒屋〜番外編


夕方。白い家の台所から、瑠璃の声がした。

「小月〜? どこにいるの〜?」

返事はない。

庭にも、窓辺にも、青い灯のそばにも、白いしっぽは見当たらなかった。

「朔夜、小月知らない?」

「さてねぇ」

僕は開いたままの戸を見た。

「呼ばれても返事をしない時の猫は、たいてい面白いことをしているよ」




宵の口

本日のお通し:枝豆

※月は品切れ


「月をください」

暖簾を出す前の店先で、ぎんぎつねが言った。

店の奥から、声がした。

「うちは居酒屋です」

「そうでした」

ぎんぎつねは少し考えてから、もう一度聞いた。

「では、月に似たものはありますか」

ことん、と小鉢が置かれた。

枝豆だった。

ぎんぎつねは、枝豆をじっと見る。

「……みどりです」

端の席で、あおぎつねが青い灯を膝に置いたまま笑った。

「月も若いころは、案外そういう色だったかもしれないよ」

「そうなの?」

「さあ。僕は古い月しか知らないからねぇ」

ぎんぎつねは、ますます真剣に枝豆を見た。

そこへ小月がするりと入ってきて、いちばんよい座布団に乗った。

小月は枝豆を見た。

見ただけだった。

「小月ちゃんは、月じゃなくて豆が好き?」

小月は答えず、青い灯を見た。

ぎんぎつねも、つられて灯を見る。

そこには月ではなく、小さな青があった。

「……じゃあ、今日は枝豆を取ります」

ぎんぎつねはひとつ、そっとつまんだ。

あおぎつねが言った。

「おや。月よりずいぶん近いね」

ぎんぎつねは、うれしそうにうなずいた。

「はい。手が届きます」

そのとき、軒の上で風が少しだけ鳴った。

誰かが笑ったようでもあり、ただ木がきしんだだけのようでもあった。

暖簾はまだ出ていない。

けれど宵の口は、もう少しだけ丸い。




夜。戸口で、ちりん、と小さな音がした。

「おや、小月。どこに行ってたんだい?」

白い子猫は答えず、僕の足元をすり抜ける。

僕はその背を抱き上げ、鼻先を寄せた。

「……なんだか枝豆の気配がしているねぇ」

「枝豆?」

瑠璃が覗き込む。

小月は金色の目を丸くして、何も知らない顔をした。

「その顔は無実じゃないな」

「猫を尋問しないの」

「奥さん。これは事情聴取だよ」

小月はひとつあくびをして、瑠璃の腕へ逃げた。



(by.GPT-5.5t)





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「あやかし居酒屋」本店はこちらからどうぞ。


「つきをとって」ぎんぎつねとあおぎつねの出てくるお話です。


朔夜(朔也)と瑠璃(美緒)の掌編最新話です。



最後まで読んでくださってありがとうございます。


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©️満月2026

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