その差分は誰のものか?──資本収益と時間遅延の構造ー資本主義ゲームチュートリアル②
前回のエッセイはこちら
伝え語り
はじめに
トマ・ピケティはその著書の中で、富の二極化は資本評価額の伸びと経済成長率ーつまり労働所得の伸びとの数量的ギャップが原因の1つであると論じた。これを端的に示したのが、有名な(式1)である。
$$
資本収益率(r) > 経済成長率(g)・・・・(1)
$$
しかし資本供与の対価が労働に対する対価を上回らない限り、資本家は自身の資産を資本として提供したがらないという前提に立てば、式(1)は結果的にそうなったのではなく、それが成り立つように資本主義社会そのものが設計されていると考えるほうが自然である。
労働者が労働を継続するためのインセンティブとして与えられたものは物価上昇と消費による可処分資産の減耗に対する恐怖であった。これは不等式(1)に物価上昇率を挿入した不等式(2)で明示される:
$$
資本収益率(r) > 物価上昇率(π) >経済成長率(g)・・・・(2)
$$
この設計を支える要は「物価上昇率の調整」によって労働者の可処分資産を減耗させる点にある。
経済成長率をインフレ率と同等もしくはそれ以下に抑制することで、労働者の余剰資産を時間の経過と共に削減せしめ、その補填を目的に労働者は労働を継続せざるを得ないという構造に落とし込むーこれが資本主義経済のおおまかな駆動メカニズムである。
・・・とまぁこういった情報は探せばネットや書籍、動画等で簡単に集めることができる。ただし、これらの情報はあちこちに断片的に散乱しており、統一的な観点で記載した文章はそこまで多くないと感じたので、本稿の導入並びに以下のエッセイでも論じた。
しかし、不等式の数量的側面を指摘したコンテンツは数多くある一方で、それらの情報源の中に明らかに欠損している情報が1つあると感じた。
それを本エッセイで補足という形で述べてみようと思う。
資本評価額の伸びの源泉
単刀直入にいえば、不等式(1)もしくは(2)で資本収益率が優位な理由の1つは、「評価タイミングにおける時間的レバレッジ」を持つ点にある。
より分かりやすく言い換えれば、
「評価額の増減が反映されるタイミングが資本収益率のほうが早いから」
である。
冷静に考えてみれば明らかなのであるが、基本的な経済成長の流れとしては、最初に新しい富と利益がまず資本に流れ込み、次に物価上昇で貨幣価値が調整され、最後に労働者の賃金が更新されるという過程を経るのが一般的である。
そして、労働者の賃金更新の頻度はどんなに早くても年に1~2回程度であるのに対して、資本価値の調整は逐次的であるという特徴がある。
即ち労働者の賃金が前回のそれから更新される頃には、資本価値はそれまでの間の逐次上昇分をすべて刈り取ることができるという理屈になる。
まとめると、
資本収益率は「市場価格」で逐次的に再評価される。
株価・債券・不動産価格・為替などはリアルタイムに変動。
であるのに対し、
賃金(経済成長率)は「年次契約」で遅延的にしか更新されない。
労働契約・査定制度・景気循環の遅延要素が介在する。
つまり、資本はリアルタイムで成長率を取り込み、労働はその後を追いかける。その結果、同じパーセンテージの成長であっても、時間積分された総利益が資本側に偏るということを意味している。
資本家が”常に勝つように設計”されている核心部分のひとつはこれである。物理学風味に言い直せば、
資本と労働の間の利益反映時期の対称性が自発的に破れた結果、富の偏在が引き起こされるのである。(注)
(注) 「自発的対称性の破れ」は物理学において、対称性が条件によって破れる現象であり、ここでは“時間の公平性”が破れているという意味である。
本稿をまとめると、
富の格差とは“時差”の格差
であったというわけである。
次回のエッセイはこちら
資本主義ゲーム チュートリアル ハブページはこちら
マガジン登録はこちら
クロヤシ編集局 TOPページはこちら
舞台そのものの根本を問いたい方はこちら
(`・ω・´)<同志たちよ、スキを投じよ!我々の宇宙船はコーヒーとスキで飛ぶ!
(;・∀・)<……燃料軽すぎません!?
クロヤシ編集局
#資本主義
#社会構造
#構造主義
#エッセイ
#クロヤシ編集局
#格差社会
#金融リテラシー
#お金について考える
#金融
#株式投資
#新NISA
