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あげる人、もらう人 ギバーとテイカーの話

2026年3月20日(金)。



祭日だったこともあるのか、
新宿の整骨院は始まりから終わりまで、
鍼灸は予約で埋まっていた。

私はその整骨院に、
月に三度だけ顔を出す。



天候も悪かったので、
ありがたいと思った。
この日は18時に終わった。
普段なら、そのまま特急レッドアローで帰る。



だがその日は、H院長が

「話したいことがある」

と言った。

早い時間という事もあるし、
たまには外食もいいかと思った。

どうせなら魚介が食べたかった。
新目白通りを渡り、
サカエ通りを抜け、
何となく高田馬場の寿司屋に入った。



私は21時から所沢で1人診る予定が急遽入ったので、
酒は頼まなかった。
H院長も、気分が落ちているらしく、
私にならって飲まなかった。

少し沈んだ空気のまま、
話が始まった。




H院長は以前、
自分の身に起きたことを話してくれたことがある。

鍼灸師を目指している女性と知り合い、
飲食、参考書、合宿費用、生活費まで、
かなりの額をコツコツ支払っていたらしい。

本人の言い方では、
親のように出していた、ということだった。
小さな車が一台買えるくらいの金額だったらしい。



それからだいぶ経って、
H院長は高価な歯の治療費を断った。
その瞬間、SNSに書かれて罵倒されたらしい。

ここまでは以前聞いた話であるが、
匿名で記載する許可は取ってある。
その夜は、その後の経過を話してくれた。




加えると、
その女性とは今は連絡を取っていない。
そして、H院長は
「私も悪いところがあった」と言った。

私は、反射的に注文を尋ねる声に答えながら、
一体何が悪いのだろう、と思った。

H院長は、とにかく人に物を渡す。
もう止めたが、以前はスタッフのお菓子や飲み物を、
冷蔵庫やテーブルに一杯補充していた。



それ以外にも、
全員分の弁当を用意したり、
宅配で頼むこともあった。
スタッフは感謝するどころか、
当たり前と思っていた節がある。

この日も、話を聞いてほしいと言われた際に、
彼が奢るので、と言ったので、私は丁重に断った。
何か、不安に対する担保のようなものを
感じたからである。



たまにのことなのだから、
私が出しても構わないし、
出してもらったなら次に返せばよい。

お互い様だと思う。

だから私は、
彼が女性に対して、
一体何が悪かったのだろう、と思った。



H院長は与えた側で、
女性は与えられた側である。
少なくとも私は、
与えられた側の女性の振る舞いを
良くは思っていなかった。

与え方が悪い、ということなのだろうか。
渡す側、渡される側。
そこには、ただマナーというだけでは括れないものが
あるのかもしれない。

話を聞きながら、
私の悪い癖で思索を巡らせてしまった。
話半分で聞いてしまい、
本当に申し訳ない。

贈り物や支援には、
渡す側にも型があるのではないか、と思った。





贈り物に出る、渡す側の4つの型


1. 仲良くなりたい型(親しさ)
距離を縮めるために渡す。
過剰:反応を確かめ、合わなくても渡し続ける。


2. お返しを期待する型(見返り)
どこかで返りを待っている。
過剰:反応不足を責め、与えたことを持ち出す。


3. 断りにくくさせる型(圧力)
渡すことで相手を縛る。
過剰:恩着せがましくなり、主導権を握ろうとする。


4. 与えずにいられない型(自己確認)
与えることで自分の役割を保つ。
過剰:必要がなくても与え続け、止められると不機嫌になる。




H院長がどれだったのか、
私には言い切れない。

親しさもあったのだろうし、
見返りを求めていないつもりでも、
何かが返ってくる前提はあったのかもしれない。
あるいは、与えることで自分の立場や役割を
保っていた部分もあったのだろう。



こういうものは、
一つではなく混ざる。
きれいに善意だけ、とは分けられない。
だからこそ、厄介なのだと思う。




では、もらう側はどうなのか。
受け取る側にも、
やはり型があるのかもしれない。





贈り物に出る、受け取る側の4つの型


1. 素直に受け取る型(受容)
好意としてそのまま受け取る。
過剰:受け取ることが関係の前提になる。


2. 返そうとする型(返礼)
そのままでは済まないと感じる。
過剰:返せない相手と距離を取る。


3. 警戒する型(警戒)
好意より先に意図を考える。
過剰:受け取りを避け、関係そのものを引く。


4. 求める型(要求)
受け取ることが前提になっていく。
過剰:もらえることを前提にし、止まると不満を示す。




あげる側と、もらう側。
どちらにせよ、
一つの型だけで決まるものではないのだと思う。



厄介なのは、
慣れや様々な要因で、
そのバランスが崩れてしまうことだと思う。

例えば、謝罪で渡す菓子折りには誠意もあるが、
多少は相手の怒りを和らげたい、
という要素も含まれている気がする。



逆に、
無料で自分の旨みだけ取るように
受け取り続けていれば、
信頼は失われていく。
何事も、
たぶん、
こういうものはバランスなのだろう。

最初は噛み合っているように見える。
むしろ、
それで回っているようにも見える。

だが、
その関係がそのまま長く続くとは限らない。



渡すことも、受け取ることも、
それ自体は別に悪くない。
ただ、人は慣れる。
慣れたものを、
だんだん自然なものとして扱い始める。

関係が壊れる時は、
何かが起きたからというより、
それが当然ではなくなった時なのかもしれない。



H院長が、次第に饒舌になった。
いつの間にか、酒も飲んでいる。

「チクショウ」と呪いながら、
青魚が苦手だと言うので、
私はシメシメと思い、
青魚や貝類を横から奪い取った。



世間では、
私のようなテイカーを、
ハイエナと言うのだと思う。



スマホは気づかぬうちに、首に負担があります。

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