【交換書簡】⑭AYAKOさん
まことに僭越ながら、前回のAYAKOさんの書簡の中で、私がnoteで公開したミステリー小説について触れていただきました。
AYAKOさんの前回の書簡はこちら
私はビジネスパーソンとしてキャリアを重ねつつ、自己表現の手段として執筆もしてきました。実際、過去に「中国人は反日なのか」(2014年)と「サッカー香港代表 中村祐人という生き方」(2019年)という二冊を出版しています。これらはいずれもノンフィクション作品なのですが、私は一冊目を出す前から、実は小説家としてデビューしたいと思っており、新人賞に応募していました。しかし、縁があったのがノンフィクションだったので、その流れで上記二冊を出版するに至りました。
それでも小説家デビューへの情熱は衰えを知らず。そのため、今現在もまだ新人賞への応募を続けています。一度、2022年に「熊猫」というミステリー作品で「島田荘司選 福山ミステリー文学新人賞」の優秀賞をいただいたことがあります。ただ、その作品ではデビューのきっかけはつかめず、それで今も挑戦を続けている次第です。
思えば、2022年に優秀賞をいただけてから、大きな環境の変化がありました。「熊猫」執筆中は、フランスのINSEADと中国の清華大学のエグゼクティブMBAを日本で仕事をしながら受講し、2023年6月に卒業してMBAホルダーとなりました。それがきっかけで海外で経営者として挑戦したいと思い、転職を経て2024年6月から現職である米国ミシガン州の企業にてCEOとして仕事をしています。
大きな環境の変化(しかもアメリカ移住!)を経ながらも、やはり小説家への夢はあきらめきれない。それがモチベーションとなってミステリーを書き続け、その最新作が冒頭で書いた「誤認逮捕状」という作品です。AYAKOさんにもお楽しみいただけたようで、感謝しかありません。
そんな私も、さすがに小説新人賞に応募するたびに落選となる結果を見て、何度も失望や絶望を味わってきました。なにせ落選する回数が多すぎて、絶望を通り越して「一体、自分は何のために小説を書いて応募する行為を続けているのか」と根本的な自問をするほどです。
そんな私が、前回書いた通り「自分がいま、幸せか。ハッピーか。楽しいかどうか」を人生の選択の基準にしてもいいかな、と思えたのは、2026年7月に米国ニューヨークのマディソン・スクエアガーデンで現地参戦したBon Joviのコンサートがきっかけでした。
小学生の時から姉の影響でアルバム『New Jersey』を聞いてきた私が、初めてBon Joviのコンサートを体験したのは1996年5月。横浜スタジアムで行われた、アルバム『These days』を引っ提げてのツアーでした。高校生になっていました。そう、今から30年前の出来事です。
先述した2026年7月NYでのコンサートで、アンコールで登場したバンドが名バラード『I'll Be There For You』を演奏した時のことです。ふと、私の脳裏に30年前の自分が蘇ってきました。30年。当時、高校生だった自分は故郷の静岡市から横浜に行くのすら「大冒険」でした。まして洋楽の、Bon Joviのコンサートに行くなんて。チケットを買い、横浜スタジアムまで移動し、また静岡へ帰るだけで人生の一大事でした。
あれから30年。自分は今、アメリカへ移住し、経営者として日々奮闘しながら、NYでBon Joviのコンサートを見ている。その事実が、単なる感傷ではなく心の底から自分を大きく包み込んでくれたのです。そして長いこと自分のメンタルにこびりついていた「こだわり」や「執着」を取り除いてくれた気がしたのです。
「自分で自分を褒めてあげたい」とは、1996年のアトランタ五輪女子マラソンで銅メダルを獲得した有森裕子さんの言葉です。同年の流行語大賞にもなった名言ですが、それになぞらえると「自分で自分を認めてあげたい」と思ったのです。この30年間で、日本を飛び出して海外で挑戦したい(中国で11年、現在はアメリカ在住)、自己表現として本を出版したい、という目標は叶っている。それを実現した道程は、決して簡単ではなかった。だったら、少しは自分でその実績を認めてあげてもいいんじゃない?と思ったんです。
その心境の変化をAYAKOさんとの書簡で吐露したところ、AYAKOさんからとてもありがたい、そしていい言葉をいただきました。それが以下の二つです。
何かをやりたいと思った時、それが出来る環境があることも才能のひとつです。
急に目に止まったので家に置いてあった並木良和さんの書籍を手に取りました。そこには並木さんの代名詞とも言えるこひしたふわよ(恋慕うわよ)が書かれていました。並木良和さんは私がスピリチュアルなことに触れ出した頃に知った著名なスピリチュアルカウンセラーの方です。
こ:心地よい
ひ:惹かれる
し:しっくりくる/スッキリする
た:楽しい
ふ:腑に落ちる
わ:ワクワクする
よ:喜びを感じる
この7つの要素は、見事に私の心境の変化を表現してくれています。そう、ただハッピーか、楽しいかだけでなく、腑に落ちる、ワクワクする、心地よい、しっくりくるなど、その他にも非常に大事な要素がここに含まれているからです。
AYAKOさんが自身の経営者としてのキャリアについて語るときに心理的な抵抗がお有りだったように、私も基本的に自分の精神的な深い部分を他人に見せるには抵抗があります。ですから、今回のこの書簡そのものが、ある意味で私が「自分の殻を破った」ひとつの実例です。ここで吐露しようと思えたのは、やはりAYAKOさんとの友情や、現在の彼女の不思議な存在感のおかげではないでしょうか。彼女のオーラ、寛容さ、温かさ、優しさ。そうしたものに触れて「えいやっ」と自分の殻を破れた気がします。
