第057話|声を聞く者|教団に利用された勇者たちの戦記|ヘル編【……手数料は引かせてもらうぜ?】
———パックは街道を外れ、森の中を進んだ。
夜の森には、音が溢れていた。
葉を踏む音が、夜の森にかき消された。
もう、隣にヘルはいない。
だが、足取りは重くなかった。
“寡黙な土”が足元を固め、
“優しい光”が月明かりで足元を照らしてくれた。
パックは一人じゃなかった。
——そして
約束を繋ぐのは、“音”。
パックは真っ直ぐに、リンゴ林へと向かった。
——宿屋
ヘルは酒を注いだ。
ちびりと飲んだ。
味がしなかった。
ウインナーを齧る。
今度は、酒を喉に流した。
やっと、味がした気がした。
だが、ぽっかりと空いた穴は、酒とつまみでは埋まらなかった。
「……明日からは、一人部屋だな」
そう呟いた。
鞄から、一本の枝を取り出した。
皮を少し剥いて、齧った。
少し甘い、ハーブの味がした。
「……ハハッ、これ、売れるかもな」
またウインナーを齧る。
枝の味が混ざり、顔をしかめた。
笑いが込み上げてきた。
「ハハッ」
「……ありがとう、か」
「大したことしてねぇっつうの」
明日からは使いっ走りがいないことに、改めて気づいた。
「……ありがとうは、俺の方だったか?」
その夜は、いつもより独り言が多かった。
———翌朝
パックは川の水で顔を洗った。
水面に、自分の姿が映った。
視線が、水底へと吸い込まれた。
その時、翼の影が横切った。
咄嗟に空を見上げた。
アーラだったら、通り過ぎるわけがない。
そう思った。
小川に沿って、北上した。
川のせせらぎや鳥の声、“森の音”が少し懐かしく感じた。
一度立ち止まり、ココのナイフを抜いた。
朝日が、刃に反射した。
そして、ゆっくりと鞘に戻した。
———王都
ココは、日課である朝の礼拝に向かった。
支えてくれる人たちへ感謝し、トールを追悼し、そして“パックの無事”を祈った。
パックが使っていた“トールのナイフ”に触れた。
服の中のナイフは、温かかった。
礼拝を済ませ、教会を出た。
以前ほど、“噂”を耳にすることはなくなっていた。
子連れの親子に声をかけられ、元気をもらった。
ココはその日も、前を向いて歩いた。
———上空
アーラは、トサカで周囲をスキャンした。
人間が近くにいないことを確認した。
そして、パックの“輪郭”は、今日も見つからなかった。
それでもアーラは、毎日リンゴ林へ通った。
———ヘルの露店
ヘルは、歯磨き用の枝の実演販売を始めた。
——枝を齧る商人がいる。
そんな噂が、巷で話題になっていた。
客の前で、実際に枝を齧って見せる。
「歯茎が腫れにくくなりますよ」
大・中・小。
曲がったものや、真っ直ぐな枝。
さまざまな使い方を実演した。
元手は、“ただ”だった。
綺麗に整えて、商品化した。
それは、飛ぶように売れた。
「……先行投資、されちまったからな」
売り上げの一部は、プールされた。
——“発案者”へと還元するためだった。
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