熱帯夜の完全犯罪#シロクマ文芸部#熱帯夜
あの刑事コロンボのパロディー「刑事 甲論望(こう ろんぼう)」シリーズです、まだ二作目ですが。
よかったら、合わせてこちらもお読みください。
香坂金夫は熱帯夜を使い殺人の完全犯罪を思いついた……。
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香坂は間宮修三と漫才コンビ「マザーグース」を結成していた。
しかし、頭の回転が早くしゃべりが上手い香坂の方が人気になりピンの仕事が増えた。そのため、二人で漫才をすることがなくなった。
当然のことながら、二人の収入の差は広がった。
香坂は間宮に自分の車を運転させ、飲み会の足として使い小遣いをやる立場になっていた。
そんなある日、香坂は自分の車で地方ロケの番組のために前乗りで宿に向かっていた。車は自分で運転して隣に間宮を乗せていた。
ロケ地は山奥の温泉地で、ロケ終わりには打ち上げがあった。その打ち上げには大酒飲みで有名な大御所の女性タレントも同席するのだ。
ロケの次の日には午前中の番組に出演しなければならなかった香坂は、女性タレントに飲まされて酒が残ることを考慮して間宮を連れていったのだ。
午後九時、宿に向かう途中の集落は雨の中だった。
運転している香坂の目の前に傘を差し腰を曲げた老人の姿が見えた。
急ブレーキを踏んだが、老人をはねてしまった。
二人は顔を青ざめ、あわてて車を降りた。
幸い、老人は足を怪我したが、意識ははっきりしていた。
「間宮、いいか、お前の電話で救急車を呼べ、そして、お前が運転していたことにしろ!」
「えっ、なんで?」
「わかるだろうが!俺が事故を起こしたとなれば、仕事を失うことになるだろう。そうなったら、お前に小遣いをやれなくなるんだぞ、それじゃあ困るだろう。幸い、この爺さんは死ぬことはないようだ、事故としても免停か取り消し、罰金刑くらいだろう。後の面倒は、俺が見てやるからお前が事故を起こしたことにしろ」
「まあ、それなら・・・・」
間宮は仕方ないかと思って、香坂の言うことを聞いた。
次の日、各テレビ局のワイドショーは一斉に香坂が関わる事故を報道した。
しかし、事故を起こしたのは相方の間宮だということにテレビ局はまったく疑わなかった。
それには、香坂の出演する各局のレギュラー番組の視聴率の高さも影響していた。
事故は仕事にほとんど影響なく、香坂の思惑通りになった。
間宮も素直に事故を起こしたことを認め罰金刑を受け入れた。
だが・・・。
それ以来、間宮の香坂に対する態度が横柄になった。
さらには、要求するお金の額も増えったいった。
「このままでは自分が間宮によって破滅させられる」と思った香坂は間宮殺害の方法を考えはじめた。
それが「熱帯夜の完全犯罪」だった。
香坂は天気予報で熱帯夜になる日を選んだ。
その日の夜、間宮のために特別な飲み会を用意した。
飲み会には、香坂の思い通りになる女性アイドルを呼んだ。
そして、彼女を使って間宮にたくさんの酒を飲ませた。酒には間宮に気づかれないように睡眠薬も混入させていた。
そうやって、泥酔させた間宮をタクシーに乗せ自分も介抱のためということでタクシーに乗り込んだ。
タクシーで向かったのは間宮のアパートだった。
築五十年のアパートの二階に間宮の部屋があった。
熱帯夜の夜、部屋の温度は三十度以上あった。
部屋にはエアコンがあったが、香坂はそのスイッチを入れることなく間宮を部屋に放置したまま帰っていった。
次の日の昼過ぎ、間宮は遺体で発見された。
その現場には「甲論望」がいた。
当初、泥酔して寝込んだ間宮が熱中症で亡くなったと思われていた。
だが、甲論望だけは、ある不審なことに気が付き間宮の死に事件性があると考えた。
それは、死んでいた間宮の格好が異様だったからだ。
「どうも、あたしには、この格好で死んでいるのが何か意味があるような気がしてならないんだがね・・・」
「そうですか、甲刑事」
同僚の刑事が言った。
「この格好はあれだよね。漫才コンビのマザーグースの片割れがやっているポーズに似ているなあ」
「ああ、香坂のやっている『バチバチ、きてま~す』のポーズですね。両人差し指をこめかみにくっ付けてますからね」
「でも、この仏さん、香坂の相方の間宮だよね。どうして相方のポーズで死んでいたのだろうね・・・。もしかして、ダイイングメッセージかもしれないよ・・・」
「まさか・・・」
「死の間際に、仏さんがハメられたことに気が付いて最後の力を振り絞り犯人を教えるためにやったのかもしれませんよ」
「いくらなんでも、そんなのありますかねえ・・・」
「まっ、司法解剖すれば何かが出てきますよ」
司法解剖によって間宮の体から睡眠薬の成分が検出された。
間宮の死は単なる熱中症の病死から殺人事件へと変貌した。
例によって、甲論望は香坂が犯人とみて、香坂を質問攻めにして追い詰めていった。
事件発生から三週間後、甲論望はテレビ局の香坂の楽屋を訪れていた。
「うちのカミさんがね、マザーグースの大ファンであのポーズが好きなんですよ。ほらあの『バチバチ、きてま~す』ですよ」
「ほお、そうですか。で、今回の間宮の死とそれがどう関係があるんですか?」
「じつは内緒にしていたんですが、間宮さんが亡くなった時にそのポーズをしていたんです、何かを教えたいように」
「何かを教えたいように?それはどういうことですか刑事さん」
「刑事なんて因果な商売でねえ。いろんな仏さんの格好を見てきましたが、あんな恰好で死んでいるのは初めて見ましたよ」
「でもねえ刑事さん。あの俺のポーズで間宮も俺も売れたんですよ。死の間際にそんなポーズをしても不思議はないんじゃないですか。意識も朦朧としているし、舞台に立っている妄想でも見ていたかもしれませんよ。あのポーズは間宮も何回も舞台でしてましたからね・・・」
香坂は落ち着いた受け答えだった。
甲論望は突然、両人差し指をこめかみに付けた。そして目を閉じながら言った。
「あたしもね犯人を追っていると、時々『バチバチ、きてま~す』となることがあるんですよ」
それから、ゆっくりと目を開き真っすぐに香坂の目を見た。
香坂は、その目の鋭さにたじろいた。
「今回のことで、いろいろと香坂さんを調べさせてもらいました」
コロンボの顔は少し笑顔になった。
相対して、香坂は顔色を悪くした。
「まず、香坂さんはよほどプレッシャーがかかってるんでしょう、お笑いに。そのため、眠れなくなって医者で睡眠薬を処方してもらっていますね。今回、間宮さんの体からはその睡眠薬の成分が出ました。他に女性アイドルの証言もありましたよ。あの日の飲み会で香坂さんは『間宮の持病の薬だ、こうやってあいつに飲ませた方がいい。酔っ払っていると飲まないからな』と言ってお酒に薬を入れたそうですね。それから、間宮さんの預金通帳ですが、あの事故以来、入金が増えています。それと同程度の額が香坂さんの通帳から引き落とされていますね。それは、あの事故に対する口止め料でしょう。事故はあなたが起こしたんだ。香坂さん、本当のことを言ってください」
「刑事さん。あなたの『バチバチ、きてま~す』は本物だ。俺のは、たんなるギャグだけど・・・。これでせいせいした、おっしゃる通りお笑いはプレッシャーがかかるんだ。このままだと体を壊しそうだったよ、いい潮時になった」
「そうですか・・・。もう少し決断が早ければ、間宮さんも死なずに済んだかもしれませんねえ・・・」
甲論望は、やりきれない表情で言った。
おわり
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*皆さん、くれぐれも熱中症には気を付けましょう。
小牧幸助さんの「お題で書き始めるnote企画」参加作です。
どうぞよろしくお願いします。
