弓道は9割無駄でできている
中学から弓道部で、16歳の高校中退まで3年半続けた。そこからなんと先月、20年ぶりに昇段審査を受けた。
私にも「20年ぶり」があるんだな、ということが新鮮で面白かったので、記録しておく。
始まりと再開
そもそも何で弓道を始めたのかというと、
中1の私の一目惚れだ。
部活紹介の模範演舞、弓道部のインパクトの強さよ。
シンプルにカッコいいし、なにより綺麗だった。
学生時代の弓道部は朝7時の道場清掃からスタート。
昼休み練習、放課後19時まで練習。
365日のうち340日くらいは道場にいたと思う。
授業はサボるのに部活は行く、みたいな日もあった。
それくらい好きだった。
しかし、弓道は道場に行かないとほぼ何もできないとも言える。
学校を卒業してからというもの弓道場が遠く、再開の明確なきっかけもなく、気付いたら20年経っていたのだが。
再開のきっかけは、まさかの本屋さんにあった(本屋で働いている)。
『弓と禅』
オイゲン・ヘリゲル著。
働き始めて再読して、弓道の感覚をありありと思い出した。
言葉にできない感覚を掴んだときの喜びや、
掴んだと思った翌日には全部忘れている驚きと落胆、
人との関係や、見えないものとの向き合い方。
例えば、作中で著者は師匠に「的を狙うな」と言われる。
あー、そうそう、そうなんだよ、的を狙うと、いつまでも中らないんだよなー。
と、あのもどかしい感覚を思い出す。
20年前、自分の身体で覚えたことを、
20年後、本を読んで思い出した。
話は逸れるが、この本、今年ドイツに行って予想外な方法でもう一度再会することになったので、人生なにがどうつながるかわからない。
また弓を引きたいなあと思い立ち、近所の弓道場を探して(自宅から自転車で20分だ)、入会することに成功した。
かくして、無事弓道を再開したのが昨年の出来事である。
弓道って無駄が多すぎないか
そして、再開してみて感じたのは、
無駄の多さである。
現代に残る弓道の9割は「無駄」で構成されていると言っても過言ではないだろう。
学生の頃は、どれだけ的に中てる(的に矢を当てることを「中てる」と書く)かに集中していたので、あまり意識していなかったのだが。
長すぎる弓も、アイロンがけが困難な袴も、その動き方さえも、
ほぼ全てが無駄である。
実用面から見たら、必須ではないことが多すぎる。
タイパもコスパも悪すぎる。
初見ではなにをやっているのかわからない行動がつめこまれている。
なんなら矢を的に向けて飛ばす、その目的だけを考えたら、ほぼ全てが無駄である。
その無駄がなぜ残っているのかというと、
理由はたぶん、ひとつだけだ。
美しいから。
長すぎる弓が引き絞られる時の輝き、
弦のきしむ音、
色彩を持たない袴、
狙いを定める基準は自分の経験と感覚だけ、
矢を放つ時の弦の音、
的を射抜いた時の音、
矢を放ったら見届けるしかない射手。
美しい、その一点からのみ見たら、
とたんに「無駄」の意味が反転する。
無駄だけど、美しい。
無駄だから、美しい?
きっと、必要かどうかの話ではないのだ。
最近美術系の人と話した時に、
「あなたはお酒を飲んでも飲まなくても全然変わらないけど、一体毎日何に酔っているの?」
と言われた。
私の日常って、他人から見たらそんなに酔ってるんだ!!!
やばいやつすぎるな!!!!と、いっそのこと感動した。
「あー、常に美しいものに酔ってますよね(苦笑)」
とかなんとか言って、その場を凌いだ。
全てのものに美しい側面は必ずあって、
自分の手の中に収めていくものは、選んでいいはずだ。
一瞬の印象で「無駄だ」と切り捨ててしまうものの中にも、
美しさはきっとある。
できるだけ、見落とさないようにしたいと思った。
弓道を続けたら、本質的に突き詰めることでしか見つけられない美しいものを、もっと見つけられるんじゃないかとも思った。
それはつまり私にとって、
何かを好きになる理由がたくさん見つけられるということでもあって。
理由があったら、それは生きていく原動力になるんだ。
そして最後は、理由サイドが抱きしめてくれることで、
すべての円環を完成させたいと秘かに思っていることは秘密だ。
BUMP OF CHICKENの『アカシア』を毎日聴きすぎた副作用だと思う。

審査
とにかく規定の動き方を20年ぶりに思い出すことに時間を費やした。
入場の方法が細かすぎるのだ。
美しき無駄が私の有限の時間を無限に溶かしていく。
そう、つまり、これが、人生……?
あとは、当日の会場が遠すぎた。
雨の中電車に弓を持って乗り込む。
やっぱり弓の長さ、無駄すぎんか?美の代償大きすぎんか。
などと文句を心の中で言いながら、無事初段を取得した。
教えてくれた近所の弓道部のみなさんに盛大な感謝を。
弓道部の10代~80代まで全ての人が先生です。
我以外皆我師なり。
1年に1回くらい受けたいな、審査。
そろそろヨーロッパの旅の後日譚も書きます、
あれからいろいろあったんだよね。
