YS 1.10 〈睡眠〉とは
5種類の心の作用の4つめ〈睡眠〉です。これ、あっそうと思って素通りしそうなるし(私だけかな)、一番頭を抱えましたが、〈睡眠〉と聞いて想像するその先まで発展するのが面白いスートラです。
※前回はこちらの『YS 1.9 〈ことばによる錯覚〉とは』をどうぞ。
ヨーガ・スートラ第1章10節
अभावप्रत्ययालम्बना वृत्तिर्निद्रा॥१०॥
abhāva-pratyaya-ālambanā vr̥ttir-nidra ॥10॥
アバーヴァ プラティヤーヤ アランバーナ ヴリッティ ニドラ
「Sleep is the mental fluctuation based of cognition of nathingness」(3)
(無の認識に基づいた心の作用が〈睡眠〉である。)
まずは、前提の確認から。ここでいう〈睡眠〉は、純粋に寝ている状態のことであって、夢や夢を見ている状態は含まれません。なぜなら、眠っている時に見る夢は〈誤解〉と〈記憶〉が合わさったものだと考えられているからです。
夢で見たことを、実際に起きていないのに起きたと誤って認識することは、「実体を誤って認識すること」なので、 5種類のうちの2つめ〈誤解〉があてはまります。〈記憶〉は次のスートラで解説しますが、毎日のあれこれや過去の印象からできているもの。確かに、この2つで夢を分解できます。
なるほどなるほど。
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『「何の想念もない」という想念があるのだ』と書いているのは、インテグラル・ヨーガ (2) です。寝ている時って、起きている時のように意識があるわけではありません。でも、起きた時に、今まで寝ていたということを知っているし、よく寝たとか、寝た気がしないとか、そこから発生する心の作用があります。
他のインドの学派では、〈睡眠〉を心の作用から除外しているところもあるそうです。それでもパタンジャリがリストに加えたのは、ヨガの実践の邪魔をするからじゃないかなと、ハリーシャ (3) は解説しています。
十分に寝ないとちゃんと動けないし、寝すぎると怠惰になるので、どちらもヨガを実践していく上での障害になります。苦しみから自由になるというヨガの目的から外れることは、苦しみを選ぶこと。つまり〈睡眠〉も、「苦しみを生むもの、またはそれ以外」のどちらかに振られる可能性のある心の作用だということです。だから、心の作用の種類の他4つよりも、ちょっと実務的だよねとも話していました。
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フォーチャプター (1) は、寝ている時は心の動きが止まっているから、その心を分析できれば、サマディが何なのかを理解するのが容易になるだろうと書いています。すごいのきた。
マーンドゥーキヤ・ウパニシャッドという、ヨーガ・スートラよりもっともっと古い書物では、〈睡眠〉は何も望まず、外側に存在する知覚の対象もないから、いかなる感情も存在しない心が無な状態であると書かれているそうです。パタンジャリがこのスートラで強調したかったことはそこで、心が無の状態であるならば、このとき「心や感情の揺れは静止している」。聞き覚えがありますよね、スートラ1.2 です。つまり、この点では、ヨガの目的を達成している側面があり、サマディと同等であると解説しています。
では、違いは何か。〈睡眠〉では「自分」という概念も消滅してしまうけれど、サマディの場合、そのままの「自分」という概念(名前や国籍などの形容詞をとりはらった本来の自身)は存続する、ということです。それ以外はほぼサマディ。知っているとちょっと知っているの間には大きな溝があるわけですが、それでも毎日少しずつ味見をしているのかと思うと、・・・びっくりします。
サマディについては、これからのヨーガ・スートラでもっと明らかにしていくので、今はここに書いてあることだけで十分かなと思います。ただ、つながっている先があるということは覚えておきたい。英単語は類語とか反対語と一緒の方が覚えやすいように、ヨーガ・スートラで出てくる概念も、関連しているものと一緒に認識しておくと分かりやすくなるはずです。
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これはまったくの余談ですが、私が今読んでいるヨガの本でも睡眠について記述していたので、紹介してみたいなと思います。
著者であるサドゥグル (6) は、この本で、気付きや意識と訳されるアウェアネスという概念は、外側で起こっていることに対して内側で警鐘を鳴らし続けるものではなく、本来の自分自身そのものであると説明しています。そして、睡眠、起きている状態、死のどの状態にも、アウェアネスがそこにあるということから、ちょっと変わった実験(練習?)を紹介しています。
それは、眠りにおちる瞬間をしっかり観察すること。夜に布団に入ったら、起きている状態から、眠っている状態へ移行する最後の最後の瞬間まで、アウェアネスを保ち続けようとしてみること。これによって、私たちの考える死という概念(身体を離れる瞬間)をその先まで知ることができ、そこから自分を解放することができるということです。
ちなみに『Inner Engineering: A Yogi's Guide to Joy』という本です。日本語に翻訳されていないのですが、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーだそう。サドゥグル(Sadhguru。Wikipediaはサドグルという表記になってますが)は、いまのインドで有名なヨガの指導者だよと、何度か勧められた機会が何度かあって知りました。インドをベースに世界各国で講演などをされているようです。
興味深いなあと思って読んでいますが、いかんせんまだ途中なんです。それでも紹介したのは、ヨーガ・スートラが編集された西暦100年から、2020年の現在アクティブに活動している高名なヨガ指導者も、〈睡眠〉を重要だと位置付けているんだということ。眠るの好きだぜ休みたいぜと思うそれだけでなく、ヨガの実践者としての視点が存在することを知って、いいなあと思ったわけです。視点が増えることで俯瞰しやすくなるし、そうすることで〈見られるもの〉と少し距離をおくことができる。
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発音することで、身体の中に振動を起こすというのも、サンスクリット語であれば意味を理解する方法のひとつです。音声を聞いて、発声してみてくださいね。
さて、次回は心の作用の5つめ、ラストです。今回ちょっと出てきましたが、あらためてじっくり解説しますので、ぜひお楽しみに。次回ヨーガ・スートラ第1章11節はこちらから⇩
※ 本記事の参考文献はこちらから。
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