自分を守ることが、相手への誠実さになる。1,500件のクレーム現場で気づいたこと
クレーム対応の現場で、壊れていった同僚を何人も見てきました。
優しい人ほど、早く折れました。相手の怒りを正面から受け止めて、ひたすら謝り続ける。そのうちに、仕事としての自分と、人間としての自分の境界線が消えていく。気づいた時には、もう立てなくなっていました。
私には二つの軸がありました。
一つは「発生した事案については、事実関係を速やかに明らかにして、お詫びすべき点は真摯にお詫びする」こと。もう一つは「筋の通らないお詫びは、一切しない」こと。
この二つを、どんな状況でも手放しませんでした。
担当者の人格まで否定してくる人がいる
1,500件と向き合ってきて感じたのは、クレームには二種類あるということです。
サービスや商品への不満を伝えてくる方。そして、担当者の人格そのものを否定してくる方。
前者には誠実に向き合えます。事実を確認して、非があればお詫びして、解決策を提示する。それは仕事として当然のことです。
問題は後者です。「お前みたいな人間が対応するな」「土下座しろ」。そういった言葉をぶつけてくる方に、どう向き合うか。
私の答えは一つでした。
筋の通らないお詫びは、しない。
これは冷たさではありません。自分の尊厳を守るための、静かな決断でした。
マニュアルは、すべてをカバーできない
組織にはガイドラインがあります。マニュアルがあります。でもどんなに精緻なマニュアルでも、現場で起きるすべてのケースをカバーすることはできません。
最後に判断するのは、担当者個人です。
その判断の根拠はどこにあるのか。私は長い時間をかけて、一つの答えに行き着きました。
個人としての尊厳が、最後の判断基準になる。
尊厳のある人間は、相手の怒りに飲み込まれません。事実に基づいて、冷静に向き合えます。そして不当な要求には、穏やかに、しかし毅然と「それはできません」と言えます。
逆に、尊厳を失った人間は判断軸を失います。相手の感情に引きずられて、筋の通らない謝罪をしてしまう。それは相手のためにも、組織のためにも、なりません。
尊厳のない個人が、ブランドを体現できるはずがない
後にアメックスでWorkplace Experienceを担当するようになって、「心理的安全性」という概念に初めて触れました。
その瞬間、腑に落ちました。
私がクレームの現場で守り続けてきたもの。それは言葉にできていなかっただけで、心理的安全性を自分の中で担保することだったのだと。
自分の尊厳をしっかり持っている人間だけが、相手に誠実に向き合えます。自分を大切にできているからこそ、相手を大切にできる。
これはWXP——職場体験のモデルを個人に援用した時の、核心だと今は思っています。
組織のブランドは、最終的には個人が体現するものです。尊厳のある個人の積み重ねが、組織の信頼資本になる。
1,500件の現場で学んだのは、そういうことでした。
最後に
もし今、職場で消耗しているとしたら、一度だけ立ち止まって考えてみてください。
あなたは自分の尊厳を守れていますか?
筋の通らない謝罪を、無意識に続けていませんか?
自分を守ることは、逃げではありません。それが、相手への本当の誠実さになります。
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