仕事は、なくなるより先に変わる。85歳のマスターから聞いた「日宣美」の話
最近、デザイナーという仕事について考えることが増えた。
きっかけの一つは、岡山市のバーだった。
85歳のマスターと話していたとき、
「日宣美」
という言葉が出てきた。
日本宣伝美術会。
さらに、
東京アートディレクターズクラブ、ADCの話にもなった。
妙に気になった。
家に帰って、少し調べてみる。
すると、
戦後の日本で、
デザイナーやアートディレクターという仕事の価値や輪郭を、
社会の中に広げていこうとしていた時代が見えてきた。
「デザイナー」という仕事が、今よりずっと新しかったころ
日宣美は、
1951年に結成された日本宣伝美術会の通称。
山名文夫、河野鷹思、亀倉雄策、原弘らが関わり、
戦後日本のグラフィックデザインに大きな影響を与えた。
1953年からは作品公募も始まり、
日宣美展は若いデザイナーにとって大きな登竜門になっていった。
今では、
「グラフィックデザイナー」
という言葉を聞いても、
特に不思議には思わない。
でも当時は、
今ほどその職能が社会に広く定着していたわけではない。
広告。
ポスター。
パッケージ。
本。
企業の印刷物。
そういうものを専門的に考え、
形にする人たちがいる。
その仕事の価値を、
社会に見せていく必要があった。
日宣美は、
作品を発表する場所であると同時に、
デザインという仕事の存在を広げる場所でもあった。
そう考えると、
少し見え方が変わる。
ADCも、ほぼ同じ時期に生まれている
その翌年、
1952年には、
東京アートディレクターズクラブ、東京ADCが設立されている。
こちらは今も続いている。
目的の一つは、
アートディレクターという専門的な職能を、
社会の中に確立していくこと。
ここで、少し立ち止まった。
今では当たり前のように使っている
「アートディレクター」という仕事も、
最初から今の形だったわけではない。
誰かが役割を示し、
価値を伝え、
少しずつ仕事としての輪郭をつくっていった。
今ある職業も、
最初から完成された形で存在していたわけではない。
当たり前のことだけど、
普段はあまり考えない。
そこで、AIのことを考えた
ここまで調べて、
今のAIのことが頭に浮かんだ。
少し前まで、
AIでなくなる仕事は何ですか?
と聞かれたら、
デザイナーはかなり危ないと思っていた。
画像は作れる。
ロゴも作れる。
Webサイトも作れる。
レイアウト案も出せる。
動画も作れる。
少なくとも、
「作る」という部分だけを見ると、
かなり多くのことがAIでできるようになった。
だから、
デザイナーの仕事は減る。
そう考えるのは自然だと思う。
でも、
日宣美やADCのことを見ていると、
少し違う見方もできる。
そもそも、
仕事というものは、
ずっと同じ形で存在してきたわけではない。
時代に合わせて、
中身を変えながら続いてきた。
だったら、
AIによって今の仕事の形が変わっても、
それで全部終わるとは限らない。
また別の「デザイナー」が生まれるのかもしれない。
なくなるか、残るか。その二択だけではない
新しい技術が出てくると、
この仕事はなくなる。
この仕事は残る。
という話になりやすい。
自分も、
ずっとそういう見方をしていた。
でも、
少し違うのかもしれない。
昔のデザイナーと、
今のデザイナーでは、
使う道具も違う。
扱うメディアも違う。
求められることも違う。
それでも、
同じ「デザイナー」という言葉が使われている。
名前は同じでも、
中身はずっと変わってきた。
そう考えると、
AIによって起きることも、
単純な消滅ではなく、
仕事の再編集なのかもしれない。
何がなくなるのか。
ではなく、
これから何をデザイナーと呼ぶようになるのか。
その方が、
自分には面白い。
70年前も、仕事の輪郭をつくっていた
1950年代、
日本では、
デザインという仕事の価値をどう社会に広げるのか。
アートディレクターとは何をする人なのか。
そんなことを、
少しずつ形にしていた人たちがいた。
そして2026年。
AIがいろいろなものを作れるようになって、
また、
デザイナーって、何をする人なんだろう。
という問いが出てきた。
70年前と、
同じではない。
でも、
少し似ている。
技術が変わる。
社会が変わる。
すると、
仕事の意味も変わる。
そのたびに、
同じ名前の中身が、
少しずつ作り直されていく。
そう考えると、
今は、
デザイナーという仕事がなくなる時代というより、
もう一度、その輪郭が動いている途中なのかもしれない。
岡山市のバーで、
85歳のマスターから聞いた
「日宣美」
という言葉。
そこから昔のデザインの話を調べていたら、
気づけば、
これからの仕事のことを考えていた。
こういう寄り道は、
やっぱり面白い。
仕事がなくなるのか。
残るのか。
たぶん、
その二択だけではない。
仕事そのものが、別のものになっていく。
今は、
そっちの方が気になっている。

